
第二部
中盤戦
23
一軒の家の中、奇妙な支給武器を持った岩下愛(女子三番)は家にあった薄い毛布で眠りについていた。
朝の6時頃の、あの嫌な鬼月の放送で目を覚ました愛だが、昨日の村瀬淳也の殺害(?)が頭に残っていた。いや、あれは自殺と言えるだろうか?
愛は眠りながら考えた。この人形は本当に呪いの人形だろうか。村瀬淳也が見せたおかしな行動は本当に呪いのせいだろうか?
あの時はおかしすぎる。絶対にならない事を村瀬淳也はやったのだから。愛に向かってボウガンを撃とうとしたが、なぜか
一瞬の内にボウガンの向きが変り、自分の首に矢を放っていたのだから・・・。やはり自殺か?あんなに自分を殺したがってる男が
あんな所に来て自殺はしないだろう。しかも自殺するような顔付きじゃなかった。あれはどう見ても興奮する狂った人間の顔だ。
愛は6時の放送で禁止エリアと生徒名簿に線を引くと、今まで何人死んでるのか数えた。教室での阿藤健二を含めて
7人・・・かなりの数だ。もう・・・当たり前の事だが、もう死んだ人は帰ってこない。そして先ほどのお昼の放送で言った
下元奈津希に杉孝明、それに仲がよかった高月沙紀・・・沙紀ちゃん。愛はこれからも大事な友達が死んでいくんだと思うと
胸が痛くなった。実際に自分も村瀬淳也を殺している・・・きっと・・・すべてはあの人形のせい・・・。
愛は心から疲れていた。
高月沙紀の死は大きなものだった。しかも今も胸に抱いてる呪いの人形"マミー"と自分に腹が立った。なんで今も持ってんだろう。
いや、それしか武器がなかったからだろう・・・。実際の所ゲームをやめたい。しかし自分の命をそうそう簡単に捨てる事はできない。何とか
武器を持っていようと思ったが、武器がこんな変なのじゃ・・・。
食事はパンだけだった為、何か物足りなかった。泥棒をするようで嫌だったが、愛は家の仏壇にお供え物としてあったバタークッキーを取って食べた。
すごく・・・すごく甘くておいしかった。
勿論取る時手はあわせた。その時クッキーと一緒に、なにか小さな一枚のメモ用紙が落ちた。クッキーの箱の下についていた。内容は家の住人が
書いたらしく、愛は綺麗な丸字で書かれたそのメモ用紙の内容を読んだ。
『はじめましてこんにちは。私は38歳の主婦です。今これを読んでると言う事は、あなたは中学三年生で、
プログラムに選ばれた生徒さんの一人ですね?私はこんなプログラムは間違ってると思ってます。6歳になる私の子供も
中学三年生になると、このプログラムに選ばれるのか心配で仕方ありません。今あなたはここにいて
常に身の危険を感じてることでしょう。そして私は今これを読んでるあなたに優勝してほしいです。この家の物はすべてあなたの
物と思い使ってください。クッキーも少しでも疲れを取っていただこうと、あなたのために置きました。どうぞ食べてください。
食料は缶詰ばかりですが、台所のガスコンロの後ろに、黒いビニール袋を置いています。水は以前から冷凍庫に入れてありますので
腐ってはいないと思います。今、隣のお宅で防衛軍兵士が怒鳴っています。今から私達は島から離れるのですが、
どうかこれを読んでるあなたには生きて帰ってほしいのです。では時間もあまりないのでさようなら』
まるで今さっきの出来事のように、愛の目にはその書いている人物が見えた。子供がいて父親もいる。隣から専守防衛軍兵士の声、
そしてひっそりと名も分からない主婦の人が仏壇にメモと、その上にクッキーを置く姿が。
愛は家族が急に恋しくなり、ふっと涙が出た。でもすごく嬉しかった。島の人はやさしいんだと思った。ふともう一度読み返して見ようとして、床にメモ用紙が落ちた。
その時メモ用紙の裏に何か書かれている事に気づき、すぐにメモ用紙を拾い見た。
内容は短かった。鉛筆で上から2重線が引かれており、すこし見えにくかったが読めないわけではなかった。
『PS 人殺しはいけない事、だけどあなたは今やらなきゃならない。優勝して、家に帰った時、死んだクラスメイトに
どうしてやれるかが大切だと思います。頑張ってください』
勇気・・・その時の愛にはこのメモ用紙が大切なモノとなり、愛にとって勇気にもなった。「ありがとう」と、
一人静かな家の中で、愛は一言いった。
「ガチャ」
その静かな家の、玄関のドアが開く。愛にとって心臓が壊れそうなくらい大きな音がした。音と同時に肩がびくっと上がり、
持っていたメモ用紙を床に落とした。――――だれ?――――ドアが開く前に愛は襖の中に隠れた。
「・・はぁ・・はぁ」
妙に興奮しているようだ。愛は襖の隙間から覗き見た。慎重に家の中をキョロキョロしながら、片手に短刀を持った女。
すこし男勝りでショートヘアーの江碕みちる(女子四番)がそこにはいた。
みちるは愛が先ほどまでいた居間に来ると、なにやら電話をかけていた。勿論かからない。(愛も試した)そのあと
愛が食べていたバタークッキーの箱を見た。不思議そうに手に取ると、今度はメモ用紙にも目をやった。誰かこの部屋にいたのか?
