第4ゲーム
よく、後ろを振り返るな、前進あるのみ。とかよく聞きます。自分がしてしまった後悔。どうしても後ろを振り返って思い出してしまいます。
しかし前を見なければ、その先に何があるのか、または何が待っているのか分かりません。思い出を振りかえる事は悪い事ではありません。その後悔をバネにして
次に頑張れる。その心を持っていればいい人生を歩めると思います。
時に自分だけ不幸だ。あの人はいつも明るくていいなぁ、と、人と自分を比べる事がありませんか?それは当然の事であり、絶対間違っていることなんです。
不幸だらけの人生なんてものはありません。ようは、その人の精神の持ちようです。泣いて喚くのか、泣いたとしてもそれをバネにして強く生きようと思うのか
・・・・。
彷徨うとはどういう事なのか。ちゃんと出口の扉はある。それなのになぜ一生彷徨うのか?やはり不思議だ。
それに最終ゲームとはどんなものか。僕は目の前にあるコーヒーを一口飲んだ。
鷹野はガムをくちゃくちゃと音を立てて噛んでいる。
青い学ランの少年は下を俯きっ放しだ。
明彦は腕を組んで黒の男の話を聞いているようにも見える。
克人はコーヒーをずずっと飲んでいるが、カップを持つ手は震えている。
南桐は僕の後ろでずっと考えるようにどこかを見ている。
大橋は静かな冷静な目でテーブルをじっと見つめている。
「さて最終ゲームのルールを言います。まず注意というか最低限のしてほしい事があります。それは今この場にいる全員の顔を覚えて置いてください」
顔を覚える・・・。またも不可解な事を言うがそれが基本のルールに入っているのならば従うしかない。
「それでゲームの内容は少し難しいかもしれません。みなさんには鬼ごっこをやってもらいます」
その瞬間参加者の皆はびっくりした。それもそのはず。なぜ鬼ごっこなのか。それに最終ゲームが鬼ごっこというのに、
期待していた大きなゲームとは違っていることに驚いた。
「おい、どういう事だ?鬼ごっこだと?」鷹野は座ったまま叫んだ。
「はい。鬼ごっこです。しかし皆様が知っている鬼ごっこをベースにした鬼ごっこです。ルールは・・・・」
黒の男がルールを言う前に、なぜか大広間の電気が消えて真っ暗になった。それからすぐに眠たくなった。
また何かなるのか?僕は必死に眠気を堪えたがやはりだめだった。予想だが、他の参加者もそうだと思った。
***********
目が覚めると僕は眩しい光に照らされていた。ここは・・・公園。御影公園だ。太陽が昇っていて昼のようだ。
辺りを見渡したが他の参加者の姿がない。なぜか僕は公園のブランコに座っている。
「皆様起きて下さい。目覚めて驚いた事でしょう・・・」
館の中ではないのに黒の男の声がまた何処からともなく聞こえる。
「皆様は今一人です。それに今いる所は皆さんが良く知る場所でしょう。しかしここは私が作ったゲーム会場です。
またフィールドと言っても良いでしょう。現実ではありません。だから皆様以外他の人はいません。鬼を除いては・・・」
作った?嘘だろう?こんなに現実そっくりの場所を作るなんて無理だ。しかし本当人が全くいない。
車はあるが、走っている車はない。まるで自分ひとりの世界のようだ。
「皆様がいる場所がゲームのスタート地です。そこから逃げてください。
開始の合図と共に胸に鬼と書かれたバッチを着けている者があなた達を追ってきます。
いいですか?鬼は全部で皆さんの人数分います。どの鬼も参加者の皆さんを見つければ追っかけてきますので、
倒してください。倒す方法は何でもありです。武器はそこら辺の棒や鉄などなんでもいいんでそれで鬼を殺してください。
そうしないと・・・・あなたが殺されます」
殺すだと?鬼が追っかけて来るだと?僕はブランコを急いで降り、公園の中を見渡した。見た限り自分の他には誰もいないようだ。
「それでは良いですか。間違っても参加者同士で殺さないように。尚、参加者同士で協力するのはありです。
鬼もすべて倒し、参加者が複数残っている場合はまた次の鬼が来ます。サドンデスのように一人決めるまで鬼は追ってきます。
さあ、鬼ごっこを開始しましょう」
黒の男が大きな声で叫んだ瞬間、同時に空から大きなピーと言う開始の音が聞こえてきた。とにかくこうなったら逃げなければ。
全く誰もいない公園は生まれて初めてだ。公園内だけではなく、公園から見える団地ですら誰もいない。僕の走る足音だけが耳に聞こえる。
ここにいても仕方がない。早く公園から出ようとした時、数メートル先で爆発音にも似た音が聞こえた。振動はない。まさか既に鬼に見つかった
参加者の誰かがいるのか。その時僕は大橋の事が頭に浮かんだ。彼女一人じゃ到底鬼に捕まる・・・、いや殺される。
砂埃も気にせず、全速力で公園の出入り口を出た。コンクリートの地面は現実そのままだ。
少し戸惑いながらも爆発があった右の方を振り向いた。遠くだが確かに煙が上がっている。大橋!僕は必死に煙の上がるほうへ走った。
すぐに煙の中から何者かがこっちに走ってくる。もしかして既に鬼が参加者の誰かを殺していて、今走ってくるのは自分に気づいた鬼ではないかと不安に思った。逃げようかと後ずさりしたが、やはり誰なのか確かめないといけない。もしかすると大橋かもしれない。
「あっ」
煙の中から見えたのは、青い学ランの少年だった。僕を見て凄く驚いた顔をしたがすぐに同じ参加者だと分かり、こっちに走ってくる。
と、いきなり青い学ランの少年の後ろで大きな爆発があった。「ドオオン」と凄い地響きと爆発音と共に、
ぎりぎり青い学ランの少年の後ろでコンクリートが粉になって爆破していた。更に煙で前が見えない中、
僕は今置かれている状況に気づき、青い学ランの少年と一緒に走った。
「ガシュガシュ」と後ろの方からロボットが走ってくる音がしたが今は逃げなければならない。
僕は必死で逃げた。すぐにその音は遠ざかったが、横にぴったりと青い学ランの少年がいた。
まさか同じスピードでついて来るなんて結構足が速いな。
僕と青い学ランの少年はとりあえず公園から近い団地の三階に息を潜めた。
本当にいつもなら車が通ってる道路が全く車一つ見えないのが逆に恐怖をそそった。
「はぁはぁ・・・」
「大丈夫ですか?」
3階の階段に二人座った。随分息が切れている僕に青い学ランの少年が横から
心配をしてくれた。随分と息が切れていないなと言おうと思ったがやめた。
「あ、大丈夫・・・」
「はぁ、あぶなかった・・・」
「あれは鬼・・・かい?」
僕は訊いた。そう、確かにここには鬼と参加者しかいないフィールドだが、一様確かめないといけない。
「はい。俺が初めにいたのは公園から少し離れた所にあるタバコ屋です。目が覚めたらそのタバコ屋
の公衆電話のところで受話器を持ってました。・・・それで公園の方に向かおうと歩いていると、
なにか左から音がするんですよ・・・。それで見たら丁度公園行く別の道から銀色に光る物をたくさん身
に着けた人間が俺を見つけるなり走って来たんです。それで俺も危機感を感じて逃げました・・・」

鬼名「メタル」(対修二用)
2メートルを超す身長の鬼。
とてつもなく怪力の持ち主。小形ロケット砲を装備しており、民家を数件破壊する威力を持っている。弱点
は体に付いた金属や鉄をのける事。他に、逃げることなら、
人間の速さよりも随分と遅いので、小学3,4年生ぐらいまでの走り。
修二は目覚めると同時に、自分の視界に右の鬼の絵が飛び込んできた。驚きと
同時に修二は逃げるが、鬼は追いかけるようにすぐロケット砲をぶっ放した。尚、声はあまり発さない。
鬼の中でもかなりの上のランクに入るだろう。
身長:230cm
体重:189キロ
得意技:怪力&ロケット砲
「なるほど・・・それで黒の男が言ってた鬼と書かれたバッチは?」
「ああ、見ました。胸の所にありました。たしかスキンヘッドでごつい顔だったから男だとは思います・・・」
一瞬スキンヘッドで南桐を思い出したが、銀色の物とはなんなのだろう。とにかく青い学ランの少年は鬼に追われてきたという訳か・・・。
「あの爆発は何?」
「ああ、たぶんですがロケットランチャーみたいな物騒な物持ってましたからそれじゃないかと・・・」
ロケットランチャーだと?まさか・・・。でもあの爆発からは考えられない事もない。
さっきの爆発から逃げていなければ確実にあのコンクリートと同じような形で死んでいたかもしれない。
「青い・・・じゃなくて、君の名前は?」
「あっ、俺は修二って言います」
「修二君か・・・。名前よく似てるね。僕は修一って言うんだ、よろしく」
一度階段から重い尻を立ち上がらせ、修二と名乗る少年と向き合った。
「どうも・・・修一さん」
なんだか恥ずかしい気持ちはなかったが、懐かしい気持ちが何故だかした。
まだ天候は晴れているが急に雨になったら最悪だと思いながら僕は階段を下り、踊り場から見える外の景色を見た。
