第二部
中盤戦
25
夢なら覚めてくれ・・・幾度となく思った。何で今こんな事してるのだろうか?
外は暗黒の世界。
人間は悪魔。
みんな死ぬのが怖くて・・・だからみんな殺しあう。
薄暗い・・・ここは何処だろう・・・。
一は目を覚ました。
辺りは薄暗く、座ってる地面が岩だ。なにやら一は洞窟にいるようだ・・・。左から光がこぼれたそこは、この洞窟の入り口だろうか。
俺は何故こんな所にいる?本当に夢ならバスの中で覚めるはずだ。いや、家って事も有り得る。
間違いなかった。まだ俺はゲーム中(プレイ中)だ。服も汚れてるし、首に首輪だってされている。横には荷物もある。ではここは何処だ?
「タッタッタッ」と、誰かが洞窟の入り口とは正反対の奥深い暗闇から走ってきた。咄嗟の事だったが、すぐに一は自分の銃を探した。――――な、ない――――
周りをいくら探しても、自分の支給武器のファマス5がないのだ。しかし闇の中から誰かが来る音は聞こえる。
すぐに体制を低くし、一は走って光が射す方へ逃げようとした。その時、「一!」と男性の聞き覚えのある声が背後でした。
人間の本能なのだろうか、自分の名前を呼ばれたら何で声が聞こえるほうへ振り向いてしまうのだろうか。一は後ろを振り返った。
そこにはやはり聞いた事ある声と、見たことある顔が一致していた。
その少し天然っぽいくしゃくしゃの髪の男、野乃久敬二(男子十四番)は少し息を切らしており、心配そうな顔で一を見ていた。手には何も持っていなく、
制服も綺麗だ。
「敬二・・・!」
敬二は当たり前のように一に近づき、一が逃げようとした方向に来ると手に腰に当て、小さく欠伸をしてから向いた。
「気がついたようだな、一」
目の前に突然出てきた友達を、すぐに信用するわけには行かなかった。多少敬二とは友達と言うよりも親友に近い仲だったが、
このゲームが始まって以来、人を信用する事を無くした。だが敬二の顔を見てると、なんだか信じてもよいような、相手が心を開いてる様な顔をしていた。
とにかくまずは訊きたい事が山ほどあった。
「なあ・・・敬二・・・」
一が小さな声で言ったのだが、敬二はちょっと待てと手のひらを広げて、一に向けていた。そして何やら敬二が走ってきた暗闇に向かって「おーい、祥子!
松笠!一が気がついたぞ〜」と、大きな声を出した。
祥子?すぐには分からなかったが、敬二の彼女の河北祥子(女子七番)だと分かった。女子の学級委員だけあって頭もよく性格も純粋で異性からも好かれている。松笠は多少存在感が薄い人間だが、
部活のテニスでは存在のある、なかなかの腕を持つ、松笠雄一郎
(男子十七番)か。敬二だけじゃないのか・・・。だったらまず自分を殺される事はないな・・・。一は敬二が呼んだ奥深い暗闇の方を見ていた。
何やら敬二が呼んで数秒経ってから、「ほんと?」と女性の声が聞こえ、走ってくる足音がした。一人の足音ではなく、2人が走ってくる音が聞こえた。
既に予想はついていた一だったが、姿を見せた河北祥子と松笠雄一郎の顔を見て、懐かしいような感じがした。2人も手には何も持っていなく、
唯一雄一郎は荷物を持っていた。
敬二が一の方を見て、「一、知ってるよな。祥子と松笠だ」と照れくさそうに言った。
「本城君大丈夫だった?」と、祥子が声を一に掛けると、
雄一郎も何か言わなきゃと言わんばかりに、「大丈夫か・・・」と呟くように喋った。大丈夫、と聞かれたからには、一も「ああ・・・」としか言いようが無かった。
ここが何処で、何故自分がここにいるのかさえも聞かなければならなかった。
「敬二・・・聞きたいんだ。何故俺はここにいるんだ?」
敬二はそうか!と言う表情をして、一度祥子と雄一郎の顔を見ると、淡々とこれまでの事を喋り始めた。
「まず俺達の事を話そう。俺はあのゲームの開始直後、祥子を探して森林を彷徨っていた。そしたらばったり・・・これは偶然としか言いようがなったな・・・。
俺と祥子は出会うことができたんだ。それからどこかに休める場所はないかと思い、集落の方へ向かおうとしていたんだ。そこで松笠と出会って、
3人とも殺る気は全くなく、松笠の案内で、ここの洞窟を教えてもらったんだ。お前がさっき逃げようとしたそこ・・・」
敬二は一が逃げようとしていた、光が射す洞窟の入り口に指をさして、「そこは一見出口にも見えるが正反対だ。そこは下がないんだ」と言った。
