第三部
終盤戦
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廃校の一室では様々な機械が置かれていた。部屋の中だけではなく、廊下や到る所に専守防衛軍兵士が銃を構えて立っている。窓には鉄板が貼られていて、
薄暗い廊下とは対照的にある一室は、電気が点いて明るくなっていた。
ざわざわと部屋の中では何十人もの専守防衛軍兵士が各自担当の仕事をしている。大きな装置に向かってメモをとる者や、
幾つもの並んだデスクに座りキーボードを叩く者がいる。殆どの兵士には一人一台コンピューターが設置されている。地面には太いものから細いコードがいくつも見える。ざっと見れば機械だらけだ。中にはコンピューターを
操作している専守防衛軍兵士の横で、白衣を着た者が楽しげに話しているのも目に付く。大きな装置にも白衣の男が何人もヘッドフォンをつけて並んでおり、これまた
両手に持ったレポート用紙に何かを書いている。そんな中で、古臭い木の机と椅子には鬼月英佶(プログラム教官)が机に散らばった紙を一枚一枚捲り、
それを見てはほほうという顔をしていた。
「えっと・・・須川奈緒が三時二十二分に死亡っと・・・。また寺島か。やるね〜あいつも」
一枚の紙には幾つも名前が書かれてあり、その横には各生徒の名前が書かれている。鬼月は須川奈緒と書かれた文字を横線で引き、「田原も予想が外れたか・・・」と
口にしている。
「じりりりり」と突如机の端に置かれていた赤い電話が鳴った。すぐさま鬼月は自分の腕時計を見て、「まだ早えーよ」と愚痴を零しつつも電話の受話器を取った。
「はい、こちら志高島本部。善通寺第四中学三年E組プログラム実施会場。担当の鬼月です」
緊張した声で鬼月は眉毛を吊り上げて、目をぱちくりして答えた。
「はい。どうも教育長。ご無沙汰しています。ははっ、そうですね。少し時間が早いような気もするんですが、気のせいですよね?はははっ、そうですよね、はは」
鬼月ははいはいと頷きながら相手の話を聞き入れ、それからまたうんうんと頷いて答えた。
「今回のですか?はい、それは勿論順調軽快に進んでいますよ。はい。そうなんですよ〜神山が死んでしまいました。残念ですが私はここでだめですね。はい。
そうです、びんびんも予想していた乾が死にましたから、今ごろまた自棄酒飲んでるんじゃないでしょうか?はは。ええ。そうです。はい?ああ、いますよいます。
早名ですよね?教育長が予想しているのは?ええ、それじゃあちょっと待ってもらえますか?はい。」
鬼月は受話器を机の上に丁寧に置くと、コンピューターに向き合ってなにやら目を左右に行ったり来たりさせている、一見ヤクザ風の専守防衛軍に呼びかけた。
「おい、冴霜!」
「あ?」
冴霜と呼ばれた男は顔を皺くちゃにして鬼月を睨んだ。
「早名誠は今なにしている?」
「・・・待て」
静かにコンピューターのマウスをくるくる動かし、ダブルクリックした後、冴霜は鬼月に振り向くことなく、「今一人で行動している・・・」とかったるそうに言った。
冴霜が見ているコンピューターの画面には背景が黒く、幾つもの線で作られたこの島の地図が表示してあった。その上空に各生徒の名前が出ている。
冴霜の態度に少し腹を立てた鬼月だったが、電話の途中だった事をすぐに思い出し、急いで受話器を取った。
「あっすいません教育長。早名は今一人です。数時間前までは女と一緒にいたんですがね〜。はい?ええ、その女はもう死にました。なんか
木山の襲撃に遭って・・・はい。そうです。ええ、早名を予想したのは私も勘が鋭いと思いましたよ。ははっ。ええ、他にですか?教育長の他で
知ってる奴といえばクリストフがいますが?ええそうです。クリス知りません?あの専守防衛軍戦闘実験担当研究チームの奴ですよ。ほら何度かあの
ガダルカナルの改造の事で騒ぎになった・・・。ええ。そうです。そいつですよ。他にですか?えーっと・・・。へっ?私?いやいや私はもう予想外れましたから。
もしですか〜?うーん、もし今から予想するなら、木山ですかね。・・・・はい、そうです。あのブラックリストの殺人少年です。ああいうのが結構いくんですよ。
ははっ、そうですよね?はい。・・・え?あっ、そうですそうです。早名は経験者です。あの色紙破いた奴です。はい。えっ?優勝者の集会ですか?
いや、知りませんけど?そんなのがあるんですか?ええ・・・、ええ。首輪の?はい。それがもし本当ならやばいじゃないですか?ええ。また新たらしいのをですか?
それではまた多額の赤字になるんじゃないですか?・・・。ああ、なるほど、市民から・・・。頭いいな〜教育長は」
一度机にあった一枚の紙を手に取ると、何かをチェックするように紙に書かれた内容をすらすらと目を通し、うんうんと頷いた。
「ええ、ナオミですね。本名、沖島尚美。現在は愛する旦那とどこかの島で愉快に暮らしているようですよ。ええ、それが早名の担当教官ですよ。
俺ですか?え?ないですよ面識は・・・。でも結構今回はきついんじゃないですか?え?そうです、早名は。いやだってね教育長、今回初めて導入した
呪いの人形ですか?共和国魔術集団赤狼団が極秘に作ったものらしいですね。今本当に効果が出てますよ。え?持ってる奴ですか?岩下愛って言う
大人しい女子ですよ。かなり人形と息が合ってるようです。はい。いくかもしれませんね。なにか爆弾かなにかでだったら・・・・・え?そうですそうです。
何言ってるんですか教育長。昔は昔ですよ。ゾッキーの俺達を拾ってくれた教育長にはほんと感謝してますよ、みんな。え?ああ、そこまでしなくていいですよ。
あと少しで帰って来れると思いますんで・・・。はい。ははっ。そうですね、帰ったら一緒にまた・・・。はい。それじゃあ。はい。ではー・・・・」
受話器を戻すと、鬼月は首をぐるっとまわし、「ふー」ため息を吐きながらポケットに入っていたタバコを一本取り出し、その隣にあったライターで
火をつけ吸い始めた。
「あ〜あ、早く終わらねーかな。昔みたいにバイクをぶっ飛ばしたいな。岬さんの後ついでりゃよかったかな」
そんあ愚痴を言いながら席を立った鬼月は、タバコを吹かしながら廊下に出た。
「よっ、ご苦労さん」と廊下に立つ専守防衛軍兵士に声を掛け、タバコを一本勧めた。
「立ちっ放しはえらいだろ?ほら、一本どうだ?」
「いえ、自分はいりません」
眉の濃い専守防衛軍兵士は、鬼月から目を逸らして真っ直ぐ前を向いている。かなりびしっとしている。
「お前はどうだ?」
その場にいた専守防衛軍兵士全員にタバコを勧めたが、まったく反応は0だった。仕方なく部屋に戻り、元座っていた椅子に座ると、タバコの灰を
地べたに落とし、プカプカと吸った。
【残り20人】