BATTLE ROYALE 外伝

第四部
フィニッシュ



50

 「ぴゅるるるる・・・・ドーン」
 「花火・・・?」
 虹色に散る花びらに一は立ちすくんだ。集落から数キロ、C=6の森林の中で一はつくしと共に行動をしていた。
 「なんで花火なんか・・・」
 つくしも一同様に、空にあがる花火に見惚れていた。それは綺麗な虹色の花火。というだけではなく、ここからすぐ近くだった事も含めてだ。どこかワクワクした期待感がつくしを興奮させた。
 「ここから近くだな・・・と、とにかくあの花火があがった方は雑貨屋辺りだ。誰かの助けの合図かもしれない・・・」
 「待って」
 徐にポケットに入れていた地図を出して確認していた一は、すぐに雑貨屋の方に足を進めたが、ふいにつくしは一を止めた。
 「何?」
 一は足を一歩踏み出したまま止まり、後ろにいたつくしの方に振り返った。もしや危険だからやめようとか言うんじゃないか、という心配が 一には少なからずあった。花火があがった場所は本当にすぐ近くだ。行けば危険かもしれないが、一には森林にお世話になっていた事もあった。周りは 緑でいっぱい。暗い。自然が溢れているが一には苦い思い出がある。兎にも角にもこんな所から早く脱出したい、 早く建物の中に入りたいという気持ちでいっぱいだった。
 「待ってよ、ここから近いのは分かったわ。けど、誰かがおとりであげた花火だったらどうするの?」
 つくしは花火はSOSではなく、おびき寄せる罠だと言いたいらしい。
 「そ、それは・・・・。それはそうかもしれない。けど今は信じる事が大切だよ、牧野さん。第一ここは森林だよ。 隠れて覗けば危険な時も相手に気付かれずに逃げる事だってできるじゃないか。ようは前進あるのみだよ」
 一はやさしく、そしてつくしの機嫌を気遣いながら言葉を選んだ。少し強く言い過ぎたかもしれないと内心後悔している。
 「・・・うん、分かった。でも、でも本城君、誰がやる気で誰がゲームに乗っていない人間かどう判断するの?覗いて見ただけじゃ わかんないと思うけど・・・」
 つくしの不安そうな表情に最初は見惚れていた一だったが、ここまでくると可愛い妹のようにも思える。
 「・・・そうか・・・」
 内心話を殆ど聞いてなかった。しかしつくしは雑貨屋の方に行く事を嫌がっていることは確かだ。
 「よし分かった。僕一人偵察に行って来るよ。その間牧野さんはここで待ってて」
 またも一が前進したときに「待って」と、またもつくしの声が背後から聞こえた。今度は泣きそうな声だった為、一は本当に心配になって 後ろを振り向いた。
 「何?」
 「一人になるのはいやっ・・・。私怖いよ・・・。お願い、私も行くから、私もついて行くから一緒にいて・・・お願い」
 お願いされたら断れない性格。一は自分に腹が立った。お人よしで学級委員に選ばれ、お人よしでみんなから好かれた。今回もお人よしで みんなと逸れた。精神はボロボロ。そんな時につくしの顔は一の心を癒してくれた。どんどん引き込まれていきそうなかわいい顔。守ってやりたい象徴的な人間だ。
 「うん、それじゃあ行こう。でも、い、言っておくけど、僕はロリコンではないよ・・・」
 その時咄嗟に付足してしまったある言葉に一は驚いた。自分の発言に自分で驚くのは可笑しなことだろう。しかし今は頭で考えている事と喋っている 事がよく分からなくなっているぐらい、一の精神はボロボロになっていた。思わず冷や汗をかいた一はつくしがどういう反応をするかじっと見た。
 「・・・・え?ロリコン?なあにそれ?」
 思わず硬い表情が笑顔になり、くすくす笑うつくしを見て一は安心した。ロリコンを知らない人間もいるんだとこのときばかりは神に 感謝した。
