BATTLE ROYALE 外伝

第二部
中盤戦



35

 人生というのは長く短いものだと克人は感じていた。何時何処で誰が何をしているのかなんてわからないし知ろうとも思わない。
 玄関を出た向かいには一軒の家があり、その横から並ぶ様にしてずらずらと家があった。どれも克人には関係ない風景。
 しかしこっちに向かってくる一人の男だけは関係があった。本当の友達ではなかったが、人生の中で気が合う友達とは木山しかいなかった。これまで会った 友達は友達。けれど木山は友達と言うよりも寧ろ兄弟だったかもしれない。時として気持ちが分かり合えた兄弟・・・。
 ワイシャツ姿の克人は何故か無表情だった。しかしその顔には決意と言う文字が見える。
 片手にキングコブラを持った木山はやはり冷酷な目をしているが、克人に銃を向けようとはしなかった。静かな時が流れる中、お互いは向き合って 立ち止まった。
 「木山・・・まったくお前って奴は・・・」
 吹っ切れたように克人は微笑み、セミロングの髪が風で少し揺れた。
 「・・・・」
 そっと何かに気づいた感じで、木山はその場にキングコブラを置いた。これでお互い"素手"になった時だった。
 「いくぞ・・・木山!」
 「・・・ああ」
 2人はまるで闘牛のように目の前に突進した。あっという間にお互いの距離は縮まり、お互いの間が30cmぐらいの所まで来ていた。
 先制攻撃をかけた克人は、思いっきり握りしめた拳を木山の頬にぶつけた。だが途端に木山の拳が顔面に降りかかってきた。
 「ぐっ」
 思わず力を入れていた拳が木山の頬から離れた。克人は痛む顔面を片手で押さえ、もう片手は地面につけて倒れそうになる体を支えた。喰らったのは 顔面は顔面でも特に鼻をやられているらしく、じんじんとしていて鼻を触っても感触が全く無かった。確実に折れたと思った。
 目の前を見ると木山の蹴りがうまい事克人の側頭部にヒットしようとしていた。しかし避ける事は100%不可能だった。筋肉と脂肪の重さと、風速が 交じり合って出来た重い蹴りを喰らい、急激な痛みがすぐに脳みそ全体に響いた。
 「がっ」と口から出た言葉も聞こえず、ただ真横に体が吹っ飛んだ。鼻にきていた激痛は側頭部に移り、目の前がぐらぐらと揺れていた。
 すぐに立ち上がろうと両手を力いっぱい地面につけて反動させた。おかげで足に力が入りゆらゆらと立てることが出来たが、それもつかの間、 木山の猛攻撃が繰り出された。
 顔面を真正面から殴ろうとジャブ、ジャブ、ストレートと繰り出されるが、今度はそう簡単にやられる訳にいかない。克人はまるでボクシングのように両手で ガードして攻撃を塞いだ。
 ジャブ、ジャブ、ストレート、ストレート、ジャブと、一向に克人にスキを与えることなく木山の重く速いパンチが両腕に当たる。――――これじゃあ 腕が持たない――――そう思った時だった。
 木山のパンチが一瞬止み、今だと思った直後、今度は下から素早い蹴りが克人の腹にヒットした。急所に当たった様で口から唾液が出た。
 本当は倒れる所だが、克人は腹に力を入れ、何とか倒れるのは防ぎ、速い後ずさりをするように後ろに下がる。ちくしょう。
 口からでる唾液に薄っすら血が混じっているのに気がつき、克人はプッチン切れた。額から流れ落ちる汗と既に息切れしている(タバコの吸いすぎ)木山を見てチャンスと思った。
 思ったとおり木山は攻撃を止めず、走って攻撃を仕掛けてくる。しかし克人にとってこれは最大のチャンスだった。
 木山の思いっきりという蹴りが頭部に飛んできた時だった。一瞬目を見開き身体全体をしゃがませ木山の蹴りを避け、次に足の力を利用して、下から飛ぶように 木山のアゴに思いっきりのストレートを喰らわした。
 がくっと体をぐらつかせ、木山は自分の意思とは反対にそのままバタンと仰向けに倒れた。やったという思いは克人には無く、そのまま倒れてる木山に 馬乗りになり両手でいっぱいに、まるで小さい子供の喧嘩のようにひたすら殴った。殴る鈍い音だけが静かな集落に響いていた。
 自分の腕が麻痺してきた時、ただ木山は殴られれば殴った方向に顔を向けていたことに異変を感じた。――――しまった!――――そこで克人は気がついた。殴られる方に自分から 向いているように見えたのだ。
 その予感は的中していた。途端に木山の腕が克人のワイシャツを掴み、そのまますごい力で目の前に投げられた。まるで格闘技の選手のように力が強かった。
 投げた克人に見向きもせず、そのまま手をついて立ち上がった。殴られる方向に自分から向いていた木山は擦り傷程度で、なんとも無い顔をしている。
 お尻を地面につけて座っている克人は無意識状態から開放され、思いっきり痛い頭痛と背中、足、腕、拳、腹、鼻の痛みが響く。耐えられないぐらい痛い。思わず一番痛い頭を抑え、 痛みを押えようとしたが目の前には既に木山の蹴りがあった・・・と思ったが、木山は足に手をかけて必死で立てろうとしている。アゴに思いっきりストレート パンチを喰らっているのでそうなって当然だった。たとえ木山と言う喧嘩の鬼でも。
 だが、克人の考えは数秒で破られた。2,3回頭を左右に振ると、木山は正常に立っていた。いつもの冷酷な目をした木山を見た克人は全身に鳥肌が立った。――――殺される!――――
 まるで自分は怪物と戦っているのか!?おかしい。人間じゃない・・・。既に頭痛は止んでおり、体中が麻痺していた。ラストチャンスとして、 木山が攻撃を仕掛ける前に克人は木山に向かって突進していった。
 突進した克人の体は木山に当たり、木山はまるで別人のように呆気なく後ろに吹っ飛んだ。そのことに少々戸惑った。それに少し喜びがあったがそれも すぐに終わった。吹っ飛んだ木山を見て驚いた。
 木山の倒れている右手の側には素手で戦う前に置いたキングコブラがあった。まさかこれも計算通りなのか!腹立った気持ちと同時に克人はベルトに挟んであった ダブルイーグルを取った。
 バン!と言う大きな銃声に驚いたのは克人だった。木山の方が撃つのが早かった。
 麻痺していた体も何かしらの衝撃は感じていた。ゆっくり衝撃が あった足元を見ようとしたが、すぐにがくんと体の自由が利かなくなった。
 睡魔が襲ったのではなく、倒れた克人は右の脛がぐちゃぐちゃになっている足を見た。な、なんだこれ!?
 右脛は銃弾で肉が裂けていて、そこからはもう膚色のものは見えず、ピンク色の肉と濁った赤い血だけがあった。時折血管のような細い管がぴゅるぴゅると動いている。 しかしなぜだか痛みはなかった。いきなり喉から出そうになった酸っぱい液体をぐっと堪えた。
 それが最後の抵抗だった。木山は銃を向けながら近づいてくる。
 「木山・・・」
 必死に声を出したのもつかの間、木山の銃は火を噴いた。途端に自分の額に黒い穴が開いた。ドスッと言う不思議な音はたちまち訳のわからない雑音に変った。
 自分の額から流れ落ちる温かい液体が妙に気持ち悪かった。それに目の前にいた木山も笑っていた。それを見たのは初めてだった・・・。


