グリモワル・テーゼ 序章

「……また負けた……」
ロングヘアの髪をなびかせながら、唇をかみしめ悔しがる。その手には校外マークテストの結果が握られていた。少女の目の前では、大はしゃぎをしながら喜ぶショートヘアの少女が立っていた。
「蓮ちゃん、また私の勝ちだね、今回で三連勝!」
 蓮と呼ばれる少女は、ショートヘアの少女の鞄を奪い取るとくしゃくしゃになっている紙を広げて、怒鳴った。
「記述テストでまともな点をとれない、あなたに言われたくないのです、沙弥さん」
 蓮の広げた沙弥のテストは、一桁の数字の点が並んでいた。沙弥と呼ばれた少女は、自分のテストをゴミ箱に捨てると、蓮を追い詰めるように言った。
「負けを認めるのだ、連ちゃん」
 蓮は、拳を震わせながら、言い返す。
「あなたのマークテストは、すべて勘のくせにちゃんと理解して解いているのですか」
沙弥は、満面の笑みで答える。
「ううん、全然解んないよ、でも正解だからいいではないか」
 沙弥の態度に蓮は、眉をしかめる。
「それでは、その場の付け焼場なのです。それは、本来の勉学では……ふぐっ……」
 沙弥は力説をする蓮の口を塞ぎ、首を横に振る。
「そんな固いことばっかり言っているから、身長が伸びないのだよ」
 沙弥は、蓮の頭をポンポンとたたく。二人の身長の差は20cm位ある。
「身長は、関係ないです。大体、あなたは何事も大雑把過ぎなのです」
二人の会話は、教室にいるクラスメート全員に聞こえていた。その中で、我慢の限界を超えたのは、いつも穏やかな担任の先生だった。
「中村さん、碓氷さん、今は何の時間でしょうね」
 先生の顔は、笑いながらも確実に怒っている表情だった。
「     なのです
HR
だよ   」
 二人は同時に答えた。
「分かっているなら静かにしなさい」
 中村沙弥と碓氷蓮の毎日は、騒がしい。


〜入学当時〜
中村 沙弥の場合

 私は、自分でも認める馬鹿だったので、正直高校に合格するか心配だった。一応剣道部での大会で、評価されるほどの記録を残していたので、なんとか推薦をしてもらって、なんとかこの泉川高校に合格した。入学した私は、ただ剣道を一生懸命することしか考えていなかった。将来、進学するか…や、何になりたい等、そんな事は考えることはできなかった。とりあえず、毎日が楽しければそれでよかった。そんな私にも、読書という意外な趣味を持っていた。ひたすら、ファンタジー小説や非現実的小説ばかり読んでいた。そのせいか、私は昔から周りの人々に夢見がちと言われていた。それでも、私が違うジャンルの本に手をつけることは、ありませんでした。これは、中学校の頃からから感じていたが、
図書館に人は少なかった。高校になると、中学校以上に人はいなかった。そんな中、私は、大好きな本に囲まれ、毎日を部活と読書に費やしていた。ある日のこと、図書室は異様なほどに混み合っていた。
「由紀ちゃん、今日は何かあるの?」
 由紀と呼ばれる女性は、図書室の事務員をしている松本由紀であった。松本は、沙弥の顔を見ながら言った。
「中村さん、私のことは松本と呼んでくださいといっているでしょう・・・全く・・・」
 小さなため息をつきながら、松本は沙弥の質問に答えた。
「テストが近くなったり、受験を控えた三年生は勉強をしたりする為に図書館を利用するんですよ」 
 松本さんの回答に、私は少し気を落とした。
「やっぱり本を読みに来る人って少ないんですね」
松本はカードの整理をしながら淡々と答える。
「そうですね、私の学生時代と違って、今はいろんな物がありますからね」
 場の雰囲気が段々暗くなっていく。その時、松本さんはふいに一枚のカードを私に差し出して言った。
「この子もあなたみたいに毎日本を読みに来てくれているわよ、1−Aだからあなたと同じクラスだし、ご存知なのでは?」
 私は、差し出されたカードを受け取って見ると、そこには難しい本ばかり借りている記録が残っていた。名前欄には、”碓氷連”と書かれていた。
(・・・碓氷連・・・・・・あ、あの小さい子か・・・・・・)
「由紀ちゃん、この子今日も来ます?」
 松本は、少し笑いながら言った。
「彼女なら、今も来ているわよ」
 振り返って、人ごみの中を見渡してみると、確かに見覚えのある顔があった。どうやら、読書をしている間の私は、周囲に目がいっていないらしい。
(どんな子なんだろう・・・・・・)
 これが私と連の始まりのきっかけだった。

