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BATTLE ROYALE 外伝

第三部
終盤戦



41

 殺ってやる!殺ってやる!
 依然と島中に銃声が聞こえる。時には叫び声も聞こえるが、空耳だろうか。空腹だが食べる気もしない。もう何時間歩いたかも分からない。 目の前には女子と思われるクラスメイトが死んでいる。皺くちゃだ・・・。
 E=11の砂浜で半ミイラと化した小見有紀の死体を、牧野つくしは朦朧と見ていた。一体誰が・・・。
 その時であった。不意に後ろから銃口を突きつける者がいた。
 「・・え?」
 「手に持っている包丁を捨てなさい。さもないと撃つわよっ!」
 つくしに少し脅えた声の何者かが言った。その声を聞いてつくしは誰だかすぐに分かった。――――怪物――――そう、女子柔道部のトップ、野嶋小枝子(女子十六番)だ。 何時の間に背後を取られたのだろうか・・・。それとも潜んでいた?
 すぐ側から聞こえる漣の音が、少し心を落ち着かせてくれた。だが今自分の後ろには、引き金を引いただけで自分がこの世から消えてしまう、『道具』を 持った人間がいる。なんとかしようと つくしは考えた。さて、ここからどういう風に相手の『有利』を奪い取ろうか・・・。
 「ねえ、野嶋さんでしょ?何の真似?」
 「そんな事より、あなた誰か殺したでしょ・・・」
 「な、なんで?」
 「ふん、その手に持ってる包丁見たら分かるわよ」
 拳銃を後頭部に突きつけられてどうする事も出来ないまま、つくしはそっと右手に握る包丁を見た。包丁には べっとりと今は乾いている血が付着していた。最初にあの石上晴香を刺殺してから肌身離さず持っていた包丁だが、全く関心を抱いていなく、ただ"武器"と 言う事だけしか考えていなかった。つくしにとって見れば、今一番相手に見られてはマズイモノだった。 ああ、自分はなんて馬鹿なのだろう。血がこびりついた包丁を持ってその辺をうろうろしてれば、 普通は誰も近寄らないし、ましてやこんな状況では逆に不意打ちを食らって殺される可能性が高い。
 「っ・・・野嶋さん、あなた勘違いしてるわ。私が石上さんを殺すとでも?そんな、ひどいわ・・・」
 「けっ。とうとう本性を現したわね、この殺人鬼がっ!私は一度も晴香の名前なんて言ってないわよ!」
 その瞬間小枝子の言葉をすぐには理解できなかった。しかし少し考えると自分がどれだけ馬鹿か 分かった。 まさか2回もミスをするなんて・・・。きっと 頭がおかしくなってきてるのだろうと思った。だが、尚もつくしは否定を続けた。 これがつくし流。いくらこっちが振りでもいい、なんとか粘って、粘る。 自分がどれほど不利でもいい。それだけ相手が有利ならば、それを利用して最後には逆転する。 まさに合気道のように・・・。
 「わ、私は襲ってきたから殺っただけよ!自分の命を守る為にやった正当防衛よ!わかるでしょう?ねえ信じてよ。石上さんに 殺されそうになったのよ!仕方なかったのよ!」
 少し泣き真似をした。だが、背後にいて見えない小枝子の顔は、何故かにやにやしている感じが伝わってきた。何か考えている!とにかく 助かる方法は・・・。
 「牧野さん・・・。あなたこのゲームスタートするの一番だったわよね?それなのになぜ晴香があなたと会うの?それちょっとおかしくない? 考えられるのはさぁ・・・・・。てめえが晴香を待ち伏せしたとしか思えないんだよ!!」
 ぐっと力を入れた小枝子の拳銃は、つくしの後頭部が痛くなるぐらい押さえつけられた。なにかないものかと考える度にどっと額に汗が出た。
 「野嶋さん・・・、あなた私をどうしたいの?」
 「勿論・・・殺してやるわ!!」
 激怒した小枝子は何を言っても無駄なようだ。つくしは覚悟を決めてある行動をとる事にした。
 「・・・分かったわ・・・。野嶋さん・・・あなたおなか空いてない?食料ももう底を尽きたでしょ?よかったら私のパンあげるわ・・・助けてくれたらね」
 「・・・え?」
 一瞬つくしの後頭部に押し付けていた小枝子の拳銃が緩んだ。――――この豚が!罠に引っかかったな――――
 つくしは肩に提げていたデイパックを数メートル手前に投げた。
 「な、なんのつもり?」
 ――――あんたを殺すつもりよ。
 「私は殺る気はない。そのためにも仲間の野嶋さんに少しでも自分の食料を食べてもらおうと 思って・・・本当だよ。私、ずっと一人で寂しかった・・・」
 その言葉に小枝子は了解したのだろうか、つくしが投げたデイパックを拾いに行った。信じてくれたと思ったが、拳銃はつくしに向けたままだ。しかしデイパックを 拾った事で、目の前に小枝子の姿が見えた。同時に身動きができなかった体も動くようになった。もうこちらのもの。
 「いいわね・・・変な真似したら撃つからね・・・」
 小枝子は必死でつくしの投げたデイパックの中を探っている。かなりお腹が空いていたらしい。それを 見てつくしはついおかしくなり、口元が少し歪んだ。危うく見られそうになったが、やはりうまくいったと 今度は心の中で微笑んだ。
