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BATTLE ROYALE 外伝

第二部
中盤戦



18

  背の高い木々を抜け、膝まである草を踏み倒したが、自分が今何処にいるのか分からなかった。
 陸上部で足の速い、高月沙紀(女子十三番)は、 道なき道をひたすら前に進んでいた。真ん中に分けていた前髪は揺れる事無く、今は額に浮き出た汗と絡んでいた。
 午前11時だと言うのに、辺りはあまり明るい事は無く、何処に誰が潜んでいるのか分からなかった。しかも、やけに涼しかった。
 沙紀は廃校を後にした後、石上晴香の斬殺死体と誰かの荷物一式を発見した。既に殺る気の人間がいるんだと確信した沙紀であったが、やはりどうにも 友達と殺し合いをする事はできなかった。道がある方ある方に足を進めていたが、途中で自分にも支給された武器があった事を思い出した。
 女の子には少し重いデイパックだが、生き延びるために必要ならばそんなに重くは感じなかった。そしてデイパックの中身を見て沙紀は少し驚いた。
 きっと銃かナイフが入ってるのだと思っていたが、自分に支給された武器は、なにやら手榴弾2つだった。説明書には、『使い方は簡単、まずビンの フタを外してください。そして同時にすぐに殺したい人間の方に投げてください』と書かれてあり、制服を着た男女2人が、 なにやら楽しそうに手榴弾を投げ合ってる絵が記されていた。あと説明書の下のほうには注意書きのような感じで、【尚、投げた際、安全地帯に入る 為にはその場から7メートル以上は離れてください】と書かれてあった。
 武器の事は分かったが、これはあくまでも護身用として持っていようと、デイパックに手榴弾2つを入れ戻した。
 私はこのゲームには乗らない。いやどんな事があっても友達と殺し合いなんてしない。でも死ぬのは嫌。じゃあどうすればいいの? 誰に頼ればいいの?この場所に誰がいるというの?ここは・・・何処??
 そんなこんなで沙紀は考え込むうちに、自分が何処にいるのかまったく分からなくなった。気づけば周りは木々で囲まれており、道がなくなっていた。どうする事もできない沙紀は その場に座り込んだ。――――夢なのよ。これは悪い夢・・・はは、なんて嫌な夢なの?早くお母さん起こしてくれないかな。沙紀、起きないと遅刻するわよーって――――
 しかし夢は覚めなかった。逆にそれが沙紀に不安と恐怖が増す薬となった。時折、真面目に部活してる自分や、真面目に勉強してる自分がいた。 まるで今から死ぬように沙紀の頭の中で、これまでの思い出が走馬灯となって流れた。
 たしか中学1年に入ってからだった。3年間ずっと同じクラスの男子がいたっけな。その人は強くて真面目で、それでもってやさしかった。あれ?少し悪かったところもあったかな? とてもじゃないが、自分のライバルはたくさんいた。ずっと・・・ずっと告白できなかった。今・・・今じゃだめなのかな。
 神山克人君に、すべて気持ちをぶつけたい。そして神山君の胸の中でできるなら死にたい。これが本当に現実ならば・・・。
 沙紀はわんわんと泣き、抑えていた声までもが喉を伝ってでてきた。「ひっく、ひっく、うう、ひっく」と、少し高めの声が、何処かも分からない森林に響いた。 風はなく、日陰があちらこちらにできており、太陽が当たる場所が少なかった。そんな中で沙紀は木の側で座り込み泣いていた。
 「・・・高・・・高月さん?」
 いきなり泣き声だけの森林に、一人の男の声が聞こえていた。誰!と思い沙紀は下を向けていた顔を涙を拭きながら上げた。
 沙紀の視線に入る、眉を少し歪めてその場に立ち尽くしていた男は、一瞬誰か分からなかった。が、すぐに髪の色で分かった。
 「早名君!?」
 修学旅行の2,3ヶ月前に転校してきた長めの髪を紫色に染めてる男、早名誠(男子十一番)は、普段から無口な不良だとクラスのほとんどが思っていたが、 実際沙紀は見かけで人を判断してはいけないと言う母の教えから、本心少し怖がりながらも早名に話し掛けたことがあった。
 話してみると、 すごく話しやすく、やはり髪が紫で、耳にピアスをしているから悪いとは限らなかった。性格はクールでピュアな男子だと沙紀は思っていた。それからと言うもの、 早名がよく話す相手は、沙紀か、学級委員の本城一、ほか諸々だった。外見とは違い、早名は沙紀が見る限りでは部活熱心で、勉強も抜群ではないが、 まあまあ頭が良かった。しかも不良が大嫌いらしい。(これは少し沙紀の予想がはいっている)