見たところで煙が上る場所はあえて見ないようにしたが、まじまじとそこを見ている自分に気がつき、すぐに景色を見るのを止めた。
「修一さん、もう鬼と戦うしかないんですよね・・・」
「あ?ああ・・・そうだよね。なにかいい案でも?」
「いや、いい案かどうか分からないですが、ここはあの黒の男が俺達の住む町そっくりに作った場所だとしたら、
確かに自分の家にある物はすべてここにも置いてあるって事ですよね?なにか自分の家から武器に出来るような物がないか・・・探してみません?」
「・・・まあ確かにそうだな。しかし家に武器になるものなんかないけどな。他の店ならともかく・・・」
はっとした様に修二は僕に飛びついてきた。それだと言わんばかりに口調が早くなっている。
「そうか・・・。修一さん、武器といって思いつくものは?」
「え?武器?まあナイフとか?」
「とか?」
「ナイフに銃ぐらいじゃない?」
「それです!銃を使って対抗しましょう」
「は?銃?ちょ、ちょっと待ってよ、銃なんてどこの店にも売ってないよ・・・」
「ありますよ。この町はある所があるじゃないですか?ここら辺の官舎はみんなそう言う人たちが住んでるんですよね?」
「・・・そうか・・自衛隊官舎・・・」
そうだった。この町には自衛隊の駐屯地がある。あったところでいつも平和なこの町に果たして必要なのか思うが、実際に自分の父親も自衛官だった。
「自衛隊に乗り込みましょう。そこで銃を調達しましょうよ」
「・・・ああ」
あまり気が乗らない。それもそのはず、その銃は果たして広い自衛隊の基地の中の何処にあるのか。
その銃で相手を殺すというのが頭にガムのようにへばり付いて離れない。殺すという
言葉にあまり実感がわかないが今実感が沸々と鍋のように音を立てて沸いてくる。
「さあ、行きましょう。自衛隊までまた公園の道に出ますがどうしましょう?」
「まだ鬼がいるかもしれないって事かい?」
「ええ・・・」
「よし、見つかるのは時間の問題だ。確かに見つかるかもしれないが、見つかった所が問題だ。
走っていくのは息が切れて鬼に追いつかれる恐れがある。だから、自転車に乗っていこう・・・」
「自転車・・・。は、はい」
ただ車の乗れない僕だが、キーさえあればオートマは簡単に運転が出来る。
しかし今はそのキーがない。車がだめなら自転車が次の高速手段だ。僕と修二は急い
で階段を下りた。二階、一階と下りるごとに鬼がいないか心臓が口から飛び出しそうなほどどくどくと音を立てている。
団地を出るとそこには鬼がいなく、殺風景とした空気だけが流れていた。幸い自転車置き場に近寄って
鍵が掛けられていないものがたくさんあった。特に子供用のマウンテンバイクなどは沢山だったが二人とも
背丈が合わない。仕方なくババチャリといった古風な自転車に乗る事にした。運転し難いが必死にこいで自衛隊を目指した。
「シャーシャー」と車輪が音を立てる。ごつごととした道路に出ると曲がり角がある。その曲がり角から公園に行けるが、
駐屯地にはそのまま真っ直ぐ行かなければ着かない。ただ、その曲がり角にさっきの鬼がいた場合九十九パーセント見つかってしまう。
その覚悟でババチャリを全開にこいだ。使わない筋肉が悲鳴をあげるが気にしない。「くっ」と頑張ってますと言わんばかりに後ろ
では修二が同じ様にババチャリを必死にこいでいる。
丁度曲がり角が見えた。そのまま真っ直ぐ行くのだが、その曲がり角の道だけはチラチラと横目で見た。
――――いない――――誰もいなかった。ただ煙がまだもわもわと蠢いている。
「このまま全速力でこげ!」
僕は大きく叫んだ。風圧で髪がオールバックになったが気にしない。ただ体を前に乗り出して立ちこぎをした。
幼稚園、雑貨屋、団地と横目でチラチラ通り過ぎる度に見たが動いているモノは何もなかった。
あとはこのまま横断歩道を渡ればすぐそこだが、目の前をよく見て驚いた。
動かないモノは何にも気にしていなかったが、目の前の横断歩道で赤から青に信号が変るのを待つ
鉄パイプや色々な部品を身に纏った金属スキンへッド人間(?)が立っていた。これが修二の見た鬼だろう。
見た感じ身長が二メートルはある。明らかに物騒だし、車が通らないのになぜ信号を利用しているのかさっぱり分からない。
「うわっ」
つい声が洩れた。幸いこのまま横断歩道を沿って走ればあの機械の鬼よりかは速いだろう。
今更止まってもブレーキの音で気が付かれてしまう。最初から見つかる事は予想していた、今のままのスピードなら・・・。
「修二君、鬼には目を向けるな、とにかく自衛隊を目指せ」
一度大きな声で叫んだ。やはりその声には気づき、後ろから迫る僕達に鬼は振り向いた。
だが僕はそのまま角度を変え、鬼とぶつからない様に通り過ぎた。ほんの一瞬の出来事だ。
凡そ今の時速五十キロは出てると思った。それだけ周りが幼児の描いたぐちゃぐちゃの絵のように見えた。
「ドシュ」
大きく、そして鈍い音が突然僕の耳に飛び込んだ。まさかと思い、
ババチャリに急ブレーキをかけた。キキキと大きくババチャリが揺れ、
後輪が飛び上がった。転びそうになったがすぐに体を立て直し、
止まったババチャリを捨てるようにして後ろを振り向いた。さっきの音は修二になにかあったと思った。
「修二!」
振り向きざまに叫んだ。しかし振り向いて驚く光景を僕は見た。
修二がそのまま速いスピードで、鬼にぶつかっている。
しかも鬼はその修二が乗ってるババチャリの籠を押えて踏ん張ってるではないか。
何と言う事だ。普通の人間ならババチャリのスピードで吹っ飛んでいる所だ。
「このやろ〜」
鬼がババチャリを止めても尚、修二はペダルをこぎ続ける。
その力で徐々に鬼が後ろに下がっていく。靴が金属な為、
鬼は後ろに下がる度コンクリートの地面に火花を散らしている。
しかしそれはすぐに止んだ。人力ではスピードは落ちる。ババチャリのタイヤは完全に動作しなくなっていた。
「ちくしょう」
ババチャリを捨てて逃げようとした時、すかさず鬼が修二の首を掴んだ。赤ちゃんを持つように軽々と修二の足は地面から浮いていく。
「修二!」
険しい表情で苦しそうな修二に僕は駆け寄った。いや修二にと言うよりも鬼に向かって走った。
その距離は殆どなく、数メートル走ったところで鬼の金属がぐちゃぐちゃとくっ付いている体目掛けて大きく蹴りを入れた。
「ガン」
鈍い音を立てて崩れたのは僕の体だった。何と言う固い体だ。もう人間ではないな。
そう思いながらも必死で後ろから僕は殴り蹴りを繰り返した。しかしびくともしない。
このままでは修二が死んでしまう。何とかしてこの体に痛いの入れてやらないと。
その時ある物に気が付いた。それは鬼自身の体に付いている金属の部品だ。さまざまな部品がくっ付いている。僕はそこに狙いをつけた。
「グチャ」と僕は鬼の体に付いた鉄パイプを引き抜いた。思ったより簡単に抜け、赤黒い血が大量に噴出し僕の頬を掠めた。
「ぐがああああ」
突然苦しみだした鬼は首を締めていた修二を放し、パイプを抜かれた背中を押え始めた。
もしかしたらそれが弱点だったかもしれないが、今は修二と駐屯地(自衛隊)に行く事が先決だ。
ここで鬼を倒そうとしてもまた何か武器を隠し持っているかもしれない。
「修二君!行こう」
「は、はい」
蹲って背中を押える鬼を尻目に、僕と修二は自転車ではなく走って駐屯地に行く事にした。
首を絞められて息が切れている修二の手を取り、全速力で走った。
この横断歩道からだと駐屯地まで数メートルしかない。鬼が追いかけてこないう内に早くたどり着かなければ・・・。
「急いで!」
「は、はい」
途中ゴホンゴホンと喉を押えて走る修二に一度心配して走るのをやめたが、自ら走っていくのを見て同じペースで自分も走った。
入り口の門まで来るとそこに広がる大きなジープや射撃場が目に付いた。いつもは証明書がなければ入れてくれないのだが、
今は自衛官すらいない。しかし本物そっくりに作ったとは言え、人がいない現実と同じだ。よくできていると言う領域を越えている。
「一体何処から探索すればいいんだ?」
「・・・俺も良く知りませんけど、僚の中にあると思います」
「よし、行こう」
早口で修二とやり取りをし、目の前に聳え立つ薄緑色をした自衛隊の僚の入り口を目指して走った。
入り口は暗く電気が付いていない。しかし天候のおかげで太陽の光が電気がわりになった。入ってすぐに靴箱が置かれていて、
通路のように長い廊下で、各自自衛官の部屋が設置されている。すぐそこには二階に行く階段があった。どちらに行こうか迷ったが、
二人共々考えだったようで階段には行かず、右の通路に向かって走った。どこか武器庫のような部屋があれば・・・。
「ドーン」
走る足を止めるかのように廊下の先で不気味なほど高い銃声が聞こえた。
「・・・じゅ、銃声?」
「ああ、そうみたいだ・・・」
「どうしましょう?」
