| グリモワル・テーゼ 一章 |
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二人は、高校生活始めての夏休みを迎えようとしていた。高校での生活は、毎日の宿題に追われ、数々のテストをこなし、沙弥は期待の新人として剣道に励み、蓮は己が精神を高めるために、弓道を始めて新入生の中では実力派として通っていた。そんな忙しい中でも彼女らは、読書に明け暮れていた。二人の話題が、読書しかなかった為、読書を欠かすことは、なかった。二人は、半年近く付き合って自分にとっての相棒を見つけたような感じがしていた。 「沙弥は、休み中の部活、何時くらいに終わるのですか?」 袴姿をした蓮は、剣道着姿の沙弥に尋ねた。剣道場と弓道場は、他校では珍しいのだが、向かい合うように、設立されていた。なので、部活中も話をしていた。 「実は、秋季新人戦のメンバーに入っちゃったからさ……。朝から始まって、昼過ぎくらいかな…。蓮ちゃんは、昼前だよね?」 蓮は、首を振りながら答えた。 「私も秋季新人戦のメンバーに入ったのです。おそらく、剣道部と同じか少し早いくらいまでです」 沙弥は、頷きながら何かを思い出したかのように答えた。 「なら、昼過ぎから図書室とか行けるね」 「そうですね、図書室なら宿題も読書もできますし……」 この解答に、沙弥は頬を膨らませた。最近になって蓮は、図書室を勉強の場としても利用していた。一方未だにその考えに納得できない(単に勉強をしたくない)沙弥は、蓮が図書室の利用の仕方が、変わってきたのはおもしろくなかった。 「どうして、図書館で勉強とかするかな…、勉強なんて家に帰ってやればいいじゃん。図書室では本読もうよ」 その言葉に蓮は、沙弥を指差しながら、答えた。 「家でもろくに勉強してないのに、そのような言い方はやめてください。文句があるのでしたら、家で勉強してから言ってください」 沙弥は、返答に困った。何故なら、自分にとって一番痛い所を突かれたからである。確かに自分は、家でも勉強をしていない。宿題にさえ、手を付けていない。 「ははは……まあ、そうだよね…」 沙弥が、どんどん落ち込んでいくのを見て、焦った蓮は、慌てながら言った。 「まあまあ……図書室で一緒に勉強すればいいのです」 その言葉を聞いた沙弥は、手のひらを返したように、笑顔で言った。 「じゃあ……解らない所、写させてね」 開き直った沙弥の発言に、再び蓮が、質問をする。 「全部解らないと言うのではないでしょうね」 「そんなわけないじゃん」 笑いながらの返答とは裏腹に、目は完全に向こうへ泳いでいる。どうやら、図星だったらしい。 (全く……) 蓮は、ため息をつきながら、沙弥の肩を叩いて言った。 「解らない所は、教えますから答えを写すのは、やめるのです」 沙弥は、頭をかきながら言った。 「うう…面目ない」 部活も終わり、二人は約束通り図書室に向かっていた。 「もう、図書室の本も少なくなってきたな…」 ファンタジー系の本は、図書室にはもともと少ないので、蓮に対して沙弥は、愚痴をこぼしていた。蓮は、受け流すように、返答した。 「だったら、近代文学とか読めばいいじゃないですか、一応物語になっていますよ、あなた好みかは、知りませんが……」 蓮のそっけない反応に、開き直ったかのような回答をした。 「どうせ、私は難しい本は読めませんよ…」 そう言い放つと沙弥は、そそくさと図書室へ向かっていった。蓮は、沙弥に合わせる事無くゆっくりと図書室へ向かった。 沙弥が図書室に入ると、事務員の松本が、ダンボールに本を詰めていた。どうやら、本の整理をしているらしい。 「由紀ちゃん、その本どうしたの?」 「表紙がぼろぼろになったり、字がかすれたりして読めなくなった本を整理しているの」 沙弥は、不安そうに松本に問う。 「もしかして、処分しちゃうんですか?」 松本は、沙弥に対して残念な顔をしながら、答えた。 「そうね、多分そういう事に、なっちゃうでしょうね」 形あるものがいつかは崩れていく事は、沙弥も理解できる。それでも、本が処分される事は悲しい事で、とても耐えられるものではなかった。 「由貴ちゃん、中身少しだけ見てもいいですか?」 