 「よし、急ごう」
 一はつくしのペースに合わせて歩き出した。足に纏わりついた泥や千切れ草。シューズと呼べない靴はぼろぼろ。しかしそれも気にしないで 目の前に見える細い道を一を先頭にゆっくり歩く。
 どうやら先ほどまでいた森林から雑貨屋までは距離がないらしく、すぐに雑貨屋の小さな屋根が見え、更には広場のように大きな道がある場所に 出た。
 森林を抜けて出た場所からは雑貨屋の壁が見えており、窓はカーテンが閉まっている。だがそこから灯が洩れていた。確かに誰かいる。誰かが花火をここから あげたんだ。と、少し体勢を低くして忍び足で一とつくしは雑貨屋正面に周った。万が一の為に大木から大木に身を隠しながら走った。
 その瞬間「ドン」という低い銃声が聴こえた。銃声のする方向には誰もいない。いや、見えない。一は目を元の位置に戻し、雑貨屋の正面を見た。 そこにいたある人物を一は見つけた。
 「神楽・・・」
 一が呟く前に背後でいたつくしが喋った。なぜかその言葉には「さん」がなく「天美」とも呼ばないつくしに、一は何かを感じた。
 「うん、神楽さんだ・・・」
 よく見ると、天美は一達と同じく銃声があった方を見ていた。天美の足元にはロケット花火と思われる筒が置かれていた。一人なのだろうかと 一は天美から目を離さなかったが、その時雑貨屋の角から誰かが天子に走ってくるのが見えた。
 「・・・樹っ・・・」
 一は視界に映った人物を凝視した。そう、その人物は正しくずっと探していた影野樹本人だった。 一方的な再会だが、一には凄く懐かしい顔に見えた。見た感じ何かを天美と話しているらしい。
 久しぶりに見た樹の顔は いつもと変らず頼りがいのある真剣な顔付きだ。思わず身を乗り出して樹を呼んだ。
 「おーい」
 一の声と同時に「ドンドン」とまたも島全体に響き渡る低い銃声が聴こえた。いや、銃声の方が少しだけ速かった為、一の声は掻き消された。
 「・・・」
 一は樹から銃声がした方向へ目を向けた。また何もないかと思ったが、暗い茂みの中に動く何かがあった。それは徐々に姿を露わにしていき、 あの忌々しい顔が一には映った。
 「きっ、木山・・・あいつ・・・!」
 そこには鋭い視線で雑貨屋にいる樹を睨む、あの一の親友と呼べる野ノ久敬二を殺した木山の姿があった。手には二丁の拳銃が握られている。
 一と木山の距離は走っても4,30メートルぐらいだった。やられると思ったのか、それともただの恐怖なのか、一は近づけなかった。
 樹が木山に向かって「木山・・・もう殺し合いなんかやめ・・・」と、言った瞬間に雑貨屋の空気が変わった。
 「ドン!パンパン!」と木山の持つ2つの拳銃から火が噴出した。――――あぶない!――――心の中だけは樹の所まで助けに行っていた。だが 思うように体が動かない。仁王立ちのまま一は樹と木山の対戦を見ていた。
 瞬時に樹は体を低くして角の向こうへ逃げたらしく、一の視界からは消えた。やばい、撃たれたのか。逃げたのか。一抹の不安が過ぎった。
 「パンパンパンパン!」
 「パンパン!ドンドン!」
 木山はゆっくりと一からは見えない樹に向かって銃を撃っている。何度も何度も引き金を引いて。その直後に「パァン」と、天美が木山に 持っていた銃を向けて撃った。だが木山は気にもしないで一の視界から消えようとしていた。勿論というのだろうか天美の 撃った弾は見事に茂みの奥へと消えた。
 その時に、木山が出てきた茂みの中から マシンガンを持った男が乱射しながら走ってくるのが見えた。それが誰かは分からないが、一瞬見ただけじゃやる気の人間にしか見えない。
 手に持ったファマス5がその時唸った。一以外の人は聞こえないだろうが、確かに叫び、唸った。そして静かに低い暗闇の底から話し掛ける声が聞こえた。