「このまま引き下がるわけにも行かない・・・。銃声と言う事は参加者の誰かと鬼が対決しているんだろう」
今は銃を見つけることと、もしかしたら大橋がこの先にいるかもしれないという期待感が、僕の足を先走らせた。
修二よりも先に僕は銃声がした方へ走った。途中部屋がいくつもあったがそれには見向きもしなかった。
「待ってくださいよ」と修二は焦りながら僕の後ろを懸命に付いてくる。いままで修二に持っていた印象とは何か違ってこの状況自体不思議だった。
以前館で見た時までは、髪が金髪の不良かと思っていたが、話してみると逆に不良と言うよりも好青年の感じが伝わってくる。
それになぜか懐かしい感じがする。
廊下の端まで行くと、そこからは曲がり角となっていた。しかし曲がり角を曲がろうとした時に、誰かと正面衝突した。
「わっ」
尻餅を付いて倒れた。向こうはそうでもないらしく壁に手を凭れていた。
「大丈夫か?稲葉君?」
その声で僕ははっとしてぶつかった人物を見た。そこには大きなライフル銃を持った顔中血だらけの明彦がいた。
一瞬見ただけでは鬼かと思ったが、そのやさしそうな人柄と細い目で分かった。
「あ、昭彦さん・・・」
「あ・・・」
後ろから来た修二は明彦がライフル銃を持っていることに少し驚いていた。
「大丈夫かい?」
「あ、すいません」
明彦に手を差し伸べられ、僕はその手に体重を掛けて立ち上がった。
「銃声があったんですが、どうしたんですか?」
「ああ、実はここに鬼が追っかけてきてね・・・」
明彦はきた道を後戻りすようにして僕達を誘導した。曲がり角を曲がった所は先ほどの廊下とはまた違い、
部屋が一つと階段にトイレがある。それにかなり広いスペースだった。
そこに血まみれに何かがいた。壁に凄く大きな罅があることに異変を感じつつも、その血だらけの何かに近寄った。
「うえっ・・・」
修二が口を押えて気持悪がるが、それ以前に僕も心で同じ言葉を叫んでいた。
「こいつが追っかけてきたんだよ・・・。実際僕はこの自衛隊に勤めていたから武器庫の部屋がわかって倒せたけど、かなりしぶとい奴だったよ」
壁に横たわるその物は、頭がぐちゃぐちゃに銃で撃たれていて、頭の中の物が石ころのように小さくなって散乱している。
あとは体に数発銃弾が埋め込まれていて血でよく顔がわからない。ただ顔と言うより仮面らしきものをしている。
その仮面の額には鬼と書かれたシールが張ってある。見ただけで吐き気がするほどの異臭と姿をしている。
こんなのは人生で一度もないほうがいい。あっても見ないことにしたい。
「明彦さん、この鬼はどんな格好だったんですか?」
すらすらと殺しについて驚かない自分に驚いていた。
「ああ、マスクマンさ」
「マスクマン?」
修二は片目を細めて尋ねた。
「ああ、銀色のマスクで丸い目がついている物さ。マスクの中心に太い線が描かれていて全身黒いタイツをしていた。それにほら・・・」
明彦はそのマスクマンの死体の近くで何かを拾った。それはマスクマンの体から流れている血に染まったコンバットナイフだった。
「こいつの武器はこのナイフだったよ・・・。最初なにか斬りつけて来るから驚いたんだけどね、
すぐに武器庫からこのコルトM16を出して倒したんだが、かなりしぶとかったな・・・」

鬼名「華死魔」(対大橋用)
基本的に
大橋用の鬼なので、他の鬼と比べて比較的に弱い。
ナイフで人間を狩る鬼。
全身黒いウエットスーツで身を包み、暗い所に隠れて潜んでいる。隙を見つけては
人間を襲う、卑怯な鬼。
力は人間の成人男性と同じぐらい。顔に付けているマスクに特に意味はない。
出てこなかったが、本当はナイフの他にも、硫酸を持ち歩いている。
身長:170cm
体重:69キロ
得意技:ナイフ&危険用硫酸
自衛官である明彦の目は真剣だった。
「明彦さん。良かったら武器庫の場所を教えてくれませんか?」
「ああ、いいとも。ていうか、すぐそこの部屋がそうなんだけどね」
明彦が指を指した所は、目と鼻の先にある階段の横の扉だった。プレートには武器庫と書かれてなく、厳重注意と書かれている。
「まさか僕も武器庫の鍵が開いているとは思わなかったけど、不思議な事にどの部屋も開いているんだ」
笑って答える明彦に僕は気がついた。すべての部屋が開いている?と言う事はまだ鬼がどこかに潜んでるかも知れない。
「明彦さん、鍵が開いてるならまだ鬼がどこかに隠れている可能性もありませんか?」
「ああ、そうだね。僕がここで見張っているからなんでも好きな武器を取ってきていいよ。なるべく大きなものは反動が強いから気をつけて」
それを聞くと僕と修二は目の前の扉に駆け込んだ。鉄製のドアだった為、体当たりのようにぶつかった肩が少し衝撃を覚えた。
中に入ると綺麗に掃除されている。壁には幾つもの銃器が並んでいる。中には一つだけロケット弾のようなものが立てかけてある。
「修一さん、どれにするんですか?」
「明彦さんが言ったようにライフルは返って僕達には撃ちにくいかもしれない。拳銃を二丁持っていこう」
すぐさま修二は手当たり次第拳銃を掻き集めている。その間僕は茶色い木箱から幾つもの銃弾の箱を取った。弾の詰め方などは分からなかった。
僕と修二は武器庫から急いで出た。修二が4つ持っていた銃を明彦に渡して、自分の持っていた銃弾の箱を渡した。
「シグにベレッタ・・・ヘッケラーにこれは・・・ガバメントか・・・。うん。この弾でもいける。二人共見ててね。弾の詰め方は単純だから」
もっていたライフルを足に立てかけると、一つの銃からマガジンを取り出し、明彦は修二に向かって「あっ、これをあるだけ持ってきて」
といってマガジンを修二に持って来させた。
修二が武器庫から向かい、マガジンを取って帰ってきたときには一つのマガジンに弾は詰め終わっていた。その間僕は真剣に弾の詰め方を見た。
そして明彦はあっという間にありったけのマガジンに弾を詰め終わった。速い・・・。率直な気持ちだった。
「ここにマガジンが8つあるから、弾がなくなり次第ただ単にこれを入れればまた弾が出るから・・・。
それでも弾がなくなったときの為に余分な銃弾を単品で持っていたほうがいいよ・・・はい」
そういって明彦は弾が詰まったマガジンが入ったハンドガンを二つずつ、それに弾が入ったマガジンを3つずつ、
それに銃弾を十発ずつ僕と修二に渡した。渡す途中僕に「ウージーぐらいなら威力もあって使いやすいけど、
これは慣れてないとあっという間に弾切れするから・・・まいっか」と小さい声で独り言を言うのが聞こえた。
渡された銃とスペアマガジンと銃弾をポケットに入れ、片手に一つ拳銃を持った。見たらそれは先ほど明彦がガバメントと言った拳銃だった。
「さあ、先を急ごう・・・」
「え?」
僕は呆気羅漢とした。なにが急ぐのか?目的でもなにかあるのだろうか。
「見ただけでわかるよ・・・。大橋さんを探しているんだろ?」
正直言って照れた。そこまでして僕は大橋の事を他の参加者まで言ったのだろうか。それを見た修二が小指を立ててニヤニヤしている。
「明彦さん。自衛隊官舎の方は行かない方がいいですよ。さっきも金属がやたらと体にくっ付いている鬼に会いましたから」
かなりおどおどした声で修二は明彦に言う。それほどまでにあの首絞めが苦しかったのだろう。きっとトラウマになるな・・・。
「ああ、わかった。とりあえずここから出よう。稲葉君の言う通り鍵が掛けられていない上、この駐屯地は広い。一旦小学校がある方へ行こう」
「はい」
「はい」
先頭をきって明彦は走った。その間に修二を挟み最後に僕という形で廊下を走った。不意に見える修二の横顔は汗でびっしょりだ。
元来た僚入り口からでると、やはり誰もいないし風の音すらしない殺風景なフィールドだった。
「ドンドン」
いきなり後ろで銃声がした。僕より先に明彦と修二が振り返った。
振り返ると寮の近くにある広い運動場で誰かと鬼が対戦している。何度も創立記念日の時に、父に連れられて運動場で戦車のパフォーマンスなどを
見たことが、少しその時のパフォーマンスと重ねて見てしまった。
誰かと鬼が対戦しているが、ここからじゃ遠くて誰かが分からない。
しかし見た感じ大橋ではなさそうだ。体ががっちりしている。南桐か?鷹野か?敵の鬼は、
とてつもなく巨大な生物で、ウジャウジャと動いている。言ってみれば心臓を巨大にしたようなものだ。
イカのように離れた丸い目玉がぎょろぎょろとしている。撃っても少しの血がピュッと飛び出るだけでがっちりした
参加者の方はなにやらマシンガンを撃って対抗している。しかし大きな心臓巨人は動くが攻撃と言う攻撃をしてこない。

鬼名「ドリーミー」(対明彦用)
正体不明の生物。
ただ動く。
大量の二酸化炭素を吐くので、近くにいたら窒息してしまう恐れがある。
弱点もこれと言ってなし。だが、基本的になにもしない。ただ動いているだけ。
ドリーミーは地中に根を張って生きている。何処からか栄養を取っているのだろうか?
