BATTLE ROYALE 外伝

第四部
フィニッシュ



51

 「花火?」
 午前3時30分。B=5の森林では椎名瑞希と堀川美菜子が夜空を見上げていた。
 花火のようでそうでないような。一体なんなのだろうか。そして誰が・・・。
 暗い茂みの中、ぽつりぽつりと設置されているスタンドライトの近くで二人は休憩していた。
 午後10時に姫城由紀に二人は襲撃されたが、由紀は瑞希の手によって殺害。だが由紀の放つ銃弾が美菜子の 右肩にヒットし、今は修学旅行用のカバンに入っていたTシャツを包帯代わりに肩に縛っている。止血にはなったようだが、 痛みはまだあるらしく時々苦痛の表情を浮かべる。瑞希の方はとくにこれという怪我はなく、途中どこかで擦りむいた跡などが 腕にかさぶたとして残っていたぐらいだ。
 「花火・・・。あれ本物かな・・・」
 夜空に咲き散る、大輪の花弁を見つめていた美菜子が不意に喋った。目線はじっと花火に集中している。
 「・・・どうだろう・・・」
 ちらっと瑞希は美菜子の横顔を見た。その顔は幼い少女のようで、夢を見ているといった感じだ。瑞希にはそれが羨ましかった。夢がある。こんなにも 花火を見ただけで瞳が輝いている。しかも今は死と隣り合わせのゲームの最中。どうやればこんなにも素直な顔ができるのだろうかと瑞希は思いながら、 美菜子同様に再び空にあがった花火に目をやる。
 しかし花火も空から消え。再び嫌な沈黙が流れた。
 「あのね椎名さん・・・」
 美菜子は自分の靴の先端を見つめながら問い掛けた。とても悲しそうで、とても寂しそうな表情に少々瑞希は嫌な予感を感じた。
 「何?」
 瑞希が答えたその時だった。
 「ドドーーーン」
 花火があがった方から大きな爆発音が響いた。その後に少し地面が揺れた。後から後から先ほどよりも小さな爆発音が幾つも聴こえて来る。
 「きゃぁ」
 美菜子はその場でしゃがんだ。しかし瑞希はがっしりと立ち尽くしていた。実際の所瑞希は脅え、震えそうな体を必死に抑えていた。
 ――――くっ、一体なんなの!何が起こってるの・・・。もう嫌――――
 強がるだけならまだいい。度胸を高める為に人間は様々な行動をとる。たとえそれがどんな場所でも。
 「堀川さん。行きましょう。あそこへ」
 爆発音は止み、空には忌々しいぐらいの闇から這い上がって来た様な黒い煙がモクモクと天に昇っていく。それを確認しながら瑞希は爆発があった 場所へ行くことに決めた。どうなってもいい。このゲームの最後まで生き残ることは無理かもしれない。けど最後の最後まで思い出というものは作れるはず。瑞希は そう思った。
 『いいか瑞希、思い出は大切にしろ。どんなに辛い事も、楽しい事も。例えばそれで自殺しようとしてる人を助ける事だってできるんだ。 もしもお前が道に迷った時はそれすら思い出にしろ。いいか、自信を持て、勇気がなくても目の前の火に飛び込め。信じていれば死ぬこともない・・・』
 瑞希は不意に、幼い頃の自分に言った死んだ父の言葉をタンスの引き出しから抉じ開けた。どれも大切な父がくれた言葉。
 「え?ちょっと待って。あぶないわよ」
 美菜子は瑞希の言葉に驚き、しゃがんだまま顔だけを瑞希の方へ向けた。
 「・・・貴方は私ではないからここにいてもいいし、一緒に来てもいいわ。でも私は思い出を作るの。変な奴だと思うかもしれないけど、死ぬか生きるか 少ない確率の中で思い出を作って死ぬか、そのまま死ぬか。どっちがいいかわかるよね。私はそう思い、危険な所に首を突っ込むの・・・」
 しっかりと言えた。瑞希は頭の中の言葉をしっかりと美菜子に言った。後ろは振り向かない。前を見て前進あるのみ。
 「そう・・・」
