BATTLE ROYALE 外伝

第三部
終盤戦



48

  「じじ・・・おーい、影野、聞こえるか〜?」
 亮介と忠文が戦闘中、雑貨屋には期待と希望が渦巻いていた。脱走・・・。いつからこんな事を考えたのだろう。 ゲーム開始前か?この国を恨み、ルールには従わない。どうしてだろう。殺しがだめな事だと教えられたのは・・・。
 雑貨屋の中にいた樹と天美は急いでその声に答えた。この声は正しく農協にいる伊藤真司の声だ。
 「がらがら」と雑貨屋の戸を開けると、天美は兼光を呼んだ。先ほどから外で見張りをしていた。とうとうかと言った顔で兼光は 雑貨屋の中に入って来る。
 「伊藤か!聞こえてる、どうぞ・・・ガチャ」  声を張って樹はトランシーバーに向かって答えた。とうとうハッキングシステムを導入したウイルスができたのだろうか。
 「影野聞いてくれ、たった今ハッキングシステム&クラックシステムを導入したウイルスが完成した。例の合図をよろしく頼む。どうぞ・・・ガチャ」
 「やったー」
 「よし!」
 天美と兼光は笑顔で喜んだ。これでやっと家に帰れる。これで殺し合いなんてしなくて済む。これですべて終わらせる事ができる・・・。
 「分かった・・・。伊藤、ウイルス送信に少しだけ時間が掛かるだろ?それを踏まえて今から廃校に送信してくれ。すぐに花火を打ちあげる。 どうぞ・・・ガチャ」
 「分かった。でもそれじゃあ花火は無駄な事じゃないのか?どうぞ・・・ガチャ」
 「いや、実は花火はある人間と約束の合図でもあるんだ。それに、花火を見た生存者がこの雑貨屋に集まってくる可能性もある・・・どうぞ・・・ガチャ」
 「影野、それはあぶないぞ、やる気の奴も来るかもしれない。どうぞ・・・ガチャ」
 そう、花火はある意味自殺行為でもある。でも樹はいつもどちらかの2つに1つの選択の中で生きている。YESかNOか。それは今 判断することではないが、樹自身多くのクラスメイトを集めて脱走したかった。
 「俺もそれは考えている。だが廃校破壊は必ずやる。心配するな、いざとなれば武器もある・・・どうぞ・・・ガチャ」
 「・・・・そうか・・・わかった。じゃあ今からウイルスを送る。どうぞ・・・ガチャ」
 「了解・・・」
 それで真司との通信は終わった。とうとうこのゲームから抜け出せるのかと天美と兼光は安堵の表情を浮かべている。
 「ふう・・・」
 しかしここで天美があることを言った。それは樹以外の人間が思う事だった。
 「樹、トラックを廃校に突っ込ますって言ってたけど、廃校の周辺は禁止エリアじゃないの?」
 「ん?ああ。大丈夫だ。一度俺が車に乗り、エンジンをかけてゆっくり走る。そのまま俺は車からなんとか降りれば、あとは 改造しておいた車のレバーが自動的に下がり、スイッチが入る。それは車が前進するごとにスピードが上がるようにしてある。木々にぶつからない様に 位置を調整すれば簡単な事だ」
 天美に樹が説明していた時、「よく分からない。俺にも良くわかるように言ってくれ」と横から兼光が樹に訊いて来た。
 「つまりはこう言うことだ。車のエンジンをかけた瞬間、ホイール部分との接触・・・いや、プログラムが作動する。それで スピードが自動的に上がるというわけだ。これで分かったか?」
 「なるほど」
 樹は店の隅に置いていた大きなロケット花火を見た。ラベルが貼ってあり『大漁』と記されていた。
 「よし、それじゃあ武藤、今からスナイパーを持ってF=5あたりに行ってくれ。行けばすぐに廃校に止めてあるトラックやヘリをを狙って撃ってくれ」
 「あ、ああ」
 兼光は慌てた様子でスナイパーG3を両手で持った。見ただけでもかなり緊張している事が分かる。
 「それで俺が軽トラに乗る。それを見て天美はこのロケット花火を打ちあげてくれ。火のつけ方、わかるな?」
 「うん」
 天美も緊張しているが、ある意味天美は樹を心配しているように見える。
 そしてふと兼光が雑貨屋の戸を開けて外に出ようと思った時、「待て、武藤」と樹は兼光を止めた。
 「ん?なんだ?」
 一度樹は2人の顔を見た。樹の表情からは固い信念が見える。
 「俺たちはこのゲームに終止符を討つ為にここまでやってきた。2人共に俺は感謝している。紛れもない事実だが、 疑心暗鬼にならなかった瞬間はなかったと思う。だがここまで2人共信じて来てくれた。今から、脱出を試みる・・・。 お互い全力を尽くして、このゲームを終わらせる。逃げるのではなく、俺達は終わらせる。この後見事廃校を破壊して、 この島から脱出する。方法はたくさんある・・・。浜辺にある小船を使うか、ここにあるトランシーバーで救助を呼ぶか。 それとも廃校に近づいてヘリを盗んで脱出するか。方法なんて幾らでもある。まずは鬼月がいる廃校を破壊する事が先決だ・・・」
