第四部
フィニッシュ
55
早名は今、実感していた。自分が生きている事。そして優勝してよかったと言う事。耳には死んだ友人のピアス・・・。
早名は樹達に会い、首輪を外す道具『ラジオ』を貰って森林を彷徨った。目的は"殺る気のない人間"を探す事。しかし思ったより集まらない。
数人の生徒を早名は森林の中で見つけた。だがすべてハズレ。殆どが拳銃を握り、殺気を出しながら誰かと戦っていた。バンバンと西部劇の
ガンマンのように彼方此方で銃声が聞こえた。
――――大輪の花――――それが何であるか早名には大体分かっていた。雑貨屋にいて、大空に散る。つまりは花火。そんなことを考えながら
早名は今は暗闇と化した森林に入り込んだ。暗闇は好きではないが、嫌いでもない。
ふと腕時計を見ると暗くて秒針がよく見えない。目を凝らしてよく見ると、かすかだが太い針は3を指していた。――――もう3時か・・・
そろそろタイムリミットだな――――
もうすぐ夜が明ける。その時までには早名は自分の首に絡みついた銀の首輪を、この雑貨屋から貰ってきたラジオの部品で外す事を考えていた。
「ふぅ・・・」
一度空を見上げれば切なくなる。しかし見上げれずにはいられない。そう、すべてを思い出して何が悪い。過去の悲しい出来事を思い出して
悪いのだろうか。早名の視界には、朝の空と夜の空が見えた。
一息吐いて、早名は腰を降ろせる場所を探した。そしてその場で手に持ったラジオを解体して、その部品で首に纏わりついていた首輪を外した。意外と
簡単だったが、もしも『優勝者の集い』で首輪の外し方を教えてもらってなかったら、確実に首輪を外すことは無理だと思った。
「カチャ・・・」
成功。首輪は爆発する事なく、早名の首からスッと外れた。不思議とその時そんなに嬉しくはなかった。いや、うれしいと言う感情ではなく、
"確実にゲームから脱走できる"と思っただけだった。
(このとき、農協ハッキング組によって首輪の機能が一時的に停止してる為、本当に早名が成功したのかどうかは定かではなかった。間違ったやり方で外したとしても、機能が停止している為になにも起こらない)
光があるところでは銀色に輝いていた首輪は、今は真っ暗でその輝きはなかった。
ポイっと体についた嫌な蟲を払う様に、早名はその辺に首輪を捨てた。約3日間纏わりついていた首輪はない。首がスースーすることが今では
違和感を感じる。
「ヒュー・・・ドンッ」
時計がある時間を刻んだ時、大空に大輪の花が散る。樹が言った合図のヒント通り。七色に光る
花火が終幕を告げるかのように夜空にあがった。
「仕方ない・・・」
脱出方法とはどんなものか。早名には樹がどのようにこのゲームから脱出するのか心配であった。既に首輪を外せる技術を持った自分がいる。ならば
協力してやろう。それが自分の目的なのだから。『殺る気のない、この島からなんとか抜け出そうとしている人間』ならもっともだ。
ザッザッザッと駆け足で、早名は花火があがった雑貨屋に向かった。森林の中は暗くて足元が良く見えないが、自分が通ってきた道ぐらい分かる。急いで
雑貨屋に行き、そして3人の首輪を外してやろう。早名は右手で強くラジオの部品を握り締めていた。早く、早く。
「ドンッ」
突然すぐ近くで銃声が聞こえた。なぜか聞き覚えのある独特な銃声。なぜか嫌な思い出の中にあったような銃声。早名はすぐに辺りを見渡した。どこかで自分を狙ってる人間がいる!?それとも誰かの殺し合いなのか・・・。
「!!」
真っ暗な所からかすかに見える光。それは雑貨屋の近くにあったスタンドライト。そして印とも言える物。もうすぐだ。と、同時に側で何者かがいた。
黒い人影。一人は雑貨屋とは反対方向に走って行く。だがその後ろから拳銃を持つ何者かが狙う。あぶない!