 春は出逢いと別れがあり、新しい何かがどんな人間にもやって来る。いつもと変らない家を出て、いつもと変らない学校に行く。それもすべて 将来の為だった。どうして学校に行かなきゃ行けないの?と父に聞けば将来の為だと言い、なぜ人を殺してはいけないのですか?とあるクラスメイトが冗談半分で聞くと、先生は 黙り込み、そのうち訳のわからない事を長く喋る。不自然。それが俺にとって最大の悩みだった。
 人間がどうやって誕生して、どうしてここに俺がいるのかなんて知らなくていい。今はなぜこの世は不自然なのかというのが悩みだった。
 いつもの部活は退屈な勉強と違って楽しかった。自分がもっとも輝ける場所だったから。
 バスケをしている俺を見て女子はきゃーきゃー喚くが、俺はそれが嫌ではなかった。悪くない。そんな感じだ。好きなスポーツをただやっているだけで そんなに喜ばれるのだったらもっとバスケを頑張ろうと思うからだ。
 家路に着くとまたいつもと変わらない街の風景が見える。自動車は相変わらず耳障りな音を出して走っている。すべて、すべていつもと 変らない場所、風景だった。
 死ぬのが怖いなんて幾度となく思ったことがあった。死のうと思ったことは幾度となくあった。どれも本気で生きてきた証だ。
 俺は今までの道。今までの運命を自分で変えられはしなかった。俺は神山克人だ。善通寺第四中学の神山克人は2人も同じ人間はいない。俺は俺の意思ですべて の事を決める。だれも・・・だれも決めさせはしない。

 そっと目が開いた。目の前の物を見て克人は驚いた。
 ――――ここは・・・家?集落のところに戻ってる!?――――
 先ほどは木山と戦って自分は死んだはずだ。なのに何故だ。
 不意に自分の体を見た。――――制服を着ている。それに傷という傷は見当たらない・・・まさか・・・・・・夢!?――――
 どこから夢で何処から現実なのかさっぱりわからなかった。でも、今を生きている事は夢であろうと関係がない。
 家の外からは誰かが近づいてくる足音が聞こた。それが木山だとわかったのは何故だったのだろう。
 自分の意思ですべてを決める・・・。克人は持っていたダブルイーグルに弾が詰めてある事を確認すると、そっと銃口をこめかみに押し付けた。
 「もう、始めから決着はついていたんだよな・・・木山」
 震えた声で独り言を言った後に思った。
 木山は気が合う仲間じゃない。親友だ。木山・・・優勝・・・してくれ。
 そう思った後に克人はこめかみに突きつけていたダブルイーグルの引き金をゆっくり引いた。
 そして集落全体にぱんと言う銃声が響いた。まるで静かな闇に一つの光が差し込むように、静かな闇を銃声が引き裂いた。
 ――――俺自身が望んだもの、それは死ぬ勇気――――

【残り23人】



第二部 中盤戦

   了

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