身長:??cm
体重:??キロ
得意技:欠酸素攻撃
「明彦さん!どうするんですか?」
明彦は修二の声ではっとした様に気がつき「悪いが先を急ごう」と門の方に走っていった。
修二は慌てて僕を呼んだ。僕もその対戦に見とれていた。こんな対戦は漫画や特撮映画でしか見たことない光景にその場に残りたい気持ちがあった。
門の側まで来るとなにかまた物音が聞こえてきた。「ガシャンガシャン」
明彦がその音のする方にライフルを構えた。修二と僕は既にその音に聞きなれており、左の小学校がある方向へ逃げた。
「な、なんだあれ?」
明彦は金属がやたらとついた鬼に驚いている。「はやく来て下さい!そいつはやばいっすよ明彦さん」とその場で修二は後ろを振り返り立ち止まる。
「ドーン」と明彦が一発金属鬼に撃つとこちらに走って来た。顔が必死だ。
僕が振り返るとライフルの弾が鬼の体に埋め込まれていない。逆にその弾を自分の体の一部として身に付けている。無効だ。
先頭の人間が変り、修二を先頭に僕、明彦と小学校に向かって走っている。やばい息が切れてきた・・・。
僕達は何も通らない道路の真ん中を走っていた。後ろから追いかけてくる金属の鬼もかなりの差がついただろう。
しかし油断は出来ない。下手に止まるとロケット砲を撃ってくるかもしれない。あの公園前であった出来事は死ぬ所だった。
「はぁはぁヤバイ・・・スタミナが・・・」
修二がきつそうな顔つきで叫んでいる。それを見かねた明彦が立ち止まった。
一体何をするのかと僕も修二も不思議にその場に立ち止まった。見ると鬼に向かって明彦がライフルを構えている。
「なにやってんだ明彦さん!そいつには銃が効かないんですよ!早く逃げましょう!」
「・・・・二人はそのまま小学校に向かってくれ。私はここでケジメをつける・・・」
馬鹿な。なんて人だ。自分の命が惜しくないのだろうか。向かって死ぬのは神風特攻部隊だけにして欲しい。
「・・・逃げましょう修一さん」
こいつも何を言ってるのだろう。仲間意識が全くない。と、その時自衛隊の駐屯地の中で大きな爆発があった。
「ボーン」とここからでも耳鳴りがするぐらいの爆音だ。と、同時に上空に大きな爆風と、大きなミンチ肉が一瞬バラバラと飛んだ。
「なんだ?」
驚いている暇はなかった。とにかく僕は明彦の所まで走って近づいた。どんどんと距離を詰める鬼は走りながらある行動をした。
なぜか体を触りながら走ってくる。
「明彦さん、逃げましょう!死にますよ」
「・・・いやここで引き下がるわけには行かない」
いち自衛官としてだろうか?それとも他になにかあるのだろうか。後ろを振り返ると修二は必死に逃げている。
その時に大橋のことが頭いっぱいになった。悪いが・・・。
「ごめんなさい!」
僕は明彦に謝ると修二の背中を追っかけて走った。車が通ってないのはやはり慣れない。ぶおおっと体に風を感じながら只管走った。
明彦がいる後ろではライフル銃の銃声が聞こえる。「ドーンドーンドーン」と三発なった後、その銃声は聞こえなくなった。
それと同時に前方になんと紺色の車が猛スピードで走ってくる。慌てて目の前を走る修二は歩道に避け、僕も驚きつつも歩道に体を寄せた。
「ぼおおおおおお」
マフラーからでる排気音は正に爆音だ。しかし妙な事にここで気がついた。あの紺色の車をどこかで見たことあった。
そう、思い出した。あれは克也のシルビアだ。いつも愛車としてこまめに車を洗っている姿を今でも覚えている。
そのシルビアは僕の横で止まった。止まった時にはすでに窓が開いていて克也の嬉しそうな顔を覗かせていた。
「克也?」
「おう修一。乗れよ。鬼が来るぞ!」
「いや、鬼はすぐそこにいるよ!どうにかして助けてくれ!」
いつもの克也に戻っている。僕の指差す方を見て克也も僕も同時に驚いた。
それまで後ろを振り返らなかったのだが、今見たときは明彦と鬼が組み合いをしている。
断然明彦の方がかなり負けている。このままじゃやられてしまう。
「おい!克也!」
「わ、分かった。とにかく明彦さんを退かせてくれ」
「よし!」
僕は克也の言葉を聞くと、苦戦している明彦の所に走った。後ろのシルビアからはボォンボォンと
今にも飛び出しそうな音を出している。早く、早く明彦さんを・・・。
「明彦さん避けてください」
思いっきり鬼の体を蹴ったがびくともしない。そこで明彦の体に体当たりして右の歩道に押した。
ついでに自分も明彦と無様に扱けた。が、その時、後ろでチャンスを窺っていたシルビアが鬼に向かって
もう突進していく。数メートルの距離でかなりの馬力がでて速い。
「おりゃああ」と克也は車の中で叫んでいる。しかし鬼は驚きもしない。両手をそっと目の前に翳すだけだ。――――まさか・・・。
そう、そのまさかだった。鬼をシルビアで撥ねる筈が、そのまま鬼の手によって押えられている。鬼の方も、
地面に火花を散らして後ろに徐々に体が下がる。克也も必死にアクセルを踏んでいるらしくウインウインとシルビアが怒っていた。
「・・・無駄か・・・」
明彦が静かに呟いた瞬間、鬼の手がぐるっと動いた。その途端シルビアは鬼の真横に突撃していき、
更にはスピンした。克也は死ぬもの狂いでハンドルを切るが、車は駐屯地の門と壁に激突した。
「ガッシャン」と言う切れのいい音を出しシルビアは煙を上げている。
「何て奴だ・・・」
唖然とする僕を尻目に明彦は落としたライフル銃を拾いに行った。鬼は車の威力で力を使い切ってる様で腰を丸くして動かない。
「克也!大丈夫か」
はっと気づき克也の元へ走った。後ろからぶつかったシルビアはぺっちゃんこだ。
幸い克也は自らドアをあけて車から降りて来た。しかし顔が血だらけでよく見るとおでこに小さなガラスの破片
が刺さっている。シルビアはガラスというガラスがすべて渦を巻いて微々になっていた。
「いてぇ・・・いてえよ・・・」
克也の体を支えて、鬼の方を不意に見た。鬼はまだ動かない。かなり先ほどのシルビアが効いたらしい。
逃げるなら今がチャンスだ。僕は克也を連れて小学校に向かって走った。「明彦さんも早く!」
明彦も決意を決めたらしくライフル銃を片手によろよろと走っていた。しかしその後ろでまたも異変が起こった。
「キキキキキキ」
黒板を爪で引っかいたような音が一瞬響いた。それはあの金属鬼から出た音だとすぐに分かった。
見ると鬼は胸を張って叫んでいる。片手にはいつのまにかロケット砲を持っている。やばい、もう終わりだと心の中で思った時だった。
「ドン」と言う銃声が駐屯地から聞こえてきた。それは正しく鬼の体にヒットし、更には二発目の銃弾がロケット砲にあたり、
鬼から数十メートルのところに吹っ飛んだ。今までに聞いたことのない銃声だった。僕と克也、そして明彦が門を見た。
「早く乗れ!」
門から出てきたのは迷彩の色をしたジープだった。運転席にはあの南桐が乗っている。片手でハンドルを持ち、
片手で窓からショットガンを出して鬼にその太い銃口を向けている。
「何をぐずぐずしている!早く乗らないと死ぬぞ!」
言われるがままに僕達はジープの一番後ろの後部座席に走って乗った。一度バックしたジープは止まり、
こっちに走ってくる鬼に向かって南桐が一発ショットガンを放った。
キンという音を立てるが少しぐらついた体を鬼は必死に立て直していた。その瞬間を狙って南桐はハンドルを大きくきった。
途端にジープが揺れ、南桐は猛スピードを出して小学校の方へ向かっていく。その間克也の頭を明彦と一緒に持ってたハンカチで応急処置をした。
「ちくしょう」
悔しがる克也は僕になにか鬼に対抗するものはないかと言ってきた。
話によると克也の出発地点は自宅だったようだ。そして何か武器はないかと探した挙げ句、
