BATTLE ROYALE 外伝

第二部
中盤戦



29

 階段を上がる足音が聞こえ、瑞希は目を開いた。誰かこっちに来る!
 今も屋上には冷たい風が吹く。空は赤く染まり、階段を上がる足音は屋上のドアの前で止まった。ドアの窓は黒くて瑞希も相手も誰がいるのか分からない。 いや、人がいる事さえも分からないぐらいだ。
 瑞希は持っていたブローニングハイパワー9oをドアに向かって構えた。誰が来るんだ・・・。極度の緊張が走った。
 そして、「ガチャ」とドアが開いた。
 瑞希の視線の先には、一人の女が立っていた。瑞希の目の前に立つ女は凄く驚いており、手を挙げていた。横はねショートヘアーに、 170近い身長の美菜子は、 「あ・・・椎名さん?お願い、殺さないで・・・」と 相手を知ってすごく驚いている様子だった。
 だが瑞希はその椎名さんと呼ぶ、テニス部で女子からの憧れの的、堀川美菜子(女子十八番)に、ある質問をした。
 「堀川さん、下手な真似をしたら撃つわよ。いい?私もあなたを殺したくはないし・・・まずは支給武器は何か調べさせてもらうわ」
 美菜子はじっとしていて、尚且つ冷静だった。横はねショートヘアーに、170近い身長とは関係なく、 瑞希の言った通り、すんなりと肩に掛けていたデイパックと、修学旅行用の荷物を瑞希の目の前に投げた。
 瑞希も警戒して、荷物を取る間も片時と美菜子から目と銃口の向きは逸らさなかった。ゆっくり腰を降ろし、足元に置いてあるデイパックを拾った。 中を手探りで触り、デイパックに水のボトルとパンと、それに紙切れが幾つかと地図、方位磁石しかない事に気がついた。
 「武器は何?出して」
 美菜子は、はいはいと言うようにお尻の方に手をまわし、1つの変った拳銃を出し、これまた瑞希の足元に投げた。それからまた両手を挙げた。
 「もう、いい?私、本当に殺る気はないから・・・お願い信じて」
 不安そうな美奈子に対してはっきとした口調で返事をした。
 「・・・ええ。いいわ。失礼な事をしてごめんなさい、あなたを信じるわ。けどね、すべて信じたわけじゃないからね。そこら辺は堀川さんも同じでしょ?」
 「まあ・・・そうね。どちらにしろ麗子を探してるからここに長い間居れないし」
 「麗子・・・って?誰?」
 「ああ、ごめんなさい、乾麗子の事」
 気が気ではなかったが、結構美菜子とは脈が合いそうに思った。そして瑞希は荷物一式を美菜子に返した。一応・・・瑞希は美菜子の警戒を少し弱くした。――――彼女は殺る気がないか・・・―――それから 足元にあった変てこな美菜子の支給武器を手に取って見た。
 なにやら拳銃には変わりないが、従来の拳銃とは形が少々異なっており、銃の先が丸い。言わばバナナのような形だ。あとのトリガーやグリップは 普通だ。それと気になるところが幾つもある。その中でも一番気になるのは、銃のグリップに、金の桃のマークが入っている。
 瑞希は怪訝そうな顔してまた質問した。
 「堀川さん、この銃はなんていうの?」
 「ん〜私もよくは知らないんだけど、一緒についていた説明書だと、「テクニカルアーサー」って名前だったわ。なにやら大東亜科学省の政府 重要武器専用開発部が85年に開発したオリジナルピストルらしくて、細かな詳細は・・・」
 そう言うと美菜子は瑞希から返してもらったデイパックの中から、1つの四つ折にしてある紙を渡した。この時から瑞希は 美菜子に向けていた銃を下に降ろしていた。
 片手で四つ折にしてあった紙を開いて、瑞希はよく見た。美菜子が言った通り、大東亜科学省・政府 重要武器専用開発部が85年開発・オリジナルピストル・総統陛下認可と記されていた。沢山の説明書きがあったが、瑞希には関係のないことだった。
 「ありがとう」と言い、テクニカルアーサーとその説明書を返した。