本来ならば、ここは断らなければいけないのだが、松本は沙弥が、昔の自分と重なって見える気がした。 「ええ、少しだけならいいわよ…」 「…ありがとうございます」 沙弥は、ゆっくりとダンボールを開けると、やがて処分されていく本をじっと眺めていた。自分ではどうしようもない無力感に襲われていた。それらの本の中に、一際汚れていて、表紙に何が書かれていたかも、分からない本があった。しかし、その本は沙弥の目を釘付けにした。沙弥は、その本を手に取ると埃を払いながら、松本に言った。 「由貴ちゃん、ここにある本を貰うのってダメですよね……」 松本は、考え深そうな顔をしながら、沙弥に言った。 「そうね、本来ならいけないけど…貴方が大切に読み続けてくれるなら、内緒にしておくわよ」 由貴の意外な回答に戸惑いながら、それでも満面の笑みを作りながら、沙弥は答えた。 「ありがとう由貴ちゃん、大事にするよ」 そういうと、待ち合わせをしている蓮の事を忘れ、本を手さげ袋に入れると、勢いよく図書室を後にした。誰もいない廊下を沙弥は、走りながら駆けていく。 ふと耳もとにどこからとも無く声が聞こえる。 「…タスケテ……ワタシタチノクニヲ……」 沙耶は、その声に聞きあたりを見渡したが、誰もいなかった。空耳かと思い、下ろした手さげ袋を持とうとすると、なぜか袋が光っていた。不思議に思い、袋の中を覗いてみると、さきほどの本の真ん中あたりが、発光色の緑の光を出していた。本を取り出し、光っているページを開けてみると一枚のしおりが挟まれていた。どうやら、このしおりが光を放っていたらしい。そのしおりには、カタカナでこのように書かれていた。 「…テンガオチテクル……」 沙弥は、しおりをなぞりながら文字を読んだ。その瞬間、緑の光は赤くなり、しおりの中に沙弥を呑み込んでいった。その後には、手さげ袋と古い本そして一枚のしおりが、残っていた。 一方、蓮は沙弥が図書室を出て数分後に、図書室に来ていた。 「松本さん、すみませんが、沙弥は来ていませんか?」 松本は、苦笑いをしながら言った。 「中村さんなら、さっき図書室を出て行ったわよ」 (な…なんですと……) 蓮は、驚きを声に表現できなかった。 「何か約束していたの?」 蓮は、松本の問いかけにこくりと頷こうとしたが、慌てて首を横に振った。 「いえ、別にしていないのです…少し気になっただけで…」 (自分から誘っておいて、すっぽかすとは…) 「それより、松本さん、実はとても興味深い本があったので、貸していただきたいのですが…」 蓮は、沙弥の事を諦め、自分の話をし始めた。 「どんな本なの?」 松本は、ダンボールの片付けをしながら、蓮に尋ねる。 「とても汚れていて処分というシールを貼っていたものです…確かこのダンボールの中に……」 松本は、このとき沙弥にあげた本である事に気付いた。 「それってもしかして、青い紐のしおりが入っていた?」 蓮は、松本の回答にびっくりしながら、首を縦に振る。 「なぜそれを知っているのですか?」 「実は、さっき中村さんにあげちゃったのよ…その本…それで…」 この時、図書室に蓮の姿は無かった。どうやら、沙弥を追いかけて行ったらしい。 「碓氷さんも本が絡まるとまるで別人ね…」 松本は、少しため息をつきながら、蓮が開けっ放しにしたドアを閉めた。 (全く…携帯にもでないしどこにいるのです) 蓮は、沙弥が出て行った同じような道を辿っていた。勿論これは、偶然である。その途中、蓮は廊下に放置された手さげ袋を見つけた。なぜか、夕日の光とは異なる色を発していた。 「確かこれは、沙弥の手さげ…それにこの本は…」 沙弥が消えた場所に来た蓮は、ここで何かあったことが予測できた。しかし、何が起こったかは、分からなかった。その手元には、片面が真っ黒になっているしおりがあった。 しかし、裏面は、一向に光っている。 (このしおりは、確か本に挟まっていた…) そのしおりに触れたときである。沙弥と同様何かの声がした。 「…ワレワレヲ…アラタナセカイニ…ミチビケ…」 蓮にとって、受け入れがたい真実だった。しかし、目の前にあるしおりから、声が聞こえた。恐る恐るしおりを手に取り、光っているほうの面を見た。やはり短い文字が書かれていた。 