碓氷 連の場合

 私は、とにかく負けず嫌いだったので、中学時代はひたすら勉強ばかりをしていた。そんな私に友人と呼べても親友と呼べる人がいるはずがなかった。そもそも、私自身が作ろうと努力もしなかったし、必要ともしなかった。この頃の私は、必要以上に人とつきあいを持つことを嫌っていた。自分の時間が奪われることが、たまらなく我慢できなかった。それは先生も例外ではなく、
「お前ならもっと上の学校を狙えるだろう」
「わざわざレベルを下げる必要はないだろう」
周囲の先生が、有名進学校を次々と挙げてきたがすべてを聞き流していた。結局、地元にある現在の泉川高校に入学した。同じ中学校出身者からの目は、多少なりとも冷たかった。しかし、そのような目さえもこの頃の私にとってどうでもよかった。そんな私が、唯一自らの時間を割いて取り組んでいた趣味が、読書だった。私にとって読書とは、他の人と出会う場であった。決して著者と実際に会うわけではないのだが、本を読むことによって、著者が何を思い、この本を書いたのか、何を伝えたいのか、そのようなことを考えるのが、好きだった。高校生活に入っても、それだけは変わらず、ひたすら毎日図書館に通い、新しい出会いを求めていた。
「松本さん、今回の本は大変興味深かったです」
 図書館の事務員である松本さんとは、よく話をしていた。
「そうなの、どんな所がよかった?」
松本さんは、カードに判を押しながら私に返答してきた。
「そうですね・・・・・・前回読んだ同じテーマの本に比べて、発想が独創的で斬新だったのです」
 松本は、頷きながら連に質問する。
「碓氷さんは、哲学や現代思想の本ばかり借りていっているけど、違うジャンルの本は読まないの?」
「全く読まないというくらい読まないです、あまりファンタジーとかそのような物に興味が、湧かないので・・・・・・」
 松本は少し表情を曇らせながら、言った。
「確かに興味のない本は読む気が湧かないと思うけど、他の本も読んでみると楽しいし面白いわよ」
このような助言を、この頃の私はおせっかいとしか捉えることができなかった。
「・・・・・・検討してみます・・・・・・」
本の返却を済ませて帰ろうとすると、松本さんに呼び止められた。そして、松本さんは一枚のカードを私に見せた。
「どう、この子なんてあなたと正反対よ、哲学のジャンルとか全く読まないんだから」
 私は、カードの名前欄を見た。そこには、”中村沙弥”と書かれていた。
(中村沙弥・・・・・・確か同じクラスだったはずです・・・・・・)
「この人もここに毎日来ているのですか?」
「そうよ、多分部活が終わったら来ると思うわよ、どうする、待ってる?」
必要以上に人との関わりを拒むはずの私が、何故かこの人には会ってみたいと思った。
「待たせてもらっていいですか?」
「どうぞ」
 これが、私と沙弥の始まりのきっかけでした。
沙弥と連の始まり
「あの、ここ座ってもいいですか?」
 蓮は無言でこくりと頷く。それを見た沙弥は蓮の前の席に座った。
「あなたも読書が好きなのですね」
 ふいに聞かれた沙弥は、戸惑いながら頷いた。
「蓮ちゃんは、難しい本ばっかり読んでいるね」
 蓮は、再び無言で頷く。蓮の態度はあまりにもそっけない。
(どうしようかな……怒らせちゃったのかな…)
 沙弥は不安で頭がいっぱいになっていく。しかし、それ以上に蓮はパニックになっていた。
(会えたのはいいのですが……うう……どうしましょうです……)
 今まで必要以上人との関わりを積極的に行わなかった蓮にとって、今の自分はまるで冒険者のようであった。
 「あ……あ…あの………」

 チャイムの音が流れる。どうやら帰宅時間が来たようだ。
(やっぱり私には、無理です……)
 蓮が帰ろうと立ち上がった瞬間だった。
「明日もここで会えるかな……」
 沙弥が精一杯の気持ちでの一言。
「……は、はいなのです……」
蓮もやっとのことで返答できた。
ここから沙弥と蓮の物語が始まる。

 
<続>
グラス・ベア
2007年11月23日(金) 21時03分20秒 公開
■この作品の著作権はグラス・ベアさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
作者からのメッセージはありません。

この作品の感想をお寄せください。
読ませていただきました。第一印象としては、会話文が多すぎるのではないでしょうか?もう少し情景描写や人物の心情を正確に描いたほうがいいと思います。その意味で、今は可もなく不可もなく普通の評価にさせて頂きます。 10 クロネコ ■2007-11-24 10:32 ID : 5VFcneuLZrk
PASS
合計 10
お名前(必須) E-Mail(任意)
メッセージ
評価(必須)  削除用パス 


<<戻る
感想管理PASSWORD
作品編集PASSWORD 編集 削除