第四部
フィニッシュ
49
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「ぴーぴーぴー」
鬼月がいる廃校の一室は緊急事態に直面していた。椅子から立ち上がり、唖然と佇んでいる。
部屋にいる専守防衛軍兵士達は慌てふためき、廊下にいた兵士達もが何事かと覗きに来ていた。
各兵士達が見ているコンピューターには赤い字で『WARNING』と表示され
たまま画面が停止していた。一方白衣を着た男達は
大きな装置を弄繰り回し、頭を抱えていた。
「ビービービー」
「どうした!」
「ハッキングです!」
鬼月は兵士の答えに戸惑った。「何?ハッキングだと?」
「緊急事態発生、メインコンピューターに侵入あり、データが何者かによって削除されていきます。
全データがロックできません!」
「データが農協に転送されてます!」
メインコンピュターと呼ばれる大きな装置に佇む白衣の男達の隣で、キーボードをそろばんのように叩いている男が叫んだ。一方
各コンピューターのブラウザをみつめていた兵士もキーボードを何度か叩いているが、全くと言っていいほどコンピューターは反応しない。
「どういう事だ!状況を簡単に説明しろ!おい、冴霜!どういう事だ!」
鬼月は教室内での出来事に混乱している。突然の出来事。コンピューターなど触った事もない鬼月には理解不能だった。
「あーうるさい!ハッキングだよ!誰かが農協からウイルスをここに送ってきやがったんだよ!くそっ、それにクラック機能まで・・・。
どういう事だ!ハッキングとクラックの作用を持つウイルスなんて・・・」
冴霜は兵士達と同じ様に画面を睨みながらキーボードを叩いている。見るも無残に画面は一向に反応を示していない。
「龍一!メインコンピューターがどうなってるんだ!」
鬼月は大きな装置の側にいた龍一と呼ぶその兵士に叫んだ。だが龍一は鬼月には見向きもせず、停止したコンピューターと闘う兵士達に呼びかけた。
「おい!誰かウイルス侵入を食い止めれないのか!」
龍一の言葉に一人の兵士が、「だめです!コンピューターが完全にフリーズしています。それになぜかウイルス侵入防止システムが作動しません!」
メインコンピューターと呼ばれる大きな装置の画面には、あの真司が廃校に送りつけた『EIZI』のキャラクターが足踏みをしている。笑顔のそのキャラクター
はなぜか怖い。
「なんだと?防止システムが作動しないだと?じ、じゃあ第二管理コンピューターは?」
龍一の言葉に、今度は窓際に設置されていたコンピューターに向かう一人の髪の長い男が答えた。
「第二管理システムもウイルスによってすべてフリーズされてます。一切何もできません!」
「じゃあどうすればいいんだ!黒谷!」
焦る龍一は長い髪の兵士に叫んだ。黒谷と呼ばれた一見オタク風の兵士は焦りながらも必死にキーボードを叩いている。
「メインコンューターが作動しないのであればすべてのコンピューターが作動しないんです!おい、そっちはどうだ!」
その瞬間、部屋中の兵士が叫び始めた。
「ああ!管理モニターがアウトしました!」
「ファイルが完全消去しました!」
「ウイルスプロセス測定不能!」
「転送パーセント90を超えました!」
一斉に叫ぶ兵士達の声は部屋中に響き渡った。どうにかしなければと各兵士がもがいている。どのコンピューターも画面は動いていない。ただ『EIZI』
のキャラクターだけが画面上に笑顔で足踏みをしているだけだった。
「ちくしょう。農協にいる奴は誰だ!」
鬼月は机に置かれた紙を数枚手に取りながら兵士に聞いた。「農協には男子二番伊藤真司がいました!その近くには男子三番宇喜多昌二、
男子九番佐藤匠がいます!」
「盗聴記録にもハッキングをすることを発言しています!」
周りが慌てふためく中、手に取った紙を鬼月は机に戻し、ポケットからタバコを取り出した。
「再起動だ。再起動。それしかない」
幾ら触った事もない鬼月だとは言え、再起動やコンピューターの常識的なことは知っていた。しかしその言葉に部屋中の兵士達が黙り込んだ。
「鬼月教官、再起動すれば禁止エリアが初期状態に戻ります。ですので現在の禁止エリアがすべて解除という形になります。
禁止エリアは既にコンピューターの自動となっているので今までの禁止エリアを再起動してから操作するには多少の時間が掛かります」