 『お前は助けないのか?俺を使わないのか?人を 殺す物をお前は持っているんだ。それともなんだ?アクセサリー気分でつけてるのか?そりゃあ笑えない冗談だぜ、兄貴。お人よしと思われていた お前を今ここで変えるチャンスだ。さあ、俺はお前に従う。ここにいる全員を殺すか、それともお前の友達を助ける為に木山を殺すか。本心で 選べ』
 「俺は・・・俺は友達を助ける!木山を・・・殺す!」
 ガサッと一は手に持ったファマス5を握り締めて、体を完全に草木から出した。そして木山がいる方へ走り出そうとした時だった。
 「貴方は無理よ。友達なんて仮面を被った偽善者よ。いつかは裏切るの・・・」
 スッと一のベルトから何かが抜けた。先ほどまであった敬二の形見ともいえるジグ・ザウエルP230 9oの重さは残っている。と言う事は・・・。
 「牧野!」咄嗟に背後にいたつくしに牙を向けた。包丁を抜き取られた一は少し距離を置いてファマス5をつくしがいる背後に構えた。だが、そうはいかなかった。
 「シュッ」と切れ味のよい空気を切る音が一の耳に聴こえてきた時には、ファマス5を持った手の甲がつくしの振り下ろした包丁によって切り裂かれていた。 何と言う速さだと言わんばかりに傷口からは血が滲み、痛みも早かった。
 「ひっ」
 反射的に痛みで傷ついた左手を右手で抑えた。ぱっと落としたファマス5は無残にも一の足元に落ちた。つくしの攻撃はそれで終わるはずがなかった。
 「騙したな!」
 一は怒りのあまり手を抑えながらつくしの顔を見た。――――笑ってやがる――――それが最後の考えだった。
 「ドムッ」と鈍い音が下半身に伝わった。大きく一歩踏み出したつくしは一の股間を捕らえていた。
 思いっきりのつくしの蹴りが一の股間にあたり、一は口をばぁっと開き、すぐに下腹部中心に急激な痛みがきた。
 ようこそ痛みちゃんと言わんばかりに男特有の睾丸、軽く言えば金の玉。潰れていたかもしれないが一にはそんな余裕がなかった。「はぐっ」と 痛みを我慢したが無駄で終わり、その場にドサリと股間を押さえたまま倒れた。
 蹲った一につくしはゆっくりと近づき、包丁を持っていない左手で一のベルトを触り始めた。なにをする気かと思ったが、ベルトに掛かる重さが軽くなった 事から一にはぴんと来た。とてもではないけど目を開けてられない。が、つくしが取ったのは紛れもなく敬二の形見、ジグ・ザウエルP230 9oだと・・・。
 ――――それだけは・・・・それだけはやめてくれ・・・返してくれ、牧野――――
 つくしは一からジグ・ザウエルP230 9oを毟り取ると独り言のように上から「神楽・・・あんたが先よ」と、言うのが耳に被さる様に聞こえた。そして 必死に痛みを堪え、叫び声を噛み殺す一の耳元でつくしが囁いた。
 「残念だったわね本城君。もう少し一緒にいられると思ったのに。あなたはいい人よ。これ本当。だけどね、 私思ったの、あの集落であなたがよろめきながら一軒の家に入っていく所を見て、 こいつかなり精神ズタズタだなぁ・・・利用できそうだなぁってね。鍵もかけないで無用心な所から貴方って本当に利用されやすいお人よしね」
 ――――やめてくれ。俺をお人よしと呼ぶな!俺は傲慢で短気で頼りがいのある男なんだ――――そう一は頭の中で叫び声と共に叫んだ。
 「私はね本城君。お人よしの人は好きよ・・・。でも貴方のような人はこんなゲームには向いていないわ・・・向いているのは・・・」 つくしは次の瞬間怖いくらいの暗くて冷たい声で言った。「私よ」と。
 

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