BATTLE ROYALE 外伝

第二部
中盤戦



27

 叫び・・・まさか!いや、そんなはずはない・・・あってはいけないんだ。
 一と敬二は急いだ。上には祥子と松笠しかいない・・・拳銃を持ってるのは祥子だけだ!松笠は皿とフォーク!今はまだ銃声は聞こえない・・・。
 このトンネルに繋がってる、唯一の出入り口である、赤黒いドアの青い階段を上りかけた時だった。横にいた敬二が早口で喋り始めた。
 「一!いいか、俺がまずここから洞窟に出たら、お前の武器のファマス5を持ってくるから、階段を上った時点で何があっても動くな!いいな!」
 「あ、ああ」
 淡々と敬二は階段を上り、下から上って来る一には目もくれず洞窟の奥に走って行った。少しだが、一は敬二のベルトに拳銃がはめ込まれているのが見えた。
 青い階段から出たが、やはりそこは薄暗い洞窟で、一は腕片手で持っていた禁止エリアが書かれた紙と、缶詰が入った木箱を地面に置き、入り口の赤黒いドアを ゆっくり閉めた。本当は素早くしたかったのだが、何と言っても重いし錆びていて動かなかったのだ。ギイイイと言う音を立てて、赤黒いドアは閉まり、 敬二の言う通りにその場からは動かなかった。まるでこれから敵軍に突撃していく特攻兵の様に・・・。
 遠くから「きゃああああ」と、また女性の声が聞こえた。きっと河北さんの声だろうと、一は焦った。手には武器がなく、空手も柔道もやった経験がなく、 どうしようもなかった。その時だった。
 薄暗い洞窟の奥から敬二が走ってきた。両手にファマス5を持っていて「早く行くぞ!」と、一にファマス5を渡すと、敬二もベルトから拳銃を出し、 全速力と言えるだろうか、そのまま突っ走って行った。一も焦りながらファマス5を持って、全速力で敬二について行った。
 暗い洞窟の中、先の方に裸電球の灯が見えた。さっきと一緒で、洞窟が2手に分かれていた。間違えてしまうほど一には区別がつかなかった。 なので敬二のあとを必死について行くしかなかった。敬二はその2手に道が分かれている所で立ち止まり、何か指を指すと、 左の道に走った。その先から悲鳴が聞こえたとすると、反対の道に自分の銃が置いてあったのだろうと思った。瞬間的だったが、 ハンカチが落ちていた様に見えた。
 しかし全速力で走っただけあって、一瞬で現場に到着した。道は既に広くなっていて、先ほどの道とは比べ物にならないぐらい明るかった。 しかし現場の状況は既に遅かった。
 「お前は・・・小宮か・・・や、やめろ・・・」
 敬二は銃を構えてまっすぐ先を見つめている。
 一の目の前に飛び込んだのは、祥子を人質に捕らえている小宮忠司(男子八番)だった。小宮は祥子のこめかみに拳銃を突きつけていた。いや、それ以前に小宮の 足元に転がってる肉の塊の方が気になった。
 見るも無残に松笠雄一郎の死体がそこにはあった。雄一郎は白目をむいでいて、口を半開きに舌を出している。 まるでボケた老人だ・・・おじいちゃん大丈夫?口からは大量の血が吹き出ており、一緒に泡が混じっている。首には鎌が刺さっており、 喉の部分がパックリ切り開かれている。その開いた喉からドボドボと血が流れていて、同じ様に泡が混じっている。しかも血と一緒に 動くコードと言った方がいいのか、ミミズと言った方が正しいのだろうか、何かわからないヒモが大量に飛び出し動いていた。
 一は気持ちが悪くなり、雄一郎の死体から目を離し、目の前の小宮の顔を見た。しかし小宮の顔は血がべっとりついていて、異常なほど狂った目をしていた。あの、 いつもおとなしめの男子。しかし少し間の抜けた所もある。そしてなぜか顔が青白い男がなぜ?
 敬二は人質に捕られている祥子を少し見て、「祥子を放せ」と呟いた。
 小宮は笑っているのか脅えているのか分からない顔をしている。そして何かしらぶつぶつと喋り始めた。
 「へへへへ・・・。なんだぁとぉう?コ、こいつをはなすぅ?なら、お前のじ、銃を降ろせ!お前もだ」
 祥子のこめかみに突きつけていた拳銃を、敬二と一に交互に向けた。目がマジらしい・・・一は少し震えた。ちくしょう!一は持っていたファマス5を 静かに地面に置いた。小宮の視線が一に圧し掛かった。
 「へふぇへへへ・・・お前もだよ・・・」と、小宮は敬二の方に銃を向けた。見ると、敬二は小宮に銃を向けたまま、まったく降ろそうとしなかった。
 「はやく・・・おろぉせぇえ!!」
 小宮が激情したその時だった。敬二はふっと笑い、ゆっくり銃を降ろした。いや、地面に置いたのではなく、小宮ではない方に向けた。
