BATTLE ROYALE 外伝

第三部
終盤戦



42

 「お〜い6時の放送だぞ〜。かなりお疲れのようだな。そんなときは拳銃をこめかみに当てて、こう・・・バンッてやればすぐに疲れが吹っ飛ぶぞ。 まあお前諸共吹っ飛ぶがな。はっはっはっ。んじゃ、死亡者言うぞ」
 その妙にテンションが高い鬼月の声で、H=5の南に位置する診療所のベッドで姫城有紀(女子十七番)は目をパチンと覚ました。同時に手に持っていた ストレイヤーヴォイトのグリップをつい強く握った。夢か・・・。
 「えーっと、女子十二番須川奈緒、十六番野嶋小枝子の以上だ。よし、次は 禁止エリアだ。いいか、よく聞けよ。午後8時からはE=8、午後10時からF=7、そして12時はI=6だ。いいか、メモったか?では先生は ZUの改造図でも書いて気長に待つからお前ら頑張れよ」
 デイバックから取り出した地図とペンで禁止エリアに印をつけた由紀は、ふぅっと溜息をついた。危うく見過ごす所だった。
 由紀はここの診療所を数時間前に訪れた。鍵も掛かってなく、入ってみると中には少しの荷物と空の鍋が不意に置いてあり、最初は自分が入ってきた事に 誰かが気がついて隠れているのかと思ったが、 慎重に調べていくうちに何者かが少し前まで居た形跡が見られた。そう、既に由紀が訪れた時は誰も診療所には居なかった。それから由紀は診療所の 鍵と言う鍵を閉め(その時前に居た何者かが隅から隅まで鍵を閉めていた)ベッドに疲れた体を休ませた。
 「・・・・・」
 由紀はベッドの側にあった荷物を取り出した。勿論自分のではない。人の物を勝手に見るのは好きではないが、今はなぜか違っていた。ジッパーはおもむろに 開いており、中を覗いてみると修学旅行に必要な物が入っていた。その荷物から誰の物かを調べる事ができた。
 赤いトレーナーにTシャツ、柄パンツすべてに名前は書いてなかった。しかし、その下の方に眠る荷物にはしっかりと身分が分かる物があった。それは財布だった。 黒い革の財布を開くと、中から何枚ものカードが地面に落ちた。 見るがぎりテレフォンカードや、どこかの会員カードのようだ。その中に生徒身分証明書が混じっていた。地面に落ちた身分証明書を拾うと、そこには 『武藤兼光』と書かれた字と、顔写真が由紀の目に映った。それが誰であろうと動じない由紀だったが、先ほどまで居た"誰か"は 武藤兼光だった事が分かった。
 今度何時休めるか分からない。その為にも今のうち休んでいよう・・・。由紀は自然とベッドに横たわったまま目を閉じた。しかし手には分校から持ち歩いていた ストレイヤーヴォイトをしっかり握っていた。
 
 それから由紀は先ほどまで見た夢を思い出した。しっかりとした現実味がある夢だ。
 
 「・・・・」
 由紀は何故か自分を見ていた。無口で鋭い目つきの由紀は隣で居た椎名瑞希のガードマンをしていた。そう、まだ椎名軍から独立する前の事だ。由紀はいつもの 様に歩く瑞希の隣でくっついて帰っていた。景色が夕方だった事から下校の時だろうとその時由紀は思った。この風景、いつか見た。そう感じた時に遠くの方から 女子が数人走って来た。こちらに向かって殺気むんむん状態だ。「ああー」とか、「死ねー」などを叫びながら手には竹刀や木製バット、ヌンチャク?を持っている 女子が由紀には見えた。すぐにそれが寺島軍のメンバーだと察知した。近づくたびにはっきりと女子が見えた。人数は・・・四人。その人数なら 瑞希と私で十分に戦える。戦いに傷は付き物。そう思いながら由紀と瑞希は寺島軍の女子達に立ち向かって行った。最初はスムーズに女子達の武器を奪っていき、 殴り合いになった時にそれは起こった。
 一発由紀が殴った瞬間、相手の女子からは3発の拳が顔面に飛んできた。そしてもう一発由紀が殴ると、今度は相手から6発の拳が今度は腹に直撃した。 その瞬間、唾液が口から吐き出た。――――なぜ?なぜなの――――
 由紀は意識が朦朧としていた。喧嘩では瑞希、留美の中に入れるぐらいの力を持っていたはずなのに、それなのに今は雑魚の女子に負けている?うそ。なんで? いつもならあっという間に片付いてるのに、今日に限ってパンチが遅い、いや、相手が速すぎる。いやっ、負けたくない。
 しかし由紀はどんどんと視界の光を失っていった。どこまでも深く続く『闇』の中に・・・。