小さな小型ナイフが見つかったとポケットから出すと明彦と僕に見せた。
「分かった・・・克也、そのナイフはいるかも知れないからポケットに仕舞って置いてくれ。僕が二丁銃を持ってきたからこれを使ってくれ」
ポケットからもう一つの拳銃、ヘッケラーと明彦が呟いていた銃と予備のマガジン1つを克也に差し出した。
一瞬驚いた表情をした克也だが、ありがとうと口を動かすとマガジンをポケットに仕舞い、
片手にヘッケラーを構えた。頭を負傷しているだけで体はなんの異常もないらしい。
「へへ、大丈夫さこのくらい。だてに不良やってた人間じゃないからな」
ビニールで囲まれた後部座席は座席というよりも荷物置き場に最適だ。そのテントのように張られていた
ビニールが風で靡いている。ふと明彦を見ると、ちらちらと離れていく鬼を見ながらライフル銃に弾を詰めていく。
手馴れた手付きに少し恐怖感を感じた。
小さな曲がり角を曲がり、ジープは小学校の西門を入った。近くにあった電話ボックスの側に止め、
僕らはジープから降りた。向かって右に体育館があり、左に学校の靴箱がある。目の前には懐かしい運動場が殺風景にあるだけだ。
「・・・ふう」
「そう言えば修二はどこいったんだろう?」
そうだ。きっとここには修二が先に来ているはず。だが見渡す限り誰もいない。学校の中か?
しかしここで妙なことに全員気が付いた。学校内がおかしい。静まり返っているのはどこも同じだがなにかが違う。特に運動場が変だ。
「・・・なにかおかいしな・・・」
ショットガンに弾を詰める南桐は、いつのまにかタバコもくわえている。余裕を見せているのか落ち着こうと必死なのかわからない。
僕と克也は不意に運動場に近づいたが、後ろから南桐、明彦もついてきた。今いるデコボコした地面と運動場の土地面の間には廊下があり、
いつもは土足禁止なのだが、今は関係ない。
運動場に全員入ると、風が吹き始めた。地面があっというまに砂埃になった。何かがいる。そう自分自身で確信した時だった。
「おい、あれは参加者じゃないな?」
殺伐とした雰囲気の中南桐が指を指した。
ゆっくり指を指している右に目を向けると、そこに一輪車や鉄の丸い輪が幾つもぶら下がった場所に鬼はいた。
「お、女の子?」
鬼は先ほど見た映画のような怪物でもなく、ロボットでもなかった。
一人の幼い少女だ。しかしすぐに異変に気が付いた。髪がお河童頭で服には鬼と書かれたバッチがついており、
顔が青白い。まさに死んでいる死後硬直の顔だ。

鬼名「花子」(対克也用)
名前などない少女。
彼女は昔、不幸すぎる不幸の中で死んだ幽霊。だがその姿は当時のものではなく、
花子が幼い頃の姿で現れる。
手毬などの球を武器にして、消えながら襲ってくる。遊ぶ事が大好きで、とにかく
相手を遊び回しては、その中で殺していく。
速度が速く、最高100キロ近くまで出る既に怪物。
弱点は自分も同じ様に動かなくてはならない。あと、大きな鏡と瞬発力が大切。ほぼ
花子も上位に入る鬼。
身長:128cm
体重:25キロ
得意技:ボールや手毬
「あれはどう見てもおかしい。普通の少女ではないようだ・・・」
明彦がライフルを持って少女に近づいていったそのときだった。忽然とそこにいた少女が消えたのだ。
明彦もその場にいた全員が辺りを見渡す。明彦の言うように普通の女の子ではなさそうだ。
「クスクスクス」
不気味な少女の笑い声が、運動場の中心から聞こえてきた。急いでそちらを見た。
少女は笑っている。かなり不気味だ。しかもさっきはなかった筈の毬まで持っている。更にはその毬を地面に跳ねる始末。
「何がおかしい・・・」
「クスクスクス」
「お前いい加減しないとぶっ殺すぞ!」
血の気が多い克也は少女の行動にむきになった。やめるんだと明彦が肩を押えるがもう収拾がつかない。
「おいてめえ、一体何がしたい」
「克也、むきになるな!」
僕の叫びも虚しく克也はそれを無視してどんどんと少女に近づいていく。
だが少女の方はなんの変りもなくクスクスと不気味な顔つきで笑っている。すでに毬の速度は落ちてもいいのだが、
少女の手から放れてもまだ元気に跳ねている。まるで生きているようだ。
「クスクスクス・・・」
一瞬克也を見て表情が変った。笑っていた顔が無表情に変った瞬間。晴れていた空が突然曇りになり、
運動場内の用具という用具がすべて激しく揺れ始めた。突然の異変に南桐がキョロキョロとしているが、明彦はじっと少女を見つめている。
「お前が誰であろうとなぁ、お前が鬼と言う事は変んねぇんだよ!」
さっと克也は片手に握っていた拳銃ヘッケラーを少女に向けたその時だった。
またも忽然と少女は姿を消した。そしてすぐに克也の右側に姿を現すが、またも克也がそちらに拳銃を向けると消えた。
「なにか僕達も戦いましょう」
「それは無理だ稲葉君。この状況、まさに一対一だ」
「その通り、下手に銃を撃つと逆に克也君に当たりかねない」
僕の意見はすぐに却下された。
「ちくしょうちょこまかと!」
克也は意外な行動をとっていた。少女に拳銃を向ける度に消えてしまうことから、
自分も走って対抗しようと考えたのだ。克也は斜めに走っていく。その間も何処に少女がいるのかキョロキョロと周りを見渡しては拳銃を向けている。
「クスクスクス」
なぜか姿が見えない時も少女の笑い声は聞こえてきた。動くに動けない状況で僕はじっと克也の行動を見つめていた。
「くそっ」
「クスクスクス」
「どこだ」
「クスクスクス」
走り、克也が僕達よりも少し離れた場所に行った時、少女は両手でサッカーボールを抱えて克也の目の前に現れた。
「バン」とすぐに克也は現れた少女に銃弾を浴びせたが、素人のせいで思うように当たらず、地面に弾は当たり外れた。
それと同時に少女の方は今度は空中に浮いて克也と同じ背丈まで浮き、持っていたサッカーボールをぶつける。
「くっ」
僕はそれを見て気がついた。少女(鬼)は、克也の頭を中心的に狙っている。もし大きな衝撃が克也の頭に加わると、命に問題が生ずる。
更に少女の行動はエスカレートしていく。サッカーボールを克也の右側頭部に当てるとすぐに消え、
今度は斜めから野球ボールを投げつけてくる。克也もマジで切れ、手当たり次第に拳銃を撃ち放つ。
風が吹き荒れる静かな運動場に克也の撃つ銃声と少女が投げつけるボールの音、笑い声だけが聞こえる。
「カチッカチッ」
克也は弾がなくなった事に気がつくと、突然走っていた足を止め、今度は僕達がいる方向に走って来た。
走りながらポケットに仕舞っておいたスペアマガジンを弾が入ってないマガジンと取り替えている。かなり銃の使い方がうまい人に見えてきた。
「後ろだ」
横にいた南桐が克也に叫ぶと、走りながら克也は後ろを振り向きざまに拳銃のトリガーを連射した。
「ぎゃー」
運動場に大きな老婆の声が響いた。南桐の言葉と略同時に撃った克也は、現れた少女の方に銃弾を命中させた。
「うげぇええええ」
血の吹き出る肩を押えながら少女の姿は見る見るうちに皺くちゃになっていく。そして仕舞いにはミイラのような体に変形した。
「しねぇ」
克也がその場に止まり、ミイラに向けて銃をトリガーを連射したときだった。
またミイラは以前の少女のように忽然と姿を消した。どこだと全員が探していると、
今度は空中から現れた。両手にふわふわと浮かぶバスケットボールを見て僕は克也が壊れる姿が目に浮かんでしまった。
やばい。あんな重いボールだと・・・。
しかし克也はミイラが浮いている空中に向かって銃のトリガーを引いた。「カチャ」という音がして弾が切れた。
「ちくしょう!おい修一弾をく」くれ!まで言わない内にミイラは大量のバスケットボールを克也の頭部にぶつけた。