 美菜子は返してもらったテクニカルアーサーをお尻の方にまわし、説明書をデイパックの中に入れた。なぜか瑞希には慣れた手付きに見えた。
 それから瑞希は少し安心した。相手が殺る気の人間ではなくて良かったと・・・。
 「堀川さん、少し座らない?」
 白いテーブルに瑞希は美菜子を招待した。椅子も丁度二つあった。
 「ありがとう、でも私まだ用事があるから、いいや」
 美菜子は少し笑って手を横に振った。しかしなにやら瑞希の真剣な表情に少し笑いが止まった。
 「堀川さん・・・あなた乾さんに会ってどうするつもり?」
 瑞希の言葉に少し暗い表情を浮かべながら、美菜子はそっと答えた。
 「ん〜、どうしようかな。まだ考えてない・・・。でも、やっぱり友達と一緒に行動するって事だけは決めてあるの」
 「友達もそうよ。こんな時だから、誰が狂ってもおかしくはないのよ、堀川さん。いい?人を信じちゃだめよ」
 「そうね・・・椎名さんの言う事は正しいわ。でも私、信じてみたいの・・・友達を。うん・・・。確かにもしかしたら今、友達は狂ってるかもしれない。 けどそれで殺されるのだったら、私は悔いはないわ。仲良しの友達に殺されるのだったらね」
 少し考えた。一体堀川美奈子という人物は何なのだろうかと。瑞希は良く知らないが、何処からそんな人を信じようと言う精神が出てきたのだろう。 不思議で仕方なかったが、自分には関係のない、人の命だ。好き勝手にしてもいいだろうと思ったが、やはりあっけない死に方をされるのは、 クラスメイトのこちらとしても好まない。だから瑞希は最後の忠告として言った。
 「わかったわ・・・。堀川さん、友達を信じるのはいいわ。でも、必ず信じる前は・・・疑いなさい。決して信じるなって事ではないのよ。 始めは疑って・・・。いい?」
 薄っすら笑みを浮かべながら美菜子は頷いた。「ありがとう」と、一言小さな声で言った。
「キュンキュン」
 突如大きな銃声が聞こえた。
 「な、なに?」と、美菜子は驚いた。
 「近くだわ」
 瑞希の耳にも、美菜子の耳にも、確かにはっきりと聞こえた。その銃声は止む事がなく、更に「キュンキュンキュン」と鳴り続いた。
 2人は顔を合わせて、拳銃を握り締め、屋上の階段から下りた。たしかに近い。だとしたら階段のあたりか!?
 瑞希を先頭に駆け足で下りた。時々一段飛ばして下りた。もう無我夢中で下りていた時、やっと鳴り続いていた銃声が止んだ。
 しかしいくら下りても人影はない。そしてとうとう入り口の階段まで下りたときだった。
 「あれ?どこにいるの?銃声は確かにこのあたりから・・・」と、美菜子は不思議そう言った。
 「もしかして・・・反対側のA棟?そうだわ・・・きっとそうだわ」
 瑞希は団地がAとBがあるのに気づいた。もしA棟から銃声が聞こえたとしても、AとBは隣り合わせだから近くで聞こえたと思っても仕方ない。
 「堀川さん、A棟から銃声が聞こえたのよ。ここはB棟だから隣から聞こえたんだわ。行きましょう」
 丁度2人が目の前のコンクリートに足を踏んだ時だった。
 驚いた!と同時に身の危険を感じた。瑞希は美菜子の手を掴み、思いっきりB棟側の自転車置き場の裏に逃げ込んだ。
 「ぱらららっ」
 雨粒のような銃声と共に、コンクリートに火花が走る。やはりそうだ。瑞希はそっと銃声の先を見た。――――寺島留美――――宿命とも言うのか、 それとも神様の悪戯なのか、寺島留美はサブマシンガンを構えてこちらに向かってくる。右手には金属バットを持って・・・。横にいる美菜子も気づいたらしく、「寺島さんなの?」と瑞希に 小声で話し掛けた。
 瑞希は独り言を呟きながら考えた。
