BATTLE ROYALE 外伝

第三部
終盤戦



48(ZAP)

  「やった!完成した・・・・」
 H=8の農協で、溜息混じりに何かを確信した。今までの疲れが体中にドッと出た。
 真司はこれまでにない最大の喜びを感じていた。例のハッキング&クラックのどちらにも作用するウイルス『EIZI』が今ここに完成した。
 これで首輪は外れる。これで脱出できる。これで鬼月に仕打ちができる。それと同時にここまでやった自分を褒め称えた。
 コンピューター表示画面は『EIZI』のテロップが表示されており、廃校に向けて放たれる通信欄も隅に表示されている。このまま 送信をクリックすれば自動的に廃校のメインサーバーのデータを喰い、電源をストップする。同時に喰ったデータはそのままこちらの 真司に送られる仕組みになっており、又そこから首輪の解除法を取り出す。とにかくこれで廃校の奴らは混乱する。
 真司は教室で殺された阿藤健二、そして生徒の為に最後まで反発した関優司。2人のことは決して忘れないだろう。そして鬼月。 あの人物は忘れようとも忘れない。殺すまでは・・・。ここまで自分達を地獄の電車を乗せてくれたのは鬼月一人ではない事は分かってる。しかし 鬼月のやり方は汚すぎる。常に相手を見下して、そしてすぐに血で解決しようとするとんでもないクレイジー野郎だ。
 目を閉じ、一度呼吸を整えた後、キーボードの隣に置いてあったトランシーバーを取った。赤い電源を押し、樹がいる雑貨屋と繋ぐ。
 「おーい、影野、聞こえるか〜?」
 反応はすぐには返ってこなかった。もう一度呼び出そうか思ったその時「伊藤か!聞こえてる、どうぞ・・・ガチャ」とトランシーバーからは 樹の声が聴こえてきた。それに対して真司は答えた。
 「影野聞いてくれ、たった今ハッキングシステム&クラックシステムを導入したウイルスが完成した。例の合図をよろしく頼む。どうぞ・・・ガチャ」
 一息置いて樹側も「分かった・・・。伊藤、ウイルス送信に少しだけ時間が掛かるだろ? それを踏まえて今から廃校に送信してくれ。すぐに花火を打ちあげるどうぞ・・・ガチャ」と返してきた。その音声の中に天美と兼光の 喜びにも似た声が聴こえた。
 「よし分かった。でもそれじゃあ花火は無駄な事じゃないのか?どうぞ・・・ガチャ」
 そう、真司にウイルスを送り、樹は脱出行動を同時にする為にと花火を合図代わりに打ち上げると知らされていた。だが先にこう言った形で 合図を出されると、花火は何の意味があるのか分からない。
 「いや、実は花火はある人間と約束の合図でもある。それに、 花火を見た生存者がこの雑貨屋に集まってくる可能性もある・・・どうぞ・・・ガチャ」
 樹はなにやら隠している。きっと誰かにあったのだろう。そしてその人物に合図として花火を打ち上げる事を言ったのだと真司は思った。
 「それはあぶないぞ、やる気の奴も来るかもしれないどうぞ・・・ガチャ」
 「俺もそれは考えている。だが廃校破壊は必ずやる。心配するな、いざとなれば武器もある・・・どうぞ・・・ガチャ」
 死を覚悟して言っている。そんな風にも真司は聴こえた。
 「・・・・そうか・・・わかった。じゃあ今からウイルスを送る。どうぞ・・・ガチャ」
 「了解・・・」
 樹の返事を聴いて真司はトランシーバーの電源を押して電源を切った。もう後戻りはできない。これは最後の切り札でもある。失敗すれば 終わりかも知れない、しかしここで引き下がるのはダメだ。ダメで元々。いつだってそこから希望が生まれてきた。
 真司はコンピューターのキーボードを叩いた。最後に『Y』を人差し指で叩いた。