「ガシュ」と言う鈍い音と共に克也の頭から霧吹きのように血が吹き出た。よろよろと体をよろつかせ、克也はばったんと仰向けに倒れた。
「克也!」
僕が駆け寄るもつかの間、ミイラは倒れた克也に近づいて、克也の首を絞め始めた。
かなりの力で絞めている。すぐに克也の顔が真っ赤になる。(もうすでに血で赤いが)
「終わりだ・・・鬼野郎!」
大きな怒鳴り声は僕の足を一瞬止めさせた。克也は最後の言葉のようにポケット
に仕舞いこんでいた小型ナイフを思いっきりミイラの額に突き刺した。
「グシュャ」
鈍く遅い音が運動場に広がり、額にナイフを刺されたミイラはすぐに克也から離れ、
上空高く体を浮かせると「ぎゃああああああ」という断末魔を発しながら花火のように爆発していった。
なんとも綺麗な死に方だとその場の全員が空を見上げた。
「克也、大丈夫か?」
周りの風、砂嵐は止み、また初めと同じ運動場になっている。僕は倒れている克也の頭をもった。
「・・・ああ、修一か・・・・。ふっ、やばいな・・・。でも、ナイフ役にたったぜ」
その一言を残して、克也は静かに目を閉じていった。血でよく分からなかったが、確かに微笑んでいる。
「克也!おい、克也!しっかりしろ!」
何度体を揺らしても克也の体は固まっていくだけだった。すると涙が克也の頬に落ち、
それが自分の目から流れたものだと気がつく。
初めて親友を失った瞬間だった。
「克也君はよくやったよ・・・。とてもよく戦った・・・」
背後から投げ掛けるように明彦が僕を慰める。南桐も克也の顔をじっと見ていたがなにも言葉は発しなかった。
***********
それから僕達は一度校舎に入り一部屋一部屋大橋を探した。修二や鷹野もそこにはいなかった。
探索を終え、次に何処行こうか運動場で話し合いをしていた時だった。
「ガシャンガシャン」
何度も聞いた鬼の足音が聞こえてきた。運動場は広いが銃が効かないのならばなんの意味もない。
「やばい・・・。また来ますよ、あいつが」
「ここは逃げよう」
「・・・いや、俺に手立てがある。あんた達はジープに乗ってどこかに隠れてろ」
「そんな」
南桐は何か考えがあるといいながら西門の方に歩いていく。「あんた運転免許持ってるよな」と明彦にため口で言った。
「ああ持ってるが、本当に大丈夫なのか?」
「なにが?」
「鬼だよ。あの鬼は銃は無効なんだぞ。分かってるのか?」
「ああ知ってる。よくあんたと鬼の喧嘩みたからな。俺にはとっておきの物があるんだ、それで一発で仕留める」
近づいてくる鬼の足音に、南桐はショットガンを構えたり、空に向かって狙いを定めている。一体何の行動だろう。
「とにかく早く逃げろ、死ぬぞ。あの克也って言う男のように」
「・・・・。分かった。俺も手伝う」
明彦の意外な言葉に南桐は驚いた表情を見せた。
「バカか。死ぬぞ」
「君一人でたとえ勝つ自信があったとしても、私は一様保険としているだけだ」
「もしも・・・って事か?」
「ああ」
「・・・好きにしてくれ」
歩きながらその言葉を聞くと明彦もライフル銃を構えたりしていた。
「僕もそれじゃあ残って戦います」
「・・・・稲葉君。それはだめだ」
その場で立ち止まり、明彦は僕の顔を見て呟いた。
「君には見つけなきゃいけない人がいるだろ?僕達は何もない。
だから君はその人物を探して再会してくれ。それからならここに来て一緒に戦おう」
はっきり言って感動した。そう言えば時々忘れていた大橋のことがまたもその一言で頭いっぱいに思いは広がった。
そうだ、早く見つけなければ・・・。
「ありがとうございます。必ず戻ってきますんで・・・」
僕は大きく明彦、南桐に向かって会釈をすると、正門に向かって走った。全速力で走った。
後ろでは一体どうなっているのか気にはなっているがあえて振り向きはしなかった。頼もしい二人の大人がいるおかげで自分が今幸せだと思い、
更に大橋に伝えたい気持ちがいっぱいになった。
「ドーン」
「ドン」
ライフル銃とショットガンの銃声がした。僕はその銃声だけ聞くと、一瞬立ち止まり後ろを振り返りそうになったが、やはり前進した。
***********
正門から出ると昔見た懐かしい風景が目の前に現れた。家々が立ち並び、すぐ右に幼い頃に通った中央幼稚園がある。
さて、どこから大橋を探そうか。せっかくのチャンスをここで無駄には出来ない。僕が公園、修二が電話ボックスと来たから
このあたりだとは思う。とりあえずこの町でもみんながよく利用するスーパーマーケットを目指して走る事にした。
やはり誰もいないなにも動かない町はなんだか自分一人の世界の様で寂しい気持ちがこみ上げてくる。
いつもは車がよく通るこの道路も今は車一台通っていない。ミニチュアの世界に飛び込んだ少年とは自分のことだろう。僕は道路を走り、
いつも利用するコンビニの曲がり角を曲がり、スーパーまでの道程の途中にある小さな商店街に出た。
そこである人物と鬼が戦っている最中に僕は出くわした。
左を向けば「ごおおおおおお」とライオンが吠えている。そのライオンの背中には小学生ぐらいの子供が乗っている。

鬼名「ライオン使い」(対南桐用)
乗ってる子供もライオンも普通の鬼。だが要は使い方次第。
乗ってる少年は厳しい訓練を受けているようで、
ライオンと少年の意志は一体と化している。その為、少年が思ったまま
ライオンは動く。
顔にはペイントしており、野性本能を表しているつもり。
弱点は力でねじ伏せる事。少年を説得しようともそれはできない。彼は残酷非道な人間。
知能指数が高く、それに鋭い人間だ。拳銃で少年を殺すか、
何か遠距離系の武器が必要。
少年
身長:155cm
体重:52キロ
ライオン
(体長:210cm)
(体重:350キロ)
得意技:噛み付き&吠え
そして右を向けば鷹野がこっちを見て驚いた顔をしている。鷹野はマフラーが太い大型のバイクをノーヘルで乗っていた。
「バカ!そこ退け!稲葉!」
真っ先に僕は鷹野の方に逃げた。相手はライオンだと?冗談じゃない。猛獣はアニメの中だけにしてほしい。
鷹野はそのライオンに向かってバイクで威嚇している。
「ご、ごめん。大橋見なかったか?」
「?はぁ?大橋?そんな奴しらねぇよ。とにかくお前はどこかに消えてろ。狩りの邪魔だ」
「大橋って女だよ。ほら、俺の隣にいただろ?」
「ああ、いたな。たとえ見たとしても俺には関係ない。とっとと消えろ!」
鷹野はライオンの目をじっと見つめている。この対戦も見ることないと思い僕は鷹野のバイクを横切り向かいの道に走った。
その瞬間背後の鷹野がバイクを走らせる音がして、ライオンに乗っていた男の子が「はいやー」と大きく叫んだ。
どちらも自分に関係ないが、音がうるさすぎる。特にバイクの音は耳鳴りがしそうだ。ブオンブオンとライオンを避けながら走っているように思える。
真っ直ぐ道を進むともうすぐで大きな道路に出る。そこを右に曲がればすぐだった。
そう、そのはずだったが、いきなりすぐ側にあった写真屋の壁が消えた。
――――え?――――
唖然として僕は立ち止まった。抉れたならまだしも、壁の破片が跡形もなく消えている。
ミステリーサークルというのだろうか、それによく似ている。
「ふふふ、一人だ・・・・」
いきなり背後で声がした。驚いて振り返ると、そこには空中に顔だけ浮かんでいるガスマスク
をした人間がこっちを見ていた。空中に浮かんでいるのに胴体もない。見えるのは首から上だけだ。
「な、なんだお前!」
不思議というよりも怖い。お化けなのかと思った。
「俺の名前はエコサイド。所謂貴様を殺す鬼だ。貴様はなにか急いでいるようだが、私と出会ったからには地獄行きの切符しかない・・・」