 「ふう、危ない・・・どういう事だろうか・・・なぜ寺島があんな所にいるんだろう。さっきの銃声は寺島のマシンガン?いや、 さっきの銃声と寺島のマシンガンの銃声は明らかに違う。とすれば既に誰か寺島に殺されてる!?」
 それを聞いていた美菜子が慌てた。
 「まさか・・・死んでるなんて・・・じゃあ寺島さんは人を殺したの?」
 「見たら分かるでしょ。実際心も腐ってる女よ。決着の場所としてはあまりよくない所だけどね・・・いいわ。堀川さん。今から私の言う事を良く聞くのよ」
 頭を縦に振り、美菜子はじっと聞いた。実際に寺島留美がこの自転車置き場の裏に確実に歩み寄ってるのだ。早く、早く何か考えなければならなかった。
 「いい、私達はハンドガンしか持ってないの。逆に寺島はマシンガンよ。オートがきくから、弾の数が半端じゃないわ。私達が勝てる確率は低いわ。 だからあなたは銃声がしたA棟に行って。いいわね、その間で私が寺島を殺るから」
 「え?どういう事?椎名さん、勝てる確率は低いんじゃないの?それなのに一人だなんて無茶よ。私も戦うわ、そのほうが・・・」
 「言っておくけど、勝てる確率が低いって言ったのは、堀川さんと一緒にいる場合よ。私一人の場合は勝てる確率89%ってとこね」
 「キンキンッ」と、自転車にマシンガンの弾が当たる音がした。もう寺島はすぐ近くに来ている。丁度瑞希がいる右側から姿を現すはず。
 「いいわね堀川さん、合図したら向こうの左側から飛び出して、A棟の階段がある入り口に行くのよ!いいわね!その間私は寺島の気を惹きつけるから」
 そんな無茶な・・・と言おうと思った美菜子だったが、とにかく今の瑞希の目は真剣だった。――――やってくれる・・・彼女はやってくれる―――― 美菜子は頷き、しゃがみながら左側の端まで行った。
 それを見て瑞希は安心した。これで・・・対決できる。でもできるなら・・・できるなら戦いたくはなかった・・・。しかし相手は 友達でもなく、軍のボスでもない・・・殺る気の人間だ・・・。
 瑞希は片手に握る拳銃と顔を隙間から少し出し、寺島目掛けてブローニングハイパワー9oを撃った。
 「バキュン」と言う音と共に寺島の足元に火花が走った。それに気づいて寺島留美も、瑞希の方にマシンガンを撃ってきた。すぐに瑞希は顔を引っ込めた。 幾つもの銃弾が自転車の部品に当たった。そして様子を伺い、瑞希も撃ち返す。顔を出しては一発、一発と、両者銃弾を喰らわないまま 交互に撃った。
 「堀川さん!今よ!」と、瑞希が合図をすると、周りを警戒しながらA棟に向かって走った。瑞希も気を惹かせるために、 一気に4,5発連続で撃った。しかし寺島の方も、「ぱららららっ」と瑞希の顔ぎりぎりまで銃弾を浴びせようとしていた。
 さあ、ここからが本番。どのように戦おうか。何時までたってもこれじゃあ怪我をさせることは出来ない。
 「ぱららららっ」と、寺島のマシンガだけが鳴り響く。しかしその時だった。「カチッカチッ、ウイーン」と言う弾切れの 音が瑞希には聞こえた。――――今だ!――――瑞希は自転車置き場の裏から姿を見せた。
 予想通り寺島は弾切れらしく、後ろを向いて走っていく。――――逃がさない――――とっさに瑞希は銃のトリガーを引いた。
 「バキュンバキュン」
 二発中一発は、逃げる寺島の右足の近くに当たり、もう一発は寺島の踵にヒットした。「くっ」と痛みを堪えた 声が寺島から聞こえてきた。 一瞬転びそうになったが、態勢を整え、尚も走って逃げて行った。ぽたぽたと血が寺島の踵から流れ落ちる。その血が寺島の行く目印にもなっていたが、 瑞希は何故かそれを見ているだけだった。
 はっきり言って戦いたくはなかった・・・。いや、勝てなかった。踵にヒットしたおかげでなんとかこの戦いは持ち越しとなったが、今度襲ってきたら やばいかもしれない・・・そんな事を思いながら額に溢れ出した汗を手で拭いた。