 途端に画面に表示されていた2頭身のキャラクターは ランニングをやり始めた。実際走ってるわけでもなく、その場で足踏みをしているだけだ。たぶんこのキャラクターは真司の兄『栄治』本人だろう。 見ただけでは栄治と似ても似つかないキャラクターだが、今の真司にはとてもよく似ているように見えた。どこか懐かしい、そして頼りがいがあるキャラクター。絶対成功してくれる・・・。
 そのキャラクターの前面に送信済みと出たダイアログが表示され『20・・・30・・・40・・・50・・・』とウイルス『EIZI』が 送信されていく。60、70、80とパラメーターは表示して、90を超えた時、事件は起こった。
 『90・・・・98%・・・・・』98%から一向に送信が進まない。一気に真司は固まった。
 「うそだろ・・・」
 半泣きの真司は画面を真剣に見た。だが98%で止まったままだ。そんな馬鹿な。画面は止まってるわけでもなく、キャラクターはしっかりと足踏みをしている。 ビジー状態でもないようだ。 やはり自分に『EIZI』を使うのは無理なのだろうかと諦め掛けた。
 しかし何度反省しても送信済みは98%で止まっている。もうだめか・・・。
 「頼むよ・・・。動いてくれ・・・。頼むよ、兄さん・・・兄さん・・・」
 眉を歪め、必死になってコンピューターに発した言葉だった。真司は画面のウイルスを知らず知らずに兄と呼んでいた。縋る思いで必死に 叫んだ。「兄ちゃん・・・・」
 ふと昔真司が幼い頃に兄を『兄ちゃん』と呼んでいたように叫んだ瞬間だった。
 『98・・・99・・・100』
 不思議にも動いた。送信済みの数字は98を越え、99、100%まで行った。
 成功。『ウイルス送信完了』と画面には表示された。もはや諦めかけていた 真司の目が輝き出した。
 「・・・やった・・・やった・・・」
 何度もその言葉を繰り返していたその時、外で何かが聴こえた。
 「ぴゅるるるるる」「ドカーン」
 正しくそれは花火だった。咄嗟に真司は近くの窓から空を覗いた。見事に綺麗な虹色の花火が、空いっぱいに咲いていた。
 これで、脱出できる。
 こんなクソなプログラムは終わりを告げる。子供がどれだけ大人より優れているか見せる時が来たのだ。
 ふと、この成功を下にいる匠と昌二に報告しようと、ゆっくり部屋のドアに向かった時だった。
 「真司!早く来てくれ!昌二が!くそっ!」
 それは紛れもない匠の声だった。叫び声にも聞こえるその声は焦っているように思えた。とにかく下で何かが起こってるらしい。真司は コンピューターの側に置いてあったコルトガバメント45口径を取って、部屋のドアを開けて走った。
 部屋を出た真司は駆け足で走り、すぐに階段の所まで来た。階段を無視して飛び降りた。すぐに1階に辿り着いたが、足がじんじんと痛んだ。すぐに目の前の状況を確認する。そこで真司は見た。
 「ぐぐ・・・」と、痛々そうに昌二が右肩を押さえている。肩から血がぽたぽたと流れ落ちていた。 入り口であるドア付近には誰も居なく、その先の足膝まで生えている茂みの中で、 匠は昌二の前方に立つ誰かに南部14式リボルバーを向けていた。
 すぐに真司は匠から前方に視界を動かした。そう、茂みの所に佇む人間、がっちりした体、片手に鮮血がついた刀。顔は狂っているように 匠を一点張りに見つめている。
 「山本!その刀を捨てないと殺すぞ!」
 匠は南部14式リボルバーを更に正樹に威嚇した。本気で撃つ気らしい。昌二の怪我で混乱しているのかも知れない。相手は敵。しかし分かっている。これは 正当防衛。たとえ人殺しでもクラスメイト。そんなに仲は良くないが、同じ友達。でも。
 「し、匠!これは一体・・・」
 真司は匠の近くまで駆け寄った。足元の草がちくちくして痒い。数メートル先には山本正樹が狂犬のように、今にも飛びかかって来そうだ。