「…ダイチガサケル…」 たちまち、沙弥と同じように緑の光が青くなり蓮を包み込んでいた。呑み込まれた後には、沙弥の手さげ袋と蓮の鞄しか残っていなかった。なぜか、謎の本としおりは、そこから姿を消していた。 どれくらい眠っていたのだろう。意識がはっきりとしない。ただ、肌の感触は敏感で、時々流れてくる熱波に似た風を感じていた。私の住んでいた町では、一年中感じることのない風だ。意識がはっきりとしてくると、周りが赤いレンガで出来た建物というのが分かった。この時、私はどこか別の場所に飛ばされたか、あるいは夢でも見ているのかと思った。私が、あれこれと戸惑っていると、建物の入り口から、本に出てくるような妖精が現れて、私にこう言った。 「お前は、異界人だな…何処から来た…」 突然の質問に、戸惑う私に妖精は次々と質問を問いかけてくる。 「お前の名前は…どうやってここに来た…」 私はパニックになり、とりあえずここがどこかを聞くことにした。 「私は、中村沙弥…変なしおりに吸い込まれて気がついたらここにいました…」 妖精は、沙弥の回答に驚きながら、何故か今までの上からの目線を、誤るように沙弥に言った。 「失礼しました、まさか選ばれし者だとは、思いもしなかったので…ご無礼をお許し下さい」 とても丁寧に謝れたが、沙弥にとっては何もかも訳が分からなかった。選ばれた者の意味も、ましてこの世界が何処なのかも…。 「私の事は、沙弥でいいからとりあえず何で私がここに呼ばれたのか説明してくれないかな…どうもここは、日本じゃないっぽいし…」 妖精は、下げていた頭を上に上げると沙弥に説明をし始めた。 「ここは、グレイティスガーデン、沙弥様のいた世界とは、異なる異世界でございます、その中でもこの国は、火の国と呼ばれています、ちなみに私は、この国の神官をやらせていただいているフレイヤーと申します」 流石の沙弥も返す言葉が無かった。 (うわっ、何この、魔法世界の雰囲気は…夢じゃないっぽいし…) 言葉の出ない沙弥に、フレイヤーは次々と話を持ちかけてくる。 「失礼ですが、沙弥様とは別に誰かこの世界に召還された人をご存知ないでしょうか…」 沙弥は、首を振りながら答えた。 「私もこういう状態だし、他に誰か来たなんて事分かんないよ…ごめんね」 フレイヤーは、沙弥の回答に機嫌を損なうことなく、話を続けた。明らかに本題に入っていくような空気である。それは、会話をしている沙弥にも感じ取れた。 「とりあえず、今から沙弥様には、二人の人物に会っていただきます、一人目はこの国を統括している火の王です、おそらく王が、これから沙弥様がどのような事をしていけばいいのか、教えてくれると思います、もう一人は沙弥様の使い魔になるであろう精霊に会っていただきます、よろしいでしょうか」 私に、選択の余地など無かった。異世界に飛ばされ、何も分からない状況で何ができると言うのであろうか。まずは、この世界の流れに乗り、元の世界に帰る方法を探すしかなかった。 「分かりました、二人の所に案内してください」 フレイヤーは、こくりと頷くと部屋を出て行った。私は、置いて行かれないように早歩きで、彼についてった。気を抜くと、見失ってしまうほど、彼の進む速さは早い上に、この国の地形自体が、とても入り組んでいた。 (いつになったら…着くんだろう……) 歩くたびに、額からは多大な汗が流れてくる。沙弥は、何人もの庶民達とすれ違ったが、人間のような形をもった生物はいなかった。皆、フレイヤーの様な妖精か、小人のような人ばかりであった。フレイヤーは、螺旋状の階段をどんどん登っていく。やがて、周りを岩に囲まれ炎が燃え盛る建物についた。フレイヤーは立ち止ると、沙弥に向かって述べた。 「あそこに見える建物があなたに入ってもらう炎の宮殿になります、ここから先はあなた一人でお進みください」 そう述べると、フレイヤーは、登ってきた階段を降りて行った。一人残された沙弥は、燃え盛る宮殿に一歩一歩近づきながら、入口の扉を触れた」 扉は、赤く光り沙弥を包み込み、やがて体中を覆うとそのまま宮殿の中に沙弥の体ごと姿を消してしまった。 「古の魔道書に選ばれた異世界の者よ」 少しの間、気を失っていた沙弥の耳元に語りかけてくる声があった。その人物こそが、火の国の王であった。