
第三部
終盤戦
46
「ちゃらら〜ん。ああ〜暇だ。お前らもうあと少しなのにペース遅すぎ。いいか〜建物があるところには
一人二人は必ずいると思え。そうすれば誰かには絶対に会う。そこですぐに殺しあえ。いいな、先生あまり遅すぎると
お前らの元に飛んでいくぞ〜はっはっはっ。じゃあ眠る前に死んだ奴発表するぞ、女子十五番永井依子、女子十七番姫城由紀の二人だ〜。
これはどういう事かな〜。まあいい、次禁止エリアの発表です。午前2時からC=6、午前4時からB=9、午前
6時にD=6だ。いいな。それじゃあ〜」
そんな鬼月の放送が流れて数時間。辺りが真っ暗だったのが、徐々に薄暗くなっていく。とは言え時刻はまだ3時。
G=7の森林の中、まだ心臓の鼓動がドクドクと高鳴る一人の男がいた。彼の名は玄岩亮介(男子七番)、クラスの中でも大人しく、
美術部では1,2を争うほどの絵の才能がある人間だ。今亮介はとにかく歩いていた。数時間前に姫城由紀を支給されたシュタリアーAUGで
殺害した。いや、実際トドメをさせたのは椎名瑞樹だったのだが、あれだけの銃弾を喰らったのを見れば、亮介自身錯覚してしまっていた。
それからはずっとドクドクと、鳴り止まない胸の高鳴りが押さえられないでいた。
最初、亮介はこのゲームには乗ってはいなかった。
しかし次々に鬼月の放送によって発表されるクラスメイトの名前、人を信じると言う亮介の心はだんだんと潰れていった。どこまでもどこまでも・・・。
1日目で下元奈津希のグロイ死体を見て、2日目で神山克人の死体を見た。克人の死に方は以上にまでもおかしかった。とても言葉では表せないなんとも
悲しくも恐怖が混じった感触が亮介の体に焼きついた。それを見て亮介は思った。
――――死んだみんなは誰にやられた――――
死体に問いただしてもあの人が犯人よ、なんてことは言わない。死人に口なしだ。
芸術。そう、亮介の好きな芸術作品が死んでいったクラスメイトとかぶった。みんな死んでいき、みんな作品として出来上がる。
ならばいっその事、僕がみんなを殺してやろう。そしてその後に自らも芸術作品となってこの世に偉大なる物を完成してやる。
その時から人を殺す行為を覚えた。『楽しい』や『悲しい』など、もうそんな感情はない。ただ作品を仕上げるだけ。既に材料は揃っている。
このシュタリアーAUGでクラスメイトを殺し、アートと呼ばれる物を作ってみせる。
その後、亮介は姫城由紀を撃った。自身ではあの時点で由紀を殺したと思っている。『楽しい』や『悲しい』と言った感情がないのにも関わらず、あの後の
亮介は震えていた。どこかの茂みに潜んでいても鳴り止まない心臓の鼓動で、体が痛む。体に外傷はない。だがじっとしていると体中が異常に
痛んだ。腐ってきているのか?まさか。だから歩き続けた。何かしていないと落着かない、体が痛む。耐えられない。
禁止エリアの発表でも亮介は気にしなかった。由紀同様に亮介もまた目的があり、死んでも死にきれない、そのくらいに今の亮介を止められるものはいない。
ある日の学校で、亮介は誓った。僕は芸術家になると・・・。
いつもの様に部活を遅くまでやっていた。今度の県で開かれるアート芸術作品に応募する油絵を描いていた。幼少の頃から絵は好きで、
いつも何かあればキャンパスと呼ばれる世界に自分の思った通りの物や人を描いては不満をそれで解消させていた。何よりも楽しかった。
その時、ふと美術室に一人の先生が入ってきた。
「おっ、なんだ玄岩、お前まで残ってたのか〜」
「あっ、先生」
入ってきたのは美術部の顧問であり、元イラストレーターの川崎哲也だった。彼はまだ34と若く、2児の父親でもある。
亮介はこの川崎と親しかった。なにかあれば相談にも乗ってくれたり、本気で叱ってくれたり、何でも言い合える仲でもあった。
川崎は入ってくるなり忘れ物の筆を取った。「先生、忘れ物?」と亮介が横目で言うと、「そうなんだよ」と笑いながら亮介の側に近づいてきた。
「そう言えばこれ、いつ仕上がるんだ?」
