BATTLE ROYALE 外伝

第四部
フィニッシュ



52

 戦いのなかで何が生まれるのか。また、戦いの中で友情は生まれるのか。それとも同情が生まれるのか。信頼する友達まで亡くし、 一体これからどうしていけばいいのだろうと彼は言った・・・。
 なにもかもが腐敗したように、あたりは血の臭いでいっぱいだった。ハック&クラックを成功させた事も知らないまま、 天才の頭脳を持つ伊藤真司が死んだ。

 言葉は要らない。すべて行動で示してくれよ。3つの死体が転がる真ん中で、真司は一人放心状態になっていた。1体の死体を除いてはすべてが 大切な仲間。
 「どうしてだよ・・・・。なんで死んじまうんだ・・・。なぁ・・・」
 茂みの中は血でいっぱいだった。血を吸いすぎた泥のような地面。真司の手のひらは仲間の血で染められていた。
 これからの行動なんてどうでもいい。――――俺どうすりゃいいんだよ――――仲間がいない。一人だけ。こんなにも一人が孤独で悲しいなんて 感じたこともなかった。
 家で一人留守番だってしたこともあった。
 みんなお母さんが迎えに来ているのに自分の親がなかなか来ないときもあった。
 いつも一緒に遊んでいた兄が死んで悲しんだこともあった。
 すべてが思い通りに行かなくて家族や友達に当たったこともあった。
 しかし、親友を目の前で亡くす事はなかった。大事な大事な友達。一緒に笑った友達。相談事やいろいろ話し合った友達。こんなにも 悲しいことはない。人生の中で一度たりともなかった。
 「・・・・俺どうすればいいんだ・・・・」
 1つの疑問がスッと真司の口から出た。それは近くで死体となっている親友二人に向けられた。動かないのは当たり前。だから喋らないのも 当たり前。だが孤独。孤独だから。誰かと話をしたいから。
 「なぁ匠、昌二・・・・」
 
 「大東亜都市ってきれいだろうな」
 揺られるバスの中で真司は言った。バス内では仲の良いグループが固まっていた。一応班ごとに席は決まっていたが、ゆーじはどうでもよかった。 そのためみんなはわいわいと仲の良い友達の席に行く。真司達もそのように座っていた。
 一番前の左側から3列目の席。窓からは眺めの良い町並みが見えた。真司と昌二が隣同士に座り、匠はその後ろの席から体を乗り出して いた。
 しかし楽しいバス内は数時間経過したときに変化していた。バス内の生徒はすべてぐうぐう寝ている。
 「一番初めに出て行くのは、男子十九番、村瀬淳也。そして2分後に女子十九番、牧野つくしの順で、男女出席番号順に出て行ってもらう」
 鬼月の言葉は気持ちが入っていなかった。どこかの詐欺商品を売っている会社のように、言葉はマニュアル通り。
 「私達は殺し合いをする・・・。殺らなきゃ殺られる」
 真司はみんなを信じながら合言葉を言って教室を出た。この言葉に何人の生徒が惑わされるだろうか。しかしその生徒の内の二人は絶対に乗らない。 真司は確信した。
 まず廃校を後にした真司は乾麗子の次に出てきた昌二に声を掛けた。勿論昌二はその時脅えていた。
 それから明るいグラウンドへ足を運び、昌二とともに草むらへ身を潜めた。案の定そこに誰かやってきた。そう、その人物はまさに次に探す予定の 匠だった。運がいい。なんて運がいいんだ。この3人でこの糞ゲームを脱出する方法を考えよう。そう思った。
 「なにか思いついた?ねえ真司・・・みんなで・・・みんなで考えない?」
 そう言えば俺が脱出方法を一人で考えていて、いい案が浮かばなかった時に昌二は言ったよな。あの時感動したよ。 いつもやさしくて少し女々しい所があるけど、それはそれでいいキャラだったよ。 性格も綺麗で、女で生まれても良かったんじゃないかってね・・・。あと、 自分に凄く腹が立った。心のどこかで3人で話すよりも自分ひとりが考えたほうがいい案が浮かぶ、つまりは俺は頭がいいんだ。そんな自分を超過した気持ちが どこかにあったのかもしれない。
 みんなで考える。それは最高の考え方かもしれない。たとえ答えがまとまらなくても、それはそれでいいじゃないかな。
 「ばかやろう。お前がここ見張ったら誰がハッキングするんだよ。 俺達はお前のハッキングのために見張りをしてるんだ。そんなこと言う暇があったら早くハッキング作業しろ! もたもたしてると殺る気の人間が来るぞ」
 匠の言葉にも感動した。弱音を見せない匠は逞しかった。自分はあまり睡眠をとっていないにも関わらず、 お前は遠まわしに俺を気遣ってくれてたんだよな。言葉は少し悪いが、口が下手なだけで、本当は心やさしい奴だよ。
 
