
第三部
終盤戦
43
無数の星がチカチカと光る夜空の下、午後8時25分、D=7に位置する雑貨屋の中で兼光と天美はトランシーバーの連絡を待っていた。
「来ないわね・・・」
「ああ・・」
こんな会話をどれだけ繰り返していただろうか。既にゲームが始まった時の恐怖感が薄れてきていた。農協にいる真司の連絡がない限り
どうする事もできなかった。たとえ樹達が脱出行動をしても、重要なウイルスで首輪を外す情報を盗まない事にはこの島から逃げても衛生カメラで捕らえられ、
そのまま東京の政府達の手によって首輪を爆発させられる可能性があった。いや、それ以前に逃げた形跡が出た場合、即座に廃校にいる政府達によってゲーム中断イコール
首輪をすべて破壊。残っていた生存者すべて死亡という形になる可能性が高かった。
雑貨屋の外、玄関から一歩出たところに樹はオートマグUを片手に持ち、見張りをしていた。夜は一番警戒しなければならない。
逆に夜は睡眠を取るチャンスでもある。2つに1つ。睡眠を取るか、警戒を取るか。そこで樹は自ら見張りをかって出た。勿論その時兼光と天美は反対した。
そこでお互い2時間ごとに見張りを交代する事にした。
「もうすぐ俺の番だ。神楽さん、寝なくていいのか?」
「うん、大丈夫。樹が見張りの時にちょっと寝たから。もう、武藤君こそ全然寝てないじゃない」
お互い傷の舐め合いではないが、二人とも実際寝てないのに等しい。体の限界が近づいているのにも気がついているが、二人共譲り合いをしながらここまで来た。
本当の所、樹が一番寝ていない。天美は約1時間半。兼光は約30分。樹は約5分程度。二人共心の中では一番樹が心配だった。それに既に疲れが顔に出ていた。
「がたがた」
玄関の戸が少し揺れた。風?二人はすぐに警戒をした。玄関には樹がいる。安心・・・していた。と、中の二人とは他所に樹がなにやら言葉を発した。
「誰だ」
その言葉に二人はすぐに玄関の戸を開け出た。開けた瞬間びぅっと冷たい風が頬に伝う。樹はしっかりと自らの支給武器、オートマグUを真っ直ぐと暗闇に向けていた。
「どうしたんだ影野?誰かいたのか?」
「見えないのか?誰かこっちに歩いてくる」
樹は暗闇の先を睨んだまま兼光に喋った。
兼光は目を凝らして暗闇を睨んだ。だが最初は何も見えない。真っ暗としか言いようがなかったが、ずっと先を睨んでいるとなにやらチカチカと光る何かを
身に付けた人間が両手を挙げて近づいてきた。
「撃たないでくれ。俺はやる気じゃないんだ。信じてくれ」
そう言って雑貨屋のライトがあたる所まで近づいてきたのは、紫の長髪に銀色のピアス、片手にはウージーサブマシンガンを持っていた早名誠だった。肩には
デイパックを提げていて、顔も疲れ切った顔をしている。死人を見た人間のような顔に・・・。
「・・・?早名か?」
兼光の発言の後、樹と天美は気がついた。一瞬知らない人間がやってきたことに驚いていたが、転校してきた早名だった事を思い出した。早名は転校してきてから
樹と天美とは殆ど話したことはなく、逆に孤立していた事もあった。
「早名、やる気がないって本当か?俺はまだ信じられない。もし本当なら銃をその場に捨ててくれ」
樹はオートマグUを早名に向けたまま近づきもせず、離れもせず、ずっと無言でその場に立ちすくんでいた。
「すまない。それはできないんだ。信じてくれ」
「なんだと?どうして捨てられないんだ?俺たちが信じられないのか?早名、お前と俺たちは普段もあまり話さないのはわかってる、だけど今はそんな時じゃないだろ!