鬼月の元に駆け寄ってきた一人の兵士が答えた。見た感じ何かと落着いている。目がきりっとしていて、頭が良さそうな顔付きだ。秀才の言葉が似合う鬼月とは180度違う人間だ。
「操作するのにどれぐらい掛かる?」
「はい、早くて3時間、遅くても5時間程度です」
「なんだとぉ?」
再起動すればすべて最初からになってしまう。初期化するには最適だが、今の状況では不利と言う事になる。禁止エリアもそうだが、
再起動するとなると死亡確認ができない。鬼月はそれが心配だった。
「再起動すると禁止エリアだけでなく、首輪への電波発信とか死亡確認が一時的にできなくなるんじゃないか?」
「はい。そうです。しかし今の状況では・・・」
今の状況では、再起動しても完全に復旧できない可能性が高い。
そしてこの予想外の事態でプログラムは中止にして、
生徒全員を強制処刑にすることになる・・・と言いたかったが
喉近くの寸前で止めておいた。
一方まだコンピューターと闘う冴霜が鬼月たちの会話を聞いて答えた。
「死亡確認は再起動してからでもできる。首輪を着けている限りな・・・。それと1つ気になるのが、この不思議なウイルスが、
本当に再起動だけでいいのかと言う事だ。感染している上、どのコンピューターも作動しない。と言う事は再起動してもコンピューター内に
ウイルスがいたとしたら又同じ繰り返しだ!」
「じゃあどうすればいいんだよ!」
叫ぶように鬼月は返事をした。最悪な状況の中、その時部屋の隅に置かれたダンボールに目をつけた兵士がいた。
「あ!」と叫ぶなりその兵士はダンボールに駆け寄り、箱からなにやら黒い物体を出してきた。
「なんだそれ?」
「起動DISCです。最低限の起動ができるデータが入っています。それにウイルス探索削除システムも導入しています。たぶんこれで・・」
その言葉に兵士達はざわつき始めた。「貸せ」とそこに冴霜が兵士からDISCを奪った。冴霜はそのDISCと共にコンピューターのありとあらゆる
ケーブルを切断してメインコンピューターの前に引っ張って来た。それから一台のコンピューターにケーブルを何本も繋げ、メインコンピューターの
方にも繋げる。
「冴霜、一体何してるんだ?」
鬼月の言葉は無視しながら淡々と冴霜は一人で作業していく。動かない画面のコンピューターの隣にあるドライブ装置に手を伸ばす。そのまま
ドライブ装置に兵士から奪ったDISCを投入して、一台のコンピューターとメインコンピュータを再起動した。
「冴霜、メインコンピューター再起動してしまっていいのかよ!」
鬼月を尻目に冴霜は淡々と作業を進めていく。周りの兵士達も固唾を飲んで見守っている。
「・・・・できた」
数分で一台のコンピューターが完全に起動し、メインコンピューターの方も起動した。「あとはデータを入れるだけだ」と
冴霜はコンピューターのキーボードを叩き始め、DISCのデータをコンピューターにインストールした。
「ふぅ、これでDISCのデータをメインコンピューターに送れば通常の起動になる。再起動してもウイルスが動いたらどうしようかと思ったけど、
それはなさそうだな。まあ所詮厨房のあがきに過ぎない。あとは今までのプリントアウトしたデータをこのメインに又書き込めばいいだろう」
「さすが冴霜!」
余裕の表情を見せる冴霜に向かって安心した鬼月や兵士達は冴霜の名を呼んだ。「さすが」「すごい」「やりますね」
「さあ、お前らも再起動してデータをやり直し書き換えてくれ」
冴霜の言葉に一斉に兵士達がコンピューターに向かって再起動していく。
「それにしてもなんというウイルスだったんだ・・・」
ぼそっと呟いた言葉に鬼月が反応した。「どうかしたか?」と訊いたが、冴霜は「なんでもない、データは既に農協に行ってる可能性が高いから
何かと情報が洩れてやばいなって言ったんだよ」と口答えするかのように答える。
一番にデータを再生させたのはオタクっぽい長い髪の兵士だった。「鬼月教官!大変です、MAP上に現在11人。しかし心臓パルスのモニターには
映っていない人間がいます!」
「なに?どういう事だ?」
すぐに咥えていたタバコをその場に捨て、鬼月はオタク兵士の元に駆け寄った。周囲もその言葉に気にしながら復旧作業をしている。
「ええ、確かに11人と表示されてるんですが、一人だけ心臓パルスが表示されない人間がいるんです」
