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BATTLE ROYALE 外伝

第三部
終盤戦



37

 小さな窓からは、朝日と言う光が真司に差し込んでいた。気がつけば既に朝。
 ふと腕時計に目をやった。――――9時半――――朝とはいえもう昼近い。何時間ぐらい俺はこのコンピューターと向き合っていたんだろう。
 その場から席を立ち、匠や昌二がいる1階へと足を運んだ。昨日から夢中でクラック作業に必要なプログラムを組んでいたためか、徹夜はやはりきつい。
 二人が見張りをしてくれている事にすっかり忘れていた真司は、少し反省した。
 「匠?昌二?」
 階段を下りると昨日と同じ様に、農作業に必要な大きな機械が数台あり、その少し進んだコンクリート 地面の入り口付近には、匠が一人立っていた。
 「匠・・・」
 匠は真司に気づいたらしく、目を擦りながら真司の顔を見て「おう」と一言言っただけだった。随分と疲れているように見える。
 まさか匠も俺と同じで徹夜で見張りを・・・?
 「昨日寝てないのか?」
 匠は欠伸をしながら答えた。
 「あ?いいや寝たよ。まあ寝たって言っても仮眠程度だけどな・・・」
 「ふうん。そう言えば昌二は?」
 「昌二ならそこの軽トラの中でぐっすり寝てるよ」
 匠が指差した先の、白い軽トラの助手席で、グーグー寝ている昌二の姿があった。なぜか手にはきちんと銃を握っている。
 「もしかして交代で見張りをしててくれたのか?」
 「まあな。夜中の2時ぐらいから昌二が完全に爆睡しやがって、俺がそのあとはずっと見張っていたよ」
 2時からというと、8時間ぐらい警戒して見張っていてくれていたのか。そう思うと、真司は仮眠を取るわけにはいかない。 早くクラックに成功してみんなを助けなければと 思った。
 「そう言えば見張りはここだけで大丈夫なのか?まだ入り口とか・・・」
 「ああ、その事なら見張りを始める前にここら辺の事をちゃんと見たよ。結果、農協の入り口はここしかなかった」
 「匠、お前も少し寝ててもいいぞ。俺がその間ここを見張っとくから」
 感謝の気持ちと、真司の良心から体の無理を押しのけて言ったはずだったが、匠は逆に怒った。
 「ばかやろう。お前がここ見張ったら誰がハッキングするんだよ。俺達はお前のハッキングのために見張りをしてるんだ。そんなこと言う暇があったら 早くハッキング作業しろ!もたもたしてると殺る気の人間が来るぞ!」
 怒ってるようにも見えたがやはり疲れている顔丸出しだ。よほど規則正しい生活をしてるのかと思ったが、朝練が早い野球部の匠にとっては 夜更かしは野球の敵とも言えるのだった。睡眠と規則がスポーツをやる人間にはかなり大切な事だと、真司自身がよく分かっていた。
 「すまんな・・・もう少しで出来るんだ。あと五分ぐらいで・・・」
 「五分?それじゃあ早くしてくれ・・・。俺も結構きている・・・」
 とうとう本音を吐いた匠はもう一度吸い込まれそうな欠伸をした。その時だった。
 ざっざっと草木を踏みながら歩いてくる足音が聞こえた。咄嗟に匠は音のする方へ南部14式リボルバーを向けた。
 真司も同じくコルトガバメント45口径を出そうとしたが、ここであることに気がついた。――――置いてきた――――銃は2階の事務室に置いてきてしまったのだ。
 どうしようか考えた結果、急いで白い軽トラに走った。そしてドアをそっと開け、寝ている昌二に少しの間銃を借りようとして、昌二のセンチメーターマスター をもぎ取ろうとした時、「あれ?真司?ハッキングは?」と昌二は起きてしまった。
