第二部
中盤戦
28
綺麗なショートカットを靡かせることもなく、ただ脅え、乾麗子(女子二番)は迷っていた。ゲーム開始早々一人ぼっちの彼女は大の暗闇恐怖症だった。だから日が昇るまではどこかの小屋で蹲っていたかったが、
暗くて怖く、どうしようもなかった。
幽霊が怖いんじゃない、一人という孤独感が怖かった・・・。友達の小見有紀に会いたかったが、麗子が小屋で蹲ってる時に、既に放送で名前が呼ばれていた。
あとは・・・あとの友達は、堀川美菜子(女子十八番)。そしてまあまあ仲のよい人物は、椎名軍のリーダー椎名瑞希ぐらいだ。しかし
椎名瑞希は危険すぎると麗子は判断した。
これもあの鬼月先生の罠なのだろうか、放送で死亡しか言わないで、なぜ殺した人間を言わないかっていうのがだんだん分かってきた。一体これから
誰に会うか分からない。しかもその出会った人間が放送で呼ばれた友達を殺しているかもしれない。偽善者ぶって、スキを狙い、殺す。
麗子の行動はあまり動かない事だった。隠れていることが最大の防御だと思ったからだ。小屋で支給武器を見たが、中にはとてもじゃないけど
テレビでしか見たことのない物が入っていた。一緒に入っていた説明書には、『H&K P7』と書かれていた。そんな名前はどうでもいい。そのモノが、
なぜ拳銃なのか・・・。とてもじゃないけどこれで人を撃つなんてできない。
しかし自分の命は大事だ。死にたくない。麗子は一応自分の身を守る為に、H&K P7をスカートのポケットにはめ込んだ。持ってるだけじゃ
だめだと、麗子は説明書と睨み合いながら、H&K P7の弾をマガジンに詰めた。
今自分は何処にいるのか分からないが、ここから見て分かる事は、どこかの団地らしい。何かしら懐かしい雰囲気を醸し出している。棟は
A棟とB棟があるらしく、全部で階段がある入り口は4つとなる。麗子は一度B棟に入ったが、なにかいやな予感を感じてA棟に入った。
勿論と言うのか、ほとんどのドアは閉まっていた。麗子は丁度二階の踊り場から外の景色を眺めていた。このB棟の団地に誰もいないことを祈るばかりだった。
幼稚園・・・。麗子はふと思い出していた。ここから見える風景はなぜか麗子が住んでた文京町に似ていた。麗子も昔は団地暮らしだったので、
幼いころの思い出達が、麗子の頭の中で騒いでいた。
そう、小学校入学だったかな、大きな背の6年生のお兄ちゃんが一緒に手を繋いで入学式のアーチを潜ってくれた。とても暖かい手で、
やさしい目をしていた。それから2,3年生になり、友達も沢山増え、4年生で女という自覚を持った。男子に見てほしくて髪形は色々変えた事もあった。
時々は可愛い熊のバッチもつけてたり・・・。それでもって懐かしい学芸会・・・。
そして5年生で始めてのキャンプがあった。ご飯を炊くのは大変だった・・・。6年生になったら更に女の自覚が増し、薄い化粧も何回かした事もあった。
しかし結局それは男子には気づかれる事はなく、気づいてくれるのは仲のよかった有紀だけだった・・・。
中学はとてもじゃないけどあまり楽しくはなかった。初めてで馴染めないクラスメイトに一時期一人ぼっちだったが、美菜子が話し掛けてくれて何もかも変った。
その時、人は変われるんだ・・・そう実感した。なんとか中学を1,2年過ごし、3年生になった。もう自分自身の将来の夢も決まっていた。昔はアイドルになりたかったが、
今は本の出版業界の人間になりたかった。そう、なりたかった・・・今こんな所にいないのならば。
中学生になって恋もした。大人の恋だ。すべてが薔薇色ではなかったが、それなりに楽しく過ごしていた・・・。
「・・・邪魔・・・」
突然背後で声がした。
え!
