BATTLE ROYALE 外伝

第三部
終盤戦



44

  午後10時40分過ぎ、風が強く吹き、傷口がずきずき痛んだ。もう何処を押さえても出血は止まらない。いや、押さえるなんて意味がなかった。
 G=4のあたりで頭から血のペンキを被った女、姫城由紀は歩いていた。数時間前に診療所前で永井依子を殺害後、 玄岩亮介のライフル銃によって瀕死状態になった。それから自らの意思で奇跡的に生き延び、今、ある目的の為に歩いている。
 「はぁ、はぁ・・・」
 腹の底に何十個もの鉛が入ってるかのように足取りは重く、歩く度にじゅわじゅわと溢れんばかりの出血をしていた。
 生きる。それよりもある人物を殺す事が由紀にとって重要だった。椎名瑞希を、必ず見つけて殺す。
 由紀の片手にはしっかりと血塗られた ストレイヤーヴォイトが握り締めている。
 空は暗く星が光り輝いている。チカチカと一瞬動いている様にも思えた。周りはぽつりぽつりとあるスタンドライトのおかげで、薄暗いが 辺りは見えた。だが、由紀には掠めて見えると言ったほうが良いであろう。先ほどの対玄岩戦によってある神経が壊れたらしく、 視界がすべて掠めて見えた。もやもやと霧がかかった様に見える景色は本当に死んで天国か地獄で彷徨っているかのような錯覚も覚えた。
 時計を見ることもなく、 地図で現在地を確認する事無く、まるでゾンビのようにただ"本能"とも言えるある目的に向かって足を進めているだけだった。
 「椎名・・・瑞希・・・ころ・・・す・・・。私が・・・女帝・・よ・・・・」
 小さく言葉を発しながら歩いていた由紀だったが、その時地面にあった木の枝に足が引っかかり地面に転んだ。どさっと静かな茂みの中で由紀が転んだ 音だけが、こんなにもうるさい音なのかと思うぐらい響き渡った。その転倒で由紀の体から血が一気に流れた。穴という穴からどろどろと熱い血が流れる。 更に口から押さえきれないほどの真っ赤な血がごぼっと噴出した。
 地面に落ちた大量の血は、見る見る内に土や草の養分となり、吸い込まれてすぐに跡形もなく消えた。
 薄い意識の中で手のひらに力を入れて地面を押す。体をゆっくり起こして立ち上がった。なぜかきしきしと音がする。このとき痛みは全くなかった。 感じない、と言うよりも慣れたと言ってもおかしくないだろう。それにきしきしと音がする場所は足の踝から聞こえてきた。骨が錆びてるわけではない。しかし なぜか錆びているような音がした。
 そんな事はお構いなしに由紀は更に足を進めた。夢でもいい、現実の方がもっといい。死ぬ前に椎名瑞希に会いたい。 会って殺したい。それが自分が満足する行為だから。そうじゃないと納得がいかない。このまま『あらさようなら』と死ねない。