鬼名「エコサイド」
(対鷹野用)
日本語で「環境破壊」。そこから彼の名前の由来は来ている。
ガスマスクを掛けているのは現在謎。だが亜空間に住んでいる鬼という事は事実。
攻撃はいたって普通だが、空間を自由に移動でき、かつ手足が自由に離れる。
相手を空間に引きずり込んでは、食料として、胴体を切断する。正に一間の終わり。
弱点は首の辺り。ガスマスクは頑丈で、銃弾も跳ね返すガスマスク。しかしエコサイドはかなりの
キチガイなので、頭のいい人なら利用でき、そして首を狙うことなどたやすいかもしれない。それさえ
なければ、鬼の上位に入っていただろう。
身長:??cm
体重:??キロ
得意技:亜空間引きずり&パンチキック
エコサイドと名乗るガスマスクは、喋り終わった途端、僕の足を見た。そう、
まったく気がつかなかった。足には誰かの手がしっかりと握られている。これまたなにもない所から手が出ている。
「ふふふ、驚いたか?私は亜空間に住んでいる鬼だ。貴様の体も亜空間に引きずり出し、
永遠に現実世界とはかけ離れた所に連れて行ってやるよ・・・」
「・・・ちくしょう!離せ!」
僕は思わず目の前にあったエコサイドのガスマスクに唾を吐き捨てた。亜空間と自ら自分の能力を明かしてくれた為、少し自信がついた。
「・・・うっ、・・・・貴様・・・何のつもりだ?この私に唾?唾?・・・ちくしょうが!」
怒りを露わにしたエコサイドは僕の足を掴んでいた手が突然消え、右頬に現れると、ショートジャブが飛んで来た。
かなり痛い。僕は少しよろめきながらも立ち尽くした。
「この野郎!よくも俺の顔に唾を吐き捨ててくれたな!ゆるさねえ。ゆるさねえぞ」
「・・・へっ。顔?それがお前の顔か?マスクが?おかしいな・・・」
「うるせえ!」
またも背後から今度は足が飛び出してきた。蹴りは僕の背骨を折るような勢いで力強く蹴ってきた。
不意をつかれた僕はそのまま目の前の地面に倒れそうになったが、まさに倒れる直前に地面から速いスピードの拳が腹に命中した。
「がはっ」
肋骨が折れた感じがした。痛みを通り越して麻痺している状態だ。腹を抑え蹲ってる僕にエコサイドは淡々と鼻高く喋る。
「ふふふ、いいねぇ〜人間は。そうそう、君と同類の人間もすでに始末してたんだ。俺の亜空間に入るとどうなるかはっきり言ってなかっ
たね・・・。こうなるんだよ」
エコサイドは大きく息を吸い込むと、突如何もない空間に大きな穴が開いた。そこは宇宙によく似ていて真っ黒だった。
しかし次の瞬間、その黒い空間からなにか物体が飛び出してきた。
「ごん」と鈍い音を立てて地面に落ちたものは、首だった。虚ろな表情に首から下が無くなっている修二の生首だった。
「うわっ」
「ふふふ、驚いたか?ええ?お前がここに来る数十分前にこいつが何も知らない顔で来たよ。だからいきなり食ってやった。
そう、俺の亜空間に食われると、人体をバラバラにしてやるぜー!はっはっはっ」
そんな・・・。弟みたいにかわいかった修二は姿形を変えて今再会している。ちくしょう!殺してやる。
笑うエコサイドを尻目に僕はポケットのガバメントに手を伸ばした。と、その時後ろの赤門筋の方からライオンの叫び声が聞こえた。
動物の阿鼻叫喚だ。それに続いて子供の叫び声も聞こえた。酷く痛そうだ。
エコサイドは赤門筋の方を何があったんだろうと見ている。この瞬間を逃さなかった。ポケットから瞬時にガバメント
を取り出すとエコサイドの頭目掛けて撃った。
「パン」
しかし反動でうまくいかず、エコサイドの首にヒットした。
「うげぇえええ」
驚いたように顔を引っ込め姿を消すと、なにやらぴきぴきと音がする。数秒間時が止まったように沈黙が流れた後、
何もない空間に罅のようなものが見えてきた。
「?」
僕は不思議と罅をじっと見つめていたが、次第に破片らしきものが崩れ落ちた。
ぽろぽろと崩れ落ちる中、捲れた破片の後からピンク色の動物が姿を現した。
「・・・?」
「ぶひ」
見るとそこにはただの豚がいるではないか。何の変哲もない動物園で見る豚だ。豚カツにして食べている豚だ。
「豚?」
「・・・ぶひっ。助けてくれ。どうか命だけは・・・」
喋った?豚はかすかに口を動かすと、あのエコサイドの声だった。まさか正体が豚だったとは・・・。
ここで許すのが普通だが、僕の中では修二が怒っていた。徐に豚の脳天に銃口を向けてそっと引き金を引いた。
「パン」
軽い銃声が耳に響いた。修二はこれで本当に納得したのだろうか。僕が脳みそが飛び出て死んでる豚から目
を離すと、後ろから「銃とは卑怯な・・・」と聞こえてきた。振り返ると血だらけで鷹野が歩いてくる。思わず走
って側に駆け寄るがライオンの猛獣くさい。
「鷹野・・・大丈夫か?」
「よう・・・。お前も鬼倒したようだな。ただの豚の格好してるけど、鬼のようだな。本当にただの豚ではないようだな」
鷹野は死んだ豚に目をやった後、地面に転がる修二の生首も見たがあえて何も言わなかった。
「それよりさっきのライオンはどうした?」
「ああ、ライオンも嬉しげなお子ちゃまも殺してやったよ。たまたま太い木の棒があったんでライオン
の喉に思いっきり差し込んでやったよ。それからあの坊やは素手でやった」
「ボロボロ」
鷹野が話している途中で、死んでいた豚(エコサイド)の死体が突然サイコロ状になって側にあった石と同化していくのが窺えた。
「俺が倒したライオンと子供も綺麗に跡形もなく消えて行ったよ・・・」
ニコッと苦笑いすると鷹野は体を崩し、その場で横になった。よく見ると鷹野の体は傷だらけだ。
いたる所に黒い穴が出来てそこから血が出ている。
「なあ、大丈夫か?」
「ちっ。俺とした事がライオン相手に無様だ・・・。俺もここまでかな」
「じ、冗談言うなよ」
「お前には関係ねぇだろ・・・。それよりお前・・・、大橋って奴に逢えたのか?」
「・・いいや」
「じゃあ探せ。俺の事は気にするな。猫みたいに一人で静かに死にたいから・・・」
僕は了解した。鷹野の闘志はしっかりと伝わった。なぜこれほどまでに死んでいく者がいるのだろか。
黒の男は一体どんな奴なんだろうか。そして一億円争奪ゲームのことは参加者みんなが分かった上でやってることなのだろうか・・・。
「ドドーンドドーン」
かなり小さな音だが確かに今爆発音がした。たぶん小学校の方からだ。
あの爆発音は鬼のロケット砲なのだろうか、それとも別のなにかか。きっと、きっとまた明彦や南桐
のどちらかか、それとも二人共死んでしまうのだろう。僕は目をそっと閉じて精神を落ち着かせた。
「鷹野、大橋探してくる!」
鷹野にさよならを告げると僕は全力でスーパーに向かって走った。これ以上誰も死なせない。
大橋は絶対死なせない。手遅れになる前に早く行かなければ。
しかしスーパーには本当に大橋がいるか分からない。でもこの時だけは必ず大橋がいる。そんな確信にも似た自身があった。
自分以外のすべてが壊れていく風景が頭に浮かんだ。誰も助けてくれない誰も助けられない。そんな自分が嫌になり、果ては自殺する自分が・・・。
***********
大きな道路に出ると、右に消防車が現れた。もうすぐだ。息はすでに切れている。
それでも僕は必死に走った。スーパーまでもう目前なのに足が痛んで思うようにスピードが出ない。
それでもやっとスーパーの自動ドアまで来た。いつもの様に駐車場には何台もの車が止まっており、
スーパーの中は電気もついて明るかった。だが中に人はいない。それなのにレジはずっと動いている。
真っ先に食品コーナーや各コーナーを探したが全く人がいない。
「大橋!何処だ!」
必死で辺りを見渡すが一階には大橋がいないようだ。僕はサービスカウンターの隣に