 真司は必死で静かにするように人差し指を口元に持っていきそれを示した。
 後ろではがさがさとその足音はこちらに近づいている。誰だ・・・。一体誰が来るんだ。
 「撃たないでくれ」
 突然草むらから声だけがこちらに聞こえてきた。聞いた感じ男子だ。それにどこか特徴がある。
 「誰だ?」
 真司が軽トラから降りると、匠が真剣な目つきで姿見えない人間に向かって言った。後ろから昌二も何事かと、目を擦りながら軽トラから降りてきた。
 匠の言葉にすぐ反応して、姿見えない男子は言った。
 「俺は武藤だ。信じてくれ。伊藤に渡すものがあって来たんだ」
 「武藤・・・!俺に渡すもの?」
 渡すもの?こんな時にラブレターか?私はホモでしたってか?しかしどう聞いてもおかしかった。一体自分に渡すものなんてなんだ。 武藤とは部活が同じだけあって付き合いが長いし、友達としても仲がいい。しかし、このゲームが始まってからも一度も会っていない。 友人なのは分かっていたが、なぜかすごい疑ってしまう自分がそこにはいた。
 「渡すものだと?てめえふざけんじゃねえぞ。そうやって俺達を殺そうとしているのは知ってるんだ。とっとと失せろ!さもないと撃つぞ!」
 少々荒っぽい叫びで匠は尚も南部14式リボルバーを兼光が隠れている草むらへ向けた。
 慌てたように兼光は声を張り上げた。
 「影野の頼みで来たんだよ!」
 「影野?・・・よし、武藤、とにかく渡したいものとは何だ?」
 匠が更に警戒心を抱く中、真司はそっと姿が見えない武藤に近寄った。
 「真司!近寄ったらあぶないぞ」
 「俺は信じるよ武藤。それに影野はやる気じゃない。それに罠だとしても影野に会ってるんだから武藤もやる気ではないって事だろう」
 心の中では正直怖かった。本当に近づいていいのか?友達は安全?しかもなぜ影野の頼みなのに、影野本人ではなく武藤が来るのか? いや、もしかしたら影野を殺してここにやってきたかもしれない。 しかし今は信じるしかない。それしか手段はないのだ。
 真司は武藤の姿を確認できる範囲まで近寄っていた。後ろでは匠がずっと南部14式リボルバーを構えている。
 「武藤・・・」
 ドキドキしながら真司は兼光の顔を何とか確認しようとした。匠と昌二は見えないが、真司からの距離だと兼光の顔と制服の一部分が見えた。 見た限りでは武器も持っていないようだ。
 「おい匠、昌二、武藤はやる気ではない。撃つな」
 真司は後ろを向いて2人に早口で言うと、兼光は草むらの中から姿を現した。両手には何も持ってなく、ただ単にデイパックを肩に提げているだけだ。
 匠は銃を降ろし、兼光に近寄った。それを見て昌二も興味有り気に近寄る。
 「信じてくれてありがとう。時間が無いから早めに事を話す」
 兼光は真司にしゃべりながらデイパックの中を漁っている。額には大量の汗が噴出している。きっと走ってここまで来たのだろうと真司は直感した。
 「お前走ってきたのか?」
 「え?ああ、まあな」
 何かを探すように兼光はデイパックの中をゴソゴソとやっている。中に色々な物が入っているのだろう。
 「一体影野は今何処にいるんだ?」
 真司が聞いたその時、兼光は何かをデイパックの中で見つけ、それを真司に渡した。一瞬取り出すのがまさか拳銃じゃないかと少しは疑ってしまった。
 「これ・・・。これを頼まれたんだ」
 「・・・トランシーバー?」
 そこに見たの物は、プラスチック製のボタンがいくつかあるトランシーバー1個だった。それを見てすぐに真司は分かった。まさか・・・これで通信する気か? 影野としゃべるという事か?
