BATTLE ROYALE 外伝

第二部
中盤戦



32

 「グレイト!おーい、元気か〜?みんな早寝早起きしてるか?眠ないと体力も持たないぞ。ただ今0時の放送をします。 え〜それじゃあまず死んだ人からいくぞ〜、女子二番乾麗子、女子は以上。次男子は〜、 男子八番小宮忠司、十七番松笠雄一郎だ。まあまあいいペースだが、 先生の希望はもう少し上げてほしいなー。いいか〜またここで言っとくが、まず自分以外の人間にあったら殺意を持て。そしてどんな卑怯なやり方でもいいから 殺せ!そしたら優勝できる・・・。これが俺の言いたい事だ。よし、死亡者は以上だ。次、禁止エリアだ、地図の用意はいいか? え〜午前2時からF=9、午前4時からG=3、午前6時にC=2だ。みんな頑張ってくれよ。いいな?脱走しようなんて考えるなよ。じゃ、先生はオネムの時間に 入りますんでさようなら、プ〜」
 スピーカーは何処にあるんだろう。一体鬼月の声はどこから・・・。
 長い髪の毛にパッチリとした二重、そして何よりも少女は心が綺麗だった。
 神社の裏で隠れて体を休めていた真行寺文香(女子十一番)は静かに地図をデイパックに仕舞った。この島の中では何が一体起こっているのか・・・。 この椅子取りゲーム開始から早一日が過ぎている。生き残るのは一人・・・。それで家に帰れる・・・。
 真行寺財閥の娘である文香は、昔から恵まれた環境で育ち、苦労した事など人生で一つもなかった。クラスでは金が目当てで友達気取りをしてる女子は多い。 逆に金持だからと妬む女子も多かった。そんな中で本当の友達というものは文香にはいなかった。
 文香は昔から心は美しく、花が好きでどんな物も大切にする"いい子"だった。しかしお金に困らない反面、周りの友達のように文香は親の温もりを知らなかった。 物心ついた頃から既に家政婦さんに育てられていた。つまり親というのは生んでくれた人間で育ての親は家政婦という事になる。親の温もりを感じた事のない文香は 今となっては後悔していた。そう、お金では買えないもの・・・。
 開始早々辺りは静かで暗く、尚且つ廃校の近くには石上晴香の死体が転がっており、胃から何か熱いものが出そうになった。
 それからこれからの行動をどうしようかと考えていた。仲間が必要かと思ったが、本当に普段付き合ってる友達は信じられるのか不安だった。命が惜しいのは 誰しも同じだ。
 ここの神社を見つけて隠れ場所をまず探そうとした時には、村瀬淳也のグロテスクな顔で死んでる死体があった。辺りは薄暗いがよく見えた。その側には ボウガンが落ちていて、淳也の首に矢が刺さってる事に少し疑問を抱いた。自殺?いや他殺・・・。どっちでも良かった。
 政府の言いなりになって殺し合いをしなきゃならないのか・・・。文香はデイパックの中にあった一つの拳銃、ベレッタM92Fを持って見つめていた。これで・・・。
 しかし迷った。自分がクラスメイトを殺す!?そんな恐怖物語はない。これは現実だ。でも殺し合わないと自分が殺される。まるで逃げ惑う 蟲のようだ。自分達はそれなりの暮らしをしていたのだけれども、ある時に人間に見つかり殺されてしまう。自分よりも大きい人間に立ち向かう事は出来ず、 尚且つ逃げ足も断然人間よりも遅い。挙句の果てに最後は始末される。ある時はティシュペーパーで潰され、ある時は生きたまま水に流され・・・。地獄を 味わいながら死んでいく・・・。
 文香の体中に一瞬にして鳥肌が立った。突然自分や他の生きてる人間が醜く感じた時だった。人だけではなく、生命あるものすべてが何かを犠牲にして 生きてる。つまりは殺している。何かを既にみんなは殺している・・・。
 頭を抱え、何故か涙が止まらない・・・。どうしよう・・・あたしは醜い・・・。どうしよう。
 「とっとっとっ」
 ぽろぽろと流れる涙を他所に、文香の近くで何者かの石段を上ってくる足音が聞こえた。はっと気づいた文香は音がした方へ向いた。
 なにやら足音は神社の裏ではなく、表の村瀬淳也の死体がある場所で足音は止まっていた。文香は隠れて誰がいるのか見えないが、きっと今、村瀬淳也の死体を見てるのだろうと 思った。
 少し時間が経ち、また足音が聞こえてくる・・・。こっちに近づいている。まさか、見つかった!?
