BATTLE ROYALE 外伝

第四部
フィニッシュ



58

 彼は言った。『お前は人間。だから人を殺す。お前は人間。殺人鬼。俺を使って、心臓を貫け。自我も捨て、本能のままに生きろ』
 4時30分。一の時計は止まっていた。いや、壊れていた。
 バスの中で眠り、そして拉致されてクラスメイトと殺し合いをさせられた。その次は敬二と洞窟で再会。しかし敬二は一が人工トンネルに 食料を取りに行っている間に木山の襲撃によって死んだ。
 その次に雑貨屋で樹が木山に撃たれ、そのまま森林へ突っ込み、爆発した。なんでなんで。そればかりが一の頭の中で渦巻いていた。―――― なんで俺だけこんな目に会うんだ・・・――――
 そう、すべての原因は誰でもない、自分なのだから。誰を責めるのではなく、この世に生まれた自分を恨む事を一は感じていた。だがここが人間と いうもので、いくら自分に言い聞かせたとしても我慢の限界というものがある。
 「木山!」
 その名前は悪魔の名前にも聞こえる。一が悲しむ原因の半分がすべて木山の責任だと一は思った。どれもこれも、一が遭う災難の現場には いつも木山がいた。あの鋭い目、あの細くてサラサラした髪。心を冷凍庫で凍らせたような人間。
 天美が死んでから、遠くで聞こえていた銃声に気がついた。その方向に振り向いた一の視界には二人の人間が映っていた。それはつくしと 初めて雑貨屋に訪れた際、遠くの森林の方から出てきては、樹に銃を向けて撃った人間だった。
 木山。その名前が頭の中全体に広がった。それと同時に手に持つファマス5が叫んだ。
 『殺せ。さあ殺せ。お前は英雄だ。俺が仲間なんだ、優勝はしたのも同然だ』
 だが、木山とは別に、もう一人の人間の顔が良く見えなかった。髪が長いのは分かったのだが、服は学生服。つまり男子。しかし別に一には その人間が誰であろうがどうでもよかった。今の一には数メートル先の木山を殺す事で頭がいっぱいだった。
 もうファマスには惑わされない。俺は俺自身の意思で行動するんだ。俺はあいつを殺す。あいつだけはゆるさない。
 頭の中で言えば言うほど、ファマスが叫んできた。『そうだ!そうだ!』と。
 それからは淡々と一の足が進んだ。だがその時目の前の行動に少し驚いた。
 「バババババ」と木山と戦っていた相手からの攻撃を木山は受け、そのまま吹っ飛んだ。あまりにも唖然とした一はそのまま足を止めて見入った。
 ――――死んだ?――――なぜか惜しい思いと、やったと言う思いがあった。
 だがさすが木山と言うのか、これしきのことではと言うように、腹を押えながら立ち上がった。また戦いがはじまると思いきや、相手が森林の中へ 逃げて行った。それに対して木山も追わなかった。それはなぜか。すぐに答えが出た。
 ゆっくり立ち上がった木山は、くるっと首を回して一の方を見た。とても強烈な怖さが数メートル離れた一に襲い掛かった。
 「あああああ!」
 木山がこちらに銃を向ける前に、一の持つファマスが火を噴いた。そのまま一は回避物に身を隠す為に、雑貨屋の壁に走りながら撃った。
 ぱららららっと音が鳴り、数メートル先にいる木山の方へ飛んだ。だが、それと同時に木山からの弾も一に飛んできた。既に計算済みのように、 走る一の太腿に1発当たり、そのまま前方へ吹っ飛んだ。すぐに立ち上がって雑貨屋の隅へ身を隠した。
 壁にもう一発木山からの銃弾が当たり、地面に壁の欠片が落ちた。
 「ぐ・・・」
 血が出た太腿をファマスを持っていない手で握り締め、痛みを我慢した。鼻に異様な血の臭いがした。これが自分の血の臭い。ん?一体なにを考えているんだ 俺は。
 そのまま木山がいる方に顔を出しながら、ファマスを向けて撃った。ぱらららっと、またも屋根に霰が当たる音がする。だが見る限り木山も 大きな岩に隠れながら撃っている為、どちらも一発もヒットしていない。
 このまま弾切れを待つか。そう一が考えた時だった。森林の方から声がした。その声はまさに戦場の中に現れた天使だった。
 「ちくしょうーーー!」
 「バキュン!バキュン!」
 突然の銃声と声で一は思わず体を乗り出して雑貨屋から離れた。木山に撃たれてもいいと、この時ばかりは思った。そう、視界には木山を撃った 椎名瑞希がいた。
 「し、椎名さん!」
 「本城君!」
 言わなきゃ!今言わなきゃ。一は思わず口を開いた。だが、声は椎名から発せられていた。
 「そのままでいいから聞いてーーーー!本城君ーーーー!私ねーーーーー!本当はねーーーーー」
 本当は?その言葉の続きが物凄く気になった。だが、同時に一の瞳の中に映るモノがあった。
 「!!」
 椎名の後ろには撃たれたはずの木山がなにもなかったように立ち、すぐ後ろで拳銃を構えていた。
 「あぶない!」と、言いたかった。なにもかも、消えそうな 予感がしたその時だった。
 「ドンッ!ドンッ!」
 木山の銃から出た弾は、当たらないほうが不思議なくらい近くで当たり、瑞希は背中を曲げながら前のめりに倒れた。もうあとは事の次第。駆け寄る前に これ以上にないほど、ファマスが大きな声で叫んだ。
 「殺せーーーーー!」
 一瞬にして指に力が入り、ファマス5の引き金が動き、銃口からはぱらららららっと音を出しながら無数の弾が木山に向かって飛んでいった。
 木山もすぐに一の方へ銃を向けようとした。そう、向ける寸前に事は終わった。
 「パスッパスッパスッ!」
 1、2、3発目は体にヒットし、これだけでは木山は倒せない。だが弾は意思を持っているかのように、4発目の弾丸は木山の頭を捕らえた。
 「バチュッ!」
 変な小爆音が雑貨屋に響いた。木山はそのまま足を上げて倒れた。一瞬だが、後頭部からは脳みそのような具が出たような気がした。一は頭に 命中させたのを確認すると、すぐに木山の近くで倒れている瑞希に駆け寄った。
 「椎名さん!」
 椎名の体からは体温が消えかけていた。だが、綺麗な顔はそのままだった。その死に顔からは、死に化粧もいらぬ、心が温かい人間を思わせた。
 「し、椎名・・・さん・・・。うそ・・・だろ・・・」
 この時、一は人生の中で最高の怒りを神にぶつけた。――――ちくしょーーー!なんで、なんで俺だけこんなに悲しい思いをしなきゃ ならないんだーーー!――――
 「話さなきゃ・・・ダメだよね・・・。椎名さんに・・・」
 いや、やっぱり言えない。けど、言わなきゃ・・・。数分が経ち、一はやっと瑞希に言える決心がついた。言う。言わなきゃならない。
 「俺・・・俺、椎名さんが好きだったんだ・・・。俺、いつも椎名さんに憧れてた。こんな女の子、探してたよ・・・。 仲間にやさしくて、強い精神の持ち主で、綺麗で・・・・」
 言えば言うたびに涙が溢れた。ぽろぽろと一の瞳から出た涙が瑞希の顔に落ちた。
     

【残り2人】




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