 樹はいつもより長く、そして思い出深く語った。
 「樹?どうしたの?」
 天美はいつもの樹と何か違う事に気がついた。ここを離れたくないような、そんな感じに思えた。
 「よし。絶対脱出成功させるぞ!帰って長いサバイバルだったなと思えるように。このくそゲームに復讐だ!」
 「うん!」
 「よっしゃあ!」
 3人は輪になって普段より大きな声で叫んだ。お互い心臓がバクバクと音を立てて脅えているのは同じだった。成功か失敗か。もはや実行あるのみ。 樹、天美、兼光は1つになった。
 兼光を先頭に樹があとに続いて店の外に出る。樹はこの時、今頃伊藤達は既にハッキングを成功させ、首輪の外し方の情報を盗んでいると 思い、そして次なる行動のクラックも実行中だと考えていた。そのため制服の胸ポケットにはトランシーバーを入れていた。
 天美は兼光が戸を開けたのと同時に、店の隅に置いていたロケット花火を持って、棚に並んだ雑貨の中から100円ライターを取り出して 樹の後に続いた。
 「それじゃあ俺、行って来るぞ。行ってヘリを破壊すればいいんだな・・・」
 「ああ、頼んだぞ」
 兼光は雑貨屋の外に出るなり、スナイパーをしっかりと両手で持ち、急ぐようにしてF=5に向かって走って行った。見るからに全速力だ。
 「がんばれ・・・」
 側でいた天美が小さな声で呟いた。ここからF=5はかなりある。しかし一番そこが適していた。
 遠ざかる兼光の背中を見ながら、樹は天美に合図を送った。
 「天美、俺が近くに止めてある軽トラに乗り込む。その瞬間にこのロケット花火に火をつけてくれ・・・」
 「うん。わかった」
 樹は天美が抱いているロケット花火を指差して答えた。既に始まっている。答えはすぐ目の前・・・。
 雑貨屋の裏に回り軽トラを取りに行こうと駆け足で走った。夜ももうすぐ明ける。この軽トラをまずE=6の木々が少ない場所まで運転して、 その後乗り捨てればいい。樹は頭の中で行動を整理していた。
 そして雑貨屋の窓際に止めてあった軽トラに樹は乗り込んだ。それを見て天美がロケット花火を 地面が平たい場所に置き、100円ライターで花火の導火線に火を点けた。
 ――――これで終わる。すべて夢だと思えるように終える。死んでいったクラスメイトには申し訳ないが ゲームに乗らない人間の力を政府どもに見せつける事ができる――――
 「・・・・・」
 少しの沈黙の後、樹はアクセルに足を掛けた。その時だった。
 「ドン」
 それが始まりだった・・・・・。
 「銃声?」
 咄嗟にアクセルに掛けていた足を離した。まだエンジンは掛かっていない。が、先ほどの音は確かに銃声だった。
 その瞬間「ぴゅるるるるるるるるる、ドカーン」と花火が夜空に打ち上げられた。大輪の花は美しく虹色に夜空に舞った。
 しかし樹はそれ所ではなかった。銃声は近くで聞こえた。確かに銃声。しかもあの方向は・・・。急いで車から降りた樹は、 天美がいる雑貨屋の入り口付近へ全速力で走った。なにが、一体何があったんだ!
 「天美!」
 「樹!」
 「今の銃声聞いたか?」
 樹がそう訊くと、天美は黙って頷いた。あの方向・・・・。銃声がした方向は確かに兼光が走って行った方向だった。
 「ドン、ドン」
 又も爆音のような銃声が兼光が走って行った茂みの中から聞こえた。樹と天美は自分の銃をベルトの間から取り出し、片手に持ち構えた。
 「・・・・誰だ。誰がいるんだ・・・」
 まさかこんな事態になるとは・・・。樹は頭の中がパニックに陥った。武藤が死ぬわけ。死んでほしくない。一緒に逃げるんだ・・・この島から。
 そしてゆっくりと黒い影が2人の目の中に焼きついた。真っ暗な茂みの中から少し明るいライトの光がその人間の顔を捉えた。
 「・・・っき、木山・・・」
 茂みの中から出てきた人物は、鋭い視線でこちらを睨んでいる木山だ。どういうわけか、どんどんと樹達に近づいてくる。
 「くそっ」
 木山は樹の顔がはっきり見えるところまで来ると、ゆっくり片手に持ったキングコブラを向けてきた。それと同時にもう片手に持っていた ダブルイーグルの銃口も樹に向けてきた。
 「逃げろ・・・・」
 突然樹は天美に呟いた。しかし目線は木山を離さないでいた。食らいつくような視線で樹は木山を睨んでいる。
 「木山・・・もう殺し合いなんかやめ」
 その瞬間だった。一気に木山の持つ2つの拳銃が火を噴いた。
 「ドン!パンパン!」
 反射神経が動いて樹は体勢を低くしながら軽トラを止めてある方へ、全速力で走った。しかし、3,4歩足を前進させた時、 木山の銃が又も火を噴いた。