 何かを考えているらしく、美菜子はスタンドライトの根元を見つめていた。どうしようか内心迷っているのが声に出ている。
 「もう私は決めたの。時間がないわ。堀川さんはどうするの?」
 瑞希が最後の決断として美菜子に言った。その時美菜子がなにかを見つめたまま口を開いた。
 「椎名さん・・・。これ見て・・・」
 美菜子が見つめていたのはスタンドライトの根元あたり。灯のおかげでスタンドライトの周辺がよく見える。瑞希は美菜子が指差す地面を見つめた。
 「なにかの・・・ビンかしら・・・」
 地面には何か透明な容器が一部分だけ出っ張っていた。瑞希も美菜子同様にしゃがみこんで埋められている何かを見た。
 「うん。かなり汚れてるけどビンだと思う・・・これがどうしたの?」
 「取り出しましょ」
 二人はすぐに土から顔を出した汚れたビンの周りを10センチ程度の木の枝や履いていた靴の先で掘り始めた。こんな事をしている場合では ないと思ったが、明らかに不思議なオーラを漂わせていた。何かを悟るかのような・・・。
 「ガッ」と瑞希は靴の先にビンの感触を掴んだ。見ると大分土は掘れ、汚れたビンが半分以上顔を出していた。すかさず瑞希はビンを両手で持った。 それを見て木の枝を捨てて美菜子もビンを両手で持った。
 「せーの」と二人は同時に力を入れた。
 ビンは最初ピクリともしなかったが何度か力を入れて引き抜こうとする内に徐々に姿を現していく。そしてやっとの事でビンは完全に地面から 離れた。もはや一体化寸前といった所だろうか。それだけビンは土と離れようとはしない強情さだ。まるで見てはいけないように。
 「やった」
 中身は何が入ってるか見当もつかない美菜子だが、ビンを掘り出せた事だけに対して喜びを表現していた。瑞希もそれを見て少し嬉しかった。
 「椎名さん。開けてくれるかな?」
 「え?あ、うん」
 美菜子の手の中にあった約縦15cm幅15cm程度のビンのガラスには泥が固まり、既に泥の二重構造になっていて 中に何が入っているのか分からない。そしてビンは瑞希に手渡された。このとき美菜子は少し苦痛の表情を見せ、瑞希は肩の傷で 力があまり入らない事に気がつき、そのままビンは瑞希の手の中に渡った。
 「ふっ」と、力を込めて片手の指を大きく開き、泥でボロボロの蓋の部分を回した。蓋はプラスチックのようで少しやわらかい。だが 何度やっても開かない。どうしようか瑞希も焦った。
 「ごめん、開かない・・・」
 幾度となく繰り返し力を振り絞るが、全く反応がない。
 「瑞希さん、退いて」
 蓋と対決する瑞希を他所に、美菜子が突然立ち上がった。一体何をする気かと瑞希は顔を上げて美菜子の顔を見た。
 「開かないならこれで壊しましょう」
 美菜子が手にしていたのは支給武器のテクニカルアーサーだった。少々従来の拳銃とは形が違って、丸みを帯びていたが銃には変わりない。それを見て瑞希は ひらめきと驚きを同時に味わった。
 「待って。こんな近くで撃ったらビンも粉々になって中のものも壊れるわ。なにかもっと・・・」
 あたりを見渡し、瑞希が見つけたのは片手より大きめの石だった。一瞬金槌がないかと探したが今の状況そんなものはないだろう。
 「そうね・・・。お願い・・・」
 美菜子はテクニカルアーサーを片手に持ち替えた。瑞希が地面にビンを横に倒し、石を持ってくると1,2歩美菜子は後ろに下がった。
 大きく振り下ろした石は、そのまま地面に置いたビンに向かって落ちた。「パリン」と意外に小さめの音が響き、ビンは大まかに 6つに割れた。途端にビンにこびりついた固まった土などがボロボロはがれた。
