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BATTLE ROYALE 外伝

第四部
フィニッシュ



55.5

 「君が早名くんだね?チャイムが鳴るまであそこにいる関先生と一緒にいてください」
 善通寺第四中学の校長である人物が言う。頭は少し薄いが顔はまだ若そうな感じがした。 またか。今度はここからか。
 記憶を何度も繰り返して演じ続けていた早名誠は疲れていた。同じ痛み、同じ悲鳴。 もう聞きたくないし感じたくも無い。無になりたい。
 一番恐れてたのは自分の死ではない。あの子の死を見るのが嫌でたまらなかった。 彼女の死をもう一度目にすることになるとは・・・。誠は苦笑しながら演じた。


 長い月日が過ぎ、もうこれは夢なんかじゃないと思い始めた頃。誠は自分が死ぬ前の出来事を 忘れていた頃だった。 高月沙紀に告白もできないまま、誠は4度目の善通寺第四中学プログラムを迎えた。
 バスの窓から誠は風景を眺めていた。優勝者の集いで得た首輪のはずし方・・・。 本当の記憶を忘れた誠は、バスの中で「これからみんな会場に連れて行かれるぞ!」なんて事は言わなかった。 ただ、一体どれだけの人間がこのゲームに乗らないのか。そして高月沙紀がゲームに乗らない事を祈っていた。
 これから始まる恐怖を知っているのは、過去に自らの母校でプログラムを生き抜いた誠だけだった。 みんな、楽しそうな顔をしている。いや、感情を表現しきれない生徒も中にはいるみたいだが、酷い言い方をすれば そんな事は関係ない。今からすべての生徒に地獄行きの強制キップが渡されるのだから。勿論拒否をすれば 退場だ。
 極力戦わない。そう、俺がやることは逃げたい生徒を見つけて逃がす事。それだけでいいんだ。 いろんな思いを駆け巡らせているうちに、誠は他の生徒と同じく眠りについた。
 鬼月が廃校でプログラムの説明をする。阿藤が殺される。物凄い緊張感が誠の心臓を鷲掴みしていた。 昔の自分なら泣きそうなほど怖いが、岡山正連中学の死んだみんなの分まで生きようと、誠は強くなっていた。 こんなところで成長なんてしたくなかったが、何人もの死を目の前で見ては視野が180度変わるのも無理はなかった。
 デイパックを持った誠は辺りを見渡しながら森林へと走った。スタンドライトによっていたるところが照らされていた (まあ、生徒にとっては良く見えるから安心なんだろう)が、誠はあえて暗い場所を選んだ。 正連中学時代でも、善通寺第四中学でもそうだったのだが、誠は身長が高かった為に他の生徒に見つかりやすいと 思って暗い場所を選んだ。サッカー部の武藤兼光の方が若干背丈は高かったのだが、こんな状況で身長の5センチぐらいの 差なんて関係なかった。ひょっこり体が草木からはみ出しているところを見つかり、殺されそうになった事が 前回のプログラムであった。だから今回注意して行動しなければならないのだ。
 視界が悪い為、耳をすましながら自らのデイパックを開いた。
 まずデイパックの中で支給武器を手探りで探し、誠の指先に銃器の感触があった時は不覚にも喜んでしまった。 しかし、それは相手を殺す為ではなく、仕方なく自分や誰かを守る時にだけ使うモノだったから、銃器の方が 護身用として最適なのだ。
 デイパックから銃を取り出し、感触だけで銃弾を詰めていった。徐々に目が暗さに慣れてきたのか、薄っすらであるが 銃の形が見え始めていた。
 その時、前回のプログラムの思い出がテープの早送りのように頭を駆け抜ける。


 南桐豪・・・。やつを仕留めたのは誰でもない、俺以外の廃ビルで いた生徒達なのだ。俺はなんにもできなかった。もう、誰も帰ってこないんだ。やる気になってた生徒ですら いないんだ。みんな、死んじゃったんだ。肉の塊になって魂は飛んでいった。
 やらなきゃいけないこと。それはまた俺が優勝する事ではなく、浅見博人が成し遂げようとしていた『脱出』なんだ。