 「その赤いボタンが電源だ。それを押してみてくれ・・・」
 兼光の言ったとおり真司はトランシーバーの赤いボタンを押した。すると突然警告音のような音が一瞬したが、すぐに止んだ。
 「使い方知ってるか?」
 「まあな、大体」
 真司は独自の判断でトランシーバーの構造を頭に浮かべた。すべて正確ではないが、こんなものは朝飯前だ。
 トランシーバーの右端に一つのデコボコがあり、真司はそこを押して話すのだと思った。しかし肝心のこのトランシーバーで何をするのか聞いてなかったが、 それはすぐに分かった。
 「ガチャ・・・こえるか・・・ガチャ」
 突然トランシーバーから人の声が聞こえてきた。何を言ってるのか分からなかったが、一応デコボコを押して応答した。
 「こちら伊藤。誰だ?・・・ガチャ」
 匠や昌二は勿論、兼光もトランシーバーに耳を傾ける。
 すると数十秒経った時に、向こうから応答の声が返ってきた。
 「・・・伊藤か!俺だ、影野だ。武藤はちゃんとそこに着いたようだな・・・場所も合ってるし良かった・・・どうぞ・・・ガチャ」
 やはり影野か・・・。少し信頼できるクラスメイトと話が出来て真司、匠、昌二も嬉しかった。
 「影野・・・一体何の真似だ?トランシーバーなんか・・・どうぞ・・・ガチャ」
 「・・・ああ、それよりもハッキングは進んでいるか?というよりもクラックか?・・・どうぞ・・・ガチャ」
 「ん?まあな。修学旅行の荷物と一緒にそう言えばウイルスが入ったDISCを持っていたのを思い出して、意外と簡単に出来た。まあ完全に 出来たわけじゃないけど出来たようなもんだ。後はあの廃校に転送してやるだけだ・・・どうぞ・・・ガチャ」
 「・・・そうか。よかった・・・。これを武藤に届けさせたのは、俺も一応脱出の手立てを考えてるんだ。その方法を今からでも実行出来そうなんだ・・・ どうぞ・・・ガチャ」
 「なるほど・・そう言うことか。一緒にした方がより強力に鬼月達を痛い目に合わせれると言う事か・・・どうぞ・・・ガチャ」
 「・・・まあな。そうだ。そこに武藤はいるか?いたならすまないがすぐに帰ってきてくれと言ってくれ・・・どうぞ・・・ガチャ」
 それを聞くと、真司よりも先に兼光が反応して急ぐように草むらに走って行った。その際に手を上げて3人にさよならを言うようにして去って行った。
 「影野・・・武藤は帰って行ったぞ・・・。お前、武藤がもしかしたらここに来る前に殺る気の奴に見つかって、戦闘にでもなったらどうしてたんだ?・・・どうぞ・・・ガチャ」
 「・・・それは俺も考えた。武藤には感謝している。あいつは足も速いし、数倍俺よりも体力はある。それを見込んで頼んだんだ。実際一応俺の武器を持たしてある ・・・どうぞ・・・ガチャ」
 「そうか。そう言えばお前今何処にいるんだ?・・・どうぞ・・・ガチャ」
 「・・・俺は今雑貨屋にいる。武藤と天美と行動を共にしている・・・どうぞ・・・ガチャ」
 「天美・・・神楽か?見つかったのか?・・・どうぞ・・・ガチャ」
 「・・・おかげさまでな。ところであまり重要なことをしゃべれないがいいな・・・この意味わかるだろ?・・・どうぞ・・・ガチャ」
 なるほどと言うように分かった。全くもって樹とは気が合いそうだとこのとき真司は思った。つまりは盗聴されているから樹は 脱出方法の内容は秘密だと言っているのだ。何と言う事だ。自分は既に言ってしまっているからどうしようもない・・・。
 「そうだ影野。無駄な事ならたくさんある。少しだけ匠や昌二と代わる・・・どうぞ・・・ガチャ」
 「・・・ああ・・・どうぞ・・・ガチャ」
 真司はトランシーバーをまず匠に渡した。匠はなにやら照れている。トランシーバーを使うのは初めてのようだ。
 数秒たわいのない話をすると匠は横にいた昌二に代わったが、話し相手は樹から一緒に行動を共にしている天美と話していた。実際女性の声は今の 状況癒しになった。戦場の天女とも言える。
 昌二もたわいのない事を話すと真司にトランシーバーを渡した。本当は天美と少し話したかったがそのときは既に樹に代わっていた。
 「・・・脱出方法の事になるが、時間を決めよう。伊藤がウイルスを完全に送る時間を予想して、決めた時間よりもお前が考えて数分早く実行くれ ・・・どうぞ・・・ガチャ」
 「時間・・・それは声に出してしゃべることか?・・・どうぞ・・・ガチャ」
 「・・・現在時刻10時42分だ。そうか・・・そのことを忘れていた・・・だったら、凡そだがあと数時間はそこにいてハッキングをするのを待ってくれないか・・・ どうぞ・・・ガチャ」
