
第三部
終盤戦(ザッピング)
36(あの時の出来事・敬二と祥子の死)
一が食料を調達に行ってから、敬二はジグ・ザウエルP2309oを持って洞窟の外に出た。
外は太陽の日差しが煌びやかに敬二を照らし、手を顔の所に当てて空を見上げた。
外の様子はいつもと変らず、木々がたくさんある。いわばここは隠れ家でもあり、敵に見つかればこっちからじゃ見つけにくいと言う
不利な事もある。しかしここの洞窟を見つけるには一苦労いるだろう。なんたって木々や草が絡みついて遠くからでは一見なにがあるのか分からない。
後ろを振り返り、敬二は祥子を見た。奥では祥子がガスコンロの調子を見ている。そして敬二が見ているに気づいたらしく、祥子も敬二を見た。
お互いなぜかドキドキしたが、まるで2人だけの生活のようだ。
もしもこれがプログラムではなく、普通のキャンプだったらどんなに楽しいだろうか。いや、楽しすぎて嫌になるかもしれない。
敬二はまた外を見ると、今度はどこか遠くを見つめた。こんなに今が楽しいのは、俺がこの状況でのスリルを味わっている?なんてこった・・・
おかしくなってきてやがる。
空は青い。普通に青い。本当に何十億人の人間がこの空を見てるのだろうか?母さんや父さん、それに妹。今・・・なにしてるかな。
敬二はまた祥子の方へ振り返ると、側まで歩み寄った。しかしなぜか祥子は驚いた顔をしていた。
「どうしたんだよ。きちゃだめなのか?」
徐々に祥子は震え出した。そしてポケットに入れていた祥子の支給武器のトカレフまでもを敬二に向けてきた。
「おい、何の真似だ?」
一瞬の出来事で分からなかったが、いきなり敬二の後ろで大きな銃声がした。
ドンとなった銃声は、敬二の背中を強く激痛を走らせた。石ころで躓き転ぶように敬二はその場に倒れた。
それと同時に祥子のトカレフが火を噴いた。パンパンパンと、3回ともバラバラの方向に弾が飛んだ。
これぐらい・・・。敬二はすぐに態勢をうつ伏せから仰向けに立て直し、握っていたジグ・ザウエルP2309oの引き金を2度引いた。
「ドンドン」と、敵の姿を確認しないまま撃った為に、弾は2発とも外れていた。
「木山ー!」
見るとそこには木山がキングコブラを向けて立っている。まるで自分は撃たれても怖くないと言うように、堂々としている。あの眼つきは
敬二でさえ震え上がった。
「ちくしょう!」
ジグ・ザウエルの引き金をもう一度引こうと思ったときに、木山は入り口に何かを投げて逃げた。
すぐに追おうとしたが木山の投げたものは、敬二が確認できる範囲にあった。
――――手榴弾!!――――
咄嗟に今だ入り口に何があるのか分からなかった。いや分かっていたが、本当に手榴弾なのか?という事と、手榴弾が投げられたと言う事に戸惑い、
その場で一瞬動けなかった。
「敬二!」
泣きそうな祥子の声に一瞬にして頭がフル回転して、状況が読み込めた。同時に
敬二は背中に負った銃弾の痛みなどほとんど感じていなかった。
――――やばい!あぶない!――――
「奥へ逃げろ!」
祥子の体を掴むと、急いで洞窟の奥へ敬二は走った。その時に一の事も気になり、「一!逃げろ!」と精一杯の大声で
人工トンネルの方へ叫んだ。
それが最後だった。大きなカメラに撮られるように、後ろから一瞬にして光の世界に包まれた。
「ドォォォン」と言う爆音と共に、後ろから物凄い衝撃とスピードが敬二を押した。
それ以上に驚いたのは、祥子が自分の手を握っていた事だった。驚きと祥子が握ってくれた手の暖かさに敬二は嬉しかった・・・。
やがて洞窟が崩れる音がして、幾つもの岩石が祥子と敬二に降りかかった。「ぐはっ」と腹に突き刺さるような衝撃が、敬二の口から血を吐き出させた。
手を握ってくれていた祥子の手は既に冷たかった。真っ暗で何も見えない中、ひたすら敬二は祥子の名を呼んだ。
「しょ・・・祥子・・・祥・・・子・・・祥子・・・」
しかし反応は0。
そのとき銃声が聞こえ、「き、木山!」と驚く一の声を聞いた。プライドが高い敬二はこんな惨めな所を見せたくはなかったが、