 二人は急いで割れたビンに駆け寄った。割れたビンの中は少し異臭がした。水が腐った臭いというのか、下水の臭いというのか・・・。
 「これだけかしら」
 そう言って美菜子は割れたビンの中から2枚の紙切れを見つけてまじまじと見つめていた。その紙は4つ折りにしており、拡げるとA4の大学ノートぐらいの 大きさだった。
 「あっ、ここにもあったわ」
 瑞希は一瞬美菜子の持っている紙を見た後、もう一度他にないか丁寧に割れたビンを一部分に集めていった。そしてその中から 2つの小物を見つけた。
 「なにそれ?」
 「・・・校章と・・・薬?かしら・・・」
 瑞希が手にしたのは学校の校章と小さな手持ちサイズのビニル袋に入ったカプセルだった。校章は善通寺第四中学によく似ていた。カプセルの 方は4粒袋の中に入っている。
 「ねえ、これ見て・・・この文って・・・」
 瑞希は美菜子が持つ紙を1まい受け取った。少し湿っているようでぐにゃりとした感触が伝わった。その紙に書かれた内容を見て驚いた。 内容はこうだった。
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 1979年 5月20日 雨
 香川県城岩町立城岩中学三年A組 男子一番 阿井 勇樹 
 これは遺書という物なのだろうか。そしてこれは一体誰が見ているのだろう。政府か?島の住民か?それとも未来の中学生か? そんな事はどうでもいい。ただ俺はこの遺書を書きたいから書いただけであって、誰かに伝える事などない。
 まあ伝える事といえば、このプログラムは怖いの一言。
 日記といえる物は小学生以来だ。連絡帳に楽しくもない今日の出来事を書かなければならない・・・。いや、こんなことを書きたいのではない。
 俺は今  心臓が張り裂けそうだ。この民家に逃げ込んだのはよかったが、俺は先ほど外でクラスメイトに殺されかけた。相手は普段大人しい宮川だ。左足と 脇腹を撃たれて今は非常に痛い。家の中の廊下は血だらけだ。ここが見つかるのも時間の問題だろう。しかしこの遺書を土に埋めるまでは死ねない。 俺は残さなければいけない。俺自身を・・・
 ああ、痛い。今も外でガンガンクラスメイトが撃ちあいをしている。鳴り響く銃声が俺の傷口を唸らせる。ずきずき痛い。
 せっかくの修学旅行が台無しだ。いきなり起きたらトンネル。そして兵士に武器。宣告。開始。 わいわいさわいでた奴はみんな死んでいく。いつも暗い奴はひょうへんしやがる。まあこのゲーム事態狂ってるが。
 爆弾でも作ってみんなで死のうかと考えたけど俺には知識がない。逃げようとしている東条達なら別だけど、俺はあいつらとはあまり関わりたくない。 いや、信じれないと言った方が正しいな。嫌な言い方だが、人間は生きるので精一杯だ。友達の管理なんてとてもではないができない。
 くそったれ・・・。脇腹が痛い。足は弾が掠っただけで済んだけど、脇腹は酷い。痛いし血が止まりもしない。しかもこの首輪は重い。
 それになんで俺の武器が覚醒剤なのだろうか。アンフェタミン(中枢神経興奮剤)とは説明書に書いてあるがどうもカプセルに入ってる事から俺は 普通の覚醒剤とは違うように思う。ちっ、誰が使うものか。
 おかしい。眠くなってきたな。このまま俺は死ぬのかな。悲しい・・・。
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 文章はそこで終わっていた。紙の端っこには茶色になった血の痕がついていた。しかも今瑞希が持っている小物は城岩中学の校章に 支給武器の覚醒剤だというのだ。
 「まさかここでプログラムがあったなんて・・・。しかも9年前・・・。まさか・・・」
 独り言のようにブツブツと呟く瑞希を尻目に、2枚目を読み終えた美菜子がそっと瑞希に手渡す。