その姿は、威風堂々としていてとても誇り高そうな面構えをしていた。 「失礼ですが…あなたが火の王ですか?」 沙弥が尋ねると、王はゆっくりと頷きながら答えた。 「いかにも……我がこの火の国を治める者だ…話はフレイヤーから聞いておろうか?」 王の質問に、沙弥はこくりと頷く。初めはとても驚いていたが、性格上この環境にすぐ慣れたのか、あまりおどおどする傾向もない。むしろ、この状況下を楽しむように見える。 「では、早速だが使い魔と契約をしてもらう、よろしいかな…」 沙弥に選択肢はもともとない。沙弥は、いつでもいいようなサインを王に対して出した。 「ほほう……頼もしい限りよのう……スタッピー出てまいれ」 王が声を張り上げた先に、大きさ30cm程の精霊が浮かんでいた。精霊は、背中の燃え盛る炎を過激に発しながら、沙弥に近付いてきた。まさに、沙弥とスタッピーの運命の出会いである。 「俺様の名前はスタッピー、グレイティスガーデン最強の使い魔だ、貴様名前は?」 お世辞にも、性格がいいとは思えない口調で精霊は、沙弥に話しかけた。沙弥は、精霊の質問に対して、淡々と答えた。 「私は、中村沙弥。あなたのパートナーよ」 スタッピーは、それを聞くと薄ら笑いを始めると、王に向かって言った。 「このような小娘が、俺様の相棒だと…冗談はよしてくださいよ、王様」 さすがに、腹が立ってきた沙弥は、王に対して強い口調で言った。 「こんな礼儀知らずの精霊を使い魔になんかできません、他に精霊はいないのですか?」 王は、二人のやり取りをほほえましくみながら、二人に対して言った。 「双方とも意見はあると思うが、これはすでに決議されたことなのだ…どうか仲良くやってはもらえないだろうか」 さすがの二人も一国の王の頼みときては、無視することはできなかった。沙弥もスタッピーも、しぶりながら、お互いをパートナーとすることを決めたのであった。 「では、これより契約の儀を行う…ここに赤き炎の誓いとともに異世界の者・中村沙弥を精霊・スタッピーの主とし、精霊・スタッピーを中村沙弥の使い魔とする…」 王の言葉が終わると同時に、沙弥の右腕に炎を模ったタトゥーが巻きついていた。どうやら、普段はこの姿らしい。 「とりあえずよろしくな、小娘」 あいかわらず、口の利き方は悪かったが、沙弥は気にせずに王に尋ねた。 「これから私達は、何をすればいいのですか?」 沙弥が、話をしているまさにそのときであった。宮殿の外から建物が崩れる音がした。同時に、庶民達の悲鳴がかすかだが聞こえてきた。王は立ち上がり、近衛兵に何が起きたのか怒鳴りつけた。 「外で何があった!?」 王が叫ぶと、近衛兵が二人焦りながら駆けつけてきて、傷ついた傷口を押さえながら、王に外の様子を報告した。二人とも息が荒い。 「我が国では、確認されていない魔物に襲撃を受けています、おそらく他国が遣わした魔物かと……」 そう言い終わると、二人の近衛兵は、ぐったりとその場に倒れこんだ。その二人を宮殿内にいた別の近衛兵が救護室に運び込む。 「さて、こうなった以上…急いで話さなければ…沙弥殿」 王が話をしようと、口を開けた時には、沙弥は既に扉を出ようとしていた。やがて、王に手を振りながら外に出ていった。 「やれやれ、まだ宝玉の話もしていないというのに…」 王の手の中には、中が炎のように真っ赤に燃えている赤い宝玉が握られていた。 「お前、なかなか乗りがいいな、気に入ったぜ」 さっきまで悪口ばかり言っていたスタッピーが、宮殿外の階段を降りていく沙弥に対して言った。 「当たり前だよ、私はもともと堅苦しいのが苦手な性格なんでね…意外とあなたと気が合うかもね」 二人は、そのような会話をしながら魔物がいる広場に着いた。そこには、5m強の大きさを持つドラゴンが周りを黒い炎で焼き尽くしていた。沙弥は、ここで初めて自分がした軽率な行動に気づいた。 「どうした、魔物を目の前にして恐れをなしたか?」 スタッピーは、沙弥を少しからかうように言ったが、それに答える余裕を今の沙弥は持っていなかった。ただ、目の前の恐怖に茫然と立ち尽くし、小言を言っていた。 「あんな大きな魔物どうすればいいのよ…」 人間界から来た沙弥の率直な意見だった。すると、沙弥の右腕のタトゥーが赤く光りだし、スタッピーが叫んだ。 