 震えるからだを強く押えながら文香はじっと足音を聞き入った。「ざっ、ざっ」と足音が聞こえる中、文香に徐々に焦りが体中に増してきた。たらたらと垂れる汗を気にせず、 息を吐く音さえも消した。
 足音は何故か文香が隠れている神社の裏(正確に言えば柱の下)で止まった。――――え?――――咄嗟に目が見開いた。どうしようどうしようと 焦る文香を他所に、目と鼻の先にいるその人間は一言呟いた。
 「真行寺さん・・・いるんでしょう?」
 女子の声だが誰の声か思い出せない。かなり可愛らしい声の持ち主だ。しかも何でここに自分が隠れているという事が分かったのだろう・・・。文香は 目の前に足だけ見える人間の返事はしなかった。
 「真行寺さん・・・じゃないの?私よ、依子。ねえお願い。怖いの・・・一緒に行動しよ?」
 え?文香は一瞬戸惑った。依子といえばクラスの中では永井依子(女子十五番)しかいない。陸上部だけあって足が速く、少し椎名軍と絡んでた事もあった 人間だ。クラスで有名な椎名軍と寺島軍の話は誰もが知っているので、勿論文香も知っていた。でも依子とはあまり付き合いがないし、性格もあまり合わない。 おしとやかな文香に対して依子は強気だ。
 しかし意を決して片手にベレッタM92Fを握り、隠れていた柱の下から出て行った。今は仲間が必要だ。もう一人は嫌だ。
 文香も内心怖かった。あまり話した事がない人間が一緒にと誘う。しかしこんな時なんだ、誰が言おうとみんな一緒な気持ちなはず・・・。文香は 静かな神社の裏で、静かにベレッタM92Fを依子に向けていた。
 「よかった〜、やっぱり真行寺さんだったのね。私もう泣きそうだったの・・・」
 凄く安心した顔を見せた依子に文香は少し気が楽になった。途端に依子に向けていたベレッタM92Fも下に降ろしていた。
 すると突然依子は抱きついてきた。見たところ両手には武器らしいものは持ってなく、涙を浮かべていた。
 「永井さん・・・。どうしたの?」
 「真行寺さん。怖かった・・・。あなたがいてよかったわ・・・」
 「ね、ねぇ?私が何でここにいるって分かったの?」
 依子は一旦文香から離れて流れる涙を腕で拭きながら静かな声で言った。
 「さっき・・・そこで真行寺さんを見たの・・・声、掛けようと思ったけど いきなり走るからあとをついて行ったの・・・。そしたらここに隠れる所が見えたから・・・それで・・・」
 そうだったんだと一つ、文香の警戒の糸が切れた。
 「そうなの・・・ごめんなさい・・・あなたに銃なんか向けて・・・」
 「ううん、いいの。狙われてもしょうがないもんね・・・。でも真行寺さんが分かってくれて安心したわ・・・ありがとう」
 「こっちこそごめんね・・・。私も正直一人は怖かったの。だから永井さんが来てくれてうれしいわ」
 2人はそっと微笑むと、依子がここでは危ないと言って文香に安全な場所を案内した。
 依子が案内した場所は文香が隠れていた所よりも少し離れていて、木々の中に建ってる倉庫だった。鍵は開いていて中はホコリっぽかったけど、 様々な用具が置いてあり、外から見たよりも中は広かった。
 ここなら大丈夫と2人はその場に座った。地面は畳が敷いてあり、何とかお尻が痛くなることはなかった。それから少し文香がデイパックから 水を取り出し一口飲んだ。
 「永井さん、いる?」と差出したが依子は、頭を左右に振り笑顔で一言呟いた。
 「ううん、持ってるからいいよ。ありがとう」
 そこから会話は途切れた。何分か沈黙が続いたが、それが文香にとっては安心できる証拠でもあった。文香には短い数分だったが、突然依子が話し掛けてきた。
 「真行寺さん・・・ゲームが始まってからどうやってここまで来たの?」
 依子の言葉に文香はこれまでの経緯を答えた。途中何回も一人は寂しかったと言うのを口にした。それを聞き、依子も自分の経緯を話始めた。
 聞くところによると依子はずっと椎名瑞樹を探しており、彼方此方歩きまわったと言う。そして何度も銃声を聞いたと言っていた。特に長い間歩いたと言うのを 聞いた文香は、依子の顔が不意に疲れた顔をしている様にも見えた。
 文香は窓から空を見上げた。夜空にはいっぱいの星が輝いていた。どんなに辛い時でも、星は美しく見える。星は誰が作ったものではない。一体この星を見ている人は 今何人いるだろう・・・。お母さんやお父さんは見ているだろうか?いや、仕事で忙しい・・・こんないつでも見れる星なんか見てないか・・・。