 「こっちも読んでみて・・・」
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 1979年 5月21日 くもり
 またも書くことなった。食料も底をつき、民家にある食べ物はみんな出て行く時に住民が持っていきやがってる。くそっ。水と塩だけが 今の俺の食べ物と言えるだろう。
 昨日は眠くなってそのままねた。気がつくと朝だった。あの腹が立つ声で椎名一郎は俺たちに死んだクラスメイトを発表している。あのハゲめ。
 そして今日が本当に俺が生きれる最終日となるだろう。俺はゲームに乗らない。目的などない。ただこうしているだけでいい。どうせは死ぬ・・・。
 今さっき俺はアンフェタミンを1つ飲んだ。どうやらじょじょに効きめが出てくるらしい。一体政府はなにをたくらんでいるのかとくと俺の体で試すがいい。 そうだ。禁止エリアはどこだったけな。
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 次の文で瑞希は今の阿井に時間が経過して書いたことがはっきりわかった。それは紛れもなく覚醒剤が効いてきている証拠だった。
 そして瑞希はこの文章に出てくるプログラム教官の『椎名』に引っかかった。
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 ああああ。
 何度も
     言うけど俺は
           の
        ら
               ない
 ちくしょうが。頭がぼーとして目がまわりやがる。あんふぇたみんのききめか。腹がすいて死にそうだ。さっきも目のまえに おおもりのごはんがあった。いやげんかくだ。家にかえったらはらいっぱいごはんをくう。たぶんこれほどにもないうまさがあじわえるだろうな。それで もってうんどうじょうをおもいっきりはしりたい。だがだるい。
 あたまをなんどもふるが、せいじょうにもどれるのはいっしゅんのよう。おれはどうなってんだ?もしこのぶんを読んでるやつがいれば、おれはいいたい。
 だっしゅつなんてかんがえるな。このじょうきょうになったからにはし方がないことだ。ひっしにしぬまでいきろ。まあこれはおれがえらんだ、俺自身の 選択だがな。
 なにかおかしいとおもったら、覚醒剤のおかげで傷の痛みが消えてる。慣れてくればおもしろいもんだ。今さっきも銃声が聞こえたが、 今度は怖くない。どういう薬だよおい。この薬は当たってくだけろと言いたいのか?
 外は相変わらずの雨だ。いやくもりだ。どっちでもいい。けど雷でも落ちそうな不気味な天気だな。
 ああ、だるい。だるい。だるい。だるい。
 なにもしたくないけど、この遺書をどこかに埋めないと。玄関は敵がいるかのうせいがあるから、ベランダの庭にでも埋めるか。
 もうそろそろ俺の体力も底をつきかけてる。だめだ。俺自身が消えるのが怖い。だがこの遺書と校章、アンフェタミンをビンに詰めて、俺はきっと 土の中で存在し続けるだろう。それともこの先で誰かに拾われて俺は未来に行くことになる。俺と言う存在は今ここで消えるかもしれない。しかし この先の俺はまだいる。信じればきっと救われる。
 そう言ってくれたのはお前だろ、和也・・・・。俺、信じるよ、遅いかも知んないけど 信じてみるよ。けど、もう、遅いよな・・・。
 もう言い残す事などない。しかし死ぬ間際におかあさんと叫びたい。そしてこれほどまでにないぐらいきつく抱きしめてほしい。
 どうしようか・・・これから。だるいな。ちくっしょーーーー。自分が嫌だ。なんでこんな物飲んじまったんだ!
