第二部
中盤戦
34
輝く星の下で、男2人は運命とも言える対決を繰り広げていた。嘗てクラスメイトだった人間と・・・。
少しだけやるせない思いになった克人だが、それはさっきまでの話。今はそんな感情は捨てていた。
目の前の人間を殺るだけ・・・。
静か過ぎるこの神社で、ゆっくりと動く足音だけが響いていた。ジャリ、ジャリと冷たい音が耳に打ちつける。
克人はまず様子を伺おうとした。向こうの木山もこちらのスキを狙ってるようだが、急に木山の足が止まった。自然に克人の足も止まる。
途端に木山が右へ走り出した。そして走りながら克人を狙い、キングコブラ6インチを一発撃ってきた。その木山に逃げるようにして克人も右に走り出した。
勿論克人も、ダブルイーグルを木山に向けて撃っていた。
ドン!という爆発音にも似た銃声と、パン!という何かが弾けた銃声が響き渡った。お互い的は外れており、尚も走り続けた。
克人は全速力で石段を降りようとした。だが逆に走っていた木山の向きが突然変り、克人を追いかけてきた。
それに気がついた克人は、石段の丁度9段目の辺りで体制を立て直した。上からは木山がキングコブラの銃口をこちらに見下ろすように向けている。なんとも冷酷な目だ。
このままじゃ殺られると思った克人は、上にいる木山に向かってダブルイーグルを撃った。2発ほど撃った弾は木山の体擦れ擦れに当たり、木山は
左腕を掠めただけだった。それに驚いた木山は少し後ろに引いた。
今のうちの石段を下りようと思い、体制を立て直そうとした時だった。足のバランスが不意に崩れて、一度前転をしてゴロゴロと転がるように
全部で30段ぐらいある石段から落ちた。
一瞬にして克人の体は地面に落ち、捻挫だろうか、右の足が痛んだ。必死に足の痛みを堪え、手をついて立てろうとした時だった。ドン!と大きな銃声がして、
目の前にある一段目に火花が走った。
ヤバイ。必死で克人は立ち上がり、石段の上から狙ってくる木山の姿を捕らえ、握っていたダブルイーグルを撃ち放った。
しかし思ったより当たらず、弾は木山の足元に当たっただけだった。上と下では戦いにくいと思い、向きを変えて克人は走った。既に自分は追い込まれている事を
確信していた。それでも逃げる事を考えた。何か・・・何かチャンスがあるはずだ。
石段から大きく離れた克人は、後ろから追いかけてくる木山を見ず、木々の奥に見える集落を見つけた。
――――そこだ――――と思い必死で走ろうとしたときだった。ドン!というまた物凄い銃声が響いた。しかし今度は何か自分の体に激痛と
物凄い振動が走った事が分かった。
立っていることが急に出来なくなり、そのまま自分の意思とは反対にその場にどすんと倒れた。顔に土や草が当たるが、今はそんな事関係なかった。
背中が妙に熱くて痛い。これは紛れもなく背中に銃弾がめり込んでいる事が分かる。腕に力を入れ、顔を上げて後ろを確認した。やはりと言うのだろうか、
木山が走ってこっちに向かってくる。
とにかく時間稼ぎが必要だ。克人は仰向けになり両手で銃を持ち、仰向けの状態で銃口を、木山が走ってくる方向に向けてでたらめに撃った。
パンパンと止む事のない銃声。暴走するように克人の銃弾の殻は次々に落ちていく。一体自分でも何発撃ったか分からなかった。その間に死に物狂いで立とうとした。
その時も後ろが気になり、ダブルイーグルは木山の方向に撃ち続けたままだった。
何とか立てれた克人は足を前に前に進めた。撃ち続けていたダブルイーグルの銃弾も切れ、カチッカチッと言う音だけが響く。早く逃げなければ木山が
追ってくる。
足と背中に激痛を抱えつつ、何とか集落が近くに見える範囲まで来れた。不意に後ろを振り返ってみたが、木山は追って来てはいなかった。それを見て
克人は急いで一軒の家に駆け込んだ。
体は熱っぽく汗が大量に出る。家の玄関を入ったところですべての筋肉の力が抜けた。ばたんとその場に座り込むと持っていた荷物一式を降ろした。
それからデイパックから水を出し、ごくごくと大量に飲んだ。いや、ペットボトル一つ飲み干した。なぜそんなに喉が渇くのか分からなかった。
異常に体が欲しがっている。
激痛がする背中を触って確かめようとしたがやめた。無理に銃弾を手で出すよりは、病院に行ったほうが・・・。克人はにやっと独りでに笑った。
病院に行くには当分このままでいなきゃだめだな・・・。
だが笑ってもいられなかった。息がはぁはぁと切れている。それに背中が熱かったのが、体全体を含めて異常に寒い。汗も惹いていて突然体ががくがくと
震え始めた。
冗談じゃねえと苦笑いを浮かべながら、「冗談じゃねえ」と何度も言っている自分に驚いた。既に自分の中でもう一人誰かがいる!?