 「綺麗だね・・・」
 文香の脳裏にある回想が、ふっとビジョンに映し出された。中学3年になったばかりで行ったキャンプ。・・・五色山でのキャンプ。
 班ごとに分かれてテントに泊まったが、その夜文香は眠れないでいた。仕方がなく起きて、テントの外に出た。髪が長いロングヘアーを靡かせ、 ひんやり冷たい空気が肌に触れた。
 周りを見渡すとテントから出ている人はいなく、一人で文香は夜空が綺麗に見える、テントから数メートル先にある丸太椅子に座っていた。星は凄く綺麗に輝いていて、 このまま時間が止まればいいと思っていた時だった。
 「真行寺さん・・・?眠れないの?」
 突然背後から男性の声がした。振り返るとそこにはクラスで大人気の、木山とは性格が反対の神山克人(男子五番)が不思議そうな顔で立っていた。
 「うん」
 「ここ・・・、座ってもいい?」
 克人はそのまますっと文香の隣にあった丸太椅子に座った。文香は少しドキドキした。
 「星見てたの?」
 「うん・・・」
 星を見上げて克人はそっと「綺麗だね・・・」と呟いた。一瞬何に対していったのか分からなかったが、克人の顔を見て分かった。虚ろな表情でじっと星を見ている。
 「そう言えば神山君はなんでここに?」
 「ああ、俺はトイレに行ったついでに真行寺さんを見かけたから・・・」
 「眠たくないの?」
 「うん、大丈夫。夜更かしには慣れてるから・・・」
 微笑む克人は文香が見ても凄いかっこよかった。そして何よりも文香はこのとき神山克人という人間を好きになった。
 夜空いっぱいの星は何を訴える事もなく、ただじっとこちらを見つめているようだ。人間の一番の癒しは、星ではないかとこの時文香は思った。
 「真行寺さんはさ、将来何になりたいの?」
 「私?出来るならだけど、人の役に立つ仕事がしたいの。これ親に話すと怒られて相手にもされなかったけど、恵さん・・じゃなくて家政婦さんは、うんうんって答えてくれたけどね・・・。 はっきりした所は決まってないの・・・」
 「そうか・・・人の役に立つことね・・・」
 頷く克人に文香は不意に言った。
 「なれるかな・・・」
 「なれるとも・・・いや、既になってるよ。人間誰でも何かの役には立ってると思うよ。俺が考えるに、この世に不必要な人間なんていないと思うんだ。 どこかで必ず誰かの役には立ってる。本当に不必要な人間は生まれてこないよ・・・」
 何か納得するのは何故だろうか。文香は克人を見つめた。心臓がなぜかドクドク鳴っているのが聞こえる。
 「神山君は・・・将来したい仕事はあるの?やっぱりバスケット選手?」
 克人は顔を下に向けて頭を振った。少し笑ってる。
 「やっぱりみんな思うんだね。俺はバスケット選手にはなりたくないな・・・。プロで活躍 するのって大変だからね。しかも正直あまり好きでもないし、スポーツ自体。まあやりたい仕事はあるんだけどね・・・」
 「なに?」
 「カメラマン・・・けどなれないな・・・」
 「頑張ればなれるよ・・・きっと」
 しかしその瞬間、克人は暗い顔をして言った。
 「俺の父さんは政府のちょいと関係した人なんだ。それで大人になればきっと政府の命令で政府に関係する仕事をさせられるんだ」
 「なんで分かるの?」
 「なんでかな・・・」
 克人は徐に髪の毛をかき上げた。なんだか寂しそうな、それからのことがすべて分かってるような感じにも見えた。