「今から俺が言う事を復昌しろ、そしたら俺様がお前の力となり、活動できる…いくぞ」 沙弥は、戸惑いながらもスタッピーが述べた契約の言葉を復唱した。 マジカルシンフォニー コード”スタンダード” すると赤いタトゥーは、沙弥の体を覆い、泉川高校の制服の上に見えない膜を張り巡らせていくような感じがした。沙弥に対して、スタッピーがどこからともなく声を上げた。 「今の状態のスタンダードは、あくまでお前の基本的攻撃、防御を上げている程度だ、これだけじゃ、やつに勝てねぇ…」 スタッピーの意外な言葉に、沙弥は戸惑う。 「じゃ…どうすればいいの、このままやられるのを待つわけ?」 その時、ドラゴンの振り回す尾が、沙弥に向かってきた。防御の姿勢をとったが間に合わず、尾に弾かれ崩れた建物内に吹き飛ばされた。 「いたた…剣道の胴外された時より痛いな……」 この沙弥の独り言に関して、スタッピーが理解することは、できなかった。それよりスタッピーは、先ほどの話を続けた。 「俺たち使い魔は、各国にある宝玉というものをコードとしてはめ込む事によって、初めて本来の力が出るんだ…だからこの国にも炎の宝玉があるはずなんだが…」 ドラゴンは、周りを見渡しながら再び炎を吹き始めた。しかし、今の沙弥達には、どうすることもできない。そのときであった。沙弥の脳裏にテレパシーのようなものが走る。その声の主は、王であった。 「全く、お前たちは後先考えずに飛び出しすぎだ……まあよい、今からそちらに炎の宝玉を転送する、シリアルコードは”フレイム”だ」 そういうと、沙弥の目の前に赤い光とともに小さな宝玉が現れた。沙弥は、宝玉に手を伸ばした。それを見て、スタッピーはよしと声をあげると沙弥に対して言った。 「シリアルコードを外せ、反撃開始だ」 沙弥は、スタッピーの言葉に頷くと右手に宝玉を握りしめ、コードチェンジをした。 マジカルシンフォニー コード”フレイム” 宝玉の真っ赤な炎が外に漏れ出し、沙弥を包み込んでいく。今まで制服だった沙弥の服装は、上に動きやすそうな甲冑を纏い、手には刃が燃え盛る炎の剣が握られていた。 「凄い……体から力が溢れてくる……」 ドラゴンが、光に気づきこちらを向いた。そして、沙弥にめがけて黒炎を放つ。沙弥は向かってくる黒炎を剣で切り捨てた。すると、黒炎はみるみるうちに引き裂かれ、消えていった。 「流石宝玉の力だぜ、予想以上の切れ味だ」 スタッピーが、自らの力に驚いている。ドラゴンは、目の前で起きたことに戸惑っている様子で、後ろに下がっていく。 「スタッピーどうやって倒せばいいの?」 スタッピーにとっては、しょうもない質問であったが、剣を始めて握り、まして何かを斬った経験のない沙弥にとっては、当り前の質問であった。 「自分の頭の中でどうやって倒すかを、インスピレーションで描くんだ、後はそれを俺が具現化してやる」 沙弥は、その言葉に納得すると、神経を集中し始めた。同時に刃の炎が一点に集中していく。 「これでもくらえ、炎殺降魔衝」 沙弥が、技の名前を叫ぶと、一点に溜まっていた炎がドラゴンに向かって一直線に走っていき、やがてドラゴンの体を覆い尽くし、焼き尽くしていく。周りには、ドラゴンの悲痛な叫びが、こだましていた。敵の姿がなくなると、気が抜けたのか契約が切れ、制服の姿に戻っていた。 「なんとか勝てたね」 沙弥が右腕のスタッピーに言うと、スタッピーは当然のように言った。 「俺様が使い魔…やっているんだぜ…、負けるわけ…ねぇじゃねーか.・・・」 強気に話すスタッピーも、なんだかんだで、疲れが溜まっていた。話す言葉所々に乱れを感じる。 「さてと…敵もやっつけた事だし、王様に報告しにいこ」 沙弥の言葉に、スタッピーは同意した。二人は、広場から宮殿に行くために、螺旋状の階段へ向かった。 <続> |
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グラス・ベア
2007年12月06日(木) 01時52分06秒 公開 ■この作品の著作権はグラス・ベアさんにあります。無断転載は禁止です。 |
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