
第四部
フィニッシュ
54
ちくしょう!あの女!くそったれ!!
一は叫んだ。もはやこんなゲームにまで自分のお人よしが不幸を招いたなんて、しかしどこから自分は"お人よし"と呼ばれるように、
又は思われるようになったのだろうか。
一の意識は現実から遠退いて行った。どこか遠く。そして近く。とても懐かしい。
僕がお人よしと呼ばれたのはたしか小学校の5年生からだ。いや、それよりも前だったかもしれないが、あんまり過去の事を思い出せない。
――――本気で相手と殴り合いなんてやったことない。
――――自分で言うのもなんだけど友達も多い方だと思ってる。
だがそれが反対に自分を否定していた。本当の自分はそんな奴ではない。
「はさみ貸して」と図工の時に女子に言われて、自分が使っている途中なのに貸したことが何度もあった。それは男子でも同じ。本当は嫌と言いたい。だが「うんいいよ」と言って
貸してしまう。勿論理由は嫌われたくないからだ。嫌われるのが怖いからだ。
それ以来僕は人の頼みごとを色々断る事もなく受けてきた。そう、いつも相手の機嫌を伺いながら、まるで奴隷のように。
「本城君ってやさしいよね」
「本城君っていい人」
「一はやさしくていい奴だよな」
――――やさしい奴はまだいいよ。いい奴?いい奴ってどこがいい。いつもみんな具体的に言わない。ただ"いい奴"とまとめる。そんなみんなが
嫌い。だった訳でもない。
どうでも・・・いい奴。
小学5年の冬。僕は入院した。僕が入院するきっかけとなったのが家のトイレでの事。尿を済ますはずが、真っ赤な
血液を出してしまい入院した。直接医者には聞かなかったが、母からの話だと"ストレス"が原因だと言われた。
その入院をきっかけに僕はお人よしと呼ばれないよう、本当の自分をみんなに見てもらうように決意した。
6年になって僕は変わろうと何度も思った。
「じゃあ学級委員推薦の結果を言います。えっと男子は18票で本城君となりました。いいですか本城君?」
ここで本当なら「いや、俺は学級委員なんてなりたくない」というはず。そのあとのみんなの言葉まで載った脚本も用意していた。だが。
「えっ・・・。あっ、わかりました」
現実、思ったことを実行するのは難しい。それを知った5月。丁度さくらが咲き散った頃。もう諦めた月・・・。
だが僕がお人よしな原因は親にもあるのではないかと思った。
警察の父。幼い頃からしつけが厳しかった。おかげで礼儀は良かった。だが、友達とバカをやった経験がない。父とキャッチボールを
した事もない。そもそもどちらも野球に興味がないのも原因だが。
パート勤めの母。小さいころから人一倍やさしくて、わがままを殆ど聞いてくれた。
しかし一度体を壊した年があり、原因不明の病気にかかり入院したこともあった。それ以来母は毎食後大量の薬を飲まないといけない体になっていた。そう、治す薬が
発明されるまでずっと・・・。そんな様子を見て僕は変わった。母の手伝いを自らするように。そして人の痛みがわかるような人間に。
親のせいなのだろうか。僕がお人よしになったのは親のせいだろうか。そして正義感が強いのは父のせいか?
そう決めつけていいのだろうか?お母さん、お父さん、許してくれるかな?
――――僕は。本当の僕は、一体どれ?――――
「ぎぃぃぃ・・・・」
今も痛む股間を一は必要以上に押えていた。股間が痛かったが、次第に下腹部に痛みが来た。
牧野・・・ゆるさない。あいつはゆるさない。俺を騙しやがって。なにがお人よしだ!このやろう!
「ドン!」
すぐ近くで突然銃声が一の耳に聞こえてきた。「はっ」と目を見開いた。目の前は草。だが近くでたしかに銃声が聞こえた。誰だ!遠くでの銃撃戦の
銃声とは違う。その一発には憎しみがこもっている。その後「ドンドン」とまたも聞こえた。
素早く一は肘を突いて上半身だけを起き上がらせた。そして丁度つくしが歩いて行った先を草木の隙間から覗いた。
「!!」
その光景はあまりにも残酷だった。醜い、としか言いようがない。一は集中して隙間から見える光景を凝視した。
つくしと天美。二人が本気で戦っていた。本気か本気ではないかは見ればわかるし、第一こんなデスゲームでふざける人間などいないだろう。と、その時!
