第二部
中盤戦
22
「ちゃんちゃららーん。鬼月先生の12時お昼の放送だぞ〜!みんな元気かい?先生は今日、朝の9時に起きたぞ〜。
でもお前らはあまり寝れないか・・・でも寝ないのは体にもよくないぞ〜、食べるもんも食べて、寝るもんも寝て、
殺し合いをするための体力をつけなきゃな。では死亡者の発表だ〜。まずは女子、女子は十番下元奈津希、
十三番高月沙紀、女子は以上だ。続いて男子〜、男子は十番杉孝明だ。
死亡者は以上!では禁止エリアを発表するぞ。午後2時からF=11、午後4時からJ=2、午後6時にB=8だ。分かったか〜?
お前らペースが少し落ちてきてるようだな。先生はあんまり待つの苦手だから早めに優勝者決めてくれよ。最低でも今夜あたりは
3,4人の死亡者が出るようにな〜。グレイトな殺し合いをする方法は幾つかあります。でも一番言える事は、
友達に逢っても説得しようとしない事だぞ。人は信じるな〜いいか?お前らが思ってるよりみんなお前らの事疑ってるんだぞ〜、だから
どこでお前らが不意打ちにあうか分からないんだからな〜。ではまた先生仕事があるのでドロンします。ドロンッ!」
そこで忌々しい鬼月の放送は途絶えた。
どういう神経をしてるのだろうか。C=3あたりに聳え立つ志高団地の屋上に、その少しブローをかけた髪の少女、椎名軍頭、椎名瑞希(女子九番)
は椅子に座り、放送を真剣に聞きながら地図とクラス名簿に鉛筆で線を引いていた。
屋上から見える空は雲ひとつないような青色で、まるでこのゲームを喜んでるようにも見えた。
瑞希は廃校を出てからの後、うろうろと集落を彷徨っていた。そこに見えたのがこの志高団地だった。全部ではないが、瑞希は団地の一軒一軒を
調べようとしたが、どこも鍵がかけられていて入れなかった。支給武器であるブローニングハイパワー9oでドアノブごと壊せたが、
この志高団地の何処に自分を狙ってくる人間が居るか分からない、という瑞希の考えから銃はなるべく使わなかった。なにか他に大きな物音を
出さないで、ドアをあける方法はないかと考えていた。そうやって考えるうちに団地の屋上にたどり着いた。屋上の鍵は開いており、
屋上は何か人が休めるようにと、白い小さなテーブルと椅子がある、それにしっかり仕切り網がされていた。
瑞希はまず屋上の鍵を外から掛けた。いや、実際の所屋上からは鍵が掛けられないのだが、屋上にあったプラスチック棒で、ドアの端っこに見えるでこぼこを
うまく使い、屋上から簡単な鍵を掛けた。力の強い男子なら簡単に開けられるが、そうそう普通に開けようとしては開かないだろう。それから
瑞希は落ち着き、屋上から見える外の風景を眺めた。しかし逆に見つかりそうだったので、身を低くし、白い椅子に腰を降ろした。
この屋上に来たのは数時間前のちょうど朝方であり、辺りがまだ闇に包まれていた時は木々に身を潜めていた。一睡もしていない瑞希は
極度の睡魔に襲われていた。屋上のドアは何とか塞いでる・・・それに屋上に吹く暖かい風が身に沁み、すぐに腕を枕にして少し眠ってしまった。
夢は見たか覚えていないが、1,2時間眠っただけなのに、眠った感じが全くしなかったのは瑞希には不思議だった。
瑞希は心地よい風にあたりながら、両手で頭を押えて学校の事を考えていた。
仲のよい椎名軍の女子はほとんどが他のクラスだ。同じクラスで言えば、死んだ小見有紀、永井依子(彼女は完全な軍の仲間ではなかった)、
そして唯一の親友であり・・・元椎名軍だったクールな性格の姫城由紀(女子十七番)は、今何処で何をしているのだろう。
3年に入ってからと言うもの、活動停止になりつつあった椎名軍に飽き、自分の軍、姫城軍を作って瑞希やその敵の寺島軍を潰そうとしている女・・・。
ある意味、瑞希に椎名軍の活動を活気付けた人間であり、最悪の裏切り娘でもあった。既に寺島軍のボスである寺島留美は、姫城軍に集団リンチを
受けており、当たり前だが惨敗していた。姫城由紀はクールで喧嘩も強い女子だったが、やはり寺島留美とタイマンをはる事は自分が負けてしまうと思ったからであろう。
だから元椎名軍でもある、由紀に従っていた女子達と一緒に寺島留美をリンチしたのだろう・・・。
それに自信を持った由紀は、なにやら今度は瑞希を集団リンチするとか言う噂を聞いたことを思い出していた。
当時は何もかもトップに立つことがよかった。それは瑞希だけじゃなかった。しかしそのクラスの"一番強い女・女帝"になる過程でライバルがたくさん立ちはだかった。
寺島留美をはじめさまざまな女が争いを繰り広げていた。学校でも名前が有名になると今度は他校から不良が喧嘩を売ってきた。
学校内1から善通寺1を目指す女と変っていったのだ。すべては一番になるために・・・。
だが2年の冬ごろだった・・・瑞希は一人の男性に恋をした。ああ、いままで自分は何をやってたんだろうと。なぜ強さを求めるのか?なぜ普通の女の子になれないのか?
それから瑞希が喧嘩する事はなくなった。それはボスだけでなく、他の軍の仲間も、寺島留美や寺島軍の女子達もそうだった。しかし下の人間は
ボスが怯んだ所を待っていた。姫城軍がまた椎名軍に油をかけたのだ。寺島軍がやられた。この噂は今までの中でもすごい騒ぎを起こした。これから・・・
これから椎名軍が姫城軍に一発活を入れてやろうとしていた時だった。なぜ・・・このゲームが・・・。
瑞希は今何をすればいいのか分からなかった。人殺しなんてやりたくない・・・。殺らなきゃならないことは分かってるが・・・。
あんたボスでしょ?椎名軍のボスでしょ?と、瑞希の中の誰かが叫ぶ。
「ビュウウウウ」
風が強まり瑞希の髪が靡く・・・。
手にはちゃんと拳銃が握られている。これで今自殺したら終わりだろうな・・・瑞希は思い老けた。しかしそのときに脳裏によぎったのは家族の顔だった。
「瑞希、帰って来なさい」
私は一人じゃない・・・家にはお姉ちゃんとお母さんがいる。犬のゴンも・・・。私はこんな所では死ねない・・・いや、死なない!
しかし動揺も幾つかあった。死にたくないのなら何をすればいいのか?それは簡単だった。
殺る。
みんなには悪いけど私は椎名軍のボス。みんなの見本とならなければいけない人間。だから・・・。
瑞希は両手を白いテーブルに当て、思い立ったように立ち上がり、瑞希の中で1つの決断がでた。――――殺る気のある奴は
誰であろうと殺る――――
瑞希はそのまま仕切りのフェンスに手を当て、片手に持っていたブローニングハイパワー9oの銃口を空に向けて構え、撃った。
「パァンッ」
今までに味わった事のない強烈な振動。体全体に響く大きな銃声音。きっと、きっとこの銃声で誰かが自分に気づく・・・
その時が私が私と実感した時。それが本当の私と分かった時だ。
今も銃口から出る白い煙をふっ、と息で消しながら、そっと屋上のドアにしてあった棒を外した。
【残り29人】