気づくと一に助けを呼ぼうと必死だった。
銃声が止み、一と思える人間が何かを探している。きっと岩を除けて探してくれている。そう思った敬二は叫んだ。しかし叫ぶどころか声さえでない。
いくら叫んでも声が出ない。このままじゃ祥子が・・・祥子が死んでしまう。じわじわと溢れる涙は次第にぽろぽろと流れた。
泣きながら敬二は一に助けを呼ぼうとしたがやはり声が出ない。なんとか・・・なんとか祥子だけはと思った敬二の思考が薄れてきた。
その時、暗い暗い闇に自分が落ちていく姿が見えた。心の中で叫んだのか、声にやっと出て叫んだのか定かではないが、
「すまん・・・一・・・俺もうだめだ。お前と会えて、俺は悔いなく死ねる・・・。ありがとう」と叫んだ。
次の瞬間、夕日が差し込む放課後の教室に敬二はいた。隣には祥子がいて、他のクラスメイトは誰もいない。
「祥子・・・生きてたのか?俺達・・・。そう、そうだ!一に助けを呼ばなきゃ」
祥子はそっとやさしい目で敬二に軽いキスをした。妙にシチュエーションがあっていた。
「敬二・・・もういいんだよ」
初め祥子がなに言ってるのか分からなかった。こんな状況でなぜ俺は学校の教室にいるんだ?夢なら早く覚めてくれ。
「祥子!なに言ってるんだ?一に助けを求めなきゃ死んでし・・・」
自分の言った言葉で、状況が読めた。まさか・・・。
やさしい目で祥子は頷いた。
「私の方がすこし早かったけどね・・・ここに来るの」
「俺達は・・・死んだのか・・・。まさか・・・」
「良かったのかもしれない。一人にしてきた本城君には悪いけど、私達は死んでよかったのかも知れない・・・」
「そうかも・・・知れないな・・・。たとえ生き残っても祥子と戦わなきゃいけない・・・」
2人で自殺するよりも、必死に生きて死んだ方が敬二には良かったと思った。一度か二度、自殺しようと考えたけど、松笠や一にあって自分は
変れた・・・。
敬二は窓から校庭を覗いた。祥子も同じ様に敬二と同じ窓に覗いた。窓から見える校庭はいつもと変らず、いつもの街が目に映る。
「まるでいままでのプログラムが嘘みたい」
「ああ、そうだな」
2人は微笑むと、強く抱きしめ合った。温かい。そして祥子という存在が敬二には良かった。
このままずっと抱きしめ合っていたいと思った時、「お二人さん、お熱いのはいいけどね〜、もう下校時間とっくに過ぎてるぞ」と言う声が
教室のドアの近くでした。
驚いて2人は離れ、ドアの側を見た。するとそこにいつもと変らない笑顔の関優司、通称ゆーじ先生がいた。
「まあいいけど・・・6時までには帰れよ。ああ、あとこの教室の戸締りはきちんとな。いいな?」
「は、はい」
「はい」
戸惑う2人の返事を聞くと、ゆーじ先生は笑顔で教室を出て行った。その廊下で、ゆーじ先生が「おいコラ!村瀬!お前早く帰れ!」とふざけ半分で
怒っている。その廊下からも、「お前こそ帰れ!ゆーじ!」と村瀬淳也がはしゃいでいる。
次第にゆーじ先生と淳也の声と足音が遠ざかっていくのを2人は聞き、いつもの通りだと改めて思った。
敬二は一度ため息を吐き、真っ赤な夕日を見ながら祥子の肩に手を伸ばした。まさに敬二は今が幸せだった。同じく祥子も敬二と同じ気持ちだっただろう・・・。
「全部夢だったんだな・・・」
「そうだね・・・」
「明日学校だったよな」
「あっ、そうだ。宿題しなきゃ」
「明日みんなに今日の夢の事言ってやろうか?阿藤はゲーム開始前に死んでしまったって・・・」
「阿藤君怒りそう」
「フッ、だろうな」
しかし敬二は分かっていた。プログラムは夢なんかではない。ただ、今だけはこうやって夢だと気付かない
振りをしている。だが信じたい。これが現実で、あのプログラムは夢なんだと・・・。
2人はクスクスと笑った。いつもと変らない教室と、いつもと変らないお互いの気持ちで・・・。
――――俺は願ってる。心から願っている。一、お前が優勝してくれることを――――
【野ノ久敬二・河北祥子死亡】