筆を止めた亮介は「ん〜あと1週間ぐらいかな」と、筆で色を混ぜながら答えた。
「そうか、で、この絵は何がテーマなんだ?」
「内緒。今回の募集は自由だったから、あえて僕はこれを描こうと思ったんです」
川崎は亮介が描いていたキャンパスを覗き込んだ。そこには林檎の木、男と女、そしてヘビが繊細に描かれていた。一見素人が
見れば既に完成に見える。
「アダムとイブか、いいねこれ」
その川崎の言葉に亮介は照れた。実際美術の顧問の川崎は、一度も亮介の描いていたこの絵を見たことがなかった。それもそのはず、亮介はいつも
一人になった時に描いていた。
「玄岩は才能あるよ。お前なら絶対世界に羽ばたける。勿論このままの絵ではダメだけどな」
「ありがとうございます。僕頑張ります。頑張って世界中に認められる絵を完成させて見せます」
その川崎の言葉がどれだけ亮介にとっての期待と褒めの言葉に聞こえたかは、自身しか分からないだろう。ただこの時から亮介は、もっと芸術と
呼ぶ絵が好きになった。それ以来は彫刻にも挑戦して行った。
突然木々がざわついた。一体何事か。瞬時に亮介の足がぴたっと止まる。左右と後ろを確認した。しかし何もない。また
あまりじっとしているとあの痛みが襲ってくる。亮介は再び前へ前へと歩き出した。
そう言えばここ1日半以上、腹に何も入れてないことに気がついた。その瞬間急激な痛みがお腹に来た。それは正しく餓死寸前を意味していた。
既に肩に提げていたデイパックの中は食べれないものばかりであった。どれも役にたたない。役にたつものと言えば片手に持つ
シュタリアーAUGぐらいだろう。
不意に顔をあげて見たその時、目の前に何かを発見した。先には球場らしく明かりが眩しいほどに光っている。一体あそこはなんだ?幻の
湖か?
亮介は警戒して光が洩れる場所に近づいた。がさがさ、と草木を避けながら進むと視界に光に包まれたグランドが現れた。咄嗟にグラウンドの真ん中に
ある何かを発見した。
「ぎゅるるるる」と同時に腹の虫がキレた。怒り爆発の彼らは亮介に何とかして食べ物を腹の中に入れようとしているらしく、体がふらふらと
グラウンドに近づいていった。
真正面には入り口が見当たらず、探すのも面倒なので亮介はそのままフェンスをよじ登った。そしてそのまま落下するかのようにグラウンドに
降り立つ。右足から奇妙な音が聞こえてきた。木の枝が折れるような、そんな感じの音だ。
グラウンドの中は広く、そして明るい。「ぎゅるるるる」とまたも腹の虫が叫んだ。どうした事かと亮介は必死になってグラウンドを見渡した。
「あ・・・あった!」
視界に映ったのは正しく食料そのものだった。どんな食料かは亮介自身全く分からないが、とにかく"食べ物"であることは確かだ。
ゾンビのように必死でグラウンドの真ん中に駆け寄った。その食料の側には汚れたデイパックが置いてあった。亮介は中身を調べる事無く、
目の前の食料に近づいた。さあ食べましょうかと思った瞬間、視界の端っこにこれまた目の前の食べ物よりも美味しそうな食料が、数メートル先にぽつりと
置いてあったのだ。亮介は迷わずその食料の方へ近づいた。
見た感じ先ほどの食料よりも量は少ないが、やわらかそうだ。側にはこれまたデイパックがある。あっちがオスとするとこっちがメスと言う事か。
「ぎゅるるるる」
腹の虫の叫びが最高潮に達したその時、何もかも忘れて目の前の食料にかぶりついた。
「ざくっ」という音とともに亮介の口の中に食べ物が入っていく。その食料は思ったよりも硬く、そして身が締まっていた。少しだけ
食べ物の中から液体が出たがそれも美味と言えた。
口いっぱいにその食べ物をほお張り、むしゃむしゃと噛み砕いた。最高に美味しいと心から亮介は思い、次から次に目の前にある食べ物にありついた。幸せの一時とはこの事を
言うのかと亮介はむしゃむしゃと、小松亜紀の死体を食べた。
「むしゃむしゃ・・・・」
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