 「私貴方の軍に入らせていただくわ。いい?」
 確かあの時は2年の春だった。クラスでも大人しくて真面目にやってた私が瑞希を好きになったのは・・・。
 クラスでも美人で女の子からも慕われる存在の瑞希は喧嘩が強い事で有名だった。
 ある日寺島留美と言う瑞希の中で最大とも言えるライバルが登場した。聞いた話によると瑞希と寺島の初喧嘩は寺島の反則勝ちのようで、翌日 クラス中が噂になった。
 「うそっ、椎名さんが負けたの?」
 「うん、そうらしいよ。でも寺島さんは不意打ちで勝ったらしくてね・・・」
 幾ら静かで大人しい・・・いや、無口な私でも噂だけは聞きたくもないのに耳をかっぽじられて入ってくる。それから 瑞希は椎名軍、寺島は寺島軍と名乗るチームを作って本格的に喧嘩が勃発した。女はか弱い。この言葉を破ったのも瑞希だと私は思っている。
 すぐにこんな馬鹿な事は止めるだろう。そう思っていたが二年まで持ち越してきた。それは瑞希と寺島だけではなく、チーム内の女子達個人個人の対決が 見ものにもなってきた時であった。私も仲間に入れて。率直に思ったのがそのまま口に変換されて出た。
 「え?私のチームに?いいわよ。喧嘩・・・できる?」
 それで私はYES。勿論YES。いや、もし私が喧嘩できないか弱い女だとしても瑞希の為なら何でもできた。その頃から私は瑞希を好きになって自分は『同性愛者』なのだと 気がついた。
 学校の帰り際もチーム内の女子と瑞希にくっついて帰っていた。それでよかった。私は貴方に近づいている。そんな感じが良かった。
 ある日私が一人で帰る準備をしているときに、寺島軍の女子達に喧嘩を売られた。勿論買った。それが原則。それで瑞希が喜ぶんだから。アンチ寺島軍。 それが人生初の喧嘩だった。徐に感情を表にむき出して、まるで野犬のような喧嘩。1人対2人。最初の相手は鳩尾に蹴りが嵌り、そのままぶっ倒れ、次の 相手は殴り合いとなった。髪を掴んだり、服を掴みながら殴ったり、相手の行動など目にも止めずにただ殴り続けた。その結果、服がくしゃくしゃになりながらも 私は勝った。この時に私は喧嘩が強いんだと思った。
 次第に私の噂も広まり、地位がどんどんとあがり、瑞希に一番近い所に入れる側近となった。いつも瑞希と一緒に行動を共にできて楽しかった。
 喧嘩もある意味いいコンビだと言われた事もあった。喧嘩の強さは瑞希にも認められ三年生となった私は、寺島を倒す事に決めた。
 地位が上がるにつれて自分ではない自分が現れ始めた。こんなに喧嘩が強いなら私は学校内1の女、女帝になれるはず。寺島と対等に戦えるはず。 実行は早く、椎名軍の中から自分に従う人間を掻き集めて「姫城軍」通称「キラーレディース」を結成した。喧嘩に慣れている私は真っ先に寺島を集団 でリンチした。それは寺島が瑞希を襲った時のようにそっくりそのまま返した。後は一人。女帝になるまでは後一人、核とも言える元ボス椎名瑞希だった。
 瑞希とだけは戦いたくなかった。そんなの初めからわかっていた。しかし女帝になる為だったら、瑞希と喧嘩できる自信があった。もう手の届く範囲。 貴方を好きだけど貴方は私を受け付けないのは分かってる。だから無理やり喧嘩に勝って私の物にするのよ。

 ぽたぽたと顎から血が落ちる。意識が薄れる中、由紀は前方の人物に驚いた。それは正しく目的、椎名瑞希だった。
 まさか本当に会えるなんて、たぶん、もう長くないのだろう。最後の運を使ったということか。
 なにやらもう一人隣にいるようで、それが誰なのか分からない。 いや、わからなくていい。
 幸い向こうは由紀の事に気がついていないらしく、しかし警戒しながら作られた道を歩いていた。逆にこちらは雑草が生い茂る森林、 タイミングはいつでもOKと言う事。
 ぎゅっとストレイヤーヴォイトを握り、既に自分の体ではないような体を無理やり動かし、何も気づいていない瑞希に走って近づいた。
 「しねぇぇぇぇぇ!」
 突然林から出てきた人物に驚きながらも、瑞希と隣にいた堀川美菜子は由紀の方に振り向いた。反射的に二人共拳銃を構えた。
 「パンパン」
 走りながらの為に由紀の放った銃弾はぶれて美菜子の右肩を掠め、次の銃弾は美菜子の右肩の中心にヒットした。美菜子は弾かれるように肩だけが 飛び上がり、そのまま地面に手をついて倒れた。
 「堀川さん!」
 「しねぇぇぇぇぇ」
 瑞希が不意に美菜子に目をやった瞬間、由紀は2度目の引き金を引いた。これで終わりよ。今度こそ死ねっ!
 「かちゃかちゃ・・・」
 ストレイヤーヴォイトは寂しく、ただ弾が入っていない拳銃の動きを繰り返していた。血だらけの顔が一瞬にして真っ青になった。その瞬間、 瑞希がブローニングハイパワー9oを由紀にポイントした。
 「バキュン」
 弾丸は由紀の喉に命中し、喉から穴が開いて洪水のようにどばっと液体が飛び出し、噴水のように血が辺りに散った。まだ死ねない。由紀自身 必死に生きようともがいたが、今度は体が強制的にシャッターを閉じた。今度ばかりは生き延びる事はできなかった。暗い闇が一瞬見え、テレビの電源を 切るようにプツッと由紀の存在諸共消えた。
 もう生き返ることのない彼女の死体が、しっかりと拳銃を握っていたのは言うまでもない。

【残り17人】




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