 その早名誠が肩にライフルを掛けて、こちらに近づいてくるではないか。沙紀は泣くのをやめ、悲しさから恐怖に変った。
 沙紀はもう殺される。あたしの人生はここで終わりね。と思い、最後の望みとして早名にある願い事を言い出した。
 「お願い早名君!あたしは殺される覚悟はできてるわ。けど一つだけお願いがあるの!神山くんに会わせて・・・お願い。ちょっとだけでいいの。そしたらすぐに私を撃っていいから」
 しかし早名は一向に撃つ気配がなく、ああ、と思い出したような顔をすると、肩に掛けていたライフルをその場に脱ぎ捨てるように降ろすと、今度は反対の 肩に掛けてあった荷物一式もその場に捨て、両手を大きく上に挙げた。
 え?と思った沙紀は、早名の顔をじっと見ていた。何やらクラスでいたような早名の顔ではなく、仲の良い友達にだけ見せる何気ないひょうきんな顔をしていた。 そして少し口元が微笑んだのも見えた。沙紀は何が何だか分からなかった。殺されるんじゃないの?え?どういう事?
 早名は小さくため息を吐くと、「高月さんだね。俺を敵だと思ったの?それなら違うよ。もしまだ信じられないなら、俺の足元にある荷物とサブマシンガン を取ってもいいよ」と笑顔で言った。
 少し静寂が流れて、沙紀はようやく早名の真剣な眼差しが自分を決して撃たないと言う事を確信し、荷物とマシンガンを持つように言った。言われた通り早名はマシンガンを持ち、手馴れたように 辺りを警戒した。そしてようやく早名が沙紀に近寄ってきた。近くで見た早名は、いつもの大人びた凛々しい顔をしていた。
 「どうして泣いてたの?神山君がどうかしたの?」
 早名が心配そうに訊いてきた。
 「ううん、なんでもない。ただちょっと独りが怖くなっただけ。神山君の事も忘れて」
 沙紀も涙ぐむ目を擦りながら言った。
 早名はなるほどねと言わんばかりに、小刻みに頭を縦に振った。
 「高月さんが泣くのも変じゃないよ。クラスのみんなも泣いてる子はたくさんいると思うよ。よし、それじゃあ俺と一緒に行動しようか。 そのほうが少しは安全だと思うよ。それから殺る気のない友達を探そう」
 沙紀に話し掛ける間も、キョロキョロと辺りを警戒しながら早名は沙紀に言った。沙紀も安心してなのか更にボロボロと涙が流れ、自然にくいくいと縦に頭を振っていた。 こんなに逞しい男子がいて、自分は不幸中の幸いだと思った。そして沙紀は早名が言った、殺る気のない友達を探そうと言った事が不思議に思った。
 「早名君・・・わたした・・・ち・・・、死ぬんだよね。殺し合いをしなきゃ家に帰れないんだよね」
 早名は沙紀の不安そうな顔を見て、更に安心するような笑顔で言った。
 「そうかも知れないが、みんなで助かる方法があるんだ」
 沙紀は驚いた。助かる方法?しかも一人ではなく、みんなで・・・。沙紀は更に詳しく聞いた。早名はそのとき何かを思い出すように、痛々しい顔をした。 「どうしたの?どこか痛むの」と聞くが、少し目を瞑ると、暗い声で喋り始めた。
 「・・・まだ誰も知らないんだが、この際だ、言っておくよ。俺は前の学校の、岡山県岡山正連中学であった、これと同じゲームの優勝者なんだ」
 うそ!?でしょ・・・。驚きのあまり口が開いたままになってしまった沙紀は、そんなバカなと思いながら早名の話を聞いた。
 「友達なんて殺したくはなかった。あのくそゲームは、突然修学旅行のバスの中から始まったんだ・・・。やりたくもないゲームだったが、 担当の政府が俺達の担任の死体を見せた時からだった。いつものクラスメイトの半分の人間が狂っていた。ゲームが始まってから、 何度も何度も俺は信じていた友達に殺されかけた。何人もの・・・友達に。俺の武器はトカレフって言う拳銃だったが、 とてもじゃないがそんな物騒なモンで友達は殺せなかった。いや、どんな武器でも友達を殺すってのはできなかったと思う。・・・そして逃げ回る俺はクラスでも頭のいい男と行動を共にしたんだ。 そいつは何か島からの脱出方法はないか探していたようで、小さな雑貨屋で仕入れたトランシーバーで、公共のラジオ電波に侵入したんだが、 なぜかそのとたん、その友達の首輪が爆発した・・・。あっけなかった。あと・・・あと少しで外部と連絡が取れるところまでいってたんだ。 それなのに浅見・・・くそっ!」