 ちくしょう!なんで涙なんか出るんだよ!くそっ。死ぬなんて・・・みんな・・・。死なないでくれ。 夢と誰か言ってくれよ!俺嫌だよ。俺死にたくないよ。くそっくそっくそっ。なんでこんなに悲しいんだ・・・。
 

                         最後まで告白できなかったけど実は俺、小島結夏さんが好きでした
                                               三年A組 阿井勇樹
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 そして紙の最後には当時のものと思われる写真が貼ってあった。勇樹と思われる人物の隣には女の子が写っていた。これが小島結夏と 言う人物なのだろうか。



 「なんなのこれ・・・おかしい・・・」
 「と言う事はこれが覚醒剤になるわね・・・」
 瑞希はじっと勇樹が書いた遺書を見つめていた。狂っているというよりも、酷く怖い。なにか決意をして書いてるに違いないと瑞希は考えた。
 美菜子は瑞希から受け取った城岩中学の校章と覚醒剤を両手に持ちながら見つめていた。場の空気が死んだ。
 長い沈黙が流れたが瑞希はまだ考えていた。文章は1979年のプログラムのもの。そしてプログラム担当教官は椎名一郎。そう、瑞希の父と同じ名前。 父が借金をつくって自殺した日が丁度5月。自殺した現場は見ておらず、母に言われてきただけだった。あまりにも偶然。100%断言はできないが、 父が死んだときに瑞希はまだ幼いために父の仕事がなんであるか知らなかった。
 隠し切れないショックを瑞希は味わいながら、手に握る勇樹の遺書をグシャリと潰した。
 「行こう、椎名さん。私貴方と一緒に歩く。ううん、走ってもいい。死ぬ前にできるだけたくさんの思い出つくるわ」
 目の前の美菜子はその場で瑞希に言った。とても強く、とてもはっきりとした口調で。
 「ありがとう・・・・うん。行こう。私達は私達の生き方があるのよ。もう誰にも邪魔させない」
 地図を取り出して瑞希は花火があがり、爆発があった所を推定した。場所は雑貨屋。ルートはB=6、B=7、C=7の順。勿論美菜子は 反対しない。真剣な顔付きで頷いてくれた。それが瑞希には嬉しかった。勇樹の遺書の最後にあった告白。普通の女の子に憧れ、 普通に人を好きになれない。運命か。それとも神がくれた試練か。どちらにしても今の瑞希は椎名軍のボス。椎名瑞希に変わりはない。
 「ぱららららっ」
 タイプライターのような銃声が聞こえた。途端にその何かが瑞希と美菜子に風を切って飛んでくるのが分かった。
 「きゃあ」
 暗い茂みの奥底から一瞬にして数発の銃弾が美菜子の腹部にヒットした。同時に手から テクニカルアーサーが落ちた。又、瑞希も同様に腕に1発の玉がヒットしたが掠った程度でそれほど痛くもなかった。
 「堀川さん!」
 一瞬の出来事で初めは何が起きたのかわからなかったが、おなかが血だらけの美菜子を見てすぐに瑞希は今の出来事を把握した。 ――――さっきの銃声。まさか――――
 今度はいつ暗闇の中から相手が撃ってくるかわからない。このまま対戦すれば負ける。瑞希はよろめいた美菜子の手をとって真っ直ぐ全速力で走った。 美菜子は痛々しそうに血だらけの腹部を抑えている。かなりの銃弾を貰ってるらしい。もうご馳走様。もう食えません。
 「ぱららららっ」
 まだだ!と言わんばかりに銃声が背後で聞こえた。今度は瑞希も抵抗した。片手のブローニングハイパワー9oをぎゅっと握り締め、素早く 後ろを振り返り、銃声のした暗闇に構えた。だが。
 だが銃弾の速さなど肉眼では捉えられないのが普通。振り向いた瞬間に先に走っていた美菜子の背中に銃弾はヒットした。だからもう お腹いっぱいだってお母さん、と言わんばかりに今度は美菜子の体が一瞬だけ妙な踊りをして倒れた。
 「ほ、堀川さん!」
