
第三部
終盤戦
45
すべてがボロボロだった。一はすべてに疲れていた。
敬二の形見とも言えるジグ・ザウエルP230 9oをベルトの間に挟み、片手には
自らの武器ファマス5をしっかりと持っていた。
現在の位置を安易地図で現すとD=3の集落。一軒の家に一は隠れていた。敬二と祥子が死んだあの洞窟から無意識で
歩いて来た所がこの家だった。いつからどのようにしてこのゲームが始まったのか分からないし、思い出す力さえもなかった。ただ、
非常食がデイパックの中に入っていた事が、一には不思議で仕方なかった。
「いつだって腹は空く。どんなに悲しい時でもお腹は空いてしまう」
ある日の敬二が言った。その言葉を一は思い出していた。一がいる家の中は既に誰かが入った様な跡があり、冷蔵庫は開けっ放しだ。中に入っている
野菜が変色して真っ黒くなっている。
ゆっくりと重い腰を浮かせて一は家の中にあった小さな椅子に座り込んだ。幼児用なのでとてもではないが
お尻が入りきらないのが現状だ。ぷ〜っと座ると音が出たが、その音さえも一には聞こえていない。
「・・・・」
このまま永遠に時間だけが過ぎていくのだろうか。家の中だと言うのになぜか体が寒い。震える。なんだ?
恐怖。その言葉に近いものが一を襲う。誰かと一緒にいないと不安。もしも自分だけここにいて、例えば他のみんなはただの演出をしていて、
自分をみんなで騙していたかもしれない。もしもこの数秒の間で自分ともう一人の誰かだけになってたら。もしも・・・。
「がちゃ・・・」
突然家のドアノブが回った。これほどまでにない一直線の電撃が体に走った。誰だ!すかさず一は玄関の方に目をやりながら、
ファマス5を両手で持ち上げた。
しかしドアノブは回るだけだった。それもそのはず、一がこの家を訪れた時に任意にドアに鍵を掛けていたのだ。そのためドアの向こうでいる何者かが
誰であろうとここは開かない。武器を使わない限り。
このまま何もしないでいれば諦めてどこかに行くだろう。そう考えていたが、次の瞬間一は目を疑った。
「かちゃ・・・」
そう、鍵を掛けたはずだったがドアノブが二度回った瞬間、鍵がなぜか不思議に開いた。おかしい。おかしすぎる。相手が鍵を持っている?
NO!NO!NO!そんなはずはない。もしもドアの向こうにいる相手が超能力を使えるとしたら?いいや、そんなはずはない。クラスにそんな人間は
いない。いないはず。
時は待ってくれない。そんな言葉がまた一の頭に過ぎったその時だった。ドアをゆっくり開けて入ってきた人物がそこには立っていた。
「う、動くな!」
一は反射的に廊下に立つ人間に向かってファマス5を向けた。あの時のように撃つつもりではいなかったが、相手が銃器を持っていた場合は
撃つつもりだった。
「きゃあ」
両腕を顔の前に出して、まるでなにか飛んでくる物をガードするかのように、手に持った何かを一に向けていた。見るとそこにはセーラー服から
女子と分かる人間が震えて立っていた。
「・・・誰だ?」
更に一はその女子に、ファマス5を構えたまま近づいた。
女子が一に向けるようにしてガードしていた物。それは何処からどう見ても
包丁だった。しかもパーティーの後のように赤い物が大量についていた。女子は一の質問に対して包丁を下ろして答えた
「私よ。牧野・・・。分かるでしょ・・・」
「牧野つくし・・・か」
その顔はクラスでも背が低く、童顔で有名な牧野つくしだった。つくしと言えば一には樹を好きだと噂した事件を覚えていた。
「牧野さん、その包丁についている物って、血、だよね?」
真っ先に一は、つくしが持っていた血がついた包丁に目を奪われた。よく見るとなにか布で拭いた様な後がある。目の前にいるのは殺人鬼か、それとも
正当防衛で人を殺したのか。どちらにしても人間の死を見ている人間には違いないはず。
「ああ、この包丁。はっきり言って血よ。でも聞いて。これは襲ってきたから仕方なくやってついた血なの。本当よ本城君。お願い、殺さないでっ」
妙に演技臭いが、目に涙が薄く溜まっていた。一は迷った。どうしようか。もしも相手が本当に殺人鬼だとしたら、こんなにも近くでいるのになぜ怖くないのだろう。不思議だった。
「それは本当だろうな」
ファマス5を向けて警戒をやめない一に対して、つくしは一度その場に座り込み、手に持っていた包丁を廊下に捨てた。
「お願い本城君。私やってないの。本当よ。信じて。でも、私は貴方を信じてる・・・」
つくしは更に両手を挙げて泣き出した。少し体が震えていることに一は少し動揺した。本気か。こんなにも助けを求めている。正義感という蟲が
沸々と湧き出てきた。
「・・・・・。じ、じゃあ牧野さんのこの包丁は預かるけど、それでいいね」
「うん・・・」
一はつくしが廊下に捨てた包丁を拾い、デイパックに入れた。その時からファマス5は地面を向いていた。
「俺はこれから仲間を探すからここから出る。よかったら一緒に行こう」
正直言えば頭の中は真っ白だった。一はつくしの事が好きでも嫌いでもないが、よく言う可愛い系の女子だけあって、泣き顔も笑った顔も
かわいいとクラスの大半が言うように、一もそれは思っていた。
「私、武器持ってないよ・・・。もし襲われたらどうしよう」
上目使いでつくしは一を見つめた。そうかという様に一は思った。一度頭の中でベルトに挟んだジグ・ザウエルP230 9oを思い起こした。
あれは・・・・ダメだ。だとしたらこのファマス5。いや、それも無理だ。だとしたらやはり包丁か?いいや、それも・・・。
「牧野さん、すまないが何も武器はない。ただ仲間を探し出した時には、絶対包丁を返す。もしくは緊急の時には俺の銃を渡す。それでいいかい?」
「うん。で、でもその間は?」
「ま、守るよ。その間僕に離れないでついて来てくれ。必ず死なせたりはしない・・・」
つくしは一の言葉を聞いて更に涙を流した。いやはや自分でも何故こんな臭い言葉を言ったのだろうと後悔した。
だがこう言うしか他にはなかったかもしれない。
一は目的を見つけ、守るべき人物と出会い、改めてこのゲームには乗らない事を再確認した。
【残り17人】