一体もう一人の自分は何をしたいんだ!神山克人は一体何をしたいんだ。自分自身に問いただしたところで何の答えも返ってこなかった。ただ今はこれから
もう一人の自分が何を仕出かすのか怖かった。
脳を揺するように頭を振り、自分の意思をはっきりさせた。とにかく今は木山を仕留めなくてはだめだ。あいつは生きていてはいけない。あいつだけは
優勝なんかさせない。だめなんだ・・・あいつが優勝するって事は。俺にはわかる・・・。他人として・・・友達として。
あいつと・・・木山と出会ったのは中学1年の春だった・・・。入学初日上級生をボコボコにしたという噂がきっかけで木山と言う人物の名前は広まった。
克人としてはあまり好きじゃなかった。しかし嫌いでもなかった。ああ、この学校にも不良がいるのか、そんな感じに木山を見ていた。だが部活が始まり、
克人と同じバスケ部に入っていた木山には驚いた。内心あまり木山とはバスケをやりたくなかった。勘違いするな、ここは不良がバスケをする漫画の世界じゃない。
しかし試合をしてみて思った異常に木山は強かった。小学3年からやってる克人でさえ木山をガードできなかった。
ある日バスケ部の友達が木山に話し掛けた事がある。木山は口数が極端に少ないが冷静に話していた。後で聞いてみると、木山もバスケは小学3年生の頃から
やっていたらしい。
そのうちに同じチームになったときに、バスケットをやってるときだけは木山と息が合った。驚くほどにピッタリだった。
それからだった。普段から木山と付き合うようになったのは。
2年の夏の放課後、屋上に3年生4人に克人は絡まれた事があった。2年でも木山とクラスは同じだったが、自分は木山異常に喧嘩は強いと思っていた。
克人も入学初日に他校の第三中学校の生徒と喧嘩をした。1対3で負傷した所はたくさんあったが、一人病院行きであとの2人は気絶させて勝ったのだ。この時
克人は喧嘩は暴走ではなく、相手の拳や蹴りをまず受ける事が大切だと学んだ。
中学3年だけあって、背が高い奴らばかりだったが、克人は怯むことなく喧嘩を買った。しかしここで克人は大きなミスを犯してしまった。喧嘩は
まず相手の攻撃を受けることが大切だと3年生の蹴りを喰らった時に、今までにない衝撃と激痛を感じた。いくら2年と3年でも、力の差は多少ある。
ガードして受けたつもりの攻撃が帰って致命傷となってしまった。
激痛で力が入らず、まんまと3年に袋叩きにされた。
ぼこぼこにされた克人は意識が遠退きかけていた。3年生は「へっ、弱えーな、お前」と口々に罵声を浴びせらていたそんな時だった。屋上の扉が
開いた。そこには冷静な眼つきから冷酷な眼つきに変っていた木山がいた。
瞬きをする暇なく木山は3年生に駆け寄ってくる。何をするかと見ていれば突然3年の前で土下座し始めた。そして一言、「許してやってください」。
勿論3年は相手が木山と言うのを知っており、土下座された事に喜んでいた。が、そんな事は一瞬の事。へらへらと喜び木山に近づいた一人の3年
が、急に叫びだした。
その声に目を見開いた克人は凄い光景を見た。一瞬の内に、木山は映画の主役のようにナイフの刃を自分に向けるように持って、3年生に切りかかっていた。その腕は素早く
一気に4人の男の悲鳴が聞こえた。
蹲る一人の男は手首から血が出ており、あとの3人は顔や足、それから手のひらに傷を負っていた。一瞬にして片付いた・・・。
木山はフィニッシュの様にナイフを立て、蹲ってる男の左腿に思いっきり刺した。ぐさっと刺さるその音は克人に震えを与えた。
そのままナイフを抜き、また男が叫んだ。木山は冷酷な目で倒れている克人を見下ろすと、「大丈夫か・・・神山」と手を差し伸ばしてくれた。
後日から3年が襲ってくる事はなく、木山を3年は恐れた。しかし木山も命令なんて物は一切しなかった。本当に静かな中学校になっていた。
そう、木山は自分から仕掛けることは一度もなかった・・・。
2年の終わりに克人と木山がいるバスケ部は四国大会で優勝した。息のあったプレーから女子達の間で克人と木山はエースコンビにされた。
キャプテンは2人共違っていたが、女子からの人気は絶大だった(特に克人)。
バレー部でも天才アタッカーの本城と天才レシーバーの影野は有名だったが、克人と木山にもその名前が付けられた。"スピードスター"と克人は付けられ、
木山は"パワースター"と名付けられた。
それが何だと思っていた矢先から木山はバスケ部に来なくなった。それから何をやっているのかと思うと木山の下には何人もの部下が出来ていた。
3年になっても木山はバスケ部には来なく、木山を慕ってる男子は虐めや他校に喧嘩を売りに行っていた。なにか克人には大切な人がどこか遠くに行った
ような気分がした。
ため息を吐いた時だった。遠くから誰かが歩いてくる足音が聞こえた。一瞬にして克人は緊張した。急いで弾切れのダブルイーグルにデイパックから弾を取り出し、
詰めていた時だった。何故だろう。弾を詰めていた手は止まった。丁度3発目が詰め終わっていた。
意識ははっきりしていた。ベルトにダブルイーグルを挟み、ボタンを外して制服を脱いだ。どざっと地面に捨てると荷物一式と制服を脱いだ事で、
克人は体が物凄く軽くなった気がした。そして足音がするほうへ向かっていく。向こうに誰がいるのか既に分かっていた・・・。
【残り24人】