 「小宮、俺を殺す前に面白いショーを見せてやるよ。とっておきのな!」
 驚いた。
 声が出ない。
 一の目の前には銃を構えた敬二がいた。黒い筒が一を睨んでいた。
 「お、おい・・・け、敬二、じ、じょ、冗談・・・だろ?」
 敬二の後ろで不思議そうな顔をして、小宮が銃を敬二に向けていた。敬二はなぜか冷静な顔で一を見ながら笑っていた。いや、今から なにか面白い事をやる人間のように・・・。そして敬二はそっと口を開いた。
 「一・・・へへっ、馬鹿だよな、お前・・・。まあ小宮が入ってきて、松笠が死んで少し順序が狂ったが、まあいいだろう・・・。さあ、死ね、一」
 「う、嘘だろ?敬二!目を覚ませ!だ、だってお前俺を助けてくれたじゃないか!」
 人が違うように敬二はクスクスと笑った。悪ガキが小さな動物を血祭りに挙げるような顔で・・・。
 「はぁ?なんだって?学級委員ちゃん?お前の悲鳴を聞いた時には既にお前を殺そうとみんなで計画してたんだよ。お前の銃はいい物だったからな・・・ お前を利用して優勝にこぎつけるのを考えていたんだよ。まあ最後の3人なったときは祥子も松笠も殺すつもりだったがな」
 敬二の後ろでは、ぴくぴくと痙攣してるように小宮は引き攣った口を動かし、無理に笑うような感じの顔になっていた。
 一は言葉が出なかった。いや、もう言う事がなかった。今の敬二は目がマジだ。本当に自分を利用するつもりだったんだ。なんてこった・・・。
 「ばいばい」
 にやにやと敬二の微笑みかける声と同時に、銃声が鳴った。
 「ドン!」
 しかし弾は一の少し右にある岩に当たり、ぱらぱらと削れた岩が落ちた。一の体から血の気が引いた。
 「ちくしょう!」と悔しがる敬二は、小宮の方に向いた。小宮は驚きながらも敬二に銃を向けていた。しかし顔は笑っている。
 「小宮・・・お前が撃ってくれないか?あ・い・つ・を」
 一瞬驚いた小宮だが、すぐに敬二の言う通りに一の方に銃を向けてきた。付け足しをするように敬二が、「小宮・・・いいか、撃つ時は 頭を狙ってくれよ。命中率は低いが、当たれば一発で死ぬからな」と、囁くように言った。
 「・・・敬二・・・」
 一は人を信じる自分はなんて馬鹿なんだろうと思った。――――さあ早く殺して俺を天国へ連れて行ってくれ・・・ もう目の前にはヘブンズゲートが見えてるからな――――。
 「ひっ、ひっ」と、小宮が祥子を突き放し、銃をカチャリと音を立てた瞬間だった。「ドン!」と、小宮の銃よりも先に、火を噴いた銃があった。それは正しく敬二の銃だった。
 敬二が撃った弾は小宮の左足の、膝あたりに当たり、驚きと急激な激痛と同時に、小宮は銃を離し、足を両手で押えてその場で倒れ込んだ。「ぎぃああ」と 変てこな悲鳴をあげた。その間、瞬間的に敬二は祥子の手を掴むと、自分の背後に行かせた。そしてもう二発「ドン!ドン!」と銃声がした。
 それも敬二の銃から出たもので、蹲ってる小宮の体が2回ほど飛び起きるように揺れた。敬二はじっと小宮を見ていた。一を撃つ時よりもとても冷酷な目で・・・。
 「・・・ぎ・・・」と、ほんの一瞬だけ声をあげた。一は何がなんだかわからなった。尻餅を搗き、倒れる一を見て敬二の後ろにいた 祥子が駆け寄って来て、腕を貸してくれた。その時小さな声で「本城君、大丈夫?怪我はない?」と、祥子の綺麗な瞳が一に向けられた。少し照れながらも 一は祥子の腕を借りて立った。なぜかふんわりと、やわらかいシャンプーの香りが祥子の髪から匂ってきた。とてもドキドキした。安心した一はため息を 吐いたが、同時に大きな声で敬二が蹲ってる小宮に喋った。一の息が止まりそうなぐらいに、また違うドキドキ感があった。
 「小宮ぁぁぁ!てめえなんて事しやがるんだ!糞野郎が!」
 小宮は足から血を流してるだけでなく、腹に2発黒い穴が開いており、そこからもドクドクと制服に滲む様にして血が流れていた。小宮も既に意識が薄れているのか、 悲鳴が途切れ途切れにしか聞こえない。
 小宮に近寄り、側に落ちていた拳銃を拾い上げた。それを少し見つめると、驚いたように一の方に顔を向けた。いや、実際は祥子の方にだ。敬二は ゆっくりと自分の拳銃をベルトに仕舞うと、拾い上げた拳銃を持ち、一と祥子がいる方へ向かってきた。
 まずは一に、「さっきはすまんな。許してくれ」と言い、一もあれは演技だったのかよーと、返事を返そうと思ったが、何やらすぐに敬二は祥子に目を向けた。「これ、お前の武器だよな」 と、祥子に拳銃を渡した。
 「うん、ありがとう」と、祥子は小さな声で拳銃を受け取った。しかしすぐにぽろぽろ泣き始めた。なんで?と言わんばかりに一は驚いた。