下がない?一は少し近づいた。光はどんどんと大きくなり、風が一の肌を晒した。よく見てみると、真正面は綺麗な緑が広がっていた。しかし下を
見ると、入り口だと思っていた所は崖で、地面がなく、落ちれば命はない・・・と言うような所だった。
敬二は下を見て驚いた一に少し微笑み、話を続けた。
「俺達はまず食料の調達をしたんだ。だがな、ここの洞窟を見て分かるように、確実に
人間が暮らせるような構造になっているのに気づいた。洞窟なのになぜ裸電球があるのか?と。おかしいと思った俺はまず徹底的に洞窟を調べたよ。まあ洞窟
自体はそんなに大きくはないと思うが、人間が暮らせるスペースは、結構ある。それから見つけたのは・・・これは衝撃的だったな・・・いや・・・まず来てくれ」
敬二は祥子と雄一郎に「見張りを頼む」と一言言うと、2人は静かに奥深い暗闇に走って消えていった。そして敬二は手招きをして、一を呼んだ。
何やら真剣な表情の敬二はかっこ良く見えた。祥子と雄一郎が走っていった場所に向かっていたが、途中から道が分かれており、ハンカチが左の道
に置いてあり、敬二は右の道に歩いていて、「こっちだ」と迷う一を呼んだ。道はそんなに広くなかった。横は1メートル弱で、高さは3メートルほどあった。何とか一もついていくが、この時どうしても気なる事があった。
敬二達の事はわかった一だが、肝心の自分の事を聞いてなかった。何でもいい・・・。一は歩きながら先頭を歩く敬二に訊いた。
「敬二・・・肝心の事を訊いてなかったが、俺はどうしてここにいるんだよ?」
「あっ、そうかそうか。すまん、忘れていたよ。今からの3,4時間前だったかな。突然すごい叫び声が聞こえたんだ」
一は今考えると恥ずかしかった。自分でもあんな声は出せなかったが、あの時は幻覚に殺されるかと思ったから仕方なかった。それが良かったのだろうか、
もう頭痛や幻覚を見たりはしなかった。
「それで見張りだった俺はすぐに声のする方へ向かったんだよ。そしたら一が倒れていたからびっくりしたんだ。手には水のペットボトルが握られてあって、
すごい汗をかいていた・・・。それでお前をこの洞窟に運んだんだ。まあ運んだのは俺一人ではなかったけどな・・・。あっ、そうそう、お前の支給武器のライフルは、
洞窟のとある場所に置いてあるからあとで案内するよ。半信半疑だったけどな・・・一の正常さを見て信じる事ができたよ。すまんな・・・」
「いいや・・・俺も始めは敬二の事を疑ったよ・・・すごく信用してる奴こそ何してくるかわからない。こう言う性格がここでは損だった。
俺こそごめん」
敬二は一の言葉に少し笑ったようにも見えたが、一からには後姿しか見えなかったので、笑い声が出ない限り全然分からなかった。一自身もやっと
自分はどうしてここにいるのか分かり、安心した。
「ここがそうなんだ・・・」
先頭を行く敬二がいきなり立ち止まった。一体何があるのだろうと、一は敬二の横から覗き込んだ。洞窟だと言うのに、そこだけは裸電気があり、
敬二がつけると、ぼやっと光がついた。その光のおかげで敬二が見ているものが分かった。
敬二の目の前の地面には、何やら人が一人入れるような大きさの赤黒いドアがあった。敬二は「既にこの洞窟は人工処理をされているんだ」と言って、地面の赤黒いドアを開けた。
「ギイイイイイイ」と、幽霊屋敷の扉みたいな音がした。開いたドアの先は青い階段が斜めに続いており、下水道のような臭いが漂ってきた。
目の前にいた敬二が「入るぞ」と、敬二はなれた手付きで階段を下りて行く。あまり行きたくない感じがした一だったが、意を決して階段を下りた。
下水道の臭いは階段を下りる途中でなくなり、代わりに鉄臭い臭いがした。3メートルほどの高さの階段を下りると、一面に明かりがついていた。
いや、敬二が階段の横にあった、なにやらスイッチみたいなのをつけたのだ。
「これを見て一はどう思う・・・」
どう思う・・・って・・・。すべてが謎だった。ここはなんだ?電気がつくと普通の家ぐらいの明るさで、見た感じトンネル・・・としか言いようがなかった。
このトンネルは使われてないようで、壊れた机や、従来トンネルの入り口となる所は大きな岩で塞がれていた。
「一、こっちだ」