 思いを駆け巡らせながらも、肩にはサブマシンガンとデイパックがしっかりあった。 だが、歩いたところでテレビゲームの敵みたいにひょっこり現れるはずがなかった・・・が、それは現実として 誠の目の前に現れた。
 松笠雄一郎とばったり出会った。お互いスタンドライトの光で顔が見え、次に手に持っているものを見た。 武器・・・。マシンガンと、フォーク。どう見ても軍人と高級レストランにいる社長だった。
 「わぁぁあ」
 「ま、待て!俺はやる気じゃないんだ。松笠、だよな?」
 雄一郎はクラスでも存在感が薄かったが、誠は人一倍雄一郎を見ていた。彼はすごい人間だ、と。 少々男としてだらしない部分はあるものの、その辺にいる不良に比べればできた子だった。 雄一郎の身体能力は未知であり、好きな事になるとそれを90%発揮することができる。その結果が部活のテニスに 現れている。
 更には誠実な心をもっている。それを自身では気がつかないまま生きている。
 「本当、なの?」
 「すぐには信じれないと思うかもしれない。松笠が俺のことを信用できるなら、一緒に行動しよう」
 怯えながらも雄一郎は誠のような共に行動できる人物を探していた。そんな瞳をしていた。 誠も、雄一郎がいればきっとこれから多くの生徒を助ける事ができそうな予感がした。
 「うん、俺もやる気はないんだ。武器もこんなのだし、早名君がいいなら、一緒にいてほしい」
 あまり会話をした事がなかったが、誠にとっても雄一郎は思った通りの人物だと確信した。 不意に誠は博人と自分の関係を、今の雄一郎との関係に照らし合わせていた。
 「よかった。とりあえずここにいたら誰かに見つかる。なるべくライトがない場所へ行こう」 その、行こうの発言をした直後、雄一郎が驚きながらも「あぶないっ!」と叫んだ。
 「ドン」
一つの銃声がした。いや、どこか前に聞いたことはあったような。無性に腹が立つ銃声だった。 同時に雄一郎がその場で肩を押さえてしゃがみ込んだ。一瞬唖然としていたが、前回のプログラムと 同じような場面の為、誠の感情はすぐに正常に戻った。けど、相手は、相手は誰なんだ!
 すぐに誠は背後を見て驚く。ああ、やっぱりな、と言う思いがした。木山誠治が、そこにはいたのだ。 片手に持った拳銃が、またも火を噴こうとしていた。冷酷な悪魔の眼を誠は睨みながら、頭で考える前に行動にでた。 全速力で木山に飛びかかろうとした瞬間、側を雄一郎が駆け抜けた。驚いて顔を見ようとした時には、 既に雄一郎は木山に飛び掛っていた。
 その場で足が止まる。「うわああああ」と雄一郎は木山と殴り合いをしているが、圧倒的に木山が勝っていた。 普通の雄一郎なら逃げていたのだろう。しかし、今は誠を守ってくれたのだろうか。戦友の為に自分の命を投げ出すような 勇敢な少年なのかもしれない。
 誠は走る事を再開して、木山に飛び掛った。拳が頬にヒットしたが、木山の重くて速い拳が誠の頬にも当たる。 そこで雄一郎がその場で躓いて転がる。木山と戦った事のない雄一郎も誠も、その偉大な喧嘩に驚くばかりだった。 完全に負けてしまう覚悟ができたぐらいだった。
 「早名くん!」
手をついて起き上がった雄一郎が叫んだ。誠は彼に対する感謝の気持ちを言葉にした。
 「逃げろっ!早く逃げろ!」
 本当は助けて欲しかった。けど雄一郎の勇気に感動していた。だからこそ生きてほしかった。 だからこそ、木山に負けるわけにはいかなかった。
 夢中で木山に拳を当てる。かすかに聞こえた雄一郎の「後で絶対会おうね」の声。遠退いていく足音。
 雄一郎がいなくなった後も、木山のストレートパンチは何度も続いた。 これ以上やれば負ける。確信した誠は木山に足払いを掛けた。勢いに乗った右足が木山の右足に当たり、 予想していなかったのだろうか、木山は無様にすってん転んだ。
 一瞬の隙を見つけて木山を殺せたはずだったが、誠の足は森林の奥へと向いて走っていた。
 全速力で逃げた。
 その後、頬の痛みも和らいできた時に、泣いていた高月沙紀を見つけた。 彼女に会えるとは、まさに願ってもない事態だった。 すぐにでも首輪の解体計画を言いたかった。そして、思いを告げたかった。君の事が・・・!!
 「・・・え?」
 おかしかった。凄く変なものを見ていた。このゲームが夢なら、今見てるものは夢の夢か? 木の側で座り込む高月沙紀の横には、自分がいたのだ。こんなことはあってはならないことだ。バグだ。故障だ。異常だ。
 もう一人の自分は、死んでいた。
 額から血を流し、口からも薄っすらと血を流し、ボロボロの制服と片手にはサブマシンガン。ぐったりしたように 死んでいる。