 話の途中で悔しがる早名を、真剣な目で沙紀は見つめていた。そして尚も話は続いた。
 「とうとう一人になった俺は、ある廃ビルに隠れた。しかしそこには4人の男女がいたんだ。みんなやる気のない奴ばかりで はじめは警戒されたが、次第に話していく内に分かってもらえたんだ。そして俺も仲間に入れてもらい、友達ができなかったトランシーバーを 使った脱出方法を試そうとしていた時だった。突然狂ったクラスメイトが俺達がいる廃ビルに侵入して来た。 こちらの武器はナイフが1本と、ハンドガン2丁、ショットガン1つだった。しかし相手は強かったよ・・・武器は 両手にサブマシンガン。やはり撃った事のない俺達は断然不利だった。それでも何とか俺ともう一人の女子とで生き残った・・・。 狂ったクラスメイトの南桐は、友達のショットガンによってもう少しで死ぬところだった・・・。それまでは誰も死んではなかったのに。相手が・・・ 手榴弾を1つ口に含んで、もう3つを僕たち目掛けて投げるまでは・・・。
 それで最終的に俺と青山って言う女子だけになったんだ。廃ビル内での生き残りではなく、 そのときは既にゲームの残り人数が俺と青山だったんだ。どうしよう。どうしようかと迷ってた時だった。なぜか拳銃が握られていた自分の右手が震えたんだ。 次第にその思いは強くなった。この一発を撃てば自分は家に帰れるってね・・・だけどそれは2人共考えは同じだった。俺が青山を撃つ前に、 青山の方から撃ってきたよ。狙いが甘かったのか太ももにあたり、転びそうになった俺も、なぜだか銃を取り出して撃っていた。 逆に俺は的を外すつもりだったが、偶然に弾が青山の頭を捕らえたんだ。即死だった・・・その時、最後の最後まで狂っていたのは自分だったと感じたよ。 それから優勝インタビューを受けたんだけど、なぜか島を離れる時に親と逸れる様な感じになって、今すぐにでもみんなが死んでる島で、 一緒に死にたかった・・・。しかしそんな事はできない。だから俺は死んだクラスメイトの為にも、一生懸命生きてやろうとしていた。 そして政府に対しての苛立ちを大東亜のみんなに伝える為に、優勝特典の総統陛下直筆の色紙をカメラの前で破いたことから、もう一度3年をやるために、 いや、もう一度プログラムに参加させられる為に、この善通寺第四中学に転校させられ、俺は今回の椅子取りゲームに 参加させられたって訳だよ。あっ、ごめん。こんな話聞きたくないよね・・・こんな話したって仕方ないし」
 「ううん・・・そんな・・事ないよ・・・」
 沙紀は今さっき体験してきたような感じになった。そんな過去があったなんて。ただ、その時早名が話していることを疑ったりは 一度もしなかった。しかし沙紀は肝心の、助かる方法を聞いていなかった。そんな暇もなく 早名が喋りだした。
 「それで、みんなで助かる方法はいくつかある。ゲームに参加させられる以上、岡山のプログラム後、いろんな事を学んだ。方法はみんなが集まってから言うよ。まずは正常でゲームに乗っていない人間を探すんだ。 高月さん。一つだけ注意しておく。信じる事はすごく大変な事なんだ。慎重に、真剣にやらなきゃならない。 嘘をつかれて逆に殺される可能性もあるからね。 だから多少の時間は掛かると思う。いいね」
 言葉には出していないが、沙紀は頭を縦に振って答えた。しかしそんな間もなく、「やばい」と小さく囁く早名に疑問を抱いた。なにやら早名は荷物を持ち、マシンガンを 何もない森林の方へ構えながら、「高月さん、後ろ・・・後ろに逃げろ!誰か来る・・・まだやる気がある人間かは分からないが・・・」と、マシンガンを構えたまま、 視線は奥深く生い茂る木々の間から離さなかった。
 沙紀は誰かが向かってくるのを気がついていなかったが、早名を信じ、早名と同じ視線の先を見ながら一歩一歩後ずさりしていった。途中「もっと急いで! 相手がやる気だった場合、君にも被害がいかないとは限らないんだ・・・」と、すこし強まった声で早名が言った。
 言われるがままに少しスピードを上げたが、 一体誰がこっちにきてるのか分からなかった。仲の良い女子なら良いのだが、男子となると説得が難しいかも知れないと思っていた。
 ガサガサと草を踏む音が、次第に高くなった。そして早名が沙紀に向かって言った。
 「・・・あれはどう見ても違うようだな・・・」

【残り30人】




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