咄嗟に麗子は振り向こうとしたが、どうにも体が動かなかった。機能停止状態なのだろうか・・・。
「ドシュ」と言う音がしたと思えば、いきなり自分の意思とは別に、人形の様にバタンと倒れてしまった。痛みはそんなになく、頭の後頭部が異常に熱かった。
そのまま体は倒れ、仰向けの状態になった。薄っすらとだが意識がある中、麗子の視界に映ったのは、髪が長く、そして肩には大きな長い銃と、
右手に持つ血が塗られた銀色のバットだった。しかしそこに立っているのが誰なのか分からなかった。とにかく長いスカートを履いており、冷たい瞳で
自分を見つめている。
この女だ・・・この女が私の友達の有紀を殺した・・・。
その時、直感だろうか、麗子はその冷たい瞳の女が、小見有紀を殺した犯人だと思った。
第六感というのだろうか、元々麗子は勘が異常に鋭かった。幼い時からそれは自分でもわかっていた。
たとえば有名な犯人探しのドラマ番組は全て直感で当てていた。
他で言えば学校で起きたイタズラの犯人などが主である。
だが口には決して出さなかった。
親にもその能力のことは話していないし、勿論友達にもだ。
話すと相手にされないか、それ面白い〜とか言われるのが落ちだった。
いや、そんな事よりも意識がなくなってきてる。後頭部が以上に熱いと思ったら、ドクドクと小さな鼓動が聞こえて、頭から液体が流れ出していた。それは
麗子にも分かった。
だがその瞬間、麗子の視界に映る冷たい瞳の女は、何か思い出した様に階段を駆け下りた。
ちくしょう!
突然変異のように麗子はぶち切れた。自分でも分からないが、相手が有紀を殺した人間なら・・・ゆるさない。しかも自分も被害がある。
走って階段を下りる女に、頭を押えながらも麗子は懸命に立ち上がった。ぽたぽたと流れ落ちる汗・・・?じゃない、血が、目に沁みた。酷く痛い
頭痛と、朦朧とする意識の中、必死に女を追いかけた。――――仕留める!――――
ポケットからH&K P7を出し、踊り場から外に逃げる女に構え、撃った。
「キュンキュンキュン」
何発かでたらめに撃った。その為か逃げる女には全く当たらず、地面のコンクリートに火花が少し散っただけだった。しかし怯むことなく弾が無くなるまで
麗子は撃ち続けた。
「キュンキュンキュン・・・」
ものすごい銃声音だった。こんなに銃声が大きいとは思わなかったが、麗子はひたすら撃ち続けた。
それに少しだけ驚いた、『逃げる女』こと、『冷たい目の女』・・・いや、『有紀を殺した女』は、こちらに一度振り返った。そしてしくじった様な顔をして、また麗子から逃げて行く。振り向いたその時だった。
麗子はこの踊り場から見て分かった事があった。それは相手が誰か・・・である。
あの顔は正しく寺島留美だった。はっきりと冷酷な顔が麗子の脳裏に焼き付いた。しかし銃のトリガーを引くのをやめなかった。
「キュンキュン・・・カチッ」
そして遂に弾が切れた。カチカチと音だけがなる銃は、その場にぽろっと落ちた。麗子は立っていられなくなり、尻餅をついて、その場にバタンと
倒れ込んだ。3階に上がる階段に凭れかかる様にして倒れた。
「ふー」と軽いため息を吐き、自分が血だらけの事に気がついた。
ああ、痛いなぁ・・・。
そうだ・・・私は思い出してたんだ・・・。中学校での運動会・・・良かったな・・・。
みんなで話し合ったホームルームの時間・・・。
時々有紀と喧嘩もした・・・。有紀・・・今何処にいるのよ。あなたに会いたい・・・。
この体が滅びる前に有紀に会いたかった・・・。
ああ、思い残す事はたくさんあるわ・・・。お母さんお父さん。私は一体何のために生まれたのでしょうか?
結局私の最後はこうなるんだったら、始めから言ってほしかった・・・神様。言ってくれれば楽しい思い出なんか作らなかったのに・・・。
神様・・・死ぬって怖いですね。自分の存在がなくなるのは怖いですね。
ああ・・・結局この鋭い勘も、最終的には自分の死を予感したのかもしれない・・・。
・・・ばか、私の馬鹿野郎。
もう・・・もう、だめかも。ごめんね・・・有紀。仕返し・・・出来なかった。
・・・ごめん。
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