 「・・・高月さん」
 声に反応して沙紀は生きている誠の方を見る。瞳にはうっすらと涙が溜まっていた。


 「おかえり、早名くん」


 午前11時の森林はその言葉にざわめき始めた。途端に周りの景色が変わった。 森林なのだが、先ほどまでいたところではないようだった。 腕時計の針も3を差していた。だが一番驚いた事があった。
 首に巻かれた銀色のモノがなかったのだ。いつのまにか外されてる?
 「どういうことなんだ・・・これは」
 一人呟く誠に、沙紀は近づいてある言葉を問い掛けた。
 「思い出してごらん、早名君」
 沙紀はそう言って、木に凭れ掛かって死んでる早名を指差した。誠は不思議そうに見つめていたが、遠くで聞こえてくる 木山の銃声で思い出した。すべて、思い出した。


 「そうだ。俺は、ここで死んだんだ。何度も、彷徨っていたんだ」


 こくりと沙紀は頷き、早名の手を取りながら言った。
 「大変だったね・・・何度も悲しい思いさせてごめんね・・・私、早名くんがこっちに来るのを待ってた。 だからあなたの死体を見つけた時、悲しかったけど、また会えるって思って嬉しかった」
 辺りは暗闇に包まれているはずなのに、誠には沙紀の顔がはっきりと見えた。
 そうなんだ。俺は死んだんだ。首輪を外して、木山と戦って死んだんだ。そして何度も記憶の中で再演し続けていたんだ。
 「高月さん・・・助けてあげれなくて、ごめん」
 その時の沙紀の顔はすごくやさしかった。
 「ううん、もういいよ。早名くんはみんなの為にすごくやってくれた」
 妙な安心感が誠を包み込んだ。母親に抱かれてるような、なんだか眠りたくなるような安心感。
 「もう、いいんだよね。すべて終わったんだよね」
 「うん。お疲れ様、早名くん」
 第四中学のプログラムで一体誰が生き残るかわからない。だけど誠はそれでよかった。 たとえ優勝が木山になっても、誠は沙紀に会えただけでもよかった。 疲れたんじゃなくて、嬉しすぎて思い残す事がなかったのだ。
 「俺、言わなきゃいけない事があるんだ」
 「うん」
 いや、思い残す事はただ一つだけあった。言わなきゃいけない。思いを伝えなきゃいけない。 そうしないと、俺は完全に死ねない。
 「俺は、高月さんのことが好きだった。いや、今でも好きなんだ!」
 最高の笑顔で、誠は告白した。これまでの最悪な事をすべて消し去るかのように。
 そして沙紀もまた、最高の笑顔で答えた。
 「私も、早名くんの事、好きだよ」
 やがて、1つの戦場で2つの魂が寄り添いながら消えた。

【早名誠死亡】




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