ある二階に繋がるエスカレーターに乗った。エスカレーターも作動していたが僕は二段飛ばしで階段のように上に上がった。
「大橋!大橋!」
二階の玩具・洋服売り場は電気が付いてなく、僕は洋服売り場のレジ近くで大橋を探した。
奥はそんなにないが布団や毛布で見えない為奥に走ろうとした時、玩具売り場と洋服売り場の境目の曲がり角から大橋が出て来た。
「・・・稲葉君!」
「大橋!」
「稲葉君騙されないで!それは鬼よ。近づいちゃだめ!」
何?目の前には大橋が立っている。そして後ろから大橋の声がする。
僕はその声に反応して後ろを振り向いた。――――なんだ?え?――――大橋がそこ
にはいた。前後ろどちらにも同じ格好同じ声の大橋がいる。どちからが鬼というわけか。
これが僕の最後の対決になりそうだ。まず後ろのエレベーター近くにいた大橋に訊ねた。
「大橋・・・。鬼って言ったけど、正体はどんな奴だ?」
「分からない。でも私がここで目が覚めたら稲葉君の声がしたの。それで今向こうにあたしと同じ鬼がいるの!」
そして次に前に向き、また違った質問を同じ大橋に訊ねた。
「大橋、君が大橋だという証拠は何かあるかい?」
「・・・私は、大橋幸恵・・・えっと血液型はО型・・・それで」
「もういいよ。分かった」
前の大橋は質問に少し困っている。後ろの大橋は明るい。
どっちなんだ。運でもし鬼の方に行くと返って自分が殺される。
大橋の性格は学校ではおとなしく冷たい目をしている女子だと思ったが
、今ゲームの中で初めて話をしてみるとかなり話しやすい普通の女の子だ
。だからどっちでも理論は合う。これじゃあ性格で見分けをつけろという確
率は低い。なにかあるはずだ。見た感じすべて同じだ。どちらが鬼のバッチを着けている訳でもない。どこか一つでも違う所・・・。
そうか。鬼だ。鬼が分かったぞ。後ろの大橋はなぜ鬼のことを知っているのだろうか?自分の声で目が覚めたのならば最初の
黒の男の声は届いてないはずだ。しかし油断は出来ない。
だが、ここで名案が生まれた。そう、それは簡単な事だ。どちらか一人に拳銃を向ける。もしも向けた大橋が偽
者ならば危険を感じて正体を見せて僕を襲ってくるはずだ。
そして逆に向けていない大橋が本物の場合、偽者の方はざまーみろと思い正体を見せるだろう。
前の大橋か。後ろの大橋か。直感から行けば前の大橋だ。エレベーターの近くにもし大橋がいたならとっくの昔に
気がついてるはずだ。僕は前の大橋に近づいた。
「稲葉君!そっちじゃない!私が本物よ。信じて!」と後ろの大橋は叫ぶが無視をして前の大橋に近づいていく。
「稲葉君・・・」
「君が・・・・・・・偽者だ」
僕は演技をしてガバメントの銃口を前の大橋の額に向けた。しかしこれは仕掛けに過ぎない。さあ正体を暴いてやる。
と、後ろの大橋がにやりと微笑んだのがレジにあった手鏡に写っていたのが見えた。油断は禁物だ。これを言
えば決定的だろう。僕は頭に浮かんだ最後の質問を拳銃を向ける大橋に小さな声で訊いた。
「大橋・・・答えてくれ。第三ゲームで迷路のような通路を歩いたが、その時偶然あったよな?」
「・・・うん・・・」
「それじゃあその僕のほかに一緒にいた人物は誰か覚えているか?」
「え?南桐さん?」
「うん・・・」
僕はにっこりと大橋に微笑んだ。本物だ。根拠はあやふやだが南桐の名前はたとえ鬼でも知ら
ないはずだ。僕は大橋の額に向けていた銃口の向きを変え、引き金を引いた。
「パン」
何も知らない後ろの偽者はガバメントの銃弾を驚きながら胸に浴びた。「なんだと」と倒れ
際に呟き、ばったりとそのまま前に倒れた。
「稲葉君・・・」
「君が本当の大橋さんだ」
いきなり大橋は安心して僕に抱きついてきた。あったかい・・・素朴な気持ちだった。なぜだろう。
なぜか最近こんな暖かさは一度も感じてなかった。出て行った母を思い出す。
僕は今まで伝えたかった気持ちを伝えた。
「大橋さん。僕は君の事が好きだ。君のすべてが好きだ」
大橋は僕の体で泣いている。しかし服に顔を押し付けながらもうんうんと頷くのが分かった。
「よかったな・・・修一・・・」
突如背後で声がして驚いた。振り向くと偽者の大橋は姿を変えて僕といつもいる人間に変っていた。
胸に撃たれた銃弾が酷く痛むのか左胸をぎゅっと押えている。
「お前・・・僕か?」
そう、そこにはいつも一緒の僕自身が立っていた。鏡の中から出てきたようで不思議だった。
「俺はお前の分身ではない。これが俺の正体だ。修一。そしてお前達が知る黒の男はこの俺だ・・・。驚いたか?」

鬼名「黒の男(稲葉修一)」(対修一用)
実際の正体は修一そのもの。なので表現のしようがない。しかしたとえるなら人間の形そのものだろう。
相手のすべてをコピーできる能力を持っている。だが相手の記憶までは完全にコピーできないのが欠点。
弱点は人間と同じ。殺せるし、話し合いもできる。
身長:175cm
体重:69キロ
得意技:コピー
「な、なに言ってるんだお前!正体を現せ!」
「何度でも言ってやろう。この姿が俺の正体だ。お前が作った黒い魂こそ俺だ。すべてはお前のためにやったゲームだ」
「なに言ってるんだ・・・そんなはずはない」
「お前の怒りで俺が生まれ、周りの関係者を巻沿いにして楽しいか?俺は言わば正義だ」
生唾を飲み込んだ。大橋が不思議そうな顔でもう一人の自分を見ている。そんな、そんなはずはない。自分が作ったゲームだと?
「だからお前は俺に殺されていればよかったんだ。一億円争奪ゲームのルールは残りの一人になるまでどんどん鬼が追ってく
る。たとえ参加者の数すべて倒したとしてもな。だから今の残された道は、二人で心中か、お互い殺しあうかだ。人間は生身ではない。
すべて金で生き、金のために生きている。みんなそれを表では違うと言い張っているだけで、お前も大橋もそうだ。金の為の生まれてきたんだぁ!」
何故にも自分を責める。もう一人の自分、黒の男はそのままにやりと笑うと消えていった。
「そんな・・・」
「稲葉君・・・大丈夫?」
「大橋さん・・・」
ふと大橋の顔を見て驚いた。一瞬だけ自分を捨てた母に似ていた。それでも母なりの暖かさを与えてくれた母が、今大橋と重なった。
「・・・本当に僕はこのゲームを主催した張本人なのだろうか・・・」
俯きながら僕はエレベーターの方に歩いた。大橋がその後をついてくるが、突然大橋の足音が立ち止まった。
「ん?」
「ああ・・・・。稲葉君、足・・・」
震えた声で大橋は僕の足を見つめている。一体どうしたというのだ。僕は自分の足を見た。
「な、なんだこれ!」
足にはとてつもなく太い根っこが絡んでいる。地面から出ているのだとてっきり思っていたがそれは違っていた。
根っこはだけではなく、手が何か変だ。両手が痺れてくると、さわさわと音を立てて変形していく。
「うわっ・・・」
手はやがて木の枝に変形していき、お腹からは枝がにょきにょきと天井に向かって生え始めた。
「・・・大橋さん・・・」
身動きが取れない。もう自分が人間ではなく一種の植物になっていくのが分かった。すべては君の為にと大橋の名を静かに呼んだ。
「稲葉君!」
涙を流しながら大橋が大木に抱きついてきた。抱きつかれたが、温もりがなかった。ただ単に自分とは別のただの木
に抱きつかれている感じだ。なにも感じない。しかし僕は言った。
「ありがとう」
それから僕の体は見る見る内に変形していく。自分が自然と一体になっていくのが分り、静かに僕は目を閉じた。疲れた。その言葉を残して・・・。
ファイナルへ
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