 「パンパンパンパン!」今度は先ほどよりも長く、そして樹の背中に数発の銃弾が当たった。浴びるような形で体内に埋め込まれる 銃弾が、樹の神経を狂わせた。
 「がはっ」
 足がぐにゃりと曲がり、その場で赤ん坊のようにばったりと倒れた。片手に持っていたオートマグUがその場に転がった。
 腕や背中が激しく痛んだ。もう死んでしまうのか・・・。しかし 最後の気力を振り絞って立ち上がる。
 更に木山の銃が「パンパン!ドンドン!」と火を噴き、樹の体は目的としていた軽トラの前まで吹っ飛んだ。
 大量の血が傷口から溢れた。「ぶはっ」と、樹は喉から通ってきた血液を地面に吐き捨てた。瞬間、天美の叫び声がした。
 「あああああああ」と叫んだ後、天美のデザートイーグル9oが「パァン」と火を噴いた。しかし木山は気にしないで樹の方に近寄ってくる。
 もう終わりだと思ったその時だった。茂みの中から走ってくる誰かの姿があった。「木山ぁぁぁぁぁ!」と紫の髪、銀のピアスの早名が茂みの中から 木山に向かい、片手に持ったウージーサブマシンガンを撃ちながら走ってくる。見るとなぜか早名の首には首輪がなかった。
 「ババババババババババババ」
 「パンパン、ドンドン!」と、木山の方も咄嗟に早名の姿に気がついて銃を撃つ。両手がぐいんぐいんと反動で動いていた。
 まるで戦場。まさに戦場。樹は血だらけの体を、痛みを堪えながら踏ん張ってその場に立ち上がらせた。もはや 体力が限界に達していた。木山を殺すのに残りの力を使うか。軽トラに使うか。頭がぐるぐると回った。
 樹の頭の中にあるコンピューターがピコピコと誤差動を起こし始める。残りメガバイト・・・・。あと1つのアプリケーションなら 起動できます。
 「ぐ・・・」
 よろよろで血だらけの体を引きずりながら、樹は軽トラを選んだ。すぐに軽トラに乗り込み、座席に座るなりエンジンを掛け、アクセルを力いっぱいに 踏んだ。もうこのままE=6まで行く事は無理だ。どんどんと樹の思考回路が崩れていき、考える力さえもなくなってくる。 もはや本能のみ。
 「ブオオオオオン」
 アクセル全開の軽トラは一気にスピードを上げて前進した。その音に木山と早名も何事かとちらっと振り向いたが、すぐにお互い茂みに隠れながら 銃の撃ち合いが続いた。
 「おおおおおおおおおお」
 車内で樹は思いっきり叫んだ。叫びながらこれほどまで出ないというまでアクセルを強く、強く踏んだ。すぐに目の前に聳え立つ大木が 目の前に見え、急いでハンドルを切った。――――このまま大木とおさらばなんて冗談じゃない。なら政府に反抗して死んでやる!!――――
 カーレースのように、樹は目の前の木々を避けて森林の中を走っていく。思ったよりスムーズに進んだ。遠くで廃校の頭が見えた。もうすぐ、 もうすぐで政府に痛い目をあわせてやる事ができる。この野郎。見ていろ!
 ゴンゴンとスムーズに進む軽トラとは別に、車内はぐらぐらと揺れていた。でこぼこした道がたくさんあるが、スピードが あまりにも速い為、衝撃があとから遅れてきた。この衝撃よりももう少し強い衝撃だったら、ここで軽トラに積んでおいた爆弾がドカンと爆発していただろう。
 どんどんと進んだ。もう目の前に廃校が見える。近くにはヘリやジープが何台も止まっている。あの廃校。あの廃校に突っ込めば・・・。
 「ばしゅ」
 そこで影野樹の思考回路が止まった。いや、強制終了されたと言うべきだろうか。車内の樹は見るも無残に首がめげていた。しかし 執念というものはすごく、ハンドルもアクセルも離す事はなかった。そのまま車は廃校に突っ込むと思われた。がしかし、 目の前に大木が現れた。いや、正確に言えば樹の手が動き、車が大きく斜めに動いた為だった。
 ハンドルを切ることもなく、そのまま軽トラは大木にぶつかった。その瞬間、眩いほどの光が森林を包んだ。夜空は一瞬にして 朝になったようになり、その後に大爆発音がした。

 ――――何もかも終わった。それでいいじゃないか。君は立派だよ。十分政府に反抗する事ができたよ。これでいい。 これでいいんだ。もう、思い残す事はない。・・・・さようなら自分――――

 見事廃校周辺の禁止エリアに入った樹は車の爆発と共に塵となって消えた。もはや無駄とも言えたその大爆発は小さな 抵抗として存在しただけだった。
 こうして脱出を試みた影野樹は死んだ・・・。
   

【残り14人】




第三部 終盤戦

   了

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