 はっと気づいたように文香は目を開けた。星はキラキラ輝いていたが、辺りはテントも何にもない。倉庫・・・!?そうか、プログラムの途中だった。
 目の前には依子が立っていた。何かおかしい。
 「ど、どうしたの永井さん?」
 「寒いの・・・温めてくれる」
 依子は突然抱きついて来た。一瞬の出来事で何がなんだか把握できないでいた。しかし文香の体に依子が抱きついている。今は涙は流していないようだ。 なにか親と逸れた寂しい子供のような声で抱きついてきた。
 ――――まさか――――文香は思った。レズビアン!?いや、考えすぎか・・・ちょっと寂しいだけ・・・。そう思ったときだった。一瞬にして目の前が 真っ白になったのは・・・。
 「ブシュッ」と何かが刺さる音と同時に、文香の横腹に激痛が走った。え?っと思い、自然と体がよろめいた。
 ドスンと尻餅を付くと途端に右の横腹が熱く、キリキリ痛み出した。勝手に手は痛む方を押えていたが、地面に落ちた液体を見て驚いた。――――血!―――― 地面にはぽたぽたと尚も血が流れ落ちている。痛む方へ目をやると、ざっくり血が滲んで穴が開いていた。
 「ど、どうして・・・」
 文香の目の前に立つ永井依子は、文香が知る永井依子ではなかった。片手に黒い柄がないナイフを持っていた。刃には血がどっぷりついている。 依子がニヤリと文香を見て微笑んだ。普通の笑みとは違う、怖い笑みだ。
 すぐに依子は血塗れのナイフを突きつけようとしたが、文香も必死でその場で立ち上がり、倉庫のドアを開け、木々が並ぶ外へ出た。急激な痛みだったが、 今は逃げる事で精一杯だった。
 後ろからは走ってくる依子がいる。文香は全速力で走った。神社の鳥居を潜り抜け、石段が目の前に見えた時だった。「ヒュン」と 何かが飛んでくる音がした。途端にまた激しい衝撃が今度は左腿に走った。 見ると左腿に依子が持っていた黒い柄がないナイフが深く刺さっていた。
 逃げようとして立ち上がろうとするが、足が速い依子は半端ではないスピードで文香の目の前まで来た。冷酷な目をしている。
 「ここから落ちて死ぬか・・・私にやられて死ぬか・・・」
 依子は片手に黒い柄のないナイフを3本持っていて、もう片手には倉庫に置いてきた文香のベレッタM92Fを握り、こちらに向けていた。
 「さよなら、真行寺さん」
 ベレッタM92Fを向けられて動けない文香はやめてと言おうと思ったが、お腹に力が全く入らない。そして依子は銃の引き金を引いた。
 目を瞑り、もうだめかと思っていたが、なぜか銃声が聞こえない。と、文香は思い出した。――――弾を入れてなかった――――不幸中の幸いで 文香は依子に背を向けて、石段よりも左側にある、集落へ繋がっている坂道に全速力で走った。依子は一瞬弾が出ないことに唖然としていたが、 逃げる文香を見て即座に銃をその場に捨て、追いかけてきた。
 激しい痛みが横腹と左腿に走る。だけど逃げなきゃ。目の前の視界が何故か狭まるが、そんな事は関係ない。逃げなきゃ。
 ――――坂を降りなければ集落。早く降りなければ――――しかしその時またあの激痛が増えた。足の速い依子はすぐに文香に近づいて、 ナイフを投げてきた。それが今度は右腕を掠めた。
 もう抑える事もままならない激痛が、足元を狂わせた。途端に目の前に映った坂道が回転した。文香の体は前転をするかのように転がっていく。地面に触れる 刺さった傷口が激しく痛みを訴える。が、すぐに回転は止まった。意識が朦朧とする中で、依子とは反対側の集落側から駆け寄ってくる誰かがいた。
 「だいじょうぶか!?」
 その声に聞き覚えがあったが意識がはっきりしない。しかしその誰かは依子の方に向かって何かを言っている。
 「永井!やめろ!撃つぞ!」
 咄嗟に誰かは依子に何かを向けている。きっと銃だろう。だとすれば味方・・・?私に味方なんていたんだ・・・。
 パン、と言う島中に響き渡る音がした。弾は地面に当たり、依子は脅えていた。「くそっ」と小さく依子は呟くと即座に向きを変えて、 坂から姿を消した。
 一体私の目の前にいるのは誰?文香は薄れる意識の中で目を見開いた。そこには最後に相応しいとも言えるかっこいい男子が立って坂の向こうを見ていた。
 「神・・・山くん・・・」
 力いっぱい声を出したが、凄く小さな声しか出なかった。しかしそれに気づいた克人はすぐに文香の体の上半身を持ち上げた。
 「真行寺さん・・・しっかりして!」
 神山君にせっかく会えたんだと思い、声を出そうと思った。けれどもやはり無理だった。掠れた声が精一杯だ。なにか、最後に言おう・・・。文香は 精一杯振り絞って言った。
 「私を・・・殺して・・・」
 その言葉に驚きを隠せない克人は、しっかりしろと叫ぶばかりだった。文香はもう喋る事は無理だろうと思った。何とかまだ息はしていた。
 「真行寺さん・・・」
 悲しそうな克人の目が、心で泣いてるんだと文香は感じ取れた。文香も私はもう無理。あなたの手で殺してと言わんばかりに、目で訴えた。
 「わかったよ・・・わかった・・・」
 決して相手の痛みが分かるわけでもないが、なんとなく克人は文香の気持ちが分かった。ゆっくり克人は立ち上がり、片手に持っていたダブルイーグルを、 ゆっくり文香に向けた。
 「あとで・・・行くから・・・」
 静かに克人が言った後、ぱんと言う大きな音が響き渡った。
 そこで文香の意識はぷっつり切れた。まるでテレビの様に・・・。しかし文香は意識が切れる寸前に一瞬だけ見たものがあった。
 綺麗な夜空と、文香を包み込むようにして輝く星達を・・・。

【残り24人】




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