それともまだ・・・。そんな表情を見せたみちるの顔は、襖の隙間から見た愛からは、いつもの笑顔が絶えないみちるではなく、
殺気だった顔をしてるように見えた。それに短刀・・・殺される・・・。愛は開けていた襖のをゆっくり音がでないように閉じると、
暗闇の中、ゆっくり深呼吸をして、呪いの人形"マミー"を抱き締めた。――――どうか・・・ここが見つかりませんように――――
しかし愛の願いは届かなかった。みちるの足音はどんどんと近づいてくる。
すすっと、暗闇に眩しいぐらいの光が差し込んできた。昔かくれんぼしていて、お母さんに見つかった時のように・・・何か懐かしい感じ。
しかし愛が見た目の前の光景は地獄であった。襖の外で立ち尽くしているのは江碕みちるだった。みちるは愛を強く、そして無表情で見つめていた。
感情のないロボットのように・・・。
既に愛はみちるには殺意があることが分かっていた。殺される・・・ああ・・・死にたくない・・・。
みちるが「岩下さん・・・お願い・・・死んで」と言い、持っていた短刀を愛に振り下ろす瞬間だった。目を瞑っていた愛に、
突然急激な眩暈がした。ぐらぐらとなにか危ない薬を飲んだ気分になり、吐き気もした。そこからだった。いきなりテレビに映っていた画面が
ぷっつり切れたように、愛の目の前が真っ暗になった。
目の前が見えないだけで、音や感触は確かにあった。おかしい・・・と思った一瞬の出来事だった。
「・・・うう、や、やめて・・・」
目の前にいるみちるの酷く嫌がる声が聞こえた。それと同時に持っていた短刀が落ちる音がした。なにが一体どうなってるの?愛は
全然分からなかった。また、自分がみちるに歩いていく感触がした。一歩一歩と近づいているようだ。その間もみちるは「なんで・・・
なんで動かないのよ!」と焦る声が愛の耳に入ってきた。――――動かない?どういう事?――――さらに愛の手に何か握られる感触がした。
自分では制御できない、もはや体は暴走したロボットのように、腰を曲げ、床に落ちていた何か・・・いや、みちるが落とした短刀を握っていた。
不思議と愛は思った事を言った。
「逃げて・・・」
咄嗟に愛の口から出た言葉だった。口も自分では開かない・・・何とか小さな声だが言えた。しかし愛の耳には
みちるが逃げる足音も聞こえてこない。――――にげて・・・逃げてよ・・・――――必死に心で叫ぶが全くと言っていいほど静かだった。
時折「動かない・・・ど、どうして・・・動かないのよ!」と、震えた声で、半泣き状態のみちるの声しか聞こえてこなかった。
もう。止められない。
愛がそう思った瞬間だった。短刀を握っていた右手が体ごと斜め線を描くように曲がった。なにやら肉を切る感触が右手に伝わり、
「きゃぁ」と言う声も聞こえた。
その感触や声が分かる前に、愛の顔にぴぴっとなにか液体が飛んできた。とても鉄臭く、同時に愛の体が自由になった。
短刀は床に落ち、体は膝をついてよつんばの状態になっていた。愛の目は開き、訳のわからない呪縛が解けた。しかし・・・目の前を見るのが怖かった。
「シュー」と霧吹きのように音を出して倒れていく物音が、嫌と言うほど愛には大きく聞こえた。恐る恐る目の前に広がる地獄絵巻を見た。
突如胃に入った物が喉の近くまで来るのが分かり、味気のない唾がだらだらとでた。みちるは首を一発で殺られており、
愛が床に手をつけている所まで真っ赤な血が流れてきていた。みちるは虚ろな表情をして死んでおり、横たわった短刀は血で染まり、
涙が何故か行きよいよく流れた。
嘘・・・でしょ・・・また・・・また呪いの人形の仕業?それとも・・・。愛は横たわる血染めの短刀を見つめた。なにか短刀に力があったのか。
既に愛は過激なファンタジーに迷い込んだ少女だった。何度も何度も自分を憎み、「ごめんね・・・ごめんね・・・」と何度もみちるに向かって言った。
実際の所みちるの顔は見ないで、制服についている名札に謝っていた。まともに見れない・・・それが正直な答えだ。
放心状態の愛だったが、ぽろぽろと流れる涙は拭いた。
また静かになった家に中、愛は震えている体で人形を・・・呪いの人形"マミー"をしっかりと両手で抱きしめていた。
【残り28人】