 時間のことは樹の頭の中で計算しているらしい。だが時間を決めないで、どうやって同時に実行するのだろう・・・何か合図があるのだろうか・・・。
 「まあそれでも俺はいいが、時間が合わないと同時には出来ないぞ・・・どうぞ・・・ガチャ」
 「・・・ああ、合図がある。とっておきのな。うまくいけばだが数時間後に空に花火が浮かぶはずだ。それが合図でどうだ・・・どうぞ・・・ガチャ」
 なるほど・・・花火ときたか。空というのだったら花火はロケット花火になるか・・・雑貨屋だからそれはあるだろう。
 「OKだ。どうぞ・・・ガチャ」
 「・・・よし・・・俺の方は電源をONにずっとしているから、話があるときは普通に話し掛けてくれればいい。いいな。それじゃあ 必ず脱出しよう・・・どうぞ・・・ガチャ」
 「ああ・・・」
 そう言うと真司はトランシーバーの電源をOFF(赤いボタンを押した)にした。いよいよハッキング開始が来たか・・・数時間後に花火・・・。
 すべて聞いていた匠と昌二はいよいよかという顔をして真司を見ていた。
 「真司!もうすぐだね」
 「ああ、必ず脱出してやるよ・・・」
 「それで花火の合図までの時間真司はどうするんだ?」
 「そうだな・・・ハッキングの準備も出来ているから、俺も見張りをするよ」
 すると匠は頭を左右に振り答えた。
 「いや、お前には事務室に戻っていてくれ。いくら人数が多いからといってお前がもし怪我でもしたら、ハッキングは誰がやるんだ」
 それは正論だった。しかしあくまでも殺る気の人間が来たらの話だ。だがその時気がつかなかった匠のやさしさに真司は甘える事にした。
 「・・・すまないな。それじゃあそうさせてもらうよ。何かあったら呼んでくれ」
 眠たそうな匠に感謝しながら真司は階段を上って事務室に行った。しかしやさしくされてばかりで悪いと思い、真司の気持ちが治まらなくて、急ぎ足で 事務室に置いていた修学旅行用の荷物から財布を取り出すと通路に出た。
 2階に上がって丁度2番目の部屋の、作業員の休憩室だと思われるソファーが置いてある部屋に入った。目的はそこにある紙コップ式の自動販売機だ。 真司は持って来た財布からコインをいくつか出すと、それを自動販売機のコイン投入口に入れた。いくら農協が自家発電とはいえ、自動販売機までは 電気が通ってない。しかしながら今目の前の自動販売機には電源が点いている。コインを入れれば赤い光が映し出されていた。
 まさか自動販売機までは・・・。あまり信じれなかったが、真司にはある予想がついた。それは勿論自動販売機に電源が入ってるのは 自家発電のおかげではなく、元々自動販売機の中にある予備の電源、きっと電池式のものが働いている為にこうして電源が入っているのだろうと思った。
 真司は炭酸の入ったジュースのボタンを3回押した。勿論匠と昌二にあげる為、それにやはり自分の分も。
 それまでに口に入れたものと言えば、飲み物は水、それに食べ物はパンと 集落の一軒から見つけて食べたせんべいだけしか口にしていない。食べ物の方が良かったのだが、無いのでは仕方が無い。せめて糖分を 体内に蓄えておかないと頭の回転も遅くなるし、疲れが取れない。
 次々にカップにジュースが投入されていき、その都度真司はジュースが入ったカップを側にあったテーブルに置いた。やはり凍りも入っている。
 3つとも出来上がると、真司は自分のジュースを一口飲み、他2つのジュースを両手に持って、早歩きで2人がいる1階に行った。
 少し毀れたがあまり気にしていなかった。先ほど飲んだ甘いジュースがまだ口の中に残っている。1階に下りると匠と昌二がどうしたんだろうという目で 見ていたが、手に持っている紙コップを見てこちらに寄ってきた。
 「どうしたんだこれ?」
 「2階の自動販売機で買ったんだ。電池式の販売機の中に予備の電池が入ってたらしくて、電源が点いていて買えたよ。みんな疲れているし 全く糖質を取ってないから・・・ほら、飲め。あっ、ちゃんと俺が毒見をしてあるから心配はいらない・・・」
 2人は嬉しそうに紙コップのジュースを取って飲んだ。炭酸に少し飲むのを苦戦した昌二だったが、確実に2人とも夢中で飲んでいる。ありがとうの一言はなぜか 飲み干した後だったのが真司には分からなかった。
 昌二がありがとう、おいしかった。匠はサンキューと言うと真司は自分もジュースを飲みたい一心で2階に駆け上がった。今の真司は笑顔だったが、 彼一人が笑顔になったのではなかっただろう。
 

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