 「なあ、俺どうすればいいんだよ・・・・。誰か答えを教えてくれ」
 ある日の学校で真司は今の言葉とよく似た言葉を匠と昌二に言ったのを思い出していた。
 「なあ、俺どうすりゃいいんだ?」
 「ど、どうすりゃいいってお前、すべて成るようになるさ。そんなに焦るな」
 匠はその言葉に笑いながら答えた。
 「うん、答えってさ、本当はひとつじゃないと思うんだよね。いろいろ答えがある中で、自分のペースで自分に合った答えを 見つければいいんじゃないかな?」
 昌二もいつもの微笑みをしながら言った。
 だけど俺にはわからなかった。当時も。今も。
 「なにが・・・何が答えだよっ!こんなゲームに答えもくそもあるかよっ!殺されるか殺すかのゲームで、 焦ることはない?答えをゆっくり見つける?冗談じゃない!お前ら・・・・お前ら死んじまったじゃねぇかよ!どうしてだよ!」
 ぽろぽろと流れる涙を拭かず、真司は叫んだ。一度両手を地面に叩きつけたが、ドンという音はなく、ぴちゃっと血溜りが弾けただけ だった。
 「返事しろよ・・・」
 真司はその場でゆっくりと立ち上がり、死体となった昌二の元へ歩いた。昌二の体はすでに冷めていた。腹にはどす黒い血が固まっている。 もう息はしていない。真司は正樹との対戦の時、昌二の勇気を見た。
 「昌二・・・。お前、かっこよかったよ・・・」
 次に手前にあった匠の死体も見た。下半身から正樹の体が重なって倒れている。さっきまで生きていたはずなのに、一発の鉛で 今は息をしていない。
 「匠・・・。ありがとな。最後までみんなのために・・・ありがとう。二人とも、感謝するよ。答えなんて最初から出てたのかもな。 お前らは最高のパートナーだよ」
 真司はそのまま2つの死体を通り抜けて行きながら歩いた。勿論センチメーターマスターのマガジンを取り出し、弾を確認していた。
 その時だった。暗い茂みの中で誰かの姿が見えた。下半身部分は草で被われて分からないが、上半身はなんとか薄っすら見える。
 手には大きなものを持っている。パイプなのだろうかと一瞬真司は見つめていたが、どんどんと近づいてくるその姿を見て確信した。
 「前沢か」
 手にはパイプではなくあれは正しくショットガン。オールバックの髪が今では乱れて風に靡いている。
 「・・・ん?」
 一方忠文も眉を歪めて真司の方を見つめた。そしてすぐに目を見開いた。真司を見て驚いたのではなく、忠文は その下に転がる死体に驚いていた。忠文から見ると真司が3人を殺したように見えるだろう。それぐらいに今の真司の人相はなにか違っていた。
 「前沢・・・悪いが死んでくれ。答えは出た。二人は俺に優勝しろと言ったんだよ。だから優勝する為に・・・お前を殺す!」
 独りでに淡々と喋った真司は手に持つセンチメーターマスターを50メートルほど離れた所にいる忠文に向けた。その瞬間咄嗟に忠文は背中を向けて走り出した。
 「ちくしょう!」
 そんなはずではなかったように、忠文は身を低くしながら走っていく。それを見逃すまいと真司は1発センチメーターマスターを撃った。 それが合図のように忠文に向かって全速力で追いかけていく。
 「バン!」
 撃った真司の弾は忠文の足元近くの地面に当たり、ぼこっと地面が抉れた。しかしまだ忠文は逃げる。
 「待てっ!」