 倒れた美菜子に急いで駆け寄る瑞希だが、暗闇の相手も気になる。
 「ち、ちくしょ」と、瑞希が暗闇の人物に再び銃を向けようとしたとき、力いっぱいの声で美菜子は叫んだ。既に口からごぼごぼと血が噴出している。
 「逃げて!椎名さん逃げて!お願い!」
 「ばかっ!な、なに言ってるのよ!あなたを置いて行けるわけないじゃない!さ、私の肩につかまって!」
 瑞希はうつ伏せになった美菜子を仰向けにして少し体勢を楽にさせてあげた。
 「もう・・・。いいのよ・・・もう私は終わり。短いけど、私ゲームオーバーになっちゃった・・・。でもあなたは生きてる。私はなにも 憎くはない。あなたには生きてほしいの・・・・・。貴方には生きてほしい。最後まで・・・・。それで私は満足・・す・・・するから・・・」
 スッと一度にっこりと微笑んだ美菜子はそのまま静かに目を閉じた。美菜子の体を抱いていた瑞希も先ほどまで動いていた心臓が止まった事に 驚いていた。こんなにもまじかで人の死を体験する事になるとは。
 「ぱららららっ」
 懲りずにまた暗闇から銃弾が瑞希に向かって飛んできた。本当なら避けようとしたが、もう頭の中は真っ白だった。
 「てらじまああああ!」
 不意に暗闇から見えた顔で瑞希は寺島がいることを確信し、ブローニングハイパワー9oを寺島留美のいる暗闇へ乱射した。
 「バキュンバキュンバキュンバキュン!」
 これほどまでにない反動が瑞希の手に伝わる。その瞬間寺島が「くっ」と叫んだのを聞いて、真っ白だった頭の中が整理されていこうとした時であった。
 「バスバスバスッ」と同時に瑞希の体に強い衝撃が伝わった。途端に血が噴出した。急激な痛みでそのまま地面に尻餅をついた。銃ってこんなに痛かったんだ。
 雑草を掻き分けて寺島はやっと全身が見えるところまでやってきた。最初に美菜子の死体に目をやったが、まだあがく瑞希に気がついて再び 今度は至近距離でスコーピオンサブマシンガンを向けた。
 「あああああああああ」
 それに気がついた瑞希は握り締めていたブローニングハイパワー9oを仁王立ちの寺島に向けた。どちらが速いかなど分からないまま、二つの銃は 火を噴いた。それも至近距離。
 数発の弾を喰らった寺島留美は顔面からシャワーの様な血を噴出しながらそのまま地面に倒れた。
 瑞希は大量の弾を喰らい、そのままの体勢から自動的に弾の威力で後ろに吹き飛ばされた。
 どちらも倒れたまま動かない。かと思われたが、ゆっくりであるが瑞希がその場で立ち上がった。
 「痛みがないのは本当のようね・・・阿井君・・・」
 そう、瑞希は美菜子には内緒でアンフェタミンを服用していた。最初の銃弾では急激な痛みが来たが、そのおかげで2度目では痛みが薄くなっていった。 そして今さっきの銃弾は痛みなどまったくなかった。ただ、体から熱いものが流れているというのと、頭がふらふらして、呼吸が殆どできない事だった。
 「寺島・・・・あんたは強いよ。けど結局また私が残ったのね・・・」
 「バキュン」と一発瑞希は倒れて動かない寺島に撃った。バスっと音がしてセーラー服が飛び跳ねたように動いた。
 「はぁはぁはぁ・・・・堀川さん・・・」
 次に瑞希は美菜子の死体に近づいた。すごく綺麗な死に顔だ。瑞希は片手に握っていた阿井勇樹の遺書を美菜子の腹の上に置いた。しわしわになった遺書は 美菜子の遺書とも言えた。
 「守ってあげれなかった・・・。ごめんね・・・ごめんね堀川さん。でも私わかったの・・・。自分の中で答えが出たわ・・・」
 そう美菜子に言うとゆっくりと雑貨屋に向けて歩き出した。途中息切れが酷くもうだめかもしれないと思ったが、眉を歪めながらも必死に自分を 励ました。片手には何も持たず、もう片手にはブローニングハイパワー9oが握られていた。

【残り9人】




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