俺たちを信じろ!脱出方法があるんだ。だから銃をその場に置いてくれ!」
少し声を張って兼光は言った。早名はそれを聞いて少し驚いた顔をしたが、すぐに悲しそうな疲れている顔に戻った。
「・・・いや、そう言う事じゃないんだ。銃を捨てられないのは訳があるんだ。昨日ある人と行動していた時に、油断した。それで大事な人を一人失ったんだ。
だから・・・。だから銃は捨てられない。すまない」
樹はずっと睨んでいた。これほどまでにない警戒を示していた。何かおかしい。早名には何か隠してある事がある。それは転校生だからじゃなく何か重要な
鍵を握る人物。
「早名、悪いが銃を捨てられないのだったら帰ってくれないか」
「ねえ早名くん、私達を信じて、お願い」
樹以外の2人は少し焦ったような口調で言った。
だが、早名は一度溜息したように、「違うんだ」と喋った。
早名は暗闇に囲まれた周りを左右確認するようにキョロキョロと見ると、樹達の顔を見て言った。
「俺は君達と行動を共にしたい。でもお互いこんな状態じゃダメだ。実はここの雑貨屋にあるラジオを貰いに来たんだ。不意にここにやってきた訳じゃない。
信じれないのは分かっている。でもせめてラジオだけでもくれないか?それを貰えればすぐにこの場から消える・・・頼む」
すべてを吐き出したかの様に早名は喋った。両手は空に向かって挙げたまま真剣な目で樹を見ていた。それに答えてか、樹もしっかりと早名を見つめた。
部外者から見るとただの睨みあいにも思えるが、何か二人の間で交信しているかの様にも思えた。
少し沈黙が流れた後、「天美、中に戻ってラジオを取ってきてくれ・・・」と樹は静かに言った。
「うん」と返事をした後、急ぎ足で天美は店の中に戻った。
「ありがとう・・・」
「こんな事訊くのもなんだけど、答えたくなかったら答えなくていい。ラジオでなにをする気だ?まさかSOSを呼ぶ気か?それならやめた方がいい。
すぐに察知されて殺されるだけだぞ・・・」
下を俯き、早名は微笑んだ。うんうんと頷いた後、また何かを溜めていたかのように、一気に言葉を発した。
「ああ、SOSを呼ぶんじゃないよ。そんな事はしない。ラジオの目的はまだ言えない。すまない。だがもう少し、君のような集団でいるやる気のない人間を
集めた時に話すよ・・・。今度会う時は必ずこのウージーをその場に捨てられる・・・きっと・・・」
まだ警戒を解いたわけではなかったが、なんとなく強い正義感を樹はその時感じた。
その時雑貨屋の中から天美がラジオを持って樹の横に来た。ラジオはコンパクトな両手サイズの物で、赤い字でメーカーの名前が刻まれていた。勿論裏面の
認定シールには金の桃ちゃんマークがあった。
「それじゃあラジオをこっちに投げてくれ・・・」
早名の言葉とは裏腹に、天美は意外な行動をとった。ラジオをそのまま持ち、投げずに早名に近づいて行った。
「おい、天美!」
樹は焦った。しかし当の本人は落着いている。警告という文字が樹の頭の中で危険と言う字に変った。しかし天美は早名にどんどんと近づき、ついには
ラジオを早名のデイパックに入れた。
「私は早名くんを信じるわ。なにがあったかは分からないけど、私は信じる」
早名は天美の行動と言葉に驚いた。一瞬、本当にこの状況を把握してるのだろうかと疑問にも思った。
「ありがとう」と一言早名は天美に言った。目的を終えた早名は両手を挙げたまま暗闇に帰ろうと一歩踏み出した。
「早名」
後ろから不意に樹が早名に問い掛けた。早名も両手を挙げたままこちらには向かず、背中を向けてそのまま立ち尽くした。
「早名、俺たちは脱出するつもりだ。内容は言えないがまだ脱出をしようとしている友達が、農協にいる。そいつと一緒に脱出行動を試みる。まだ向こうの都合で
同時に始めることはできないが、もし脱出行動を開始する時は合図を送る。それでよかったらここに戻ってきてくれ・・・」
背中を向けたまま早名は樹の話に質問した。
「合図?」
「ああ、これもすべて話す事はできないが、ヒントは『時計がある時間を刻んだ時、大空に大輪の花が散るだろう』だ。これぐらいしか言えないが何とか
この問題を解いて、合図があれば来てくれ・・・」
「・・・・」
少し考えているのだろうか、早名は口を開かない。しかしすぐに頷き「分かった」と小さく言うと、早名は独り言のように、しかしみんなに
聞こえるようにある事を言いながら歩き、暗闇に消えた。
「ゲームはルールがある。それに従わないとゲームオーバーになる。しかしどのゲームにも裏ルールってものが無限に存在する。つまりルールは自分で作っていく
事で、俺たちの手でも十分に変えれることが可能だ・・・」
暗闇に消えた早名を追いかけることもなく、樹たちはただ暗闇をじっと見つめ、自らここがゲームの基盤であることに改めて実感した時でもあった。
こんなにも空には星がキラキラと輝き、幾つもの涙が染み付いたこの地面で自分は立っている。自分はその星の下にいる。樹は過去の思い出を少し思い出しかけていた。
【残り18人】