 ――――そうだ!堀川さん!――――瑞希は急いでA棟に向かった。一体A棟では何があったのだろうか?そう考えながら不意に後ろを振り返った。既に寺島の姿は遠退いている。
 A棟の入り口まで来たが、一階の階段は何も変った事のないただの階段だった。しかし上から「しっかりして!」と言う美菜子の声を聞き、 瑞希は走って階段を駆け上がった。
 目の前に広がる光景に少し瑞希は驚いた。血だらけの人間とその人間を抱える美菜子がそこにはいた。その横には、さっきの銃声の物だろうか?1つの拳銃が これも血だらけで落ちていた。こんな所で戦ったのだろうか?血だらけの人間は、セーラー服から女子だと分かり、美菜子に誰なのか聞いた。
 「ど、どうしたの?堀川さん・・・誰なの?」
 美菜子は涙を薄っすら浮かべながら瑞希に言った。
 「椎名さん・・・麗子が・・・麗子が・・・」
 麗子・・・?乾麗子!?まさか・・・そんな。探していた人間がまさか近くにいるとは・・・あの時自分がゆっくり話なんかしてなければ。瑞希は 自分を攻め立てた。探していた人間とこんな状態で再会する事になるとは・・・。
 呆然と立ち尽くす瑞希を他所に、美菜子は必死に叫んでいた。
 「麗子!しっかりして・・・麗子!!」
 見た限りこんなに血が出ているのでは、助かりようがなかった。たとえ生きてたとしても、出血多量で死にそうな血の多さだった。瑞希もこんなに多い血を目の前に、 半端ではないと思った。だがしかし、血だらけの顔の麗子は、目をそっと細く開けた。
 「麗子!生きてるの?大丈夫?」
 麗子は必死に喋ろうとした。既に何かが麻痺して口もあまり開かなかったが、頑張って口をパクパク動かした。
 「美菜・・・子・・・来てくれたんだ。よ・・か・・た。これで・・・思い残す事は・・・ないわ・・・私・・・のろまだから・・・こんな目に・・・ あったんだよね・・・」
 「麗子!しっかりして!ねぇ?麗子!」
 やはり寺島の仕業だと、瑞希は薄い確信をした。あの時寺島が持っていた金属バットで殴ったんだ・・・。たしかに、言われてみれば寺島の持っていた 金属バットの色が妙に赤かったのが、今分かった。外を見て、また寺島が来ていないか一度瑞希は確認した。
 うう、と美菜子は泣いている。麗子に対して背を向けている瑞希は、死んだんだと思った。あまり話した事はなかったが、それなりに瑞希自身 彼女の事が人間的に好きだった。大人しく、そして時々見せる笑顔は素敵だった。自分もこんなに素直に笑えたらいいなと羨ましがった事は何回もあった。 それを考えてくるうちに瑞希も少し残念な気持ちになった。
 「麗子・・・うう・・・」
 もう美菜子の声は聞こえない。麗子の体に顔を押し付け、泣いている声が少し聞こえてくるだけだった。
 今はどんどんと暗闇に包まれていく島の景色を、瑞希はじっと見ていた。こんなにも暗くなるのって早いんだな・・・と。
 この時麗子は見た。目の前が真っ白に包まれる世界を。
 その先には、小見有紀がにこにこしながら立っていた。
 麗子はすぐに駆け寄った。
 有紀はいつもの笑みを浮かべていて、「ねぇ麗子、昨日の特番見た?凄く面白かったよね?」と話し掛けてきた。
 懐かしい・・・。いや、改めて麗子は思った。友達の素晴らしさを。
 それから麗子は有紀といろんな楽しい話をしながら遠く、遠くへ歩きながら話し続けた。
 途中、ふと気づいた事があった。
 こんなに短い人生なのに、いままであったつらい事や楽しい事が、凄くいい思い出になっている・・・。
 生きてて良かった・・・。
 そして有紀と麗子は遠く遠くへ歩いて行った・・・。何処までも遠くへ・・・。

【残り25人】




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