「ドン!ドン!」
2発の銃声は見事に走っていく何者かを撃ち抜き、その人影は1,2歩よろめくと、ゆっくりと倒れていき、早名の視界とこの世の存在から消えかけた。
「こんな近くで・・・誰だ!」
雑貨屋の近くに殺る気の人間がいるのはあぶない。しかし、かと言って今から「あぶない!逃げろ」と叫べば自分があぶない。とりあえず様子を見るために
早名は拳銃を持った人影の背後に近づいた。うまく音を立てずにその何者かの背後に回り、距離を置いて相手と同じ歩幅で歩いて付けた。その時先ほど
目撃した走っていく。いや、逃げていく人物が早名の目の前に倒れていた。
「大丈夫か・・・?」
怪我人への礼儀「大丈夫?」を、早名はその人物に向かって問い掛けた。持っていた懐中電灯を荷物バックから取り出し、倒れている人物へと
光を当てた。
「・・・うっ・・・」
反応を示した事で、まだ死んでいないことがわかった早名は、もう一度「大丈夫か?」と言おうと思ったが、それが兼光だったことで発言を止めた。
右手にはしっかりとスナイパーライフルG3を持ち、そして背中には3発の穴が制服に開いており、そこから紫色のような血が
流れていた。そこで早名は言葉を変えてもう一度問い掛けた。
「武藤・・・兼光だな・・・」
「・・・だ、誰だ・・・?」
どうにもこうにも痛そうな顔をした兼光の目は閉じたままだ。
「俺だよ、早名・・・。一体、誰にやられた?顔は見たのか?」
少しだけ雑貨屋に向かう相手を気にしながら、早名は兼光に小声で問い掛けた。
「・・・そ、早名・・・か?き、木山だっ、あいつ、に、やられた・・・。絶対、脱出しよう、て、誓ったのに・・・くそっ・・・」
精一杯最後の力を振り絞り、動かなくなった兼光は早名に言った。"木山"と。あの高月沙紀を殺した木山と。
「ドン!パンパン!」「パンパンパンパン!」
更には「パンパン!ドンドン!」と早名の耳に銃声が聞こえた。すでにその時は手に持っていた物や、肩に背負っていた物をすべて放り出し、
肩に提げていたウージーサブマシンガンだけを持って、
雑貨屋に向かっていた。
「・・・・木山ぁぁぁぁぁ!」
早名の中での怒りが爆発した瞬間だった。雑貨屋の広い草原へ出た早名は持っていたウージーの引き金に力を入れた。
「ババババババババババババ」と、早名が放った銃弾が木山に届く瞬間、木山は「来たな」と、すべて分かっていたように「パンパン、ドンドン!」と
2丁拳銃から火が噴いた。両方とも同時。
「ばすばすばすばす」
重なった銃声の後、早名の体に幾つもの銃弾がヒットした。そして早名の撃った銃弾は木山の足元にヒットしただけだった。それもそのはず、
木山は縦直線に走っていた。その木山の足元で金魚の糞のように必死でついて来るのが、早名の銃弾だった。
倒れかけた早名だったが、すぐに片手をついて体を起き上がらせた。その時。
「ブオオオオオン」と大きなエンジン音を立てて走ってくる軽トラがあった。早名よりも数メートル右方の森林へ突っ込んでいった軽トラに少し
だけ驚き、すぐに木山と同じ様に直線に走りながら狙って撃った。
「ババババババババババババババババ」
「パンパン!パンパン!ドンドン!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
一体どれだけの時間が経ったのだろうか。もうすぐ早名の弾が尽きようとしていたとき、不意に当たった木山の銃弾で早名の足元がぐらついた。
「ドシャ」と変な転び方をした。口からはツーっと血が流れていた。早く撃たなきゃ!だが倒れたままの状態で早名は見上げた。
倒れた自分に容赦なく木山の弾丸は霰のように降って来る。それを見て重傷の早名はそのままの体勢で撃つのをやめ、回避をした。ごろごろと
森林の方へ転がった。木山の弾はそれに続いて地面に穴をあけていく。少しでもスピードを落とせば早名の頭か体に銃弾が当たる。今度当たれば終わりだろう。
「くっそっ」
木山に隙などない事を確信した早名はすぐに体勢を立て直し、ウージーの弾がなくなるまで木山に向かって撃った。
「ババババババババババババババババ・・・・カチッ」
早名の放った怒りの弾丸の雨は、木山の腹部にヒットした。少し踊るようにして、木山はその場で倒れた。
「ぐっ・・・」
安心はできない。早名はまだ生きているかもしれない木山のために、弾が空のウージーに、弾の補給をしておこうと考えた。だがウージー以外の物は
全く持っていないことに気がついた。そう、弾はデイパック。現在デイパックは兼光の側。
体の彼方此方から血が流れ出す。その度に激痛を超えた激痛が体中に走る。さっきまでほんの少しだった距離が今では、1キロ走るように遠く感じた。
もう休めるなら休みたい。本当にこれがテレビゲームならば、リセットボタンを押したい。
だが、森林の中に入った早名を待っていたのは道ではなく、闇そのものだった。頭のなにかが狂い、どこを走って来たのかさえ分からなくなってきた。
光という光がぼやけて見える。立ち尽くして考えいたら死にそうだ。走る。とにかく体を動かしていなければ、すぐ後ろまで死神が鎌を持って
追いかけてきている。
闇と呼べる森林の中を淡々と早名は走っていく。その都度大木があり、そこへ体を休めたいと何度も思った。ちくしょう!デイパックは何処だ!