 掛け声と共に真司は又も銃声を鳴らした。「バン」と一発の銃声と共に弾は忠文のデイパックにヒットした。その瞬間逃げていた忠文がこけた。
 全速力で走っていたために忠文は思いっきり地面に体を打った。上半身から落ちたのがよかったのか、すぐに忠文の攻撃が始まった。
 「て・・・めぇ」
 転んだ瞬間、くるりと忠文の体は真司の方に向けられ、持っていたショットガンを撃った。
 「ドンッ」
 「バシュ」と何かが弾ける音が真司の耳元近くで聞こえた。すぐに音の方を振り返ると、肩から腕にかけて深く肉が裂けていた。弾は その腕の筋肉の中で止まっている。
 「があっ」
 咄嗟にその痛さで全速力で走っていた足は止まり、真司はセンチメーターマスターを持っていた手で撃たれた肩を押えた。押えれば押えるほど痛いのだが、 押えないよりはよっぽどましだろう。
 「くそっくそっ」
 すぐに真司も反撃を開始した。「バンバンバンバン」と、力の続く限り銃の引き金を絞った。その度に何度も手が揺れた。
 「バスッ」と、今にも立って逃げようとしていた忠文に何発かヒットした。しかし致命傷ではないらしく、すぐに忠文のショットガンが 火を噴いた。
 「あああああ!俺は帰るんだぁ!」
 「ドンッ!ドンッ!」
 目の前に肉眼で弾が見えた。と思った。一瞬で真司の体は宙に浮き、一瞬でその場に大量の血と痛みが迸り倒れた。
 「ゴボッ」
 口からどす黒い赤々しい血が吹き出た。もう自分が何処を撃たれたのか予想もつかないし、考える力もそんなになかった。
 忠文は逃げたのか、真司の視界にはいなかった。いや、見えるはずはない。真司の視界に映っていたのは暗い夜明けの空なのだから。
 ――――俺は死ぬのか・・・・
 匠、昌二。俺はこの答えで違ってたのか?俺に勝てといったんじゃないのか?それとも自殺しろというのか?もし答えを間違っていたら ゴメンな。でもどうせ俺死んじゃう運命かもしれない。ウサギのように孤独になる事が嫌なんだ・・・きっと・・・・――――
 ふぅと溜息を吐きたかったが、真司には既に呼吸ができなかった。視界に映る空も、既にどす黒い。そう、どす黒い血の色に染まっていた。そして じょじょに真っ白い世界が見えてきた。真司はその時思った。
 ここはたしかG=8のあたりだったかも。既に禁止エリアなのにどうしてだ。まさか・・・俺、成功したんだ。ハッキングとクラック・・・・。 ああ、兄ちゃん、ありがとう。でも結果はこうだよ。
 これが最後だと真司自身分かった。もう死んでいるか、死ぬ数秒前。最後に言いたかった・・・。
 ――――戦いのなかで何が生まれるの?戦いの中で友情は生まれるの?それとも同情が生まれるの?信頼する友達まで亡くした俺は、 一体これからどうしていけばいいのだろう・・・なあ、誰か教えてくれ。俺の最後の質問だ・・・・答えを・・・教えてくれ――――
 真司には答えを聞くことなどなかったかも知れない。だがもしも匠と昌二が生きていればこう言っただろう。
 「答えなどない。出さなくていいんだと俺は思うぜ」
 「そう、答えは出すもんじゃないよ、真司。見つけるもんさ」
                      「答えがすべてじゃない・・・・」
 

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