 真司の声に一瞬、匠が振り向いた時だった。
 「ザッザッザッ」と、刀を肩まで上げたままの正樹が、ゆっくりこちらに歩いて来た。真司は咄嗟にコルトガバメント45口径を構えた。
 「匠、あいつ本当に山本なのか?それに昌二・・・まさか・・・」
 「ああ、突然茂みの中から出て来たんだ。それで説得を試みた昌二が肩を斬られた。状況は単純だ!あいつは敵!人殺しだ!」
 興奮が収まらない匠だが、今は真司も同じだった。お互い銃を構えているが一向に撃たない。どんどんと距離を縮める正樹。と、その時だった。
 「バン!」
 センチメーターマスターの銃口が火を噴いた。それは先ほどまで肩を押さえていた昌二が、センチメーターマスターを 正樹に向かって撃った瞬間だった。突然のことで真司と匠は昌二を見つめた。
 「・・・・」
 しかし前方の正樹は一度体を揺らめかせただけで、倒れもしない。況してや血が吹き出ていない。これはどういう訳なのだろうか。その 衝撃のおかげで正樹は突如にして走って来た。狂犬が襲う瞬間。同時に真司は2人に指示を出した。
 「匠!昌二!山本を囲め!」
 真司の言葉を聞いたその瞬間、匠は正樹の右側に走って周り、昌二は左側に走って周った。正樹を中心に真司達は三角形に陣を作った。
 「構えろ!」
 目の前に正樹の刀が真司に飛んでくる。しかし真司は号令のように指示を2人に出した。咄嗟に匠も昌二も銃を正樹に構えた。真司も真正面から くる正樹に恐怖を感じながら、コルトガバメント45口径を構えた。
 そして「撃て!」の真司の号令で周囲に無数の銃声が響いた。
 「パンパンパン・・・」
 「バンバンバン・・・」
 「パァンパァンパァン・・・」
 三角形に囲んだ角からは無数の銃弾が正樹に向かって飛んだ。真司に向かって刀を振り下ろそうとしていた正樹は、体をぐにゃぐにゃと 捻らせ、おどるように三角形の中心に吹っ飛んだ。右に吹っ飛ぶ。しかし右からの銃弾により、左に体が飛ばされ、左からも又銃弾が 正樹の体にあたり、今度は前に飛ばされる。しかし目の前に飛んでくる銃弾にあたり、今度は後ろに飛ばされるが、やはり両側の 銃弾によって倒れるに倒れなかった。
 「カチッカチッ」といっせいに3人の銃弾は切れた。途端にバタンとその場に倒れ込んだ正樹は、まだ刀を握っている。次に備えて真司は 「みんな弾を詰めろ!」と指示を出す。
 3人ともポケットから弾を取り出してマガジンに詰める。しかしその瞬間、「ぐおおお!」という猛獣の叫び声が正樹の体から発せられた。
 正樹は膝立ちで立ち上がり、持っていた刀を突きたてて昌二に向かって突進した。いや、ジャンプしたと言っても過言ではない。
 「ぶしゅう」と鈍い音と共に、昌二の腹に正樹が刀を突き刺した。「ぐふぁ」と口から血が噴出し、昌二は咄嗟に弾を詰めていたセンチメーターマスター をその場に落とし、正樹の背中を両手でぎゅっと掴んだ。しかし正樹は更に力を入れた。
 「ぐしゃ」と、又も鈍い音が農協周辺でしたその時、真司は目を丸くして止まっていた。昌二に突き刺した刀は 腹を突き抜け、背中には銀色で真っ赤な鮮血が大量についた刀が飛び出していた。
 「ズブブ」と、音を立てながら正樹は刀を昌二の腹から抜いた。「ブシャ」と引き抜かれた腹からは血がシャワーとなって噴射した後、 どぼどぼとボトルから出る液体のように血が地面に流れ落ちた。同時に昌二もそのまま前のめりに倒れた。
 「う、うわあああ」
 弾を詰め終えたマガジンを南部14式リボルバーにセットして、匠はすかさずトリガーを正樹に向けて引いた。
 だが近距離の為、不思議にも正樹は昌二にした事と同様に刀を突き立てた。その瞬間匠が撃った銃弾と同時に、正樹は刀を 匠に向かって投げた。
 「パァン」
 「ブシュッ」