もう死んでもいいと、一度だけ思ったとき、目の前に真ん中から分けた髪が印象的な南桐豪が現れた。
両手にサブマシンガンを持ち、早名を待っていたかのように狂った顔で早名を睨んでいた。
「っ、な、南桐・・・・!」
その瞬間、場面が変わった。ビルの中。隣には見たことのある顔が4つ。そこで早名は気がついた。「この場面、たしか・・・」
そう、今早名がいるのは正しく、2年前の惨劇。初めてのプログラムでの場面だった。当時の懐かしい岡山正連中学のクラスメイト。
そして自分も当時のまま。髪は黒く、短髪。支給武器のトカレフ。
「こ、このやろう!」
「きゃーーー!」
突如ビル内に襲撃してきた南桐と対決するはめになった早名を含む4人のクラスメイトは、各自の拳銃で対応していた。しかし拳銃以外の物を支給された
クラスメイトは運良くいなかった為、早名を退けた4人の男女は階段の方からマシンガン2丁をぶっ放している南桐と撃ち合いになっていた。
「あ・・・あ・・」
なぜだ?これは夢か?早名は目の前で起こっている出来事に驚いていた。現実のように耳に振動する銃声。臭い。そして無傷の自分。タイムスリップ?
ははっ。おかしいな。うそだろオイ。俺は今まで森林にいたんだぞ。それともこれは神が与えてくれたチャンスなのか。
「そうだ!これはチャンスだ!俺はみんなを守る!」
――――すべて思い出した。俺はあの時、みんなは南桐に向かって撃っているのに対して、弱虫の俺は一発だけ撃つとすぐにビルの隅で脅えていただけだった。
そして友人がショットガンで南桐の腕をもぎ取り、その後手榴弾を投げられ、みんなは爆死・・・。運良く生き残った青山と俺。ホカホカに
焼けた死体。すべては俺がいけないんだ!――――
早名はその瞬間、4人のクラスメイトよりも前に出て、階段の所でいた南桐に向かってトカレフを構えて撃った。
――――もう怖くない!俺は守る!――――だが一発の銃弾と引き換えに南桐からのマシンガンの弾が早名に数十発ヒットした。服が暴風を受けたように
バサバサと揺れ、鮮血が四方八方に飛び散る。
「だから俺に任せておけって」
またも場面が変わり、今度は早名の目の前に浅見博人が現れた。それと同時に小さな雑貨屋も目についた。
「博・・・人・・・」
「なにおっかない顔してんだよ誠、だから大丈夫だって?ん?不安で変になっちまったか?ははっ」
確かに目の前にいるのは博人だ。耳には早名がしているはずの博人のピアス。またも当時のプログラム。
「よーしっ。今からトランシーバーの電波で、SOS信号を出そう。必ず誰か気づいて助けに来てくれるはずだ。
俺たちで脱出しような、誠」
――――やめてくれ、それ以上行動を起こさないでくれ・・・。首輪には盗聴器が仕掛けられているんだよ・・・。それ以上しゃべると・・・――――
「やめろ博人!それ以上何もするな!もう、脱出・・・やめよう・・・」
「なに言ってんだよ・・・。脱出したいだろ?みんなと殺し合うの嫌だろ?」
「俺知ってんだよ・・・・。これ以上・・・お前・・・、お前がこれ以上トランシーバーで何かしようとすれば、お前のその首輪が爆発して死ぬことを俺は
知ってんだよ!!なあ!そうだ・・・頼むよ!俺に任せてくれ!今の俺なら、この首輪を外す方法を知ってるんだ!だから、だから博人!」
――――知ってんだよ博人。お前が死ぬの、嫌なんだよ。なんでそんなに楽しそうなんだ?なんでお前ってポジティブなんだよ――――
そして予想していた場面がやってきた。もう少し博人と一緒に居たかった。もしこれが夢であっても・・・。
場面はコンクリートの坂道。そして
そこに二人並んで座る男女。早名にはもうどうしようもなかった。再現ビデオを演じるように、
当時のまま・・・。
「ねぇ早名くん・・・もう二人だけになっちゃったね・・・」
「ん、うん・・・」
例えばもし俺が死んだらどうなるのだろう。青山に優勝させてあげたらどうなるのだろうか。
「ねぇ・・・早名くん」
「ん・・・っ!」
そうだ。そのいきなりの口付けがいけないんだよ。最後に口付けなんて、なにか意味深なんだよ。キスなんてしたことないけど・・・
ここでやるなんて、どちらかが死ぬみたいじゃないか・・・。やっぱり。やっぱり同じだよ。あの時と・・・。
「ごめんなさい・・・早名くん」
ちらっと青山のスカートから見えた拳銃に驚いて俺は逃げる。そう、そして青山の銃弾を俺は太腿で受け、俺はトカレフで青山の頭を仕留める。
過去に一度やってるから、もう慣れた。
なんども繰り返す場面とは裏腹に、現実の早名は森林にいた。
森林の中にある大木に腰を降ろし、木に持たれかかって眠るように死んでいる早名を、一体誰が見つけるのだろうか。
だが早名の魂だけは永遠と彷徨うだろう。
自らの記憶を振り返り、何度も何度も再演するかの如く・・・・。
「早名くんお願い、私のために死んで」
「こんにちは、今日だけみんなの先生になりますナオミでーす!よろしくねー正連中学のみんなー」
「次、男子十番、早名誠くん」
【残り5人】