「私が何をしたって言うのよ!」と、天美がつくしに向かって叫んだ瞬間、つくしがスカートに挟んでいた包丁を右手に持ち、天美を刺した。
こちらからは良く見えないが、たしかに天美はつくしに刺された様で、天美は目を見開いて驚いた表情をしていた。更に何度もつくしは天美
の腹に刺さったままの包丁をなんども押してるような行動をしていた。
「これで私は石上さんを殺したのよぉぉぉぉ!」
――――なんだと?殺した?人を殺したのがそんなにすごいのか。貴様!一体なんのつもりだ!牧野!てめぇはゆるさない!人間のクズだ!!――――
一はぶち切れた。正義感は一つ間違えると凶悪になると聞いたことがある。そして同時に一の足元にあったファマス5も叫んだ。
――――殺れ!――――
「牧野ぉぉ!」
一は足元のファマス5を拾い、足をぐいっと踏ん張って立ち上がった。標的は目の先にいる牧野つくし!
草木から出てきた一に少し驚いたつくしだったが、すぐに一に銃を向け「パァン」
と、デザートイーグルの引き金を引いた。だが間一髪、弾は一の右耳の横を通り、その後ろに生える大木に
当たった。
瞬時に「くっ」と肩を竦ませて避ける一。すぐにファマス5からも火が噴いた。
「ぱぱぱぱぱ」っとあられが家の屋根に当たるような音はつくしに向かって飛んだ。本当なら体の中心を狙ったのだが、一が撃った弾は
つくしの腕を掠め、一発だけ手に持っているデザートイーグルに当たった。
「ボォン」と、つくしの持っていた銃はファマスの銃弾で手から離れた。――――今だ!――――今度こそは狙って・・・。一はゆっくり動揺しているつくし
にファマス5を向けて引き金を引こうとした。
「ドォォォォォン」
突如右側の方の森林奥で大きな爆発がした。瞬時にそちらを見た。上空に大きなドス黒い煙と火。そして終わらない夜のようにドス黒い煙は空を
包み込んでいく。
――――早く・・・殺れ!――――
ファマスの言葉で咄嗟に一はつくしの方に目を戻した。だが既に結末というべき光景が一には広がっていた。
「ぎゃぁ」と言ううめき声と共に、天美は自分の腹に刺さった包丁を引っこ抜いてつくしに刺していた。二人は重なるように倒れており、下敷きになっている
つくしは目を開いたまま、まったく動かない。上の天美は、はぁはぁと何とか生きているようだったが。
「か、神楽さんっ!」
一は急いで天美に駆け寄った。天美も一の顔を見て、立ち上がろうと手をついたようだったが、まるで酷い感染病のようにぐにゃりと体は曲がってその場に
倒れた。
「大丈夫か!神楽さん!」
血の臭いがすごい。だが今はそんな事を言っている場合ではない。倒れた天美を一は上半身だけ抱きかかえた。
「神楽さん!おい!神楽さん!」
しかし天美の応答は全くなかった。だが天美の表情は、なんだか微笑んだような顔に一は見えた。それを見て一はもう天美に呼びかけることはなかった。
その時誰かが言った。
――――すべてお前のお人よしが招いた結果だ。どうだ?悲しいだろう。そう、すべては判断が間違っていただけさ。お前の判断は人を助ける事じゃない。
助ければ助けただけの嬉しさがあるだろうな。だが死ねばその倍の悲しみがくるだろう?だからみんなを殺すんだよ。とにかく殺せ。悲しくもない嬉しくもない。
殺していれば悲しまなくてもいい。ただ人を殺して、「無」になれ!――――
一体誰が言ったのだろうか。もう一人の自分か?それともファマス5か?それ以外の奴か?それともただの幻覚か。
ふと、上空には木々の燃えカスとも言える焦げた葉っぱ達がゆらゆらと舞い上がり、炎の周りを包んでいた。
【残り6人】