「死んでるんじゃないか?再起動したばっかりだからまだ、コンピューターもおかしいんじゃねーの?」
鬼月は画面に表示されている地図を見ながら言った。確かに画面の隅の総合人数として表示してある数が『11』となっている。
しかし全生徒の名前を表示してある
部分には生存を示す緑色の人間が10人。死んだ赤色の字が逆に1人多かった。
「死んでる可能性は低いです。それはもしかして男子11番の早名誠ではないでしょうか?」と、
鬼月の背後から背の高い兵士が紙を数枚持って近づいてきた。
「早名?早名ってあの岡山の優勝者のか?」
「はい。ウイルス侵入時の時刻から現在の時刻はそんなに経ってません。死んだとしたら総合人数が10人と表示されてるはずですし、あの早名は
噂高い優勝者の集会で首輪の外し方を知ってるとか聞いた事があります」
画面の名前には早名誠の名前の字は赤く染まっていた。つまり死んでいると言う事。だが、過去にはまだ死んだ形跡がない。
「メインコンピューター復旧しました。98%でコンピューターは起動します。及びウイルス侵入防止システムレベル最大値MAXに設定しました」
大きな装置の側にいた白衣の人間が鬼月の方に向かって言った。しかし鬼月の返事を聞くこともなく、隣にいた背の高い兵士は「衛生カメラで
早名誠を探してくれ、生命反応をかけて調べてくれよ」と、素早く口を開いた。それに対して了解とメインコンピューター側の白衣たちはポチポチと
ボタンを押している。
「ただ今衛生カメラEMP感知しているは10人。生命反応11人でました。EMP反応がない生命反応がある場所を表示します」
「よし」
鬼月と背の高い兵士、側でいた兵士数人がメインコンピューターに近づき、大きな画面の前で表示されるのを待った。
「ピコン」と音をたて、映像が画面に表示される。会場地図の雑貨屋側の森林。そこには1つの赤いアイコンがあった。
勿論その首にはなにもつけていない。
「あっ、生きてる・・・」
一人の兵士の言葉で、一斉に部屋中の兵士達が画面に直視した。早名の映像はないが、首輪を着けてない人間を示すアイコンが映し出されている。コンピューター上では死んでるはずの、早名と思われる人間が動いているのだ。
「やはり首輪を外したか・・・・。それで、早名誠の首輪は何処にある?」
背の高い兵士がメインコンピューターの側でいた白衣の人間に訊くと、白衣の人間はまたボタンを色々押した。
「発見しました。早名誠がつけていたと思われるガダルカナルは現在C=6、禁止エリアの中にあります!」
「それじゃあ大分前に外したのか・・・。それともハッキングされている間か・・・」
鬼月は画面を見ながら呟いた。完全防水、耐ショックのガダルカナルがそこ等辺のガキに外せる訳がない・・・。そう思いながらじっと鬼月は
画面を見ていた。
「どうします鬼月教官?兵士を早名の所まで送りますか?それともヘリを使ってて始末いたしますか?」
兵士の問いに鬼月は首を振った。
「馬鹿やろう、ルール上俺たちはプログラム終了までここから出ることは禁止されてるんだ。それにこのプログラムの醍醐味は
生徒同士の殺し合いだ。俺たちが殺したら何の意味もなくなるじゃねえか。緊急事態とは言え、まだ大丈夫だ・・・。たとえ逃げようと海に出ても
見張りの船が4船いる。しばらくは様子を見よう・・・」
「・・・了解・・・」
その瞬間、外では「ピュードン」と花火が上がる音がした。それで部屋中の兵士が又も騒ぎ始めた。
「花火?銃声か?」
「銃声なはずない、あんな大きな音。北東の方からだな・・・」
「誰か外に出て見ろ!」
すぐに廊下にいた数人の防衛軍兵士が駆け足で廃校の外に出て行く。その後ろ姿を心配そうに鬼月は見ていた。
しかしすぐに兵士から「花火です」との報告があったあと、又も北東の方で大きな爆発音が聞こえてきた。
今度は何事かと鬼月も廃校の外に出た。廃校を囲んだ森林の中から上空に向かってそこには黒い煙が立ち昇り、木々が悲鳴を上げながら燃えているのが
見えた。なにやら様々な部品が廃校近くまで散らばっている。鬼月はそれを見て一言呟いた。
「クソ野郎共が!好き勝手やりやがって!」
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