 同時に音はハーモニーとなって奏でた。銃弾は正樹の腹に命中した。既に血だらけの体に更に穴が開いた。と、一方正樹の投げた刀は 見事に匠の腹に突き刺さり、匠は自分の腹に突き刺さった刀を驚きながら見た後、眉を歪め、もう一発正樹に銃を向けて撃とうとした。だが、 そのまま正樹にポイントしたままドサリと後ろに倒れた。
 一瞬にして目の前が血の海となり、真司は放心状態になっていた。目の前にはまだ正樹が立っている。
 正樹は匠に突き刺した刀を安易に抜く。又も鈍い音が響いた。そして制服のボタンを外し、制服をその場で脱ぎ捨てた。
 「くくく・・・。後はお前だけだ。死こそ人間の価値が出るもの。俺には殺人医師のバルザック・エイバーが憑いている。俺は 無敵だ・・・くくくく・・・」
 顔中返り血を浴び、血だらけの正樹は正気を既に失っており、気味悪い笑い声を出して笑っている。途端に真司の目の前にある物が映った。
 それは正樹の体に巻きつけられた木の板だった。とても頑丈そうなのだが、あれだけの銃弾を喰らってしまっている為、蜂の巣のように穴が開いており、 所々割れ目が入っている。木の板は下腹部だけであり、その他は本当に銃弾をまともに喰らっている。何と言う事だ。真司は一瞬にして凍りついた。 もう弾は詰め終わっている。あとは引き金を引くだけなのだが、なぜか動かない。恐怖で全く体が動かない。
 「それじゃあ死んでもらおう。最後に一言だけ言わせてやる・・・」
 正樹が言ったその瞬間、突然倒れていた匠が立ち上がり、後ろから正樹を雁字搦めに掴んだ。まるで自分に爆弾が仕掛けてあるかのように。
 「う、撃てぇぇぇぇ・・・。へへ・・・。ここだぞ・・・真司、ここ、ここを狙えよ!!」
 匠は正樹の脇を掴み、片方の手は正樹の額に手を当てた。そしてその手は正樹の首へと周った。必死に正樹はもがく。だが暴れようとするときつく、そして 匠は苦しそうな顔付きで真司を睨んだ。口から大量を血を吐いている。正樹の髪に吐血が付着している。
 「撃て・・・俺はいいから・・・。撃てぇぇぇ!」
 死ぬ前の人間というものは不思議と分かる。自分にお迎えが来ていると。そしてその間際、人間はなにか人の為にできないか考える。 もう自分は死ぬ。だからせめて親友、家族にしてやりたい・・・・。
 「あ・・・あ・・・」
 真司は匠の苦しそうな表情と、その瞳の奥底に見える真剣な眼差しに押された。
 ――――早く撃て。俺諸共山本を殺してくれ。 今残りの体力を残しながら死ぬより、お前の役に立って死んだほうがいい――――
 真司はそっと、コルトガバメント45口径を正樹の額にポイントした。もがく正樹に匠はしっかりと捕まえて離そうとしない。
                  ――――真司・・・俺と昌二は親友だよな――――
            ――――だったらできるよな・・・。親友の、最後の頼み・・・。聞いて、くれるよな――――
                          「バン」
                        夜空に一発の銃声が響いた。
 その時、遠くの方で夜空は光で被われ、大きな爆発音が聞こえたが、今の真司は振り向く事はない。
 「うう、ううう・・・・」
 その場に・・・真司は泣き崩れた。とてつもなく熱い涙が毀れた。
 それは今までの友情を揉み消すタバコの火のように熱く・・・・。
              ――――なあ、俺たち親友だよな。ずっと、ずうっと・・・――――
     

【残り11人】




第三部 終盤戦

   了

Now 11 students remaining......

トップへ


[PR]湘南美容外科で働きませんか?:全国19院。医師、看護師ほか募集中