 「どうぞ食べて・・・。変な真似なんてしないわ。これからも一緒に行動しましょうね」
 「ええありがとう」
 小枝子がパンを一口かじり、一瞬の隙を見せた時だった。つくしは大きく口を歪ませてにやりと微笑むと、小枝子が向けていた拳銃に素早く蹴りを入れた。割と近くだったのでつくしの足は拳銃の グリップ部分にヒットした。力いっぱい蹴りを入れたのもあって、小枝子が持っていた拳銃は空中に飛んだ。
 「あ!!」
 口いっぱいにパンを含んでいる小枝子は突然のつくしの行動に驚いている。すぐに 拳銃を握っていた手を見つめ、今度はつくしの方を通り越して手の中から消えた拳銃を目で探していた。 それを見て、つくしはすかさず手に持っていた包丁を力いっぱい握り締め、 小枝子の腹に向けて突進した。
 「ぐっ」
 小枝子に体当たりしたつくしは、包丁を更に強く握り、ぐいぐいと小枝子の腹に押し込むように刺した。すでに柄に近いところまで刺さっている。
 「ぐふぁ」
 口から血と噛み砕いたパンを吐き出し、その場で倒れるのかと思ったが、何かがおかしかった。小枝子から離れようと体を後ろに引いたが 離れないのだ。それものそのはず、小枝子はぎゅっとつくしの肩を掴んでいたのだ。柔道をやっているだけあって力の入れようが普通の女子と違う。
 「離せ!ちくしょう!」
 「ぶはっ・・・。あな・・たも道連れよ・・・」
 痛そうに眉を歪めて言う小枝子は尚も力を緩めない。既につくしは手から包丁を離して両手を小枝子の胸に押し付け、必死に離れようとするが全くびくともしない。
 どうしよう・・・。つくしが必死にもがく中、小枝子の腕はつくしの肩から首に移動してきて、力いっぱいに首をぎゅうっと絞めつけてきた。 ――――包丁を刺したのに!――――つくしは一瞬で息が出来なくなっていた。怪物と呼ばれただけあって首の絞める力が半端ではない。このままじゃ すぐに意識が飛びそうだった。
 「ぐ・・・」
 その時無我夢中でつくしは、力を振り絞り大声で小枝子に向かって叫んだ。
 「この・・・・。このブタがぁ!」
 「え・・・」
 効いた!一瞬小枝子が驚いた顔をした瞬間。その瞬間をつくしは待っていた。最後の賭けとも言える瞬間を。
 「死ねっ!」
 腕はどうしようと離れない。そこでつくしは立ち尽くしている足を使った。右足を小枝子の左足に潜らせ、それを絡ませて思いっきり自らの体を真横に倒した。 いくら自分が細身でも今の相手を押し倒すぐらいの力はあるはず。
 思いの通りぐらっと倒れる小枝子は、すでに顔が青白く、つくしの首を絞めていた手の力も抜けていた。――――本当に怪物か――――
 「ぐ・・・ぐ・・・」
 つくしはその場で立ち上がると、ぐったりとなって倒れている小枝子を見下ろしていた。まだ生きているようで小さな声を洩らしている。 包丁は確かに腹にぐっさりと刺さっていて、 セーラー服から赤黒い血が滲み出していた。
 「はぁ、はぁ、はぁ・・・・」
 先程まで、目をぎらつかせならが首を絞めていた小枝子は、砂浜と一体化しているように動きも鈍くなっている。 つくしは、今でも絞められていた感覚が残っているのに気づいて首を触った。跡が残っているようだ。後ろを振り返れば小見有紀の死体が転がっている。
 この時、小枝子と言う恐ろしい力の持ち主が自分のクラスにいた事に改めて気づくなり、 体全身が震えた。
 寸前の化け物はやがて静かに動きを止めた。「死んだか・・・」と、つくしは思わず安堵の声を洩らした。
 びゅうっと波風が頬を伝ってセーラー服が揺れた。すぐに今の状況を把握し、小枝子の持ち物で使えるものを拾った。と言ってもパン、水はなし。 他にはつくしが持っているコンパスに地図、それに腕時計(これは小枝子の腕に巻いてあった)だった。その他の荷物には着替え、お菓子の空袋、 しおりに筆記用具、財布に女性の必需品が主だった。ぜんぜん役に立たない物ばかりだ。唯一使えるのは支給武器である、拳銃のオメガ10oオート(デイパックの説明書に書いてあった)と その銃弾だけだった。一瞬後ろに転がっている無残な死体に目を向けた。そうだ・・・と思いつくしは小見有紀のデイパックに近づいた。 やはり視界に死体が入るが、仕方ない事だと自分自身に言い聞かせた。
 小見有紀のデイパックの中には、2つのパンに2つの水が入ったペットボトルがあった。実に真新しいデイパックだ。開始から間もなく誰かに殺されたのだろう。 武器と見えるものはない。きっと殺した人間が持って行ったのだろう。
 つくしはパン2つと水2つ、オメガ10oオートと銃弾を持ち、自分のデイパックに詰め込んだ。かじった跡がある自分のパンは横たわる 小枝子の死体に投げて、「あの世で 食べなさい・・・野嶋さん」と言葉を吐き捨てると、沈む太陽をそっと見つめた。それからオメガ10oオートのマガジンを取り出し、弾がきちんと詰めている事を確認すると、 にやりと不気味に微笑んだ。

【残り19人】




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