 その時、由紀の耳に鬼月の声が聞こえてきて目を覚ました。とても怖く、とても現実味のある夢に一瞬目の前がどこかわからなかった。
 「夢・・・。そう、夢よ・・・」
 自分に言い聞かせながら由紀は思った。――――私は負けない。負ける事はない。負けるわけにはいかない――――そう、由紀にはある目的があった。
 このデスゲームに参加させられてからというのも、いつも狙っていた『王』に一気になれるチャンスができたのだ。独立してからは「姫城軍」として 活動していた。由紀自身が付けた グループ名は、「ヘルレディース」。人数的には少ないけど、強い人材が揃っていた。そのリーダーである姫城有紀の目的はただ一つ、椎名瑞希を倒す事だ。 既に3年になって寺島を痛めつけていた由紀にとっては、瑞希など同じ位、いや、自分よりも下の人間だと確信していた。
 そしてこのゲームが始まった。手には拳銃。 椎名瑞希を倒せる絶好のチャンスだった。寺島留美、椎名瑞希は共に3年になって色気づき、受験勉強や恋に目覚めた今、正に由紀あってのクラスになりかけていたのだ。
 地面に落ちた自分のデイパックを肩に提げ、由紀はベッドから離れ、診療所をあとにしようとドアの鍵を開けた。
 私は負けない。このゲームで生き残れるのが一人というならば、それにしたがって私はクラスの全員をぶっ殺す。それが王であり女帝でもある力の表現方法 だからだ。王は負けない。
 鍵のロックを外して、扉を開けて由紀は診療所から出た。
 「!!」
 その時、前方数メートル先の茂みの中から、ばったり永井依子と由紀は出くわしてしまった。しまった。既に相手も気付き、目も合ってしまった。
 何を焦っている自分。負ける事はつまり逃げる事。勝負に『逃げる』という文字はないはず。
 咄嗟に依子に向かって由紀は手に握っていたストレイヤーヴォイトをポイントして引き金を引いた。しかし相手の依子も手にはベレッタM92Fを握り、 こちらに銃を向けている。由紀は引き金を引くが、依子の方が速かったため、弾が由紀に向かって飛んできた。
 肉眼では見えない弾は由紀の真横、丁度顔面の隣、診療所の窓にヒットした。
 「ガシャーン」と言う音が由紀の耳元で鳴った。反射的に肩が小さくなった。同時に由紀が撃った弾は見事に依子の太腿にヒットし、依子は「きゃ」と言って前転するかのように体を前によろめかせた。 ――――今だ――――鼓膜に届くガラスの破壊音に由紀の肩は小さくなったままだったが、両手はしっかりと銃を握り、倒れそうによろめいた依子に ポイントしている。そのままそのまま。由紀は更にもう一回引き金を引いた。
 「パン」と反動で由紀の両手が上下に揺れ、その先の依子の体に吸い込まれる様に弾は腹にヒットした。「ぐふっ」とかなり依子はくたばりかけているが、 まだ手に持っていたベレッタM92Fを由紀に向けていた。それで焦ったのか、由紀は更に引き金を、今度は数発撃ち放った。
 「パンパンパン」という銃声と同時に、またもその先にいた依子の腹に弾がヒットして、今度は効いたのだろうか、口から血を吐きながらその場に倒れ込んだ。
 初めて撃った。その感触は一瞬のものだった。由紀はまだ倒れている依子にストレイヤーヴォイトをポイントしていた。依子は全く動かない。依子の腹からは 大量の血が流れていた。死んだ。そう思った由紀は安心した。同時に銃を握り締めていた両手ががくがく震えだし、その場にドスンと尻餅をついた。まさに放心 状態だった。
 「・・・・」
 なぜか一瞬、周りの音という音が消えた。
 すぐに由紀は正常を取り戻し、今度は倒れている依子が本当に死んでいるのか疑い始めた。またもストレイヤーヴォイトに力が入った。近づいて確認しようと 一歩踏み出した時に、うなじに痛みを感じた。不意にそちらに手を伸ばすと、そこには尖ったものが刺さっている。刺さっているとは言え浅い刺さり方だった為に 血はそんなに流れなかったが、その物体を顔の前に持ってくるとそれはガラスの破片だった。先ほど割れたガラスの破片が刺さったのだと分かった。
 そんな事よりも早く死亡確認を・・・。由紀が依子に向かって一歩前進をした直後だった。
 「がさっ」とまたも茂みから何者かが由紀の目の前(依子の後ろ)に現れた。由紀はすぐに相手の顔を見た。――――玄岩!――――
 そこには 大きなライフル銃を構えた玄岩亮介(男子七番)が立っていた。亮介は悲しそうな顔でちらっと依子の死体を見ると、すぐに由紀の方に顔を向けた。 この時だけは相手が持つ武器の違いに戸惑い、由紀は右側の茂みに逃げ込もうと走りだしたその瞬間。
 「どぱぱぱぱぱぱぱ」と、ポップコーンが弾ける音が由紀の耳に飛んできた。同時に体に何発もの銃弾が当たり、弾の衝撃によって自分の意思とは別に診療所の壁に 貼り付けられた。片手に持つストレイヤーヴォイトに力が一瞬入ったが、まだやり止まない銃声音と弾は由紀の体に体当たりしてくる。背中から下半身に かけて強い痛みを感じた由紀は、すぐに力が入らなくなった。それは変な脱力感だろうか。空いた穴という穴からはドボドボと、これまた自分の意思とは反対に 流血している。まだ玄岩は撃つのをやめず、どんどんと銃弾は体に当たり、既に意識がなくなっていた由紀の体はおねえちゃん起きてよと子供が起こすようにゆらゆらと 揺れていた。次第に銃声はピタッと止まり、玄岩はすぐに回れ右をして走って行った。
 私は負けない。絶対負けない。絶対・・・・。
 残された由紀の体は頭からペンキを被ったように全身が血だらけになっていた。
 目の中には光がまったく入らない 真っ黒な闇の色になっている。
 その姿は、今や芸術とも言える。
 

【残り18人】





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