敬二は何やら真剣にトンネルの壁を見ている。なにか書いてるのか?そんな事を思った一だったが、興味津々で敬二が見ている壁に近づいた。
「え?」思わず声あが洩れた。
敬二は単刀直入で言った。「血だ」
そう、そこには大量とも言える血の跡があった。一は信じたくなかったが、そう考えてもカビや、トンネルの錆ではなさそうだ。と言う事は本物か・・・。
誰か撃たれたのだろうか?血の跡はまるで渦を描くように広がっており、よく見ると血の他に、何か体の一部らしき物もついていた。そして横から
敬二はまた、単刀直入で言った。
「俺が予想するに頭をぶち抜かれてるな」
頭をぶち・・・ではこれは脳ミソかい?これでは味噌汁は無理ですな王様。一瞬身震いがした一だったが、メインはこっちだと言わんばかりに敬二は
一に手招きをして、少し先にある大きな扉の前に立っていた。トンネルにドアがあるのは知ってるが、今一が見てる扉は普通に家にある扉だった。
ひとつ気になったのは、扉が木材で出来ており、すごい引っかいた跡がたくさんあった事だ。そんなことを考えていたら、敬二は既に扉を開けて入ろうとしていた。
慌てて一も扉に近づいた。ドアノブを触ると何やら重い空気を体に感じた。嫌な予感がした。敬二が入った後に、一も小さく深呼吸をして、中に入った。
「ぎ・・・ぎぎぎ・・・」
凄いトンネルに響く扉の音は一の心臓を駆り立てた。入ると一面明るくなり、(これも敬二がスイッチで点けていた)またも驚く事がたくさんあったが、
一番見て言いたい事があった。それは「部屋だ」と言う言葉だった。
中は普通の部屋の様に、少し使い古しの机とパイプ椅子、それに何やら棚が2つあり、小物がたくさんあった。しかし壁だけは普通じゃなかった。
壁はコンクリートで、窓はなく、排気口みたいなのが1つあるだけで、一からして左の、ちょうど棚がある壁に、はっきりと分かる血の跡が、これまた
トンネル動揺大量に着色していた。
落ち着いた様子で敬二はパイプ椅子に座ると、目の前の机の引き出しから何やら紙切れを何枚も取り出した。それからその紙切れに目を通すと、
一に手渡し、「見てくれ・・・どう思う?」と訊いてきた。
紙切れは数十枚あり、A4ぐらいの大きさで、少し汚れていた。内容を見てみるとたくさんあり、一部こう書かれてあった。
『政府連絡文書』や『生徒名簿』、『殺害者数』など・・・。
それから最後の紙切れには、『プログラム中に異常な雷雨が発生・某参加者、斎藤善一、東条秀也、柳瀬明による電磁パルスの自然ガンマ線による妨害・
及びこちらのプログラム管理の装置が誤差動を起こし、プログラム用人工トンネルに生徒に侵入され、担当教官、椎名一郎が生徒に銃殺、
以降プログラム装置破壊。今大会のプログラムの中止命令が出され、現在生き残りの生徒は逃亡中』と、書かれてあり、これを書いた人だろうか、『
1979年・政府プログラム副責任者、寿康太・清掃業者、金田洋司以下省略』と、簡単な続け文字で書かれていた。
一体・・・一体これはなんなのだろうか・・・。少し戸惑ってる一に対して、敬二は「どうだ?」と訊くが、一は横に頭を振るだけだった。
それを見てあごを摩りながら敬二は言った。
「たぶん俺の予想だと、1979年のプログラムは、ここの部屋が今で言う廃校になるわけだ。きっと79年はこの部屋に大事な装置があって、さっきいた
トンネルに大部分の装置や専守防衛軍がいたんだろう。そしてトンネルで生徒たちにゲーム開始の合図をつげ、下りてきた階段から外に一人ずつ
行かせたんだろう。その紙は一部だ。俺が数時間前にここに来て、ここのいろんな物を調べた結果、何らかの事でプログラムの管理装置に異常が出て、
それを行なったと思う斎藤善一、東条秀也、柳瀬明って言う男子がここに乗り込み、兵士や担当教官などを殺したんだろう。きっと。
それでこの3人の男子は逃亡した・・・何らかの方法で首輪も外し・・・きっとこの時代の
首輪は安い簡単な首輪だったんだろう。そして後から政府の奴らが来て、ここを調べたんだ。あとの奴らの為にここに置手紙のような物を置いた。って訳だ」
とにかく一には分かった事があった。なるほどと言う様に頷き、このトンネルの不思議が分かり始めた。
「と言う事はここは一度プログラムがあったんだな・・・」
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