 「祥子・・・お前俺達がトンネルに行ってる間に何があったのか説明してくれ。お前がなぜ銃を撃たなくて、どうして小宮が持ってるかというのも」
 落ち着いた顔で敬二は祥子の肩に触れた。泣いてる祥子は頷きながらもゆっくり喋り始めた。
 「怖かった・・・私・・・怖かったの。敬二と本城君がいない間、洞窟の入り口付近で、松笠君と・・・見張りをしていたの。それは分かるでしょ?」と、祥子が 少し泣き止み、落ち着いた声で敬二に言った。敬二もうんうんと頷き、話の続きに耳を向けた。
 「そ、それで、突然だったのよ・・・小宮君が草むらからいきなり飛び出して来て、松笠君に圧し掛かったの。松笠君も必死にもがいてたわ。 そして一旦小宮君を払いのけ、松笠君が敬二に知らせてくれって言って、私を洞窟の奥に突き飛ばしたの・・・。それで、突然の事で訳のわからない内に、 後ろで松笠君の悲鳴がしたのよ。振り返って見ると、そこには小宮君が鎌を持って、松笠君の首に突き刺していたの。それで私・・・動けなくて、 その場で倒れたの。その時この拳銃を自分が持ってる事に気づいて、撃とうとした・・・けど撃てなかったの・・・どうしても、相手が人間だと分かってるから・・・。 それを見た小宮君が私に近寄ってきた・・・。顔は血がべっとりついていてとても怖かった・・・。で、私は捕まったの・・・小宮君に・・・」
 押しの一手をかける様に敬二が祥子に問う。
 「どうして撃たなかった。祥子!いくら人間でも、あいつは・・・小宮は!松笠を殺した奴なんだ! 人殺しは人間じゃない!いいか!」
 また泣き出した祥子は「やっぱり・・・撃てないよ・・・」と敬二に言うが、敬二も説得を続けた。
 「撃たなきゃお前が死ぬんだぞ!撃っていいんだ。ここは・・・大東亜共和国じゃない!作られた殺し合いのゲームの世界なんだ!祥子は俺が 守る!けど時としてお前が撃たなければ・・・俺も・・・一も・・・死ぬことになるんだぞ!」
 祥子は泣きながら小さく一回立てに首を振った。
 それよりも一には気になることがあった。敬二の後ろで蹲って倒れてる小宮が、気になって仕方がなかった。時折息をしてるように見える小宮は、 死んでるのか、生きてるのか?いや、それ以前にまた襲っては来ないだろうかという心配があった。しかしあまり小宮に目を向けるのはやめた。 なぜならすぐ近くに雄一郎のおじいちゃん死体があるからだった。どうしようか、敬二・・・と言おうとした時に、敬二も後ろを確認した。
 「さて、どうしようか・・・」
 敬二がため息交じりで小宮を見ながら言った時だった。「ぎう・・・」と小宮が小さな声で叫びだした。なにか変身する怪獣のようにとても 恐ろしい声だ。
 「ぐぐぎぃぃああああ」と、徐々に大きくなる小宮の声に3人は驚いていた。一は生きていたのか!と唖然としていた。
 小宮は両手を使い、這い上がるようにその場で立った。既に口から血が大量に出ていて、白目をむいでいる。一番驚いたのは敬二だった。 腹を2発撃ったはずなのに、なぜ立っていられるのか?と言う事だった。左の膝は骨が砕けてると思ったが、違うのか?
 立ち上がった小宮は「ぎぎぎぎぎ」と叫ぶと、全速力で敬二の方に突進してきた。一は危ないと思い、地面に置いていたファマス5を拾い上げたが、 敬二は冷静な顔で銃を構えていた。
 突進してくる小宮に敬二は銃を構え、後ろにいる祥子に言った。
 「祥子、目の前にいる奴みたいなのが、人間じゃないっていうんだ」
 小宮と敬二の距離が1メートル半の所で、凄い数の銃声が鳴った。
 「ドン!ドン!ドン!ドン!ドン!」
 顔や体から血が吹き飛ぶ小宮は、変てこな踊りをしながら後ろに体が吹っ飛んだ。改めて一は銃の威力を感じた。間じかで撃たれた小宮は、 顔がぐちゃぐちゃになっていて、体には制服の上から白い煙が幾つもあがっていた。
 「・・・ふぅ・・・。ここはもう使えないな・・・もう1つのガスコンロが置いてあるところへ移動しよう」
 一瞬だけ小宮の顔を見て、敬二は息を切らしながら、死体を無視するように一と祥子に言った。「うん」と、静かに祥子が敬二に言った。
 敬二は制服のポケットから銃の弾を出し、拳銃に弾を詰めながらトンネルに行く道に歩いていった。
 今はただ、唖然としてる一は逃げるようにしてそこから